3章09 Threads Connect ⑦
休憩を挟んで、話は元々の続き――
希咲が見たという、弥堂とモっちゃんたちの連続した関係に戻る。
「――って言っても。あんたが前に推理したことをなぞるだけみたいになっちゃうんだけど……」
だが、希咲はどこか自信なさげな様子だ。
「いいんですよ。裏どりはとても大事です」
「ん。それじゃあ――」
そんな彼女を安心させるように諭すと、希咲は話し出した。
みらいさんはニッコリだ。
「乱闘の後はホームセンターだった。弥堂に貰ったお金でバイク買ったって」
「例のアナログなビデオカメラに映っていたものですね。あれには音声はなかったのですが。会話はありましたか?」
「んとね、なんかよくあるじゃん? ワルイ先輩が無理矢理後輩のバイク借りてくやつ? ツッパリくんたちめっちゃイヤそうにしてたんだけど、あいつ空気読めないから……」
「すると、足を用意させていたんじゃなくって、たまたま会ってバイクを奪っていたんですね」
「うん。そこはそれで間違いないと思う」
「バイクとられた上に冤罪でパクられてて草」
「ちょっとかわいそう……」
巻き込まれたモっちゃんたちに希咲は同情した。
「その後、せんぱいはバイクで港に?」
「うん。それでさ――あぁ……、えっと……」
そこで希咲は言い淀む。
「七海ちゃん?」
「や。実はさ。ここであたし的に『いい情報!』って思ったことがあって。それで急いできたんだけど……」
「?」
「さっきのあんたの推理? あれの後だと、なんかショボくて、恥ずかしいなぁって……」
「まぁ」
またも自信なさげな雰囲気でモジモジと恥ずかしそうにする推しに、みらいさんはお鼻をプックリさせて萌える。
「いいんですよ。どんなちいさな情報でも今はあって困ることはないです」
「そ? じゃあ、言うけど。あいつさ、バイクで走りだしてすぐに誰かと連絡とってたのよ。多分通話で」
「ほう。それは興味深いですね。相手は?」
「なんかね、動画とかでよくある機械音声? 読み上げって言うんだっけ? あれとそっくりな声と喋り方だった」
「あー、それは……」
希咲からの情報に望莱は顎に手を当てて考え込む。
「みらい?」
「実はですね。“アムリタ事件”の際――ホテルの爆破と港の倉庫炎上の際なんですけど」
「うん?」
「美景市内の多数の警察署や派出所に通報があったんですよ。爆発・火事・銃声などの内容で」
「うわ。かなりの一般の人に見られてたってこと?」
「いいえ。その通報の9割が機械音声による読み上げでされたものだったんです」
「え――」
望莱から返ってきた情報に希咲は驚く。
「これって……」
「どう考えても同一犯ですよね。どんな会話をしてました?」
「なんか『港でターゲットを見失った』とか、すっごい犯罪っぽかった」
「ふむ……。オペレーターのような役割の仲間がいるのでしょうね」
「でもあいつ『もういいから撤退しろ』とか言って、一方的に電話切ったのよ」
「せんぱいの方が立場が上のように聴こえますね。他には?」
「他は……、あ、そうそう! これがあたし的にイケてるんじゃって思ったやつなんだけど」
「まぁ。七海ちゃんたら自分でハードル上げてきましたね」
「そういうこと言うと言いづらくなるでしょ!」
「うふふ」
「いいからさっきのは忘れて! とにかくよ?」
希咲はそう前置きして続ける。
「あいつ、そうやって電話切った後、スマホを捨てたのよ」
「おやおや……」
その報告に望莱は俄然興味を増す。
「つまり?」
「警察が見つけてなければまだあるんじゃって」
それが希咲が持ち込んだ特ダネだった。
「いやいや、七海ちゃん。これはファインプレーですよ。全然ショボくなんかないです」
「え? そう?」
望莱は言いながらスマホを取り出す。
「ホムセンを出てすぐですよね?」
「うん。そんなに走ってないはず」
「おけです。ちょっとお待ちを」
「おけ」
望莱はすぐにまた電話をかけ始めた。
「――わたしです。次の指示を。港から伸びる県道へ人を。スマホが落ちているかもしれないので、その回収。範囲はホームセンターから港の入り口まで。はい。パパの会社の傘下のあのホームセンターです――」
