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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章裏 福市 穏佳 #EX➁

 ホテル内の空気は最悪になった。



 あいつは片っ端からスパイ認定をして、仲間であるはずの“G.H.O.S.T(ゴースト)”の隊員に暴力を奮い、そして拘束をさせる。


 時には口も利けないくらいのケガをさせて。



 だけど、それだけじゃない。



 “異能(ギフト)”を持つ特別な人、そうじゃない人。


 肌の色が白い人、そうじゃない人。



 あいつの振舞いは。


 そしてあいつがスパイだと認定した人たちは。



 まるで恣意的にその違いを強調するようだった。



 そのせいで隊員さん同士の空気も最悪。


 スパイも、そうじゃない人も。



 ホテル中のみんながあいつに憎しみを向けている。



 ホテルの空気は“ピリピリ”から、“ギスギス”へと――


 完全に変わってしまっていた。



 そんな中でもあいつはやっぱり変わらない。


 変わらないし、変えない。



 ホテルという箱の中で、そこに居る全ての人に敵意や害意を向けられたとしても。


 その中で自分一人だけ孤立してしまったとしても。


 まるでそれが当たり前のように。



 異質なはずで、異端なはずで、異常なはずなのに。


 やっぱりその状態が自然な姿のように見える。




 ホテルの20F、福市博士の部屋に戻ってきて。


 そこでもあいつはみんなに嫌われるような酷いことを平然と言う。



 あそこに居る人たちはみんなプロの人で、そして大人だ。


 だから怒り任せにムカつくあいつに殴り掛かったりしない。


 いきなりそんなことをするのはあいつだけだ。



 だから――


 せめてもう顔は見たくないといった風に。


 部屋から出て行ってしまう。


 ダニーさんも。



 性犯罪者だけど。


 でもせっかく仲良くなってたのに。


 そういうのもなんとも思わないのかな。



 だけど、そのおかげと謂ってもいいものか。


 そうして、あいつは体よく博士と二人きりになった。



「――ようやく二人きりになれたな」



 誰もいなくなった部屋で、一人でベッドに座る博士さんへの第一声がこれだ。


 なに考えてんのかは相変わらずわかんないけど、この絵面がサイアクだってことだけはあたしにもわかる。


 まさか今度はこっちのお姉さんにエロいことする気じゃ――と思いきや。



「俺になにか話したいことがあったんだろ」



 もしかしてこれ、わざとやってるの?



 元々ああいうヤなヤツで、キラわれる性格ではある。


 学園でも街でも、ああだった。



 だからなるべくしてこうなっただけ?


 それとも――



 あたしにはもうわかんない。



<偶然こういう状況にもなった――それだけだ>



 こいつはこう言うけどさ。


 それすらホントかウソかわかんない。


 ホントでもウソでもなくテキトーに喋ってるだけって可能性もある。


 まじヤなヤツ。



 だけど。


 それでもあいつの目的は博士を守ること。



 それだけは変わってない。


 というか。


 きっとあたしを含めた他の人には理解しづらいだけで。


 あいつなりに、その為によかれと思うことをやってるのよね?



 そこだけは信じたい。



 信じたいけど、やっぱり――



<いや、キミを疑ってるとかじゃないんだけど、でも、やり方がさ……>



――いくらなんでもアレすぎんのよ!



 さっき出てったみたいな隊員さんたちからミラーさんへクレームが殺到。


 そのミラーさんから佐藤さんにクレームがいく。


 そしてあたしが佐藤さんに色々訊かれる。


 そんなラインが勝手に出来上がっていた。



 どこもかしこもクレームだらけで、あたしだってメーワクだ。


 大体あたしに訊かれたって、こんなおバカのことなんて説明できないわよ!


 つーか、そもそもそれを知るためにこんなとこまで来てんだし。



 んで、実際に見てみたら余計にわかんなくなるとかなに⁉


 むしろ誰かあたしに説明して!



 くそぅ。


 あんたのせいであたしまで怒られてる気分になってきちゃったじゃんか。


 まじやだ!



 でも。


 やり方はともかく。


 ともかくと、一旦そういうことにしてあげた場合ね?



 今っていちお順調で上手くいってる状態なのよね?


 そう考えていいのよね?



