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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
3章 俺は普通の高校生なので、帰還勇者なんて知らない
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3章02 5月7日 ⑥


「産ませてよ!」


「うるさい黙れ」



 弥堂と白井さんの言い争いから聴こえてくる言葉に、周囲の人々は自分たちは何か大きな勘違いをしていたのではと気が付く。


 そして緊急会議を開いた。



「お、おい、これって……」

「あ、あぁ……。これから作るって話じゃなくてよ……」

「堕ろせって、意味……よね?」

「マジサイテー……」



 人々は全方位から軽蔑とドン引きの視線を弥堂へ向ける。


 そんな中、二人は尚も醜い言い争いを続けていた。



「イヤよ! 私は絶対に産むわ! 紅月クンの子供を……っ!」


「黙れ。この役立たずが」



 そしてまたも状況を引っ繰り返すような言葉が飛び出し、生徒さんたちはいっそう激しく動揺をする。



「え……⁉ ど、どういうこと……⁉」

「ね、ねぇ、これってさ……」

「托卵……、ってやつ……?」

「な、なんだそれ?」

「だからー、お腹の子供ごと女を他の男に押し付けてバックレるやつよ」

「は? う、うそだろ……?」

「人間のすることじゃあねえぜ……」

「ねぇ? 大人のひと呼んできた方がいいんじゃない?」



 余りに残酷で非人道的な弥堂の所業に野次馬たちは戦慄した。


 そして事態を把握するため、大急ぎでさらなる意見を交換する。



「いい? つまりよ? あのクズ男は――」



 やがて、仕切りたがりの一人の女子生徒がまとめを開始した。



「七海と付き合ってたのに、紅月くんの妹の望莱ちゃんと浮気して、さらに全然別の女を孕ませていた挙句、その女を紅月くんに押し付けて子供の責任までとらせようとしている――ってことでいいわよね?」



