3章09 Threads Connect ➂
「――はいはぁ~い。今開けますねー」
朗らかな声をあげながら、望莱は玄関のドアを開ける。
「ん。いきなり来ちゃってゴメン」
訪問者は希咲 七海だった。
望莱はチラリと希咲の手を見る。
彼女の右手にはカードキーが。
それはこの家のカギであり、望莱自身が希咲へ渡した合鍵だ。
「いえいえ。いつでも勝手に来ちゃってくださいな」
それを確認してから望莱はニッコリと笑って希咲に応えた。
(――取り返しのつかないこと……)
「珍しくちゃんと起きてたわね。もう10時半だけど」
「はい。七海ちゃんが来るような気がして不眠で待機してました」
「はいはい、あんがと」
「とりあえず上がって下さいな」
「ん」
望莱がスッと脇にズレると、その前を通って希咲が中に入る。
希咲はスニーカーを脱ぐ為に片足を上げた。
(――取り返しのつかないこと……)
靴の踵に挿しこまれる彼女の細い指先を望莱はニコニコと見つめる。
「おじゃまー」
「邪魔なんかじゃありませんよぉーっ!」
「わっ⁉ な、なによ! 急におっきぃ声出さないでっていつも言ってんじゃん!」
「だって七海ちゃんがいつまでたってもわたしの気持ちをわかってくれないから……」
「『おじゃまします』ってフツーのアイサツでしょ! なんなのっ!」
「うふふ……」
(――取り返しのつかないこと……)
希咲はプンプンとしながらズカズカと廊下を進んでいく。
望莱はそんな彼女に上機嫌に着いていく。
(――取り返しのつかないこと……)
入室したのは昨日もみんなで集まっていたダイニング兼リビングだ。
「七海ちゃん。お家のことはいいんですか?」
「え? うん。あんま長居できないけど、洗濯とかはソッコーで終わらせてきた」
「えー。帰っちゃやーです」
(――取り返しのつかないこと……)
ソファにパフっとお尻を落とす希咲に駄々をこねてみる。
「えー、じゃない。お昼作りに戻るの」
「随分と忙しないですけど、何かあったんですか?」
「ちょっとさ、あんたに急いで聞いて欲しいことあって。新情報? みたいな?」
「なるほど。とりあえずお茶淹れますね」
望莱はアイランドキッチンに設置されたIHコンロにケトルを置く。
(――取り返しのつかないこと……、新情報……?)
「つか、あんた朝ごはんは?」
「食べてないです」
「もしかして起きたばっかだった?」
「いいえ。寝てないです」
お茶っ葉の缶の蓋をポンっと抜くと、斜めに傾けていた缶からザァーっと中身が零れだす。
「は? マジで徹夜なの?」
「はい。マジテツヤさんです」
(――取り返しのつかないこと……、聞き逃すこと……?)
「誰よそれ! なんで寝てないわけ?」
「ちょっと夢中でビデオ観てました。もちろんスッゴクえっちなやつです。後で一緒に観ましょうね?」
空っぽのシュガーポットにお砂糖を補充しようとするが、勢い余って大量の砂糖が流れ落ちていって一瞬でドバっと溢れかえる。
「みるか! もぉーっ。明日からガッコなのに。あんた島でも夜型生活してたんだからさ。ちゃんと元に戻しなさいよ」
「いいえ。わたしはお金持ちの娘。庶民どもがわたしに合わせるべきです」
希咲は立ち上がってキッチンへと近付いていく。
「夜間学校になっちゃうでしょうが」
「いっそリモートにして欲しいです。登校めんどいです」
「あんた全然運動しないんだから登下校くらい歩きなさいよ」
「お嬢さまは高級車で登校しないとみんなの夢が壊れちゃいます」
「じゃあリモートしたらダメじゃん」
「ハッ、なんてことでしょう」
望莱は戸棚の前で背伸びをして手を伸ばす。
指先で引っ掛けたお皿をファーストタッチで取り落とすと、いくつもの食器を巻き込んで望莱目掛けて倒れてくる。
「なんで自分で届かないとこに仕舞うのよ――」
いつの間にか背後に立っていた希咲がそれらが落ちてくる前に支えた。
「だって、そうしたら七海ちゃんがこうやって助けてくれるじゃないですか」
それがわかっていたように、望莱は顔だけを振り返らせてニッコリと笑う。
「え? てゆーか届かないのにどうやって仕舞ったわけ……?」
食器を戻しながら七海ちゃんがコテンと首を傾げると、その隙を狙ってみらいさんのお目めがギラリと光る。