 あいつがめちゃくちゃ過ぎてワケわかんなくなるけど。


 でも。



 スパイが紛れてると考えられてて――


 そしてそれをたくさん捕まえた。



 これで、内よりも外からの攻撃を防ぐことに注力できるはずだし。


 博士を守る上でより安全になったはずだ。


 少なくとも、外から攻めてこられた時に中からも同時に暴れられるなんてことはなくなった。



 なのに――


(――なに……? この不安感……)


――ちっともそんな風に安心が出来ない。



 むしろ時間が経つごとに不安がどんどんと膨らんでいってる。


 あたしのカンはずっとそうだ。



 弥堂は、スパイは必ずいるし、敵も必ず攻めてくるって、最初から言い続けてた。


 そして実際にスパイが見つかって、あいつの言葉の半分はホントになった。


 それなら残りの半分は?



 これから敵が攻めてくるから?


 あたしのカンがそれを感じ取ってて。


 だからこんなに不安なの?



 わかんない。


 ただ、こうしてる間にも、その不安は1秒ごとに大きくなっていく。



 そうだ、不安といえば――



 佐藤さんから頼まれてたっていう博士からの事情聴取?


 なんかそんなのを弥堂が始めてる。


 それもそれで大きく不安だ。



 初めて話した時のこともあるし、そもそも弥堂にちゃんと話なんて聞けるの?


 さっきまでみたいに拷問なんてするわけにいかないし。


 また恐がらせちゃうだけなんじゃって、そう思ってたら――



「――まずはお名前をお願いします」



 あれ?


 意外にも、あいつは丁寧な言葉遣いで博士に話しかけてる。



「ありがとうございます。年齢は?」



 でも。


 んん?


 なんか白々しいっていうか、質問してることもヘンじゃない?


 なにこれ?


 おい、なんで今動画回した?



「なるほど。こういうのに出るのは初めてなのかな?」



 ちょっと、あんたこれなにやってんのよ⁉



 こいつが実際なにやってんのかはあたしにはわからない。


 でも、なんかピンっときた。



 こいつのこの感じはセクハラだ。


 間違いない。


 あたしのカンと経験がそう言ってる。



 これって、前にさ。


 パンツ見せろとか、ブラ見せろとか。


 あと乳輪の直径がどうとか。


 いきなりそんなことを言ってきた時と同じ雰囲気だ。



 つーか、ちょっと待って?


 こうして改めて振り返って並べるとさ。


 あたし随分なこと言われてない⁉


 なんなの! まじありえない!



「お前が初めてセックスをしたのはいつだと聞いている」



 ほら! ほら……っ! やっぱりセクハラだった!


 つーか、こいつ――


<――こらっ! この、この……っ、バカッ!>


――なんでこんなにバカでヘンタイなの⁉



 さっきあんなにギスギスだって言ったのに、セクハラなんかしてる場合じゃないでしょ⁉


 せめて自分で壊した後の空気くらいは読んでよね!



 てゆーか、ミスった。


 こいつは一日最低一回はセクハラをする動物だって、わかってたはずなのに。



 ちょっとシリアスになったからって油断したら、途端にこれよ。


 少しはマジメに生きてよ!


 そもそも――



<女の人になんちゅーことを聞いてんの⁉>



 なんて注意してみたところで。


 暖簾に腕押しだ。


 とぼけたこと抜かしやがってクソ変態め。



 見なさいよ。


 マジメそうな博士さんなんてさ、すっかりテンパっちゃって言わなくてもいいことまで赤裸々に告白しちゃったじゃんか。


 うぅ、他人事と思えない……



 セクハラで解決できることなんてこの世に一個もないって、こないだ話し合って決めたでしょ⁉


 なにがインタビューか。


 これって、その……、そういうアレでしょ……っ⁉



<またそれか。そういうアレとはなんだ?>



 あたしも博士と同様に、キャッとお顔を隠して回答は差し控えさせていただいた。



 セクハラではなにも解決しない。


 それは間違いない。



 だけど。


 こいつのいつものこんなバカのせいで。


 さっきまでの不安は少しは和らいだ。


 そんなこと認めたくないけど……って、ハッ――⁉



 そっか。そういう手口ね?


 そうやって女の子を勘違いさせて諦めさせて、それから好き放題エロいことすんのね?