 周囲の人々は青褪めた顔で頷く。



「つ、つかよ? 結局希咲とはどうなんだ?」

「それはアレよ。手を着けた他の女全部捨てて、七海とだけ付き合うってことでしょ?」

「う、うそだろ?」

「つーか、案外希咲がそうしろって唆してたり……」

「ねー? 少なくとも無関係じゃないよねー?」

「このままじゃ大変……っ! みんなに教えて紅月くんを守らなきゃ……!」

「ワタシもうDM送りまくってるー」

「オ、オレもケンカ強い先輩たちに声かけてみるわ」

「おぉ……! いくらなんでもこんなの許せねえよ……!」



 生徒たちはそれぞれスマホを手に取り、関係各所への伝達を始める。


 久しぶりに登校をしたと思ったら、弥堂は早速とんでもない大誤解を発生させ、それは瞬く間に大事件として拡散されていった。


 もちろん今回も七海ちゃんはキッチリととばっちりを受けている。



 生徒たちは義憤を燃やし、弥堂を糾弾した。



「ちょっと! その子に謝りなさいよ!」

「責任とれクズ!」

「認知してよ!」

「やっていいことと悪いことがわかんねえのか!」



 次々に罵声が飛ぶと、我が意を得たりと白井さんも勢いづく。



「どうやら民意は私にあるようね! さぁ弥堂クン。覚悟を決めて責任をとるのよ!」



 しかし、世間のご意見などこの男には通用しない。


 ガキどものうるさい声に弥堂は逆ギレをした。



「うるさい、くたばれ――」


「――はぅ……っ」



 弥堂は白井さんの胸倉を掴んで引き寄せると、実に慣れた手際で彼女の首筋に手刀をトンして一瞬で昏倒させる。


 首をカクっとさせて気を失った彼女が弥堂にもたれかかると、野次馬たちの罵声はスンっと止んだ。


 そんなの漫画でしか見たことないと、人々は妊婦(仮)へのシンプルな暴力にドン引きした。



 弥堂はそんな民衆をジロリと睥睨する。


 彼の視線は主に女生徒たちに向いていた。



「おい、この中に3日以内に出産が可能な女はいるか? この際誰の子でもいい。既に妊娠している者はいないか? 今なら金持ちの女にしてやるぞ」



 ジロジロと女生徒たちの下腹部を物色する男に、野次馬たちはジリっと後退る。



「聴こえないのか? 孕みたい女は一歩前に出ろ――」



 弥堂が一際強く睨みつけると――



「――イヤアァァーーッ! へんたーい!」

「孕まされちゃうぅぅーっ!」

「ママになるのはイヤァーーッ!」



 女生徒たちは悲鳴を上げながら一斉に逃げ出した。


 男子生徒たちも殿を努めつつこの場から撤退していく。



「ち、ロクな女がいねえな」



 弥堂は毒づく。


 しかし、彼も期待はしていなかったようで、深追いはしない。


 気を失った白井さんをとりあえず横抱きにして持ち上げ、周囲を見渡した。


 処理する場所を探しているのだ。



 面倒だからその辺の茂みにでも投げ捨てようかと考えたところで――



「――オォーーイッ! ビトーくぅーーんッ!」


「む?」



 逃げる群衆の間を縫ってこちらへ来る者がまた現れた。


 今度は数人の男子生徒のようだ。


 弥堂がそちらを向くと――



「ビトーくーん!」


「あぁ、モっちゃんか」



 次に現れたのは弥堂の自称舎弟をしている不良グループだった。


 彼らは弥堂の方にタッタッタッと駆けてくる。



「なんだ? 見ての通り俺は今忙しい」


「え? いや、見かけたから声かけただけなんだけどよ」

「ビトーくん! 久しぶり!」

「ッス!」

「チャーッス!」



 彼らは人懐っこい笑みを浮かべながら弥堂の目の前で立ち止まった。


 そのうちの一人が堰を切ったように喋り出す。



「オレらー帰んべって話しててよー! そしたらなんか騒ぎが起きてんべ? コイツらモっちゃんにアイサツもしねーで上等かよってオレぁぶちギレそうになってよ! マジ上等だからさ! そしたらビトーくんがいてよ! マジハンパねーなって!」


「あ? あぁ……、よくわからんが元気そうだなサトルくん」


「へへッ」



 照れ臭そうに鼻の下を擦るサトルくんを適当にあしらい、弥堂は彼らのリーダーであるモっちゃんの方を向いた。



「こいつなんて言ってるんだ?」


「ん? ビトーくんが無事でよかったってことだよ」


「無事? どういう意味だ?」



 彼の言っていることが弥堂には何一つわからない。


 知能レベルが違う者同士では会話が成立しないとよく聞くがこういうことなのかと、弥堂はヤンキーという劣等種を憐れんだ。



「もしかしたらビトーくんも捕まってんじゃねェーかって、オレら心配してたんだよ! ガッコ来れててよかったぜ!」



 しかし、続いた彼の言葉に弥堂は一瞬で眼つきを険しくした。



「……それはどういう意味で言ってるんだ?」



 まさかこの連休中に弥堂が関わっていた事件について知っているのではと疑いを持つが――



「いや、実はよ。前にホムセンでバイク貸しただろ?」


「あ? そういえばそんなこともあったな」


「オレらあの件でサツにパクられてたんだよ!」


「なに?」



 彼らの身にそんなことが起きていたとは知らず、弥堂は思わず目を大きく開く。



「なんかあの日ヤベーこと起きたじゃん? そんで港が特にヤバかったらしいんだけどよ。マッポのヤロー、その件でなんかゴチャゴチャ言ってきやがって……」


「他のお前らも捕まったのか?」


「オォ! マッポのヤローマジでムカつくぜ! よくわかんねェけど、オレら疑ってるみてェでよ!」



 サトルくんがチャリチェーンをヒュンヒュンさせながら、国家権力に対する怒りを露わにする。


 どうやら他の2人も同様のようだ。


 弥堂は再びモっちゃんの方を見る。



「オレら捕まったのはまとめてなんだけど、全員別々の部屋に何日も閉じ込められてよ。ずっと取り調べみてェなのされてたんだ」


「……他にはなにか言われなかったか?」



 何故彼らのようなチンケな不良をわざわざと、弥堂は疑問を持つ。


 モっちゃんが一つ頷き、声を潜めて答えた。



「どうもよ……、アイツらビトーくんのこと探ってたみてェなんだ」


「へぇ?」


「港のことと、オレらがバイク渡したヤツのことをしつこく聞いてきてよ」


「なるほどな……」



 あの日は港で魔法少女と悪魔の大決戦があった日だ。


 街にもグールが溢れていた。


 とすると、相手は警察は警察でもおそらく清祓課だ。


 当たり前のことだが、彼らもあの事件の原因をしっかりと追っていたようである。



(それにしても……)



 弥堂はあの日港に向かう道すがら、道中のホームセンターで偶然モっちゃんたちに会い、彼らからバイクを徴収したのだった。


 多分その件を掴まれていたに違いない。


 そしてあの件の重要参考人として、弥堂が察知するよりも前から弥堂のことを探っていたようだ。



(流石にやるじゃないか、佐藤め)



 あの役人にはやはり油断は出来ないと、弥堂は佐藤の評価を脳内で上げる。


 佐藤の態度からすると、探偵事務所で弥堂と初めて会った時には既にこちらのことをある程度わかっている様子だった。


 モっちゃんたちから情報をとって、目を付けられていたのだろうと納得をした。


 そう考えると前回のアムリタ事件が本当に綱渡りだったのだと改めて思う。



 しかし、それらはすでに解決した。


 解決というよりは暗黙の了解が成立したというべきか。



「そうか。それは運がなかったな」


「ヘヘ、まぁな。昨日やっと帰してくれたんだよ」


「昨日、ね……」



 そうでなければモっちゃんたちを解放するはずがない。


 弥堂と佐藤との間で取引が成立したから、彼らは用済みになったと考えるべきだ。


 弥堂自身も港の件での聴取は後日に受けることになるかもしれないが、容疑者として捕まることはしばらくはないだろう。



「つまり、お前らがゲロったせいで俺もパクられたんじゃないかと心配したという話か」



 弥堂はそのように整理した。


 しかし――



「ん? なに言ってんだ?」


「あ?」



 彼らはキョトンとした顔をした。


 お互いに顔を見合わせてニッと笑う。



「オレらがビトーくんのこと売るわけねェーだろ?」

「アッタボーよ!」

「誰一人ビトーくんの名前出してねーぜ!」

「むしろ絶対言わねーって意地になったもんな!」



 彼らは口々にそう言って互いに拳を打ち合わせた。



「……バカかよ」


「あん?」



 弥堂がボソっと呟くと聴こえなかったようで彼らは首を傾げる。



「何も言っていない。それより――」


「うん?」



 弥堂は横抱きにしていた白井さんをモっちゃんの方に差し出す。


 彼らはさらに首を傾げた。



「えっと……? これは?」


「これは女だ」


「おんな……」


「やる」


「え――ッ⁉」



 女をやると言われて、彼らはビックリ仰天する。


 しかもこの女子は気を失っているようだ。


 この女子生徒自身の意思と人権は一体どうなっているのだろう。


 経験したことのない状況に彼らの理解は追いつかない。



「も……、もしかしてこの女子攫ってきたのか?」


「いや、そこに落ちてた」


「お、落ちてた……? サ、サトル、女子ってそのへんに落ちてるモンなのか?」

「ワ、ワリィ、モっちゃん……、オレ馬鹿だからわっかんねーんだわ……」


「とにかく受け取れ。褒美だ」


「ホウビって言われても、こんなのどうすりゃいいんだよ?」


「好きにしろ。その女は妊娠したいんだそうだ」


「え――っ⁉」



 適当なことを吹き込んで彼らに白井さんを押し付ける。


 すると、弥堂の制服の袖が捲れて腕時計が露わになった。


 サトルくんがそれに目敏く気が付く。



「うおぉー! ビトーくんカッケーなその時計!」


「あ?」



 弥堂の腕に巻かれていた時計は以前まで使っていた物ではない。



「なんかスッゲー高そうだぜ! イカチィし! モっちゃん見てくれよ!」


「ん? おぉ! シビィな!」



 それは高級感たっぷりの時計だった。


 しかもどこかガラの悪い高級感で、そのスジの方々に人気のありそうな意匠だ。当然その予備軍であるヤンキーたちからの評価も高い。



「あぁ、これか……」



 弥堂は腕時計を外しながら頷き、そしてそれを白井さんを横抱きにするモっちゃんの腕に巻いてやった。



「これもやるよ」


「えっ⁉」



 当然モっちゃんは驚く。



「こ、これバカ高いんじゃねェのか?」


「まぁ、高いだろうな」


「モ、モっちゃん、もしかしてこの光ってる石ってダイヤなんじゃ……⁉」



 弥堂は実際の値段を知らないが、それは数百万円ほどする時計だ。


 これの元の持ち主は皐月組の若頭である山南だ。


 昨日の“名前の無いBAR”で傭兵たちが飲み比べ勝負を始めたので、その際に若頭と誰が勝つか賭けをしたのだ。


 結果は弥堂の勝ちで、若頭は気前も潔もよく自身の腕に巻いていたこの高級腕時計をポンっと弥堂に渡した。



「どどどど、どうしよう……っ⁉」



 そんな経緯も実際の価値もわからないが、高額であることは一目でわかるのでモっちゃんは目を泳がせる。


 弥堂はどうでもよさそうに肩を竦めた。



「どうするも何も、時計なんだから時間を見ろよ。だが、まぁ、売って金に換えても構わんぞ」


「え……?」


「質屋にでも持っていけばいい金になる。その金でバイクでも買えばどうだ?」


「た、単車買えるくらい高いのか……?」


「さぁ? 興味がないから詳しい値段は聞いていないが、多分この間借りたバイクなら人数分買えるんじゃないか?」


「マ、マジかよ……⁉ エグいな……」



 想像していた以上の価値にヤンキーたちは震える。



「そういやあの単車どうしたんだ?」



 少し気を落ち着かせるために、モっちゃんは話題を逸らした。



「あ? あれなら偶然会った知らないオジさんにあげちまった」


「え⁉」


「悪いな」


「い、いや、実はサツに捕まってる時に聞いたんだけどよ。あの単車盗品だったらしいんだ。解体屋のクソオヤジ、とんでもねえモン掴ませやがって……」



 そのバイクの盗難の捜査という体で彼らは最初に捕まった。


 そして余罪の追及をするフリをして弥堂のことを探られていたのだった。


 彼らが解放されたのは弥堂と清祓課の関係が出来たことが理由でもあるが、それだけではない。



 先月のゾンビ事件の際に、モっちゃんたちはホームセンターの駐車場で弥堂にバイクの受け渡しをした場面が監視カメラの映像に残っていたことで、警察に目を付けられることになった。


 しかし、その同じ日に彼らが一般人を守ってゾンビと戦っていた場面も、ホームセンター内の防犯カメラに残っていたのである。


 なので、最終的に彼らの無実が晴れたのは、彼ら自身の善行のおかげでもあった。



「それは運がなかったな。だが、俺がお前に借りたモンを失くしちまったのは事実だ。その時計はその埋め合わせだ。それで手打ちにしろ。問題は?」


「問題って……、チャラどころか倍返し以上じゃんか……。ホントにこんなの貰ってもいいのか?」


「あぁ。俺はそういうモノに興味がない。後は好きにしろ」


「ヘヘ……ッ! サンキュー!」

「やったぜモっちゃん! 全員の単車が揃えばオレらもついに“暴走族(チーム)”として公道デビュー出来るぜ!」


「新美景の南口の裏路地に質屋がある。あそこなら飛び込みで持っていってもすぐに買い取ってくれるだろう」


「オォ! わかったぜ!」



 燥ぐヤンキーたちに弥堂は売る場所まで教えてやる。


 ちなみにその店は弥堂もよく利用する盗品の買取も可能な裏の店だ。



 さらにちなみに、この時計はパッと見は既製品と変わらないが、ほんの一部にオーダーメイドでオリジナルの意匠を施しており、見る人が見れば誰のモノなのかがわかるようになっている。


 その“わかる人”とは主に“そのスジの方々”だ。



 モっちゃんたちがこの時計をどうしようが、弥堂も若頭も特に何も咎めはしない。


 だが詳しい経緯を知らない皐月組の構成員や関係者が、この時計を貧相な不良少年が盗品マーケットに持ち込んだのを目撃した場合。


 その時になにが起こるかは誰にもわからない。



 そんなことも知らずに彼らは大喜びだ。


 弥堂も別に陥れるつもりで時計を渡したわけではない。


 だが確実に、警察に拘留されるイベントを終えたばかりのモっちゃんたちに、次の破滅イベントのフラグが立った。



 どんなバイクを買おうかと燥ぐ彼らを弥堂はジロリと睨む。



「おい。イロをつけて返してやったんだ。その分きっちり働けよ」


「ん? おぉ、“きょうりょく者札”を売るのと、“会員様”を増やすことだろ?」

「へへッ! 任してくれよ! オレよ、中学の後輩に無理矢理売りつけてやったぜ!」


「ふん、引き続き励め」



 弥堂はサトルくんが渡してきた新規会員様のリストをぶんどると踵を返した。



「あ、ビトーくん! この子は⁉」


「好きにしろ」



 そして彼らに白井さんの遺体を預けて正門から外に出ていく。


 不良少年たちは格の違うワルである、その男の背中を羨望の眼差しで見送った。


 それは仕事を途中で放り出して勝手に帰る者の背中だ。



 弥堂が立ち去り少しして、この場にはモっちゃんたちがポツンと残される。


 彼らは気絶した女生徒をジッと見た。



「モ、モっちゃん。どうすんべ……?」

「ど、どうするって……。どうこうしたらマズイだろ……。とりあえず保健室に預けようぜ。気絶した女子とかヤベェよ……!」

「エグすぎだよな……!」

「さすがビトーくんだぜ!」



 彼らは今どき珍しい硬派なタイプの不良だ。


 基本的に女子が苦手なので、扱いに気を付けながら恐る恐る白井さんを校舎内へ運んでいく。



 彼らは本日若干の緊張と警戒心をもって学園に登校した。


 よくわからない理由で警察に捕まり一週間ほど留置所に勾留され、そして昨日よくわからないまま解放された。


 それは弥堂に関わり彼の事情に巻き込まれたからなのだが、彼らは詳しいことなどなにもわからない。



 そんな彼らにもわかることは一つある。


 それは、警察に捕まったら学園に連絡が行くということだ。


 なので、無事に解放されたものの、登校した途端に停学か退学かを言い渡されるのではないかとビクビクしていたのだ。


 しかし意外にも、お咎めなしどころか誰からも言及されることすらなかった。



 一連の事件は『霊害』というものに分類され、それは一般社会で表沙汰になることはない。


 なので佐藤から御影理事長に連絡はしても、警察から学園に公的に連絡がいくことにはならなかった。


 なんなら彼らが捕まり勾留されたという記録も一般警察内には存在しない。


 全てなかったことになっているのだ。



 そんな彼らが保健室に到着すると、生憎と部屋の主である保健医は不在だった。


 仲間内で相談し、とりあえず気絶した女子をベッドに寝かせて保健医の戻りを待つことにする。



 自らの手が決して女子の性的な部位に触れたり、スカートが捲れたりしないよう、モっちゃんが慎重な手付きで白井さんの頭部を枕に乗せたその時――


 偶然保健室の前を通りがかった生活指導の先生が、開けっぱなしのドアに気が付いて室内を覗いた。



 グッタリして意識がない様子の女子がベッドの上に寝かされ。


 そのベッドの周囲には4人の不良男子。


 その場面を発見したのは元空手部顧問の生活指導教師。



 教師と生徒は数秒ほどジッと見つめ合った。


 やがて、先生は『そういうアレ』だと判断する。



 空手黒帯の教師によって、モっちゃんたちは問答無用で生活指導室に連行された。


 弁明も虚しくコッテリと絞られた後、彼らは謹慎を申し付けられて学園から放り出される。


 生活指導の先生が被害者への聴取もしようと現場に戻ると、その間に目を醒ました白井さんは帰宅したようで保健室はもぬけの殻だった。


 急いで連絡をとろうと先生は慌てたが、どうも被害者生徒の顔と名前がパっと出てこない。



 あまりの事態で不良たちに意識の大半が向いていたのもある。


 しかし、教師として決して声に出してそう発言することは出来ないが、被害者女子はなんというか地味で印象に残らなかったのだ。


 仕方ないので、後日加害者たちを自白させることにして、先生は関係各所への報告にあたった。



 モっちゃんたちは、ホームセンターでの善行によって警察の疑惑を晴らし自由を得た。


 しかしここでは普段の素行不良によって、無罪を信じて貰えなかった。


 いいことも、わるいことも、普段の行いが影響するのだなと彼らはぼんやりと学んだ。



 だが、彼らが真に気付き学ぶべきは、弥堂 優輝という男だ。


 あれもこれも、全ては弥堂に関わったことで降りかかった不幸である。


 ちなみに生活指導の先生は以前に弥堂のせいで、熱心に顧問をしていた空手部を廃部に追い込まれている。


 大体全部弥堂のせいだ。



 翌日の職員会議でモっちゃんたち4名には、一週間の停学処分が決定されることになる。



 弥堂に関わった人間にはもれなく不幸が舞い込む。


 彼に関わるということそれ自体が、赦されざる悪業なのかもしれない。


 それは誰にとっても。


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― 新着の感想 ―
うそっ……そんな……モっちゃん!サトル!あなたたち……あなたたちがこんなところで倒れるなんて! ……と、本題に戻りましょう。白井の計画はこうして失敗に終わったのでしょうか?これまでの展開からすると……
聖人くんかわいそうw まだ何もしてないのにすでに変な噂に巻き込まれた
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