みらいさんは頭を捩って後頭部を七海ちゃんのお胸にグリグリしようとするが、見透かしていたようにスッと身体を離されてしまった。
「回りくどいセクハラすんな。つか、後はあたしがやるからあんたは座って待ってなさい」
「はーい」
溜め息を吐きながら希咲に命じると、みらいさんはニッコニコでソファの方へ歩いて行った。
「ったく。あっという間にこんなに汚しおって……」
希咲は文句を言いながらも慣れたものと手際よく片付けていく。
(――取り返しのつかないこと……)
「だいたいなんで日本茶淹れるのにお砂糖がいるのよ」
「甘い方が七海ちゃんが嬉しいかなって」
「あんたもあたしもそんな飲み方したことないでしょ」
「常に新しいチャレンジをしていくべきだと思うんです」
「そーゆー上辺だけ意識高いのいらない。まず一人でゴミ出し出来るようにチャレンジしなさいよね」
「我はお嬢様。ゴミを出す者なり」
「リィゼか」
「がーん」
なにやらショックを受けたフリをする望莱を無視して、希咲は使い終わった雑巾をギュッと絞る。
それを脇に置いてから、冷蔵庫の中を覗いた。
「七海ちゃん。そこにカップはないですよ?」
「わかってるわよ」
「なに探してるんです?」
「んー?」
曖昧な声を出しながら冷蔵庫からいくつかの物を取り出し、希咲は望莱の方へ振り返る。
「ごはん食べてないんでしょ? 作ったげる」
(――取り返しのつかないこと……)
家庭的なギャルの魅力にやられたみらいさんは反射的にソファを立ち、熱烈タックルをしかける為にスタートを切ろうとするが――
「――動くな」
それを予想していた七海ちゃんがビッとウィスクの先を向けて警告してくる。立派なジト目だ。
「座れ。ハウス。大人しくしろ」
「わん、です」
シャカシャカシャカと音を鳴らして威嚇されると、みらいさんはひと鳴きをしてお座りした。
(――取り返しのつかないこと……)
「ジャマすんじゃないわよ。作るのやめるかんね」
「はぁーい」
望莱は元気いっぱいのお返事をする。
(――取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……)
トントントンっというまな板の音に身体を左右に揺らしながら、通い妻の仕事ぶりをチェックするためスマホのカメラを向ける。
(――取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……)
「撮んな。お手てはヒザっ」
「はーい」
(――取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……)
両脚を揃えて座り直し、お手てを膝に置く。
(――取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……)
そしてお口にチャックをして、ただニコニコと希咲のことを見つめた。
(――取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと……、取り返しのつかないこと取り返しのつかないこと取り返しのつかないこと取り返しのつかないこと取り返しのつかないこと取り返しのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりかえしのつかないこととりか――)
だが、その頭の中ではずっと別の思考を高速回転させている。
てっきり敵――自分を害する類いのなにかが来たものだとばかり思っていた。
だが、実際に現れたのは望莱にとっての『取り返しのつかないもの』そのものである希咲だった。
(これからなにか、襲撃を受ける……?)
あの怪文書がただのイタズラだとは思えない。
――――――
題名:今眠ったら
本文:取り返しのつかないことになるぜ?
――――――
(眠ったら。あのまま眠っていたらどうなっていたか……)
ドアを開けた時に希咲は合鍵を出して手に持っていた。
(それだけじゃなくって、アポなしの訪問……)
彼女は普段ここに来る時は先に連絡をしてから来る。
そして今日は何か新情報があるという。
(寝ちゃったらインターホンに気付かなくて、七海ちゃんが帰ってしまう。その情報が聞けなかった。そういうことでしょうか……?)
思い浮かべてすぐに否定する。
(七海ちゃんは合鍵を持ってます。しかし普段はそれを使わない)
留守なら仕方ないと彼女は出直すだろう。
そもそもその留守中の訪問をしないために事前連絡をするのだ。
(だけど、今日は違う……)
その彼女が合鍵を出していた。
つまり、望莱が応答しなかったらそのカギを使って入って来たということだ。
それくらいの何か緊急性のある用件。
(それは全然構わない、というか、むしろされたい。睡眠中に推しが押し入ってくるなんてご褒美でしかありません……)
だが、その結果寝起きASMRで優しく起こしてもらう――それだけでは済まないだろう。
(寝落ちの直前、どういう状況でしたか……)
動画をつけっぱなしで机で居眠りだ。
そうすると――
(あの映像……)
望莱はあれを“誰にも”見せていない。
当然希咲にもだ。
(なるほど……。確かにそれは取り返しがつきません……)
現状でアレを彼女に見せるわけにはいかない。
内容がショッキングすぎて、彼女の精神状態を慮って――という事情だけではない。
あれは――
(――ラインを越えます)
仮に、あの映像を兄の聖人に見せた場合どうなるか。
(当然、アウトです)
今にも弥堂と直接のコンタクトを取りたがっている彼をどうにか我慢させている状況であれを見せてしまったら、もう止まらなくなるだろう。
兄にとって、殺人は絶対のNGだ。
仕事だの役割だの状況だの、そんなものは一切関係ない。
(そして七海ちゃんも)
聖人ほど苛烈なアレルギー反応は見せないだろうが、しかし“あの映像”はマズイ。
アムリタ事件の中で起こった様々な出来事――
希咲はそれをギリギリどうにか割り切っている状態だ。
(正確には、どうにか割り切ろうとしています……)
凄惨な人と人との生命の奪い合いを、「状況によってはOK」などと――
決して肯定などしていない。
水無瀬のこと。
そして清祓課や“G.H.O.S.T”の隊員たちの立場に配慮して、余所者で無関係な自分がヒステリックに正義を喚くべきじゃないと我慢をしているのだ。
そんな中でこんな映像を見たら――
(ライン越えになります。特にミラーさんにはなにやら感情移入していた様子でしたし……)
弥堂のあの所業を絶対に許しはしないだろう。
(七海ちゃんがガチギレしたら、一気に開戦に傾きますね)
聖人がやる気で、希咲がそれを止めないのなら、他のメンバーもそれに付き合うだけだ。
そうなったら――
(早ければ明日の朝のHR前にはもうガチンコですね)
それは望莱としては非常によろしくない。
そういった都合で映像を共有していなかった。
もしも、そうなった場合――
(まぁ、まず勝つでしょうね。99%)
勝率が100%でないことが問題なのではない。
単純な勝ち負けの話ではないのだ。
(“勝ち方”が問題なんです……)
望莱が思慮しずっと調整を行っているのはその“勝ち方”のためだ。
(せんぱいとバトルして、それにただ勝ちさえすればいいという話ではないんです)
その勝ち方――
つまり、どういう状況で戦い、それに勝ち、その結果どういう状況に変わるか――
それが重要となる。
(例えば、月曜の朝の教室でガチバトルになった場合――)
周囲の何人を巻き込むかわからない。
隠していた自分たちの力がバレる。
世間に隠している異能が明るみに出る。
その上で弥堂だけを倒したとして、彼にバトルで勝ったとして、一体何になるのか。
(それはほぼ負けに等しい……。ただ“せんぱい”を倒しただけ。むしろ他に失うモノの方が多いです……)
目の前のバトルに勝つことが、そのまま戦いの勝利になるわけではない。
一般人の目に映る場所でド派手なバトルになどなったら、世間からだけでなく、清祓課・学園・陰陽府といった各所から責任を追及されてしまう。
その場合、弥堂と戦う前より自分たちの立場はずっと悪くなる。
あの男と戦うのなら、これをわかっていないと必ず負ける。
例え弥堂自身を始末出来たとしても、必ず負ける。
(それがわかっていなかったから――)
清祓課も“G.H.O.S.T”もテロリストも、全てが弥堂一人に負けたのだ。
(わたしたちが戦う前に、いい踏み台になってくれました……)
あの映像はいい教材だ。
当然、いざ弥堂と戦う直前にはあれを共有するつもりではいた。
彼になにが出来るのか。
最低でも希咲や蛭子には見せておくつもりだった。
(だけど、それはまだ、今じゃありません)
公開する時期が重要だ。
戦いが避けられない――そう差し迫るまでは出せない。
自分たちと弥堂との対決。
それにまず重要となるのは――
(――どちらが先に仕掛けたか。戦後に最初にこの事実が重要となります)
それはバトルの勝ち負けに関わらず、正当性を得るためだ。
勝ったのに立場が悪くなるなど、意味がわからない。
それでは何も得られない。
戦う意味がないのだ。
(せんぱいはそれを正確に理解しています)
現在の今も、望莱と弥堂は水面下でそういった駆け引きをしている。
(尤も、せんぱいはわたしが相手だと認知してはいないでしょうが)
こちらのブレインが望莱である以上、そういうことになる。
『どっちが先に仕掛けるか』
どちらも相手に先に引き金を引かせようとしている。
(わたしたちは絶対にこれを出来ない。やるなら決定的な大義名分が必要になります)
ある意味では、あの映像こそがその大義名分になるはずだった。
しかし――
(――清祓課がアレを黙認している内はムリムリです。むしろ清祓課ごとケンカを売ることになってしまいます)
弥堂がそこまでを計算に入れていたわけではないと思うが、しかしこの部分においては自分たちが不利であるのは事実だ。
何故なら――
(――せんぱいの方はその限りではありません)
弥堂の方は先に仕掛けることもやろうと思えば可能だ。
(彼は社会的な立場などに固執していない。なんなら戦いの後で自分が生き残っているかどうかも重要ではない)
異能が世間にバレてはいけないという業界の不文律も、彼にとっては知ったことではないだろう。
こちらは仕掛けられ待ちしか出来ず、向こうはどちらも選べる。
この点は明確に不利と云えるだろう。
(本当に迷惑な人ですね)
そして、それを前提として。
もしも希咲が止まらなくなってしまったら。
これら全てをわかった上で――
(――いつでもやってやんよこらぁー! です)
――望莱も必ず彼女に付き合う。
その先に破滅しか待っていないことがわかっていても。
それとこれとは関係がない。
(でも、それはそれとして――)
それを避けられる内は全力で避けようとする。
それもまた当然だ。
勝ち方――
(戦う正当性、彼を倒す正当性、それらを得た上で戦い、せんぱいも含めて一人も死者を出すことなく勝ち切る)
それが望莱の設定した勝利条件であり――
(――これ以外の勝ち方はありえません)
それに比べて弥堂はどうだろうか。
(わたしたちを殺す。もしくは排除。それ以外はどうでもいい)
随分と条件のハードルが低い。
(実際にはこれに水無瀬先輩の存在が絡んでくるはずですから、もう少しハードルは上がるでしょう。しかし、わたしたちよりは圧倒的に社会的な制約は少ない)
これが既に始まっている弥堂との戦いの正確な現状だ。
(さて、そういった現状を踏まえた上で、です)
怪文書のことに思考を戻す。
(確かにあのまま眠っていたら取り返しのつかないことになっていたでしょう。ですが、何故それをわたしに報せたんでしょうか?)
あれを送ってきた目的を考える。
そもそもの話――
(あの怪文書の主……、長いですね。カイブンさんと呼びましょう。カイブンさんはわたしたちと“せんぱい”をぶつけるつもりだと思っていました)
“龍脈暴走事件”でも“アムリタ事件”でも――
自分たちや弥堂の方にも死者を出さないよう警告をしているように見えた。
(これはいつか決めた時期に直接ぶつけるためだと思っていたんですが、違ったんでしょうか?)
あのメールが届いたことで、望莱に取り返しのつかないことが起こらず――
そしてその結果どうなったかと考えてみる。
(わたし的には助かりましたが、カイブンさんに何のメリットが……?)
メリットはあるのだろう。
この人物はずっと自分のメリットのために怪文を送り続けている。
それが何なのかがわからないだけで。
今回のこれに限っては――
(わたしを守った……? いえ――)
そう考えてすぐに否定する。
(――逆。せんぱいを守った? もっと言うなら、わたしに“せんぱい”を守らせようとしている……?)
故意的に発想を飛躍させてみる。
それから粗を探してみて、そう的外れでもないと思えた。
(思えば龍脈の件から、せんぱいは常に生き残らせる側に入っている――というか、その前提でいますよね……。それに今回のメールの文面の口調――)
――――――
題名:今眠ったら
本文:取り返しのつかないことになるぜ?
――――――
(――人格が漏れてますよ。意図的かもしれませんが)
それで何がわかるわけでもないが、この人物の視点を想像してみる。
(この人が誰を見ているか……)
紅月 聖人ではなく、紅月 望莱でもなく。
希咲 七海か水無瀬 愛苗かと思っていたが――
(せんぱい――弥堂 優輝を中心に見ている……?)
その目的は一旦考えない。
(わたしに裏切れと言ってるんですか? う~ん、七海ちゃんが一緒なら別にいいですけど)
冗談めかしてみるが、この場では答えはわかりそうもなかった。
(もしも、カイブンさんが本当に何もかもを見えているのなら。こんなんでわたしが裏切るとは考えないでしょう。そんなおバカさんじゃないです。なら、まだ先がある……)
この相手のこれまでのコンタクトの仕方から、そんな風に思えた。
絶妙に妄言だと無視されないライン、敵対心を抱かれないライン、危険視されないライン――
それをギリギリで越えないようにしている。
(いずれにせよ――)
今回の『取り返しのつかないこと』――それとは別に怪文書の主について得られたものがある。
この人物の正体は――
(美景に害を為す者。美景を護る者。どちらでもなく……)
以前に考えた候補を消去していく。
(見えている未来の結果から勝ち馬に乗る者――それでもない……)
未来が――
先に起こる結果がいくつもあって、現在の行動によって枝分かれし辿り着く結末が変わるものであるのならば――
(自分の望む未来へ進ませようとする者――)
――そんな印象を強く受けた。
(その枝分かれにわたしたちの行動が影響をする……?)
根拠に出来る材料はほとんどない。
しかし、その為に弥堂を含めた自分たちを操作しているのはという疑いを持った。
(つまり。このみらいちゃんをいつか迎えに来てくれる王子様ということでしょうか)
そんな風に茶化してから、スッと細める。
(でも、だぁ~めです。みらいはこのわたし。みらいちゃんだけ。わたしのもの。でも、ゴールを決めるのは七海ちゃん。そしてその望むゴールへと続く道筋を照らすのはこのわたしだけ。ポッと出のストーカーの出る幕はないです)
顔も知らぬ相手へ強烈な敵意を浮かべた。
(やっぱり気に喰わない人ですね。いつか首根っこ摑まえて壁尻の刑です)
そう決めて望莱は不敵に哂う。
「うふふ……」
「あんたなに怒りながら笑ってんの? きもいんだけど」
「おっと」
そこへ出来上がった料理を持った希咲がやってきた。
望莱さんはパッと一瞬で笑顔に変わる。
「怒ってないし笑ってないです」
「や。怒ってたし笑ってたじゃん。うふふって言ってたし」
「いいえ。怒ってないです」
「じゃあ笑ってはいたのね」
「それは認めるので手打ちにしてください」
「うむ。いいでしょう。お食べ」
「わぁーい」
素直に白旗を上げると七海ちゃんは鷹揚に頷きお皿を配膳する。
みらいさんは大袈裟に喜びながら卵にフォークを刺した。
しかし、その眉はふにゃっと下がった。
「オムライスじゃないです……」
「だってお米ないんだもん」
「メイドコスをした七海ちゃんにケチャップで落書きして欲しかったのに……」
「コスプレなんかするわけないじゃん」
昨日カフェ定員のコスプレで都合の悪いことを誤魔化そうした人がキッパリとそう言った。
「じゃあ落書きだけしてください」
「何を書かせたいのよ。つか、それやるだけならライスいらないじゃんか」
「『撮影OK』って書いてください」
「そんなゴチャゴチャした漢字ムリだってば」
「じゃあ卵が無理なら代わりに七海ちゃんのおっぱい、あっ――」
言っている途中でみらいさんは何かに気付いたように口を手で押さえて顔を逸らした。
七海ちゃんはジト目でその横顔を刺す。
「あによ。何が言いたいのよ」
「いえ。七海ちゃんのおっぱいにそんなゴチャゴチャした漢字を落書き出来る面積はないなんて思ってないです」
「こいつ……っ! 文句言うなら食べるな!」
「あっ――やだーやだー!」
お胸をディスられてカチンときた七海ちゃんがオムレツを取り上げようとすると、みらいさんはガッと彼女の腕に抱きついてジタジタと抵抗する。
しばらくじゃれあって、希咲の方から離れた。
「うめー! うめー! たまごうめー、です!」
「男子みたいにガッつくな」
「うめー!」
漢らしく飯をかっ食らう望莱に呆れながら、希咲は彼女の対面のソファに座る。
「ところで――」
「ん?」
そのタイミングで、望莱がお皿から目線だけを寄こす。
「とっときの新情報とはなんでしょう?」
「あ、食べながら聞く?」
「当然だ。じゃないと効率が悪いだろ。バカかお前は」
誰の話なのかはわかっているとばかりにみらいさんがモノマネをすると、七海ちゃんはムッと眉をナナメにした。
その顔が答えだ。
希咲は反射的に生意気な口をきいた妹分を叱ろうとするが、大きく息を吐いて自重した。
そんなことをしていると確かに効率が悪いからだ。
何故なら――
「――じゃ、情報量多いわよ?」
――今日得られたものはそれくらいのものだったからだ。
望莱はニッコリと笑う。
いつでもどうぞ、と。
そうして、希咲は新たに知った弥堂の記憶からの情報を望莱に聞かせていった。




