2章裏 La Bestia #EX➀
「――はぁ~い、目つぶってねー」
頭から血が垂れてるスタッフさんの顔に、ポーションアトマイザーからプシュー。
すると、見る見るうちにケガが治る。
足を撃たれてた人の太ももには、瓶からドボドボっとかけて念のため大目に。
うん。こっちも問題なく治った。
これの中身は自家製回復ポーションの一種。
ちょっと前に教室で愛苗のほっぺにその……、あたしのブラのワイヤーでゴリってやっちゃった時に使ったのと同じやつね。
最初からケガ人の治療も考慮に入れてたらもっと作ってきたのになぁ。
でも、素材がなぁ。
考えても仕方ないので切り替える。
スタッフさんたちはこの怪奇現象について何か聞きたそう。
でも、あたしは“弥堂式ゴリ押し術”でスーン。
「――さ、いこっか」
「行く……? あの、どこに――あ、その前に、助けていただいてありがとうございます」
「んーん」
そういや自己紹介みたいなのしてなかった。
「ボクはみなさんの救助のために日本の警察の雇われたエージェント的な?」
「は、はぁ……」
「別の場所でもう救助した人たちを下で待たせてるから、急いで合流しましょ?」
「わ、わかりました……!」
この人たちも聞き分けよくて助かる。
ということで早速移動開始。
「他にどっか痛むとこあったら言ってくださいねー?」
そう声をかけながらMAPを確認。
スタッフさんたちはだいじょぶみたい。
つーか――
マズイわね。
上の階に上がってきてるヤツが増えてる。
まさか1Fの“G.H.O.S.T”ってやられちゃったの?
1FのMAPを見てみる。
さっきと比べて、多分“G.H.O.S.T”の方が減って、テロリスト側が増えてる?
ってことは、外の清祓課が突破されてるってことか。
多分こっちが不利な感じよね?
つか、このまま進むとこのフロアで遭遇すんじゃん!
「――ちょっとストップ」
「え――」
スタッフさんたちはここで待機。
「この先、敵が来るんで。ちょっとやっつけてきますね」
「やっつけてきますって……」
「ここ動かないでね!」
呆気にとられる彼らを置いて、あたしはダッシュ。
隠形スキルを使って姿と気配を隠す。
少し進んで曲がり角の手前で止まる。
角の向こうを覗いたら、あっちの奥側の角からちょうど敵が曲がってきたところだった。
軍人さんっぽい戦闘服着てるけど、あれは“G.H.O.S.T”の制服じゃない。
ってことは、あいつらはフツーに外から来て、1Fを突破してきたテロリストか。
“G.H.O.S.T”かスパイかの判別の手間が省けるのはありがたい。
このままここに隠れて、近づいて来たら不意打ちで一気に仕留めよ。
そうやって冷静にプランを決めた時――
<おい>
頭の中に低い声が。
……あははー。
なんなのこいつ?
あんなことして、あんな通信の切り方して。
そうやって自分がシカトしたくせに、こうやってフツーに連絡してくるわけ?
ありえなくない?
もちろん無視するに決まってるけど。
だけど――
<おい、聞いてんのか。この役立た――>
「――うるさぁーいっ! こっちは今忙しいの!」
“――うわぁーーッ⁉”
ムカつきすぎて無視できなかった。
つか、ちょうど近くまできてた敵にバレちゃったじゃんか!
大声出したせいで隠形スキルはすっかり解けちゃってる。
<聞きたいことがある>
<は? 今忙しいって言ったのに? つか、どのツラ下げてフツーに連絡してくるわけ?>
あたしは慌てて一番近くの敵――今悲鳴あげてたヤツね――の顔を蹴っ飛ばしてまずは1人をKO。
<別に俺はお前にツラを晒していない。お前が勝手に見ているだけだ。この卑劣な覗き魔め>
<あーあーうっさい。そーゆーのいらない>
胸倉掴んで捕まえたオジさんを弥堂だと思って、そのお顔をビビビビっと往復ビンタ。
ほっぺをパンパンに腫らして気絶した外人のオジサンをその辺にポイして、どうにか無事に制圧完了。
<博士はどこだ?>
<あ、フツーにそのまま自分の用事始めるんだ>
指輪から取り出したウェットティッシュでお手てをフキフキしながら、弥堂に呆れる。
ついビンタしちゃったんだけど、あのテロさんのお顔が脂でギトギトしててキモかったの。
てゆーかこいつ。
今、「博士はどこ?」って言った?
お前が攫ったんだろうが。
どゆこと?
<で、博士がなに? つか、キミと一緒にいるんでしょ? なんでこっちに聞くわけ?>
<敵に奪われた>
<はぁっ⁉>
あいつは当たり前みたいにそんなことを言ってくる。
当然あたしはびっくり。
<な、なにやってんの⁉ 敵ってテロリスト⁉ つか、キミ今どこ⁉>
<わからん。窓から落とされたから正確な階層は不明だ>
落とされたって、あんた20Fとかに居たんじゃないの⁉
これまたフツーに言ってくるからスルーしそうになっちゃったじゃんか。
<わからないから聞いてるんだろ。多分15Fより上だ>
んん? 15F?
そこで戦って、外に落とされたってこと?
11F~15FまでのMAPに表示されてる光点を探す。
上の方は人が少ないっていうか、ほとんどいない?
でも12Fに反応1つ。
これが弥堂かな?
<博士の居場所を捜せないか?>
……ふぅ。あのさぁ……
え? マジでなにこいつ?
さっきさ、こいつさ、「全員敵だー」とか「皆殺しだー」とかってイキってたじゃん?
あたしのことも無視したしさ。
そんであっさり博士を奪われて?
なのにあたしにそれを捜せって?
フツーにお願いしてくんの?
お願いっつーか命令気味だし。
は?
なんなん? このクズ。
ムカつくし、呆れる。
でも今懸かってるのは、あたしと同じでこのクズの被害者である福市博士の生命や安全だ。
ここはこの正当なる怒りをグッと吞み込んで、このバカを助けてやるしかない。
あーね、ふーん?
そういう手口なんだ?
こうやって仕方なしになし崩しみたいな?
絶対にあんたなんかにいいように使われてやるもんか。
今回は博士さんに免じて、あくまでトクベツになんだからね!
つーかさ――
<もぉーっ! こっちだってヨユーないってのに! しょうがないなぁ……、ちょっと待ってて――>
――こっちだってスタッフさんの救助してんのに。
そのスタッフさんもあんたの被害者なのに。
マジジコチュー。
あたしはあくまで仕方なしにさらに上の階層のMAPを見てみる。
屋上が一番人が多いみたい。
これが多分“G.H.O.S.T”の対空なんちゃらな防衛の人たちよね。
じゃあその下は――
「…………」
――やっぱり不自然なくらいに人が居ない。
ちゃんと考えるのはヤだけど、20Fに居た人たちは弥堂に……
でも、15Fって本部よね?
なんでそこにも誰も居ないの?
おかしいなと思ってると、動く反応を見つけた。
ん。これっぽい。
<上層階の方で、さらに上を目指して走ってる反応が2つ。一緒に居る。でも、鍛えてる人が走るよりはスピードが出てない。上層の方で同じような動きをしている他の反応はない。多分これだと思う>
あくまで仕方なくで、バカ犬に教えてあげる。
さっさと追いかけなさいよね。
なんて、思った時――
<そういえば、お前は何をしている?>
は?
<は? キミが巻き込んだ一般人を救助してんだけど⁉>
なんか世間話みたいにそんなことを訊かれる。
よくもまぁヌケヌケとそんなこと言えるわよね。
って感じで、ムカつきすぎたために、あたしは気付くのが遅れた。
ムカムカしてるはずなのに、何故か腕に浮かんでくる鳥肌を見て、「あれ?」って思考が追いついた。
あいつが、こっちの状況を気に掛けてくることの不自然さに――
そんなヤツなわけない。
普段のあいつなら博士の居場所を聞き出した途端に、勝手に通信を切って向かうはずだ。
さらに。
あいつは尚もあたしのことを訊いてくる。
<……今、ホテル内にいるのか?>
<そーだよ!>
不自然にならないよう、テンションを維持して答える。
普段のこいつと会話する時のあたしも大体こんな感じのはず。
本当なら今だってフツーだったらあたしの方も、「しつこい!」とか「きもい!」とか「関係ないでしょ!」とかって怒鳴りつけるシーンだ。
だけど――
<へぇ。今何階に居る?>
ゾクリ――
続けてそう聞かれた瞬間、あたしの背に大きな悪寒が奔った。
これはスキルじゃない。
あたしのカン。
それが今までに感じたことのないレベルの特大のヤな予感を伝えてきた。
<……えっと、5F……? 下に降りながら救助して行ってる>
思わず。
咄嗟に嘘を吐いた。
あたしは今10Fに居る。
あいつとあたしの間には11Fの1フロアだけ。
すぐ、近くに居る。
――ヤバイ。
なんだかすっごくコワイ。
でも――
<要救助者を1Fに連れて行っても外に出せないんじゃないのか? 下の戦闘が終わるまで上の階に匿っては――>
<――知ったことか!>
あたしは今一人じゃない。
戦えないフツーの人たちを連れてる。
その人たちを無事に助け出すために、ここに来たのよ。
なんかよくわかんない誘導を仕掛けようとしたみたいだけど。
ムダよ。
大体さ――
<1Fの敵なんて、そんなの全部外に叩き出すに決まってんでしょ! こっちだっていい加減もう怒ってんだからっ!>
どいつもこいつも勝手なことして……!
だけどその中でも――
<キミに一番怒ってんだけど!>
<そうか。がんばれ>
<うっさい! こっち終わったら手伝いに行ったげるから、さっさと博士を追え!>
半ば強引に思念通話を終わらせる。
こうしてあたしのミッションタスクは――
一般人の救助&博士の脱出、のヘルプから――
一般人の救助&博士の奪還、のヘルプに更新された。
……そういうことでいいのよね?
だけど、さっきまでの悪寒は、それだけじゃないって感じてた。
今もあたしのカンはそう言ってる。
博士の奪還は間違いない。
けど。
弥堂から他の人を守る――
それをしなきゃいけないって、そんな気がした。
さっきの――
<へぇ。今何階に居る?>
――思い出すとまたゾクリ。
あいつ……
あたしを殺そうって考えた……?
そんなの信じたくないけど――
――考え込んでる暇はない。
頭を振って、スタッフさんたちを待たせてる方へ急いで戻る。
その間も――
12FのMAPからは目が離せない。
スタッフさんたちと合流しても、すぐには動き出せない。
「あの……?」
「ちょっと待って――」
怪訝そうにあたしの顔色を窺ってくるスタッフさんの質問をカットする。
今、12Fの光点が動いた。
走ってる。
結構なスピード。
その反応が向かう先は――
――ホッと息を吐く。
上の階か。
博士の追跡に向かったみたい。
よかった。
「ど、どうかしたんですか……?」
「え? あ、あははー。だいじょぶです。さ、いきましょー」
あたしの様子を訝しんだスタッフさんに笑いかけて、そして気を取り直して移動を再開。
ホテルは現在停電中。
非常灯の明かりはあるけど、やっぱり薄暗い。
あたしには“暗視スキル”があるからいいけど、スタッフさんたちはそうはいかない。
少しもどかしく感じながら、慎重に進んだ。
そうしてフロアを1つ下りて。
9Fのエレベーターホールに差し掛かった時――
「――へ?」
突然、パッと廊下に明かりが点いた。
「あ、電気が……」
「見ろ。エレベーターも――」
スタッフさんの一人がエレベーターの扉の上を指差す。
そこを見ると――
エレベーターが動いてる?
「――離れて!」
誰が操作したのかはわかんない。
いちおスタッフさんを下がらせて、あたしはエレベーターの行き先を監視。
エレベーターは下から上へと向かってる。
電気を復旧した――もしくは復旧されて――誰かが使ってる?
や、でも。
【小指で支える世界】のMAPで見る限り、エレベーターの中には人の反応は無い。
ってことは――
上の階で誰かが呼び出したってこと?
そのエレベーターはあたしたちの居る9Fを通過して、そして16Fで止まった。
確かその階には止まらないように設定してるってダニーさんが言ってたわよね?
しかも。
その16FにあるMAPの光点は――弥堂だ。
あいつがやってるの?
MAPの反応を凝視してると、あいつはエレベーターに乗った。
まさか、こっちに来る……⁉
なんてことはなく。
エレベーターはさらに上階へと向かった。
よかった。
いちおまだ博士が最優先なのね。
だけど、エレベーターは何故か19Fと20Fの間のおかしな位置で止まってしまった。
今度はなに?
あいつなにやってんの?
この場で立ち止まってる場合じゃないんだけど。
あのバカが怪しすぎるから引き続き監視。
少ししたらエレベーターはまた上に進みだした。
多分博士たちだと思われる反応は最上階の25Fにいる。
これなら追いつけそうね。
あっちはあいつに任せといて、こっちも救助を急がなきゃ。
なんて切り替えてMAPから目を離した時――
「――え……?」
弥堂と繋いでた【仮初の絆】の反応というか、繋がりが消えた感覚がする。
(ちょっと?)
思念通話を送ってみるけど、これも繋がってる感じがしない。
スキルが解除された?
慌てて【小指で支える世界】のMAPを拡大。
エレベーターは25F。
でもその中には光点がない。
これってまさか――
あたしが最悪の想像をした時――
「――あの? 行かないんですか?」
「あっ……」
スタッフさんに声を掛けられてハッと我にかえる。
あたしは、今あたしのやるべきことをしなきゃ……
でも……
今、あたしの前には多分、二択がある――
現状をどう判断するかの二択。
1.今はピンチ! 弥堂を助けに行かなきゃ!
2.今はチャンス! 弥堂から離れなきゃ!
この2つ。
これを選ばなきゃいけない場面なんだ。
多分ね。
なに言ってんのかわかんないだろうけど。
あたしは自分のカンに従う。
さて――
――どっち?
なんて考えた時にはもう、思考よりも先に答えが一瞬で出てる。
――急がなきゃ、だ。
「『七色の宝石』――」
右手の薬指に願うと、指輪の宝石が一瞬だけ七色に煌めく。
そしてあたしの胸には、黄色と蒼の宝石が飾られたネックレスが顕れる。
「【跳兎不墜】――」
ネックレスではなく、ブーツの名を呼びながらあたしはその場で宙返り――
【体術スキル:LV9】【軽業:LV10】……
【戦技:格闘】――
「――≪クレッシェント・スラム≫……ッ!」
身体をしならせながら反転し、ブーツの踵を床に叩きつけた。
ど派手な音を鳴らして床が砕けて大穴が空く。
その穴の中はもちろん下のフロアだ。
「みんな下がってて――」
スタッフさんに避難の指示を出した時、またも突然――
「は?」
――【仮初の絆】の繋がりと【小指で支える世界】の反応が戻った。
エレベーターの中には、多分弥堂のものと思われる光点がある。
今は24F?
え? どういうこと?
だいじょぶってことでいいの?
わかんない。けど。
判断は変えない。
さっきの二択。
それの正解は「どっちか?」ではなく「どっちも」だ。
でも順番はある。
まずこっちを終わらせて、それからあいつのヘルプ。
しかも急がないと間に合わなくなる。
でも、何に間に合わなくなるのかまではわかんない。
だから――
「【真心貫く忠義の騎士槍】――」
――とにかく速く。
ネックレスの名を呼ぶと蒼い宝石が輝いて、大きな槍が顕れる。
それはあたしの背の2倍以上もある巨大な突撃槍だ。
空中に顕れたそれのグリップに手を添えてクルリと回す。
両手でしっかりと握って腰を落とし、槍先を向けるのは足元の大穴の中だ。
「【小指で支える世界】――」
下の階層のMAPを見てルートを探す。
現在は1Fを抜けたヤツらが疎らに上の階に昇ってきてる。
その光点の動きを見て、穴を探す。
スタッフさんたちとゆっくり降りながら、いちいちこいつらの相手なんかしてらんない。
敵の反応を避けて一直線に通せるトコは――あった!
この槍って燃費サイアクだけど、そんなこと言ってらんないわね。
「“魔力装填”――」
取り出した魔石はなんと20個の大盤振る舞い。
それらに込められた魔力を全て突撃槍に注ぎ込む。
プシューっと音と煙を出しながら、使用済みの魔石がバラバラと床に落ちる。
床で跳ねて転がった一つが、下方に照準を合わせるあたしの視界を横切った。
その瞬間――
「≪ブラスト・チャージ≫……ッ!」
あたしの声と同時に突撃槍の黄色の宝石が激しく輝く。
その宝石が飾られた槍のバンプレートが高速回転を始めた。
すると、途端に槍に電流が迸る。
バリバリッと音を鳴らして、周囲にも放電を撒き散らした。
「う、うわぁ……っ⁉」
驚いたスタッフさんが悲鳴をあげる。
「もうちょっと後ろに。すぐに戻ってくるから、それまでここを動かないでね?」
「え――?」
説明は省略。
あたしは進路を確認してスキルを発動させる。
【槍術スキル:LV5】【投擲スキル:LV8】【射撃スキル:LV7】【必中:LV9】【手加減:LV4】……
槍なのに【投擲】と【射撃】のバフも乗るなんていうズルをして、その恩恵を全部乗せするのは“戦技”にじゃなく――
ちょっとトクベツな武器であるこの『アーネストランサー』のトクベツなチカラに――だ。
「«聖騎士の凱旋行進»――ッ!」
チカラの解放と同時に突撃槍は放電しながら加速を開始。
グリップを握るあたしを連れて、下の階層へと突撃をした。
一騎当千の騎士の突撃――
とんでもない威力のそれを阻めるモノなど存在せず、ホテルの床を連続でぶち抜きながら3Fまで突っ込む。
目的地に設定したその3Fに到着すると同時に、突撃槍のチカラを解除。
武器自体を消して元のネックレスに還す。
そしてすぐに――
「【跳兎不墜】――」
ブーツで空中を連続ジャンプしながら、今自分で作ったルートを引き返して9Fに。
9Fのエレベーターホールの穴からピョーンっと飛び出すと――
「【愛の深さと等しきモノ】――」
太ももからジャラリと伸びた3本の鎖が再びスタッフさんたちの胴体に巻き付く。
彼らは一斉にスンっと真顔になった。
察したのかも。
そんなスタッフさんたちを鎖で引っ張って、3Fまで飛び降りる。
すっごい悲鳴が途中の各階に響いてるけど、流石に黙ってろとは言えない。
ゴメンね? ちょっとだけ頑張ってね?
あたしは先に3Fに着地して鎖を操作。
スタッフさんたちを――
「…………」
――解放しようと思ったけど、やっぱやめた。
鎖で引っ張ったまま、廊下をダッシュ。
「ぎゃ、ぎゃぁーーッ⁉」
ごめん。そろそろ静かにして?
そして先に5Fで救助した人たちを匿ってた部屋に到着。
ドアにかけてた【不可侵の錠前】を解除。
周辺に敵の反応もなし。
ドアを開けて中に入る。
「あ――」
中で待ってた女性スタッフさんが何か言おうとしたけど、あたしはその前を素通りして部屋の奥の窓へ。
外の様子を窺う。
こっちはホテルの正面玄関側だ。
階下では敵味方入り乱れ気味の戦闘中。
うーん。
さすがにスタッフさんと一緒にここを飛び降りるのは危ないか。
それに、鎖でさっきみたいに引っ張るのもせいぜい3人が限度。
鎖の数を増やせば増やすほど執着心という名のパワーと、操作性が失われちゃう。
スタッフさんは全部で7人。
2回か3回に別けてやるにしても、先に下ろした人たちを放置できない。
それにこっちに残した人たちの護りも気にしなきゃだし。
悩みながら建物の反対側をMAPで確認。
あっちも状況はそんなに変わんなそう。
流石に数は正面よりは少ないけど。
でもその分、この人たちを預けられるような余分な味方も居ない。
やっぱ、やるしかないか。
覚悟を決めろ七海!
今は何より『速さ』!
あたしのカンがそう言ってる。
って、なったら――
「――さ、いきますよー!」
呼びかけて廊下に出ると、戸惑いながらもみんな着いて来てくれる。
あ、そっか。
もしも、起こったのがフツーの災害だったら――
その時はこの人たちが、こういう風にお客さんを避難誘導するのか。
そういう訓練を受けてるから――
だからみんな文句も言わずに、見た目頼りなさそうなあたしに従ってくれるのね。
そっか。
みんなプロなんだー。
カッコいいなー。
じゃ、あたしも――
そんな風に自分で名乗ったことはないけど。
でも、言い訳のしようがない。
だからあたしも非常識のプロとして、この人たちに恥ずかしくない行動をしなきゃ――
密かにそう心に誓って。
あたしはプロのスタッフさんたちと一緒に2Fへと降りていく。




