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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
804/822

断章 fragment films ⑥

ーーーーーーーーーーー





「独りじゃない」


 嘘吐きね


 離れて今は貴方は何処に?



 答えてよ


 聞こえないの


 独りであたし 歌っているよ?




 ねぇ 望めないの?


 もう 戻れないの?


 ほら 夜がまたおちて


 今夜も貴方を夢に見るの





ーーーーーーーーーーーー



 夜。


 灯りのない暗い部屋。


 頭から被った薄い布団ごしに、窓から差す僅かな月明かりを感じる。



 部屋の中も外も静かで、聴こえるのは時折鳴く虫の声と――



「――グスっ……」



――定期的に鳴る鼻を啜る音。




「――オイ。いつまで泣いてんだよ」



 背中を向けている方からガラの悪そうな女の声がした。



「……泣いてない……っ」



 明らかに涙声の男の子の声。


 次は背後からは大きな溜息が聴こえた。



「ったくよォ。男のくせにいつまでもメソメソしやがって」


「泣いてないって言ってるだろ……ッ!」



 ムキになって叫ぶ。


 だけど大声を出したせいか、瞼が緩んで視界がジワっと歪んだ。



「おーおー、まだ元気あんじゃあねェか。だったら気合いで声殺せよ。こっちは寝られやしねェ」


「……グスッ。じゃあ違う部屋にすればよかっただろ。なんで……」


「アァ? 決まってんだろ? 一人じゃ恐くて眠れねェボウヤがいるからだよ」


「ウソだ! どうせセラスフィリアに僕を見張ってろって言われてるんだろ!」



 癇癪を起こしたように怒鳴り返すと、先よりも大きな溜息が聴こえる。


 続いて布が擦れる音がした。



「オラ、こっち来いよクソガキ」


「は?」


「お姉さんがあやしてやっからこっちのベッドに来いっつってんだ」


「バ、バカにするな! 僕は子供じゃないっ!」



 暗く狭い部屋でベッドが2つ。


 その1つで身体を横に、丸くなって布団を被っている。



 背中を向けている方のもう一つのベッド。


 そっちからニヤニヤと笑っているような空気が伝わった。



「ンなことでムキになってる内はガキなんだよ。いいかァ、クソガキ。男ってもんはな、女にベッドに誘われたら何も考えずにチンポコおっ立てて飛び込むモンだ」


「お前らと一緒にするな!」


「アタシャぁ女なんだがな」


「大して変わんないだろ! 男女っ!」


「カカカッ、言うじゃねェかクソガキ」



 女は上機嫌に嗤う。



「ったく、しゃあねェなァ……」



 今度はガバっと布を撥ねのける音がした。


 2歩床を踏む音がして、それからギシッと自分が寝ているベッドが沈む。



「こ、こっちくるな……っ」


「そういうのはアタシがベッドに乗る前に言うもんだぜ? 期待してんじゃあねェよエロガキ」


「だ、誰が……っ!」



 被っていた布団越しに、影が差す。


 緋色の髪が被さってきた。



「なァ、クソガキ……」


「な、なんだよ……?」



 少し優しくなった声。


 多分頭の上に手を乗せられている。


 きっとまだ、男の子のよりも大きいかもしれない掌。



「アタシは別にあの冷血女の手下じゃあねェ」

「……ウソだ」


「ウソじゃねェよ」

「だって、雇われてるんだろ?」



 拗ねているような男の子の口答えに、女は「ククク」と笑う。



「オォ、そうだ。しっかり金を貰ってるぜ」

「じゃあ――」


「――だが、アタシらが請け負うのは戦場だけだ。手下にはならない」

「……わかんないよ。あいつの手下になって戦ってるんだろ?」


「バァーカ、ちげェよ。金で頼まれたらそん時だけ代わりに戦ってやる。今敵になってる連中からの依頼を受けたら、そん時はそっちの味方をする。だが、請け負った戦場外のこたァ知らねェ。それがアタシら傭兵の流儀だ」