 あっぶない。


 騙されるとこだった。


 そんなの絶対許さないんだから。



 でも純真な博士さんは騙されちゃったみたい。


 少しあいつに呆れたようではあるけど、少なくともさっきまでよりはリラックス出来た感じではある。


 くぅ、あのチャラ変態め。



 ダメよ博士。騙されないで。


 でも、博士は弥堂初心者だし、あたしも直接に注意喚起は出来ないしで、どうしようもない。



 そして、博士は自分のことをお話してくれるみたい。


 だけどその前に、あいつはまたとんでもない爆弾を放つ。



「――お前は本物の福市 穏佳ではない。影武者だな?」



 えっ⁉ どどどどどういうこと……っ⁉


 博士が影武者?



「狙われているとわかっている場所に、わざわざ本物を持って来る馬鹿はいない」



 そ、そっか……。


 それは確かにそうかも?



 それに、もしもそうなら、このお姉さんがヤバヤバ博士的なイメージと離れてたことにも納得できるかも。



 あんたやるじゃん。


 ただの変態じゃないのね。



 ダメな子のダメなとこをダメと言ってるだけじゃよくない。


 ちゃんと出来た時はホメてあげなきゃ。


 そしたらまたホメられたくて、いいこともするようになるかもだしね。


 ウチのかけるにもそうしてる。



<スゴイねキミ。よくわかったね。もしかしてそれもギフトで?>


<そうだ>



 へぇ。


 つか、こいつのギフト?


 加護って実際どういうものなんだろ。



 見ればウソつきと偽物がわかるみたいなこと言ってるけど。


 それってどういう基準って言うか、実際なにが見えてんだろ。


 相手のステータスっていうか魂の設計図?


 それにそう書いてあるとか?



 それだと、あたしのスキルとも似てる気がするけど。


 でもあたしには『嘘吐き』だとか『偽物』だなんてものも見えなければ、“魂の強度”なんてものも当然見えない。



 そう感心したんだけど。


 なんか、ちがうみたい。


 や。違うっていうか? 本人みたいよ?


 博士がそう言ってる。



 だけど、あいつはそれを信じない。


 博士が出す数々の証拠にイチャモンばっかつけてる。



 つかさ、ベッドで女の人の隣にあいつが座ってると、すっごい犯罪っぽくない?


 やだな。


 これ見てるの。



「――これ、“賢者の石”ですっ」



 他に出せる物のなくなった博士さんが、ついに最重要アイテムを出しちゃう。


 首から提げてたペンダントを弥堂に見せた。


 ペンダントトップになってるあの石みたいなのがアムリタ?


 あたしも直接見てみたかったな。



 つか、うん?


 なに……?



 弥堂はアムリタを見てから、手で目を隠した。


 すると瞳の蒼い光も消える。



 今、痛がった……?


 それでギフトを解除した?


 なんで?



 ていうか、やっぱヘン。


 こいつのスキルってホントにギフトなの?


 加護とか言ってたけど、それってホントにギフトと一緒?



 なんかさ。


 スキル的なものってより、“目”自体になんかある?



 あいつさっき、自分のギフトを『ルートヴィジョン』とかって言ったわよね?


 でもあたしには、あいつからは、そんな名前は見えない。



 昨日まではともかく。


 今は【仮初の絆(インスタントギルド)】で繋がってるから、何かあるなら見えるはずなのに。



 わからない。


 こいつのこと。


 わからないことが多すぎる。



 人間的にっていうか、性格的にもこんなヤツ見たことないけど。


 それを除いたとしても、こんな特殊なヤツ他に見たことない。


 なんなのこいつって。



 ウソばっかだし、あやしいし。


 それ以外にだって、特に意味のないテキトーなことも言う。


 だからマジでわかんない。



 あ、テキトーといえば。



<ねぇ、キミ、あのさ……>

<なんだよ>


 なに逆ギレしてんのよこいつ。


<スッゴイ確信ありそうな顏で影武者だーとか言ってたけどさぁ。なんなのこれ>

<ありそうだっただけで、実際にあったわけじゃない>


 もっとマシな言い訳ないわけ? てゆーかさぁ――


<ねぇ、キミのギフトってさぁ……>

<あれは嘘だ>


 ほらこれよ!


 なんなの?


 ごめんなさいも出来ないしさ!



