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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章16 出会いは突然⁉ ⑥


「――弥堂くん?」



 深く考え込み過ぎていたのかもしれない。


 窺うような声音で水無瀬から声をかけられた。



「……失礼。なんでもない」


「ううん。私もゴメンね? また二人でお喋りしちゃって」

「寂しかったのか? 泣くなよ、ニンゲン」


「お前ら俺をナメているだろう」



 俺の精神年齢までお前らと同じだと思うなよ。



「話の途中だったッスけど。さっき言ったとおり結界でここには這入れなかったはずなんッス。ちゃんと結界は張ってたんスよね、マナ?」


「うん。ちゃんとBlue Wishにお願いしたよ」


「……そのBlue Wishというのは?」



 ここまでの話で大体予想はつくが、念のため水無瀬に確認する。



「あ、うん。これだよ!」



 そう言って水無瀬は胸元からペンダントを取り出しこちらへ見せてくる。


 金色の花を模った枠の中に青い宝石のような石。



 俺はその石を視る。



 石の内部には液体が満ちているように視えて、その液体の中に種のような、卵のような形のものが漂っている。



「この子にお願いするとね、魔法少女に変身したり結界張ってくれたり、あと魔法使うのを手伝ってくれたりするの!」



 それはかなり秘匿しておかなければならない情報なんじゃないのか。


 だが、それより――



「この子、ね……」


「えっ?」


「いや、なんでもない」



 今はそのことはいいか。



「要は変身アイテムってことでいいのか?」


「うん、そうだよっ」


「それがあるおかげで魔法少女に変身することが出来るし、魔法も使える、と?」


「うん。だからとっても大切なのっ」



 つまり、それがないと――



……こいつ大丈夫か?



 質問をしたのは俺だが、それを聞かれるがままにこんな場所で大声でベラベラと喋って。



 万が一、例の悪の幹部とやらに知られたら大変なことになるとは考えないのか?



 まぁ、それは俺にはどうでもいいか。



「そんなわけでニンゲン。オマエはここに近寄れないはずだし、なんかの間違いで近づいてしまっても弾かれて結界の中には入れないはずだったんス。だからおかしいんッス」


「弾かれる……ね。ふむ、そういえば――」


「ん?」


「そこの角を曲がってこの広場に入る時、なにか静電気のようなものが走った気がしたな。あれが結界か?」


「はぁっ⁉」

「えっ――⁉ だっ、だだだだだいじょうぶだったの弥堂くん⁉」



 ポンコツコンビは突然血相を変えた。



「なんだ急に。大丈夫もなにも、あの程度のことで侵入者を止められるわけがないだろう」


「あの程度って……」



 神妙そうに顔を合わせる一人と一匹に俺は眉を顰める。



「あのね? 弥堂くん。結界に触るとホントはもっとバリバリってなるはずなの」


「なんだと?」


「んとね。私、前にね、魔法の練習しようと思って山の中に入ったことがあったんだけど……」



 お前は格闘家か。



「練習が終わって帰る時にね、気が付いたら野良犬さんがいっぱい周りを囲んでて……」


「…………」


「それで、お腹すいてたのかな? すごい興奮してて。私おいしくないよって言ったんだけど、わかってもらえなくて……」


「…………」



 それでわかってもらえたら、魔法少女に遭遇するよりも衝撃的な話だな。



「みんなでワーッて飛び掛かってきたから、私恐くてつい結界張って隠れちゃったの」


「……それで?」


「うん。野良犬さんたち結界にぶつかっちゃったんだけど、その時すっごいバリバリバリってなって。みんなキャンキャン鳴いて逃げちゃったの」


「それはかわいそうだな」


「うん……悪いことしちゃったなって思ってて。私謝りに行こうかなって思うんだけど食べられちゃうかもしれないし……」


「……保健所に連絡しとけ」



 野犬の群れに謝罪しに行く馬鹿がどこにいる。ここか。



 それにしても、別空間を創ってそっちに逃げているのに、コピー元の現実の世界の結界で指定した範囲にも入れなくなるのか? なんのために?


 俺にはまるで意味が解らない。



「話を戻すッスけど、つーわけでニンゲン、オマエおかしいッス。なにかやったんじゃないッスか?」


「そう言われてもな。特には何もしていないぞ」



 猫風情が懐疑的な目でジロジロと見てくるが、これに関しては本当に何かをした覚えがないので、俺としても他に答えようがない。



「私としては弥堂くんがケガしなかったんならそれでよかったんだけど……ゴメンね、弥堂くん」


「謝るくらいなら危険物を街中に設置するな。ところで、例え害獣相手だったとしても罠を設置するには特別な許可が必要なのを知っているか?」


「えっ⁉ そうなの⁉」


「あぁ。つまりお前は罪を犯した可能性がある。この犯罪者め」


「犯罪者っ⁉ どっ、どどどどどどうしようメロちゃ――」


「――あっ! わかったッス!」



 何を思いついたのか知らんが、突然猫が大きな声をあげる。



「ハハァーン。ピンっときちゃったッスよぉー。見てくれッス、このシッポの立ち具合」


「わ。すごい。ピンってなってる!」


「……おい、言いたいことがあるならさっさと言え」



 緊張感というものを一切持ち合わせないポンコツコンビに俺は半眼になるが、ヤツは何故かしたり顏だ。


 冴えた推理を閃いた探偵のように下顎に肉球をあててほくそ笑む。



「それッス。そういうとこッスよ、ニンゲン」


「……どれだ?」


「ニンゲン。オマエ空気読めないってよく言われないッスか? そのへんどうなんスか、マナ?」


「えっ⁉ それは……えっと…………その……」



 水無瀬は気まずげに目をキョロキョロとさせて口ごもった。


 ナメてんのか。



「ふふん。皆まで言うなッス。どういうことかというとッスね。結界で『こっち来ちゃダメだよー』って空気を出してんのに、オマエ空気読めないからそれに気付かなかったんス!」


「ハッ――そ、そうだったんだ……」


「おまけに! ニンゲン、オマエ顔面の筋肉超硬そうっスね? クッソ無表情だし。つまり常軌を逸した顔面のマッスルパワーで結界をぶち破ってきたってことッス!」


「な、なるほど……さすがメロちゃん……」



 やはり馬鹿に発言の機会など与えるべきではないなと考えつつ、何故か感心したように納得の姿勢を見せる水無瀬へとりあえずジロリとした眼をくれてやった。


 水無瀬はサッと目を逸らし「ごめんなさい……」と口にした。



 こいつらわざとやってんじゃねーだろうな。



「……仮に、百歩譲ってお前の言うとおりだったとして。その程度のことで破られるような結界とやらは役に立っているのか? やっぱりこいつはボンクラなんじゃないのか?」


「はぅあっ⁉」

「なにをーーーッス!」



 俺の言葉に水無瀬は痛いところを突かれたといった顏をし、猫は憤慨した。



「テメー! ニンゲンこのやろう! またマナをバカにしたなーっ! ナメんなー! ステラ・フィオーレをナメんなーーっ!」


「ステラ・フィオーレ……?」



 また新規に登場した知らない単語に眉を寄せると、水無瀬がその疑問に答える。



「あのね、魔法少女の時の名前なの! 『魔法少女ステラ・フィオーレ』なんだよ!」


「……そうか」



 ステラ・フィオーレ……stella fiore……? イタリア語か?



「星とお花なの! 世界中をね、お花でいっぱいにしてみんなが笑顔になってくれたらいいなって思ったの!」



 俺は反射的に手が出た。



 パシンっと水無瀬の頭を引っ叩く。



「あいたぁーーーーっ⁉ な、なんでぶつのぉ……?」


「すまない。雰囲気だ。許せ」


「このやろーっ! 雰囲気で暴力奮うんじゃねーッスよ!」



 頭を抑えて目を潤ませる水無瀬にとりあえず謝ってやる。今のは本当に手を出すつもりがなかったからだ。


 いい歳して何抜かしてんだという思いが先に行動に出てしまったのは、俺の過失に他ならない。



 ただ、一生懸命に舌の回転をあげて『魔法少女ステラ・フィオーレ』について語る水無瀬の姿が、好きなアニメ作品などについて語る際の廻夜部長の様子と重なり、何故か無性に腹が立ったのだ。


 しかし、それは決して普段から俺が廻夜部長を引っ叩きたいと考えているという意味ではない。




 それにしても――



 ボンクラどもを眼に映す。



 こいつら登場したと思ったら一気に情報をぶちまけたな。



 もしもこれがアニメシリーズの第一話だったとしたら、あと数話しかもたないだろう。


 とても1クールはやれない。



 もちろん現実とアニメは違うのだが。



 しかしそれでも、まぁ、現実で戦う彼女らもこの調子ではそう長く生き残ることは出来ないだろう。


 数日後にこのへんの路地裏でこいつらの死体を見かけたとしても何も不思議ではないので、俺は一切驚かない。



 どうせすぐに死ぬだろうから、あまりこいつらに神経質になる必要などないのではないのかと、馬鹿々々しくなってくる。



「おいニンゲン! 今度はオマエの番だぞ!」


「……あ?」


「今ジブンらが質問したッスから、次はニンゲンの番っス!」



 勝手にルール化すんじゃねーよ。



 3つ目の質問か、と思考を切り替えようとするとその前に水無瀬が口を開いた。



「メロちゃん。あのね?」


「ん? なんッスか、マナ? 今日の晩飯はサーモンッスよ?」


「え? ほんとに? 私お魚大好きっ」


「……お前らはボケ老人なのか? 三回目だぞ」



 当然の指摘をしてやったはずなのだが、ヤツらは揃って俺の方へ不思議そうな瞳を向け、ぱちぱちと瞬きをした。



……ダメだ。俺の方が頭がおかしくなりそうだ。



「……なんでもない。猫に話があるんじゃないのか?」


「あっ、そうだ! あのね、メロちゃん? 弥堂くんのことをニンゲンなんて言っちゃダメだよ?」


「ん? ニンゲンはニンゲンじゃないッスか? なにかヘンッスか?」


「メロちゃんだって『ネコ』って呼ばれたくないでしょ? ちゃんと弥堂くんって呼んであげようよ」



 またどうでもいいことを……。



「――でも、マナ。そうは言うッスがね。こんなしょうもないヤツはニンゲンで十分ッスよ」


「なんでそんなこと言うの? 弥堂くんがかわいそうだよっ。ちゃんとお名前で呼び合ってお友達になろ?」


「猫ごときと友達になるほど落ちぶれたつもりはない」


「ほらっ! ほらっ! 聞いたッスか、マナ? こいつも猫って言ったッスよ!」


「び、弥堂くんもメロちゃんと仲良くしてあげて?」


「ジブンはイヤッスね! こんな人間味のないヤツは! ロボット掃除機とかの方がまだ人間味が感じられるッス! あいつらとはわかりあえるかもしれないけど、コイツとは無理っスね! ワンチャンこいつ人間じゃないんじゃないかとすら思えるッス!」


「人間でないものをニンゲンと呼ぶのはおかしくないのか?」


「はぁー? …………あっ! ホントだ! 確かにそうッスね! わかったッス、ニンゲンと呼ぶのはやめてやるッス!」


「わぁ。ありがとーメロちゃん!」



 酷い茶番だと頭痛を感じる。



「えへへ、お話の邪魔してゴメンね? じゃあ、弥堂くんどうぞ?」


「…………あぁ」



 手を差し出して順番を譲ってくる水無瀬にまた反射的に手が出そうになるが、今回はどうにか抑えることに成功した。



「オマエの質問は3つだろ? 次で3つ目っスね。そしたらまたウチらの番っスよ」


「そういえば、そうだったな」



 うるせーんだよ。さすがにもう帰るわ。



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