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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章07 昼想夜夢 ②

 親子が退場し周囲に人が居なくなると――



「オイィッ! 少年ッ! オマエなにやってんッスか⁉」



――すかさずメロが弥堂に抗議をする。



 弥堂は足元でニャーニャー鳴くネコさんをジッと見下ろした。



「なんだよ」


「なんだよじゃねェッス! マナを下ろしてやれって!」


「あ?」



 何を大袈裟に騒いでいるのだと頭上を見上げる。


 そこではバッテンお目めの愛苗ちゃんが「むーむーっ」唸りながら必死に木の枝にぶら下がっていた。



「…………」



 弥堂は自身の守るべき少女の苦しむ姿をボーっと見て――



「――もう少し堪えろ」


「オマエなに言ってんの⁉」



 まさかの非情な命令に、飼い主さんに変わってネコさんがビックリする。



「こいつは少々フィジカルが足りない。いい機会だ。このまま鍛える」


「入院患者さんなんだが⁉」


「もう元気だろ」



 自身が押し付けた設定を無視した発言をしていると――



「コ、コラーっ! なにやってるの⁉」



――ギャルナースのリンカさんが血相を変えて走って来た。



「愛苗ちゃんになにさせてるのよ!」


「我が家のことに口出ししないでもらおう」


「バカなこと言ってないで早く下ろしてあげなさい! ていうか、これホントになにやってんの⁉」



 女にギャーギャーと怒鳴られて弥堂はムッとする。


 その時――



「も、もう、むりぃ……っ」



 ついに限界を迎えた愛苗の手から力が抜ける。


 彼女はそのまま真下に居た弥堂の方へと落下した。



「きゃぁーーっ⁉」



 弥堂の背中にドンっとぶつかって、バランスを崩した弥堂が目の前のギャルナースさんにドンっとぶつかる。


 悲鳴は突然押し倒される形になったリンカさんのものだ。


 3人はもつれるようにして転倒した。



「お、おぉ……、こ、これは……ッ⁉」



 思わずネコさんの口から感嘆の声が漏れる。



 愛苗に背中に乗っかられた弥堂は、尻もちをついたリンカさんのスカートの中に顔面をつっこんでいた。



「な、なんてお手本のようなラッキースケベ……ッ! これが勇者の真の力だというんッスか……⁉」



 ネコ妖精界では勇者はどういう認知のされ方をしているのか。


 メロは戦慄の眼差しで痴態を見つめる。


 当然サキュバス的にはポイントが高い。



「イヤァーーッ! 誰かァーーッ!」



 しかし被害者本人はそうはいかない。


 公衆の面前で白昼堂々と押し倒してきた野卑な男が股に顔を突っ込んできたことで、ギャルナースさんはガチめの悲鳴をあげた。


 これ以上の侵入を許さないという思いから反射的に脚をギュッと締め、弥堂のほっぺは小麦色の健康的な太ももにムギュっとされる。



 そんな弥堂の背中の上で――


 か弱き民の悲鳴に反応してハッとしたのは正義の魔法少女である愛苗ちゃんだ。



 慌てて周囲を確認するとなんということであろうか――


 尻もちをついて脚をガン開きしたリンカさんのおパンツが丸見えだ。



「た、たいへん……っ!」



 愛苗ちゃんは急いでリンカさんのスカートを引っ張って金色のテカテカを隠してあげる。弥堂の頭部ごと。


 病院という現場で正直これはどうなんだろうといった感じのピッチリタイトなミニスカナース服の中に、弥堂の顔面は封印されてしまった。


 ちなみに本日のリンカさんはストッキングを穿いていない。


 弥堂が見舞いに来る日にストッキングを着用していると高確率で破かれるからだ。



「い、いやあぁぁぁ……っ!」


「あれ?」



 お助けしたはずが、リンカさんの悲鳴が余計に騒がしくなり、愛苗ちゃんは弥堂の背中に乗ったまま不思議そうに首を傾げる。


 どうしようと少しだけ考えると、彼女の頭の上でピコーンっと電球のエフェクトが現れた。


 もっとちゃんと隠してあげなきゃと、愛苗は握力15㎏のフルパワーでギュッとスカートを抑えつける。


 そのスカートの下にあるのは弥堂の後頭部だ。


 弥堂の鼻先が秘密の谷間に押し込まれる。



「――ん……っ、んんぅ……っ⁉ そ、そんなに押し付けてこないでよ……ッ!」


「ごごごごめんなさぁーい!」



 リンカさんがギャーギャー喚くと愛苗ちゃんもワーワーとなり、言葉とは逆により強く弥堂の頭を押してしまう。


 すると、いい加減に呼吸が苦しくなってきた弥堂が、拘束から逃れようとリンカさんの脚に手をかけた。



「キャ、キャーーッ⁉ いやぁ!」



 無遠慮に太ももを鷲摑みにし、股を開こうとしてくるその行為にさらなる悲鳴があがる。


 彼女の脚により強く力がこもった。



 そうやって少しの間、無理矢理女性の股を開かせようとする男と、それに抵抗して脚を締めようとする女の攻防が続き――



「――だ、だれか来てぇ……ッ! 痴漢よぉ……ッ!」



――ついにリンカさんが助けを求める。


 そんな時、ピピィーっとけたたましいホイッスルの音が鳴った。


 その直後――



「――ウォラァ……ッ! 全員動くなァ……ッ!」



 ガラの悪い怒鳴り声とともに現れたのは、見た目だけ刑事風のトレンチコートを着た警官――山元巡査長だった。



「警察じゃァ! こないな場所で白昼堂々と痴漢たァふてェヤロウだッ! ワシら警察にケンカ売っとんのじゃろ⁉ 手続きぶっ飛ばして直通でムショにぶちこん……、って! オドレこらぁ! 狂犬やんけワレェ!」



 介入者に驚いたリンカさんの脚の力が緩まったことで、ちょうどスカートの中からグポっと顔を引き抜いた弥堂に山さんがすぐに気が付いた。



「む……? 山さんか」



 顔見知りの警官とこの病院で顔を合わせたことで、弥堂はスッと眼を細める。


 女性のスカートの中から顔を出した弥堂に、山さんも似たような目をした。



「おい、あんた何でこんなとこに居る?」


「こっちの台詞じゃボケェ。オマエどっから出てきとんのじゃ?」


「いいから質問に答えろ」


「え? 痴漢の現行犯のクセに何でオマエが尋問しとるん? ま、ええわ。なんでもなにも、ここはワシの警邏範囲じゃあ」


「なんだと?」



 四つん這いになり女性の脚の間に侵入した状態で顔だけ振り向かせた弥堂の眼つきが剣呑なものになる。



「嘘を吐くな。そんなわけがない」


「オマエにそんなこと言われる筋合いはないわ」


「黙れ。貴様、どういうつもりだ」


「じゃかましいわ! オマエこそどういうつもりや? ついこないだも同じことしたばっかりじゃろが!」


「あ?」



 唾を飛ばして怒鳴る警官に弥堂は怪訝な顔になる。



「なんのことだ?」


「とぼけんなやドカスがァ! オンドレついこないだ駅前で痴漢して通報されたばっかやろがい!」


「痴漢だと? 言いがかりはやめてもらおうか」



 両手でリンカさんの太ももを鷲摑みにして脚を開かせている状態で、弥堂はキッパリと容疑を否認した。


 言い逃れのしようのないほどの現行犯の分際でまだ冤罪を主張する底辺犯罪者のその態度に、正義の警官は怒りを燃やす。



「語るに落ちとるわクズめ。お嬢さん、どうか署に同行して被害届を出してもらえませんかの? こないなクズはシャバに出しておいたらアカンのですわ」



 山さんは被害者女性の方を向くと、真摯な眼差しでそう言った。



 しかしその目線はリンカさんの顔ではなく、尻もちをついて股を広げたままのスカートの中の金色に向いている。


 弥堂が太ももを掴んでいるせいで足を閉じられないのだ。



「イヤァー! ヘンタイ……ッ!」



 自分のスカートの中に向かって聴取をしてくる警官に、リンカさんは悲鳴をあげた。


 山さんはその言い様にムッとする。



「なんでや! ワシはお巡りさんじゃろが!」


「キャー! 警官のコスプレした変態ッ!」


「なんっじゃウォラァッ! コスプレはオドレやろが! だいたいなんや? ピンサロのコスプレデーみたいなけったいな恰好しくさってからに」


「仕方ないでしょ! 院長の趣味なのよ!」


「チ、うるせえのう。いい歳こいてちょっとスカートが捲れたくらいでピーピー喚くなや。後藤のオバハン見てみぃ。乳首浮いたまんま夕飯の買い物しとるぞ」


「イヤアァァァッ! 誰かぁ! 警察のフリした痴漢よぉーーッ!」



 とても警察官とは思えないことを言う山さんを変態確定と見て、リンカさんはまた大きな悲鳴をあげた。


 すると、ファンファンファンファンっとサイレンを鳴らしたパトカーが猛スピードで近づいてきて、ロータリーに横づけした。



「警察だぁ! 変態はどこだぁ⁉」



 中から出てきたのは山さんの相棒である青芝巡査だった。



「青芝ァッ! こっちやぁ!」


「山さん! と、貴様は狂犬! とうとう年貢の納め時のようだな!」


「キャァー! イヤァー!」


「ごごごごごめんなさぁーい!」



 それぞれが好き好きに大声で喚き、平和な病院の入口はもう滅茶苦茶だ。


 これはどうにもならないパターンだなと弥堂は溜息を吐き――



「――おい、愛苗」


「ごごご――え? なぁに? ユウくん」



 弥堂は愛苗に声をかけた。



「とりあえず、うるさいからその女を黙らせろ」


「リンカさん? どうすればいいかなあ?」


「いいからまず落ち着かせろ」



 弥堂は自分にも出来ないことを愛苗ちゃんに無茶ぶりする。


 弥堂の背中からようやく「ぅんしょ」と降りてくれた彼女は小首を傾げて少しだけ考え――



「リンカさんよしよし」



 とりあえずギュッとリンカさんの頭を抱きしめて自分のお胸に押し付けるとナデナデしてあげた。



「ま、愛苗ちゃん……! 痴漢よ! 早く逃げて……」


「いいこいいこー……」


「い、今はそんなばあい……、じゃ……、ま、ママぁ……」



 するとすぐにリンカさんのお目めはトロンとなる。


 そのまま愛苗に抱きしめられながら「いいこいいこ」されていると、10秒ほどでカクンと眠りに落ちてしまった。



 その不思議な現象をボーっと見ながら弥堂も少しだけ何かを考えて――



「――ち、いいだろう」


「あ?」



 徐に立ち上がると、山さんにそう声をかけた。



「行くぞ」



 多くは説明せずに、弥堂はパトカーの方へと歩き出す。


 そして勝手にドアを開けると後部座席にドカっと腰を下ろした。



「おい、出せ――」



 そう命じると、警官コンビは怪訝な顔になる。



「どういう風の吹きまわしじゃ?」


「さっさと連れて行け。署だかムショだか知らんが、行ってやる」


「ハッ――後悔させたるわクソガキが」



 不遜な態度をとる犯罪者に山さんも不敵に笑いかける。


 そして自らも後部座席に乗り込むと、素早く弥堂に手錠をかけた。



 弥堂は手首に嵌められた手枷を見下ろし「ふん」とつまらなそうに鼻を鳴らすと、運転席のヘッドレストを靴底で蹴りつける。


 運転席の青芝巡査はムッとしてバックミラー越しに弥堂を睨みつけ、力一杯にアクセルを踏みつけた。



 あっという間に弥堂を乗せたパトカーは病院から出て行ってしまう。


 周囲の野次馬たちはわけのわからない状況にキョトンとした顔をしており、そして残されたネコさんは呆然としていた。


 ちなみにリンカさんを寝かしつけた愛苗ちゃんは一緒に芝生の上でお昼寝をしている。



「タ、タイヘンッス……!」



 メロの口から思わず人語が漏れる。



「つ、ついに……ッ」



 勇者逮捕!


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