 こいつに言いたいことはいっぱいあるけど。


 でも今は博士のお話を聞く番だ。


 ふん、命拾いしたわね?


 ほら、さっさと聞いてあげなさいよ。



 なんてしてたら――



 うわぁ……



 なんというか。


 出るわ出るわ。


 愚痴の嵐。


 博士さん、相当ストレスたまってたのね……



 なんだか同情してしまう。


 だけどあいつは、いつもの『テキトーな相槌を何パターンかループさせて聞いてるフリ』をしてる。


 マジで人の心ないのね。


 博士泣いちゃってるじゃん。



 その悲壮感に思わず――



<うっ、うぅ……、博士かわいそう……っ。ちょっと! もっとちゃんと聞いてあげなよ! 優しいフォローを言ってあげて!>


<なんでお前も涙声なんだよ。馬鹿じゃねえのか>



 ほんとキライっ!


 また「金が欲しいのか?」とか言ってるし。


 そんで最終的には「運がなかったな」で放り捨てる。



 励ましてと言えば、パワハラと罵倒をするし。


 それであたしに怒られたら、お次は責任転嫁だ。



<おい、ダメだぞ>


<え? なにそのボクにやらされた感。バカなの?>



 ほんとサイテー。



 少しして博士が落ち着いて。


 アムリタの制作秘話みたいなのを聞かせてもらう。


 ってよりは、博士の身の上話か。



 でも。


 それは。



 とっても残酷な話だった。



 博士はおばあちゃんの病気を治すために、一生懸命頑張っただけの人だった。


 その結果アムリタなんてトンデモが出来ちゃったけど、でもそこには野心も私欲も決してなかった。


 ただ、大切な人を救いたいって、そんな優しい願いだけ。



 でも、それは叶ったはずだったのに。


 ちょっとだけ遅くて。


 アムリタが出来た時には、救いたかった人はもう居ない。



 でも、アムリタを作っちゃったせいで解放もしてもらえず。


 博士は目的を見失ったまま、多分アメリカとか職場のために研究を続けさせられて。


 そしてそのせいで、こうして生命や身柄を狙われることになった。



 なんて救いのない話なんだろう。


 あたしまで悲しくなってしまう。



 これって、あれよね?



 弥堂がよく言ってる――


『世界なんてこんなもん』

『諦めろ』

『運がなかった』


――ってやつ。



 まさしくそうと考えるしかない。


 そんな話だ。



 だけど。


 それを当事者に直接言うのはやっぱり憚られる。



 あいつは絶対それを言うって思って。


 だから止めようって――



「一つ訂正をしよう――」



――思ったのに。



「お前にガッツがないと言ったことは訂正する。お前は気合いでやれるだけのことはやった。成果も出せた。だが、運がなかった。それは仕方がないことだ。お前は悪くない」



 え?



 あたしの予想に反して、あいつのお口からは意外な言葉……、じゃない。


 うん、そうだ。



『世界なんてこんなもん』

『諦めろ』

『運がなかった』



 これの本当の意味って、今こいつが言ったことなんだ。



 いっつもあいつの言い方とか、無表情のせいで。


 それで冷たく聴こえちゃうけど。



 こうして受け止めてみると、そんなに悪い言葉じゃない?



 悲しいけど。


 過ぎたことは諦めるっていうか、割り切るっていうか。


 なんとか切り替えて、そうやって生きてくしかなくって。


 だけど――



「だが、アンタのばあちゃんが死んじまったことと、アンタが今殺されようとしていることは別の話だ。ばあちゃんが死んじまったからって、アンタが大人しく殺される理由にはならない。違うか?」


 ちがわない。


 そんなの許せない。


「ばあちゃんの死も、アンタの死も。どっちも理不尽だって思うなら反抗するしかねえだろ。失敗したって死ぬだけだ。一緒だろ?」


 理不尽はそう。反抗もする。でも死んでたまるか。


「逆らって死ぬのも、利用され尽くして死ぬのも変わらないだろうと言っている。だが、逆らってみたら勝つことだってあるかもしれない。だったらワンチャンスがある分、反抗した方が得だろうが」


 なにそれ。ちょっとうける。


「その確率を1%でも上げるために俺はここに来た。俺はその為に雇われたからだ。俺は金になるなら仕事に手を抜かない。アンタと同じでやれるだけのことはやる。不要か?」


 あたしだっているし。



 なんだかとっても意外。


 多分いま、こいつ博士のこと励ましたのよね?