「あっ、落ちたのは多分あそこ。反対車線と区切ってる真ん中の草とか生えてるとこ。イヤホンも捨ててた」
「――可能性が高いのが分離帯の中です。そうですね、ウチのNPOの1つを使ってください。県道のゴミ拾いのボランティアという名目で。スマホを発見したら即回収して解析を。近くにイヤホンが落ちていたらそれも。流通経路を洗ってください。他のメンバーは夕方まで作業を続けてから撤収。後の細かい調整は任せます。では――」
素早く指示を出して通話を終える。
「な、なんか結構な大事に……。ちょっと申し訳ないような……」
「そんなことありません」
少し気後れする希咲に望莱はキッパリと言う。
「さっきも言いましたが全然ショボくなんかないです。スマホは重要な証拠品ですよ」
「そう?」
「はい。中に入っているデータはそのまま物的証拠になります。もしも関係者とのやりとりが残っていたら、かなり捜査状況は進みますよ」
「そ、そっか。なにか見つかるといいな……」
「何かしらは必ず出るでしょう。せんぱいは“アムリタ事件”の時にもイヤホンをつけていましたよね?」
「そういえばそうね」
「ということは、ああいった作戦遂行の際の基本装備なんでしょう。スマホにメッセージなどの連絡が残っていればそっちを捕まえられるかもしれません。ケータイの契約から支払い方法、そこから口座やクレカを特定して凍らせるとか。活動資金がなくなると資金を得るために短絡的な犯罪に走る可能性もあります。それを泳がせて別件で引っ張るとかも出来ますね」
「そ、そんなことできるんだ」
「まぁ、そこまでやるにはかなり特殊な手段を使わなきゃですけどね。流石にそんなには上手くいかないでしょう」
「つか、あいつの日常生活が短絡的な犯罪そのものだしね」
望莱は希咲の持って来た情報の重要性を語る。
最後は二人で苦笑いをしあった。
「というわけで、スマホは全ての現代人にとっての急所となるのです」
「そんな人ばっかじゃないでしょ」
「いいえ。スマホの中に疚しいことのない現代人などいません。絶対に、誰でも、何か、や、ま、し、い、こ、と、が……」
「あによ。ゼッタイにもう見せないからっ」
望莱は言葉を短く区切りながらジロジロと希咲に疑惑の目を向ける。
希咲はロングカーディガンの左ポッケを庇うようにしてその視線から逃れようとした。
「そこか」とみらいさんはロックオンする。
「じゃあスマホを出してください」
「なにが『じゃあ』か。イヤっつってんじゃん。つか、あたし関係ないし」
「いいえ。『第274回 ななスマホチェック』のお時間です」
「定例イベントみたいにゆーな。273回もやってないし。こないだ見たばっかでしょ」
「あれからもう半月。七海ちゃんが新たな悪い男にひっかかった可能性があります」
「しょっちゅう引っ掛かってるみたいな言い方すんな。ウチのママじゃあるまいし」
「ならばそれを証明してください。どうせ待ち受けが新たな男になってるんです。わたし知ってます」
「だからその『新たな』をやめろ。今まで一回もないのに」
「ちなみに見せないと、わたし次のお話に進みません」
「あーもう! めんどいわね……っ!」
文句を言いつつも希咲は結局望莱のワガママに応じることにした。
七海ちゃんは流されやすいのだ。
画面に指をあててロックを解除する。
その瞬間――
「――すきありぃっ、です!」
「あ――っ⁉」
――その瞬間を待っていたとばかりに、みらいさんは希咲のスマホを持つ手に飛び掛かった。
両手で彼女の腕に組みつきスマホを奪おうとする。
「ちょっと! やめてよ!」
「さぁ、大人しくそのスマホを寄こすのです」
「勝手にさわんな! 離れろ!」
「やだーやだー!」
希咲は望莱の顏に手を置いて彼女を引き離そうとする。
望莱は駄々を捏ねながらデタラメに指を動かした。
すると――
ーーーーーーーーー
「独りじゃない」
嘘吐きね
離れて今は貴方は何処に?
答えてよ
聞こえないの
独りであたし 歌っているよ?
ーーーーーーーーーーー
希咲のスマホから歌が流れだす。
望莱の指が再生ボタンを押してしまったようだ。
「まぁ、なんですか? このメンヘラっぽいお歌は」
「うっさい。シツレーなこというな」
不機嫌顔で希咲は再生を止める。
その腕に組みついたままの望莱は画面を覗き込む。
「“えっちゅ”ですか? 七海ちゃん歩き“えっちゅ”してたんですか?」
「ヘンな言い方すんな。ここ来る時に聴いてたの」
「へー。有名なアーティストさんなんですか?」
「けっこう? “Layla”よ。知らない?」
「あぁ、これが……」
名前だけは知っているが望莱には興味がないようだ。
希咲の顔がふと翳る。
「愛苗がね、好きだったの。それ思い出してCH見てみたら新曲出たばっかで……」
「なるほど。それで聴いてみようと、そういうことですか」
それは実に希咲らしい行動だと望莱は得心する。
だが――
「あと、このいっぱい付いてる“いいね”の中の一つが、もしかしたら愛苗かもしれないって……」
「はぁ」
「それに、コメント欄の中にもしかしたら愛苗がいるかもって。あの子全部の曲に『いっぱいだいすきです!』ってコメしてたから……」
「…………」
寂しげにつぶやく七海ちゃんの横顔をみらいさんはジト目で見遣った。
その視線により、どこか違う世界に行っていた希咲は我にかえる。
「な、なによ……っ」
「七海ちゃんったら。なんたる激重メンヘラ仕草。そもそも水無瀬先輩のスマホ止まってるじゃないですか」
「い、いーでしょべつに! つか、もうはなれてよ!」
「あっ――やだーやだーっ!」
カチンときた七海ちゃんは照れ隠しに再びみらいさんを引き剥がそうとする。
みらいさんはまた駄々っ子モードで抵抗をした。
だが――
「――ていっ」
「むねん」
――基本的に彼女の身体能力はクソザコなので、希咲がペイっと腕を振るとあっさりと床にコロンと転がされてしまう。
「いちいち襲い掛かってくんのやめてって言ったじゃん。ほら――」
「どれどれ……、ん?」
面倒そうにしながらも、希咲は待ち受けを画面を望莱に見せてやる。
それを見た望莱はキョトンっとした顔で首を傾げた。
そしてまた希咲にジト目を向ける。
「あによ、その目。べつになんにもヘンじゃ……、って! あぁぁぁーっ⁉」
言いながら段々と不安になっていき、希咲は自分でも画面を覗き込む。
するとその待ち受け画面に映っていたのは弥堂だった。
とてもイヤそうな顔をしている。
「んもぅ。七海ちゃんったらいつのまにそんなに“せんぱい”のことを……」
「違うから! すっかり忘れてた……」
例のカフェデートの際に、お互いに嫌がらせでお互いの写真を待ち受けにするという不思議なことになった。
そんな取り決めはしていないのだが、どっちが先に音を上げて待ち受けを戻すかという謎の勝負が発生している気になっていたのだ。
それが何日かする内に段々と違和感を感じなくなっていき、普通にそのまま忘れていたという顛末である。
「あ、そうだ! 忘れてたっていえばさ」
「はい?」
ついでに思い出したことがあり、希咲は眉を吊り上げて望莱に愚痴る。
「嘘デートの時にさ、あいつの持ってたペットボトル没収したじゃん?」
「そういえばそんなこともありましたね」
「あれ指輪に仕舞ったまんま忘れててさ。んで、飲みかけだったし、日が空いちゃったから悪いけど流しに捨てちゃおって思ったのよ。そしたらビックリよ!」
「はぁ」
「あれ! 中身は灯油だったのよ! あいつマジで頭おかしい!」
「ガチの危険人物で草」
ポッケに可燃性燃料を入れてデートに来るダメ男に、みらいさんは笑う。
後始末をさせられた七海ちゃんは激おこだ。
「なにが建物が爆破されるかもよ! 自分が爆発させる気マンマンじゃん!」
「いいえ。きっと七海ちゃんが『えっちOK』してくれなかったら、その灯油を被って心中する気だったんです」
「コワすぎんだけど!」
弥堂 優輝ヤンデレ説を一頻り議論してから、元の話題に戻る。
「ツッパリさんたちに関してはそんなところですか?」
「あー、あとは、多分龍脈の事件の後だと思うんだけど、弥堂が電話かけてた。『水無瀬 愛苗を知ってるか?』って」
「そうしたら?」
希咲は黙って首を横に振る。
「なるほど。マナックですか。では“龍脈暴走事件”の以前はともかく、現在の彼らは無関係かもしれませんね」
「たぶん」
「ていうか、今さらですけど。弥堂せんぱいが水無瀬先輩を憶えている確定証拠掴みましたね」
「あ。そういえばそっか。絶対ウソついてるって思ってたからスルーしちゃった。あんのやろぉ……、やっぱウソだったじゃん……!」
「うふふ」
思い出して怒り出す幼馴染のお姉さんにみらいさんはほっこりする。
「他にはなにかありませんでした?」
「あー」
「なんでも言ってみてください。ほら、今の2つみたいに、七海ちゃんがそう思ってないだけで、実は重要な証拠とかあるかもですし」
「そうね……。じゃあ、学園襲撃の時のやつ」
4/22に起こった一回目の龍脈暴走の件だ。
「あいつやっぱ学園にいた。そんで妖と戦ってたわ」
「へぇ。どんな妖でした?」
「情報にあったとおりネコだったわ。トラよりおっきぃかもだけど」
「ふむ。そこは正確な情報だったんですね」
「でもさ、なんかヘンなとこから牛さんとか豚さんの顔が生えてんのよ。マジキモかった」
「キメラで草。ちょっと珍しいですね」
想像して望莱は笑うが、実物の映像を見た希咲は笑えなかった。
「たぶん、どっかの使われてない部室かな? 弥堂がそこに隠れてて。そしたらそのネコが窓から覗いてんの。ニヤァって笑ってフツーにコワかったし」
「ホラー映画みたいですね。それで?」
「あいつがなんかヘンな機械使って。あれなんだっけかな……、あ、そうだ。超音波発生装置とか言ってた」
「……なんでそんなものが学園に?」
「わかんない。けど、それ使ったら妖が苦しんでた」
「獣の習性や特徴が残っているから効果があったということですか。でも、そんなんでよく倒せましたね」
「や、その場ではそれで逃げたみたい。苦しんでる内に。でもそっから映像飛んじゃって。でも、次のとこからあんたの言ったとおりだった」
「わたしですか? 何か言いましたっけ?」
島でこの学園襲撃について話した時は、まだそんなにやる気がなかった時だった。
なので憶えがなく、望莱は宙空を見上げて自身の発言を思い出す。
「ほら。推理っていうか、冗談みたいな感じだったけど。妖と一緒に屋上から飛び降りたんじゃないかって」
「あー。確かにふざけてそんなこと言いましたね」
「あいつそれマジでやってたのよ!」
「まぁ。せんぱいったらヤンチャです」
「ヤンチャじゃ済まないわよ! あたしそれあいつ視点で見るからマジビックリだったし!」
「えっと、せんぱいはやっぱり心中系のヤンデレさんってことですか?」
望莱は茶化すようなことを言いながら、
(まさか、せんぱいのアレを見てしまった……?)
心中ではその可能性を疑い探る。
「や。生きてんじゃん。あいつ。つか、そうじゃなくって、要石の話してたでしょ? なんで龍脈が暴走したのかって原因」
「あぁ、はいはい。そうか、飛び降りたのは時計塔からですか?」
「そ。時計塔の屋上から妖を巻き込んで飛び降りて、そんで真下の要石に妖が口からグサァーッよ!」
「はえー。過激ですねー。せんぱいは?」
「なんか途中木の枝とか掴もうとしてたんだけど、全部折れて結局地面に……」
「よく生きてましたね。でも、それじゃそこで戦闘不能ですね」
「ううん……」
希咲はまた首を横に振る。
その表情はどこか重い。
「あいつ……、そんなんになってもまだ……」
「妖にトドメを刺そうと?」
「うん。いっぱい血吐いて、骨が折れて……、折れた骨が見えてた……。それでも……」
「逆にその状態でどうやって……」
「あー……、なんかまたどっかから灯油みたいなの出して、オブジェごと妖に火つけてさ。そんで杭を打ち付けてたんだけど、両腕折れてるから頭突きで……」
「せんぱいの方がホラーで草」
「笑えないっての……」
可笑しそうに笑う望莱に対して希咲はげんなりとした顔だ。
グロ耐性の差である。
「妖もホンキであいつのこと恐がってた」
「立場が逆ですね」
「なんかさ、あたしそんなにいっぱい妖と戦ったことないけど。あんな風に妖が人間に怯えるなんて初めて見たわ」
「まぁ、そうあることじゃないですね。しかし、そうですか。確かにそんなことしたら龍脈が穢れますね」
「そうなの?」
「はい」
望莱は頷いて要石について説明する。
「簡単に言うと浄水器みたいなものと思ってください。地中を流れる龍脈のエネルギーを清浄に保つためのものです。それを龍脈の構造上、重要な場所に設置しているんですよ」
「そんなとこであんなことしたら……」
「そりゃそうなるってもんです。妖の血だけでなく、その怯えや殺意などの思念もとりこんでしまったのでしょう。というわけで、一回目の龍脈暴走は“せんぱい”のせいだと確定しました」
「あー、でもさ――」
望莱がそう言うと、希咲は難しい顏で反論をする。
「結果的にはあいつのせいなんだろうけど。あれがわざとかっていうと」
「偶然かもってことですか?」
「うん。なんかどう見ても限界バトルすぎて。龍脈を穢すって目的だったらもっと楽なやり方あったと思うのよ。だから……、あれ? でも……」
「七海ちゃん?」
言いながら自分で疑問を覚えて考えこむ彼女の顔を望莱は窺う。
希咲は少し自信なさげに思い出しながら話す。
「えーっと……、でも、あれ全部が罠なのかもって今思って」
「罠?」
「あいつさ、時計塔の屋上になんか色々仕掛けてたっぽいのよ」
「仕掛けですか」
「あの、ほら、あれ。なんだっけ? 空き地とかに人が入れないように囲んでるトゲトゲあんじゃん?」
「有刺鉄線ですか?」
「多分それ。時計塔の屋根にそれ張り巡らせてたのよ。ネコを屋上に誘き寄せて、そんであれは硫酸なのかな……? かけたらシューっと煙でて痛そうなの。他にもすんごい滑るドロドロのオイルみたいなの撒いてたり」
「それはそれは……」
「あの夜に偶然妖と遭遇してすぐにあんなの準備できないじゃん? 電流みたいなのまで流してたし。だから、自分で違うって言いかけといてなんだけど、やっぱ狙ってたのかな?」
「うーん……?」
望莱は少し考えてから回答をする。
「まず、せんぱいの行動によって龍脈が穢れた――これは事実でしょう。ですが、龍脈を穢す目的で罠を仕掛けたのか――これはわかりません。ただ妖を殺す目的だけで仕掛けた罠だという可能性もあります。ここは切り分けるべきですね」
「そっか。でも、どっちにしても……」
「あの晩。あそこに妖が現れることを知っていた。それは確定です。でなければあんな場所に罠なんて仕掛けません」
「……電流が流れる時、屋上のとこにドローンが飛んでたわ。ホテルでの爆破の時も」
「やっぱり協力者ですね。ところで硫酸って大量のものでした?」
「うん。実験室から瓶を一個盗んできたとか、そんなレベルじゃない」
「ということは、それなりに専門のルートじゃないと仕入れられないですね。それにどうやって学園に持ち込んだのか。学生鞄に隠してとかじゃ無理でしょう。そうなると、学園への荷物の搬入履歴も調べないと……」
「あ、さっきの超音波のやつのさ。あの部屋になんかいっぱい木箱みたいなの積んであったかも」
「ふむ。調べてみますか。でも、一人で運んで仕掛けるのは相当大変ですね。というか、あの“せんぱい”にそんな小賢しい仕掛けが作れるイメージが……」
「なんかそこ謎よね。あいつ一人っぽいけど、どう考えても一人だけじゃ出来ないことが多くて……。でも仲間の姿が見えないし」
「バトルになる前にはそこも押さえたいですね。どんな奇襲をくらうかわからないですし。でも、それに対するトラップは仕込み済みです」
「トラップ? どんな?」
望莱は「ふふふ」と含み笑いをしながら自慢げに話す。
「“せんぱい”が消したがるような防犯カメラの映像があるんです。それを特別なサーバーに保管してまして」
「あー、あいつ自分が映ってる映像消したりしてるんだっけ? ハッキング的なので。スマホもロクに使えないくせに」
「多分お仲間がやってるんでしょうね。今まではアクセスされても、映像が消されるまでアクセスされた痕跡にすら気付けなくて。そこで、ですね。ネットや電力に頼らないアナログな仕掛けを施しました」
「アナログ?」
「です。その専用サーバーは常にスリープ状態にしてまして。中を見ようとすると電源が入るようになってます」
「あー、うん」
そういった方面の知識に疎い希咲は何となくで想像しながら続きを聞く。
「そうするとですね。横に設置したネズミ捕りみたいな仕掛けにも電力がいって、仕掛けが作動します」
「ん? ネズミ捕り? なんで?」
「こう、パチンって割りばしが倒れるんですよ」
「はぁ? 割りばしでどうやってハッカー捕まえんの?」
「そうしたらですね、その割りばしの倒れる先に立ってるドミノが倒れるんです。そのまま2000個ほどのドミノがパタパターって」
「そんでどうなんの?」
「最後のドミノがパタンってすると、それによってスイッチが入ります。そうすると電球が光ります。ペカーって。これの電力は電池です」
「なんで電球?」
「犯人が撤収してサーバーの電源が再び落ちても、電球は消えません。少なくともこれでアクセスされたことには確実に気付けます」
「……?」
七海ちゃんは「この子なに言ってんだろ?」と首を傾げた。
「えっとさ、要はピタゴラスイッチ的なことよね? それさ、間のドミノとかいらなくない? 割りばしパチンで電球つければいいじゃん」
「流石は七海ちゃん。そこに気付かれるとは」
「はぁ」
「ドミノはただのスタッフさんへの嫌がらせです。遅刻の罰として無駄な作業をやらせました」
「かわいそう……」
遅刻はダメだけどいくらなんでもそれはないんじゃないかと、七海ちゃんはスタッフさんに同情する。
そして改めて“M.M.S社”の過酷な労働環境に疑問を持った。
卒業したら入社しないかと誘われていたが、進路先の候補の順位を下げた。
「つーかさ、それじゃアクセスされたことしかわかんないってことよね?」
「はい。一応逆探知とかマルウェアとか仕込んだんですけど、そっちは多分効かないでしょうね」
「あんま意味なくない?」
「それがそうでもないです。ハッキング犯をそれで特定できるかは可能性低いですけど。このデータにアクセスをしてきたら、きっと“せんぱい”の行動に変化が現れます。多分その時は“せんぱい”が仕掛けてくるタイミングだって読めるかもしれません」
「はぁー。なんかムツかしくてよくわかんないけど。でも、あんた色々やってんのね。都紀子さんの事務所にもなんかやってたみたいだし」
「ふふ、実は働き者のみらいちゃんなんです」
望莱はドヤ顔をキメて紅茶を飲み干す。
それからスマホを手に取ってメモ帳を立ち上げる。
「ということで、“せんぱい”のお仲間さんの特徴を教えてもらえませんか? 見たことあるものだけでいいので」
「んと、直接見れたのは愛苗の家の近くで見たやつだけなんだけど」
「はい。赤い髪の女性でしたっけ? 他にわかりやすい特徴はありませんでしたか?」
「あー……」
希咲は少しだけ迷ってから、特徴をあげていく。
「えっとね、オレンジっぽい赤髪。背が高くって、目つきが悪い。なんかワイルドな感じでコワそうなんだけど、でも結構美人さん。喋り方はガラ悪くて、都紀子さんより年上っぽいかな? でもオバさんとかじゃない」
「ふむふむ……。服装とかはどうでした?」
「あー、なんていったらいいんだろ。下はズボンで、上は腹だし? んでコートみたいなの羽織ってた」
「コート? もう大分あったかくなってきたのに」
「なんかバンドマンみたいな感じ? ボロボロな感じのコート。そんで……」
希咲はそこで少し口籠る。
だが黙っていても仕方ないと、すぐに先を続けた。
「腕が片方ないの」
「腕が? 隻腕ってことですか?」
「ん。左がないのかな? たぶん、それでコートで隠してるのかも? や、でも違うか。左っ側は袖なかったし」
「ほう。かなり目立ちそうなルックスですね」
「うん。派手な感じの人」
「街の監視カメラに写っていたらすぐに見つけられそうですね。ちょっと探させてみます」
望莱は今聞いた情報を手早く纏めてメールで社員へ送る。
「他には誰かいませんでした?」
「うーん……、昔の映像なら結構いるけど、でもそれは――」
「――ですね。それは流石にキリがなくなっちゃいますね」
「それ以外だと……、あ――」
言いながら希咲は該当人物に思い当たる。
「誰かいましたか?」
「あぁ……、うーん……、えっとー……」
望莱が関心を強めると、しかし希咲の歯切れが途端に悪くなった。
望莱は不思議そうにする。
「七海ちゃん?」
「あー、うん、言う。言うけど……」
そう言いながらも希咲はなかなか言い出さない。
やがて彼女はお口をモニョモニョとさせてしまった。
これは恥ずかしくて言えない時のサインだ。
きっとエロいことに違いないと、望莱さんは俄然興味を強める。
「七海ちゃん。今はどんな情報から水無瀬先輩に繋がるかわかりません。とりあえず言ってみてください。当時の心境を具に交えて」
「え? うん……、そうよね……。じゃ――」
ついに希咲が重い口を開く。
みらいさんは思わず身を乗り出した。
そして――
「魔法少女――」
希咲の口から、遂にその言葉が出てきた。