「でも、この傭兵団はセラスフィリア専用みたいにみんな言ってる……」


「それがあの女の汚ェとこだ。あのクソ女よ、自分でそういう噂を流してるんだよ。なんでかわかるか?」

「なんでって……、わかんないよ……」



 ほんの少しだけ迷って、男の子は正直に答える。



「オイ、クソガキ覚えとけ。今みたいに問われて、『わからない』と答える時は即答しろ。それも出来るだけ相手を小馬鹿にした感じでな」

「え? な、なんで?」


「ナメられるからだ。オマエの問いなんざ答える価値ねェよって態度で即答しろ。じゃなきゃ、明らかにバカにしてるってわかるように適当なことを言え」

「そ、そんなことしたら怒らせるだけじゃ……」


「ナメられるよりはマシだ。この世界はな、ナメられたら終わりなんだよ。それが流儀だ」

「……わかんないよ」


「お、いい感じだ。もっと速くもっとバカにしろ」

「い、いまのはそういうつもりじゃ……」



 男の子は慌てて弁明するが女はどうでもよさそうに笑っている。



「んで、さっきの答えだ。アタシら――つーか、アタシだな。自分の専属だって既成事実にして、他のヤツらが依頼出来ねェようにしてんのさ」

「なんで? あいつの依頼でたくさん成功してるなら、他からいっぱい依頼がくるんじゃないの?」


「ケツが青いねェ。アイツの味方とか配下の連中が、アイツを通さずにアタシに声をかけるのはな。それはアイツをナメてるってことになんだよ」

「な、なんで、なんでもかんでもナメてるって話になるの?」


「そういうモンなんだ。んで、アイツの敵方も。そもそもアイツの依頼でしこたまぶっ殺してるからな。アタシは連中から死ぬほど恨まれてる。依頼なんざこねェよ」

「それは、まぁそうか……」


「そうすっとよ、アタシらもアイツの依頼しか受けらんねェ。どうよ? 実質アイツの専属だろ? クソッタレだよな」

「……うん。クソッタレだ」


「だが、これであの冷血女を『卑怯者』と罵ったって意味がねェ。クソッタレだが、これは誰よりも上手くやったってことになる」

「そんなの……」


「いいかァ、クソガキ。テメェがあのクソ女を敵視すんなら、そこは正当に評価しろ。その上でビビんな、ナメられんな。じゃねェと一方的に喰われるだけだぜ? わかんだろ?」

「…………」


「即答しろボケ」

「ぁいてっ⁉」



 視界が少し揺れる。


 頭を引っ叩かれたようだ。



 そのショックで頭から被っていた布団がずれて目元まで外に出る。


 月の明かりが濃くなる。


 だけどそれはすぐに掌の傘で遮られた。



「なんのつもりであの女がオマエをここに送ってきたのか、アタシは何も聞いてねェ。オマエをどうしろとも言われてねェ。育てろともな。信じるか?」

「……うん――ぁいてっ⁉ な、なんでまた殴るんだよっ!」


「カンタンに相手の言うことを信じるな。もう痛い目見たろ?」

「……それは、でも……」


「なんだよ? 言ってみろよ」

「……育てろって言われてないって。あいつはもう、僕を見離してるから……」


「アァ? 拗ねてんのかァ?」

「ち、ちがう……っ!」



 楽しそうに男の子を揶揄って女は笑う。



「でも、まぁ。理由があんなら信じてもいいぜ」

「なんだよ、それ」


「どんだけ信じられねェようなモンでもよ。オマエの中に信じる理由があんならそれでいいってことだ」

「それで失敗しても?」


「ンなモン笑い飛ばせ。仲間と酒飲む時のネタにすんだよ」

「僕お酒飲めないし……」


「ンじゃいずれな。とにかくそれが流儀だ」

「傭兵ってヘンなの……」


「バァーカ。これは傭兵は関係ねェ。男の流儀だよ。イイ男になりたきゃ覚えときな」

「……別に」


「おーおー、クールだねェ。スカした男なんざクソだぜ? まぁ、つーわけで、引っ叩いてワルかったな」

「や、やめろよ……っ! 子供じゃないって言ってるだろ……っ」



 グチャグチャと髪を掻きまわされる。


 抵抗はその言葉だけで、手を振り払ったりはしない。


 だけど、女は頭を撫でる手を止めた。


 またニヤリと笑った気配がする。



 グイっと、身体と頭を引き寄せられた。


 抱きしめられたようだ。



「ほーら、ママのオッパイだぞー」

「なななな、やめろ……っ!」


「喜べよ。ガキじゃねェんならな」

「そういう問題じゃないだろ! アンタ裸じゃないか!」


「ア? 下着はつけてんだろうが」

「変わらないよ!」


「どうだ? 初めてのオッパイの感触は? 気持ちいいだろ?」

「わかんねーよバーカ!」


「アァ? ナマイキな口きくんじゃあねェよ、このクソガキ!」

「いってぇっ⁉」



 ゴチンと音がして視界が一瞬大きく揺れ、すぐにジワっと涙で歪む。



「アンタがこう言えって言ったんだろ⁉」

「ウルセェ黙れ。テメェはアタシの言うことを大人しく聞いとけばいいんだよ!」


「ムチャクチャだよ……!」

「暴れんな!」



 男の子はジタジタと藻掻いて逃れようとする。


 しかし女の力の方が圧倒的に強いようだ。


 身体に乗せられた片脚だけで余裕で拘束されて、右手でまた頭を撫でられる。



 今度は頭のに直接、女の長い髪が降りかかった。


 黒い自分の前髪と女の緋色の髪が混ざる。


 その髪を月明かりに透かすと、二つの色が溶けて一つになったように見えた。



 諦めたのか、段々と男の子の抵抗はなくなっていく。


 そのまましばらく無言になって――



「――戦場は恐かったか?」


「…………うん」



――鼻を啜る音が鳴る。



「それでいい。ずっと恐がってろ」

「……でも、昼間は『諦めろ』って」


「アァ? そりゃオマエ、アレだよ。死ぬのが恐けりゃ何が何でも死にたくねェって足掻くだろ? 何をしてでも生き延びるんだよ。そんでやるだけやってダメなら仕方ねェって諦めときゃ、なんか気楽だろうが」

「わけわかんないよ……」


「そのうちわかる。つーか、それがわかんなきゃやってらんねェぜ」

「…………」


「ガキじゃねェってんなら、わかるな?」

「……わかんねーよ、ばーか」


「おう。それでいい」



 女は上機嫌に笑った。



「オマエは弱い。ぶっちゃけ、前にアタシと別れてからここに送られてくるまでに一体何してたんだってレベルで弱っちい」

「う、うるさいな……っ」


「だが、敵さんにはンなこた関係ねェ。強いヤツも弱いヤツも殺す。戦場ではそれが当たり前だ」

「……っ」


「オマエは今日何も出来なかった。誰も殺せねェ。ジブンの身を守ることもできねェ。弱すぎて」

「ぼ、僕は……」


「だが、オマエにも出来ることはある」

「え……?」



 優しげだった女の声に力が入り、声量は抑えていても荒々しさがこもった。



「それはな、足を止めねェことだ」

「足……?」


「どんだけ弱くて雑魚兵士1人にも勝てなくても。ロクに剣を触れなくても。魔術なんて使えなくても。加護がなくてもだ。足があるんならそれを動かすことくれェは出来んだろ?」

「そ、そんなの……」


「この世界で右も左もわからなくても、戦場で右も左もわからなくても。自分の右足と左足くらいわかんだろ? それを交互に動かすだけだ。そんだけで最低限逃げるくらいは出来る」

「に、逃げたって……、どこに……」


「どこでもいいだろ。どこに何があんのかわかんなくても、進んできゃそのうちどっかには着く」

「そんな適当すぎる……」


「カカカッ、死ぬよりゃマシだろうが。こんくらいならオマエにもできんだろ? えぇ? ユキちゃんよ」

「僕はユキじゃない……! でも、足だってなくなっちゃうじゃないか」


「アァ?」

「傭兵団で、足を斬られちゃった人が……」


「フン、いっちょ前にヘリクツこねやがって」



 女は男の子の鼻を摘まんでお仕置きをし、それからまた頭に手を戻す。



「足がねェなら這ってでも進め。逃げるなら逃げる。戦うなら敵に向かってだ」

「ムチャクチャだよ」


「無茶をするのが戦場だ。最後にモノを言うのは気合いなんだよ。強いとか弱いとかじゃあねェ。どれだけ強くても運が悪けりゃ死ぬ。運が良ければ弱くても生き残る。最後の最後まで粘れるのは気合いだ。気合いで負けんな。ナメられんな」

「……わかんないけど、前にコーチも似たこと言ってたかも。半分くらい」


「コーチ? 知らんけどよ。でも、ソイツはわかってるヤツだぜ? なかなかイイ男だ」

「うん。すごく優しくて、色々教えてもらったんだ。でも、コーチは最後まで諦めるなって」


「バーカ、ちげぇよ。だからよ、粘るだけ粘ってダメだったら仕方ねェだろっつってんだ。そんだけやったらどんだけクソッタレな死に方しても、最後はなんか笑えんだろ? 運がなかったのさってな」

「……僕は死にたくないよ」


「じゃあ、粘れよ。死ぬ気でな」

「……うん」



 少しの間、言葉がなくなる。



「戦場で止まると死ぬ。これは必ずだ」

「…………」


「ピーピー泣いて止まってると死ぬ。オマエだけじゃなく他のヤツまで」

「……僕のせいで?」


「そうだ。アタシらはあの姫さんの手下じゃねェって言ったろ。アタシらは家族だ。外のヤツらはそうじゃねェ。アタシの傭兵団にいるヤツは家族なんだよ。オマエみたいに親無しのガキだったヤツも何人もいる」

「…………」


「クズばっかだから全員が全員そうじゃねェけどよ。アイツらバカだからよ。戦場で迷子になってピーピー泣いてるガキがいたら、カッコつけようって気の迷いを起こすんだよ。たまにな」

「……足を引っ張るなってこと?」


「おう。せめて自分で逃げるくれェはしろ。まずはそっからだ」

「でも――」


「――ウルセェ黙れ」



 女の強い言葉が男の子の声を遮る。



「逃げ場所がわかんねェならアタシを探せ。クソ弱っちいユキちゃんはアタシのとこまで逃げてこい。ウチのガキを泣かせるクソッタレはよォ、全部アタシが燃やしてやっから」

「…………」


「アタシが守ってやる。最低でもオマエがいっちょまえになるまではな。だからオマエはアタシの背中を見失うな。そんでビビったらアタシのとこまで逃げてこい。火のあるトコがアタシの立つ場所だ」

「…………」


「ここに来ちまった以上、テメェももうアタシの家族だ。オマエは一人じゃねェ。わかったな?」

「…………うん」


「バカやろう。そうじゃ――あー……、まぁ、いいか」



 女は言いかけて、嘆息する。


 諦めたわけじゃなくてきっと、今夜はまだそれで許してくれた。



「え? なに?」

「なんでもねェよ。おし。ガキはもう寝ろ」


「……うん。おやすみなさい、ルビア」

「おう」



 幕はすぐに下ろされて、夜はもっと暗くなる。







ーーーーー




 忘れられなくて



 初めて触れた人の優しさに



 溺れて眠る夜は



 確かな産声が聴こえた気がした



 最初で最後の ✗'s MARIA





ーーーーーーー




 カサカサと視界の外の暗闇で音が鳴った。




「――ねぇ、ルビア」



 もっと暗い夜。


 灯りの無い部屋。


 この夜は月も出ていないようだ。



 視界はほんの近い距離だけ。


 多分ベッドに座って、俯いている。


 映っているのは膝の上の緋色の髪。


 その髪を撫でる。


 手は汚れていた。



「寝ちゃったの? どうせまた呑み過ぎたんだろ……」



 ポツリと、少しだけ低くなった男の子の声。



「ねぇ、聞いてよ……」



 周囲は静かで、ほぼ無音だ。


 女からの返事もない。



「ねぇ、ルビア……。どこに行けばいいんだろ……」



 酔いつぶれているらしい女に構わずに話しかけ続ける。



「足があるならって、言ってたけどさ。アンタが起きてくれなきゃ、オレどこにも行けないじゃんかよ……」



 だけど、起こそうとはしない。


 口ぶりもどこか嬉しそうだ。



「みんないなくなっちまったし。アンタがボスなんだから、アンタが決めてくんなきゃ……」



 優しい手つきで女の髪を撫でる。


 視線はずっと動かない。



「でも、寝てるんならしょうがないよな。しょっちゅう外で酔いつぶれてさ。オレがいないと一人で帰ってこれねェんだもんよ……」



 少し言葉が止まる。



「なぁ、ルビア。昔の話また聞かせてよ……」



 女は起きない。



「おやすみ。ルビア……」



 寝息は聴こえないが、深く寝入っているようだ。



「愛してるよ。ルヴィ……」



 だからか、とても優しい声で男の子はそう言った。





 カサカサと視界の外の暗闇で音が鳴った。



「ねぇ、ルビア――」



 男の子は喋り続ける。



「寝ちゃったの? どうせまた呑み過ぎたんだろ……」



 女の髪を撫でる男の子の手。


 革紐が巻き付いている。


 時折その紐に女の髪が巻き込まれるのか、緋色の髪が何本か紐に絡まっている。


 革紐からぶら下がっている粗悪な十字架が闇に揺れた。



「ねぇ、聞いてよ……」



 闇はどんどんと拡がり全てを呑み込む。





ーーーーーー




For dear,“THIS IS THE BEAUTIFUL WORLD”


Holy Night,I'll sing with all you



Forbiddans,“THIS IS THE BEAUTIFUL WORLD”


Holy War,I'll sing even without you




ーーーーーーー




「――あのねユウくん! きいてきいて!」




 白く変わる。



 光ではなく白い部屋。



 ベッドに座る少女。


 その傍に立っている。



 少女は嬉しそうにこちらを見ている。



「あのね、お歌なの」



 その手にはスマホがあり、画面をこちらに向けていっしょうけんめいに説明している。



「うん。Laylaさんが新しいお歌出したみたいで。私知らなかったんだけどリンカさんが教えてくれたから」



 どうも男にそれを共有したいようだ。



「あのねあのねっ。こないだ……、5月5日にアップしたばっかりの新曲だったの!」


「……そうか」



 男は何も知らず、興味もないようで。


 少女の話をただ聞いている。



「くりす、ます……?」


「ううん。『イズマリア』って読むんだって」



 少女が指差す動画ページのタイトルには『✗'s MARIA』と書かれている。



 その指が再生ボタンに近づき、だが触れる前に視界は暗くなっていく。



 ここまでのようだ。



 夢は――

















――バチっと、瞼が開く。



 ほぼ同時にガバっと上体を起こした。



 ベッドの上、身体にかけてあったタオルケットが膝に落ちる。



 起きたばかりだが、瞼はハッキリと開かれている。



 目を横に動かした。



 壁にかかっている時計。



 5月10日の16時を過ぎたところだ。



 ここはどこ。


 何故ベッド。


 なんでこんな時間。



 そんなことは何一つ頭に浮かばない。



 今は頭にあるのはただ一つだけ――





「見つけた――」






――薄暗い寝室のベッドの上で、希咲 七海はそう呟いた。



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― 新着の感想 ―
七海が倒れたもう一つの理由が、弥堂がこのタイミングで昼寝に落ちたからだったとは……。断章をこういう形で差し込んでくるとは予想外でした。 ですが……ですが、私はてっきり弥堂が「思い出せないほどの幸せな夢…
最新の二話から見ると、世界は本当に残酷だ。愛苗も弥堂も、身をもって世界を感じているのに、それに対する見方は完全に正反対だ
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