 やっぱり言葉遣いは悪くて、やっぱりわかりづらいけど。


 でも、博士は笑ってくれた。


 あたしも――



「まぁ、結果が出るかは運次第だ。ダメだったら諦めろ」



 本当に頑張るだけ頑張って、全部やれることやり尽くして。


 それでもダメだったらもうしょうがないじゃん。


――そういうこと?



 多分、これルビアさんがそう教えたのよね?


 多分、あんたに頑張って生きて欲しくって。



 それをちゃんと他の人にも言えるんじゃん。


 だからあたしは――



<うわぁ、ちょっと感動した。キミ、ちゃんと相手のためを想ったことも言えるんじゃん>


<別に>



 照れてるし。


 ださ。


 ばーか。



 でも、初めてこいつのこと、ちょっとだけ見直した。


 そんなところで、改めて博士のことを――



<この人すごくいい人だよね>



 なんていうか、この福市博士って、これに尽きると思う。


 いい人すぎて。


 それで断れなかったり流されちゃったりで、それで多分利用もされちゃって。



 ホントはこんなコワイとこに居ていい人なんかじゃないんだ。


 絶対に守ってあげなきゃ。



 そんなあたしの決意をあいつと共有したい。


 ああやって励ましたってことは、あいつだって同じ気持ちってことよね?



 だから今回は共感してくれるはず。


 って思ったら――



<そんなことはない。彼女が本物の彼女でよかったと思っているよ>



――ん? 今のどういうイミ?


 なんかビミョーに噛み合わなかったし。


 それにビミョーに引っ掛かりを覚えた。



 それを問い直したかったんだけど、その前にあいつはスマホに目を。


 なんか連絡? 時計見てるだけ?



 佐藤さんへの報告とかだったらジャマしちゃいけないから、今のを訊くのはやめとこ。


 当たり障りない雑談だけ。



<――なんか博士のこと知れてよかったね。こう、守るのに気合が入るっていうか>



 さっき共感に失敗したので再チャレンジ。



 共感の強要はダメって、つい数時間前に思ったばかりだけど。


 こいつだけは例外です。



 だってほら。


 すっごいどうでもよさそうにしてる。



<お前も一緒に聞いてただろ? 佐藤に報告をしておいてくれ>



 そうやって自分の仕事までこっちに投げてくるし。


 佐藤さんからの頼まれごとをテキトーに済ませようとすんじゃないわよ。


 てか、あれ?


 今報告してたわけじゃないんだ。


 ま、ベツにいいけど。



 でも、あいつもベツにテキトーだったわけではないらしい。



<俺が次に佐藤に会うことがあるとしたら、この仕事が成功して終わった後だ。もしも任務が失敗したら報告する機会がないからな>



……なんかさっきよりピリピリしてない?


 博士のお話聞いて怒ったのかな?


 弥堂のなんか少しだけ殺気立ったような雰囲気に、あたしはまた不安を思い出す。



 殺気と謂っても表に何かを発してるわけじゃない。


 内に秘めるというか。


 いざという時に一気に爆発させるために、溜めてる? みたいな。



 それがまるでこれから戦いが起こることを前提にしてるようで、その準備をしてるように感じたの。



<……あのさ? これから何か大きなことが起こると思う?>



 だからつい、聞いてしまう。



<スパイはいっぱい捕まえたし、ホテルの外は清祓課も固めてる。この状況で敵が博士を奪うって結構ムリめだと思う>



 フツーに考えたらそうだ。


 だからあたしは、フツーじゃないヤツの意見が聞きたい。


 少しでも参考にしたい。


 だって――



<――すっごくイヤな予感がしてるんだ。とてもよくないことが起きるんじゃないかって……>



 あたしのカンが伝えてくる不安感は、なにも変わってない。



 でも、ここに居るのはいつもの幼馴染たちじゃないから。


「カンだから」って言っても、きっと弥堂はまともに取り合ってなんかくれないわよね?


 そういうの信じなそうだし。



<――いや? 信じるぞ?>


 へ?



 なんか意外な反応。


 そして――



<いい勘をしていると思うぞ>



 なにそれ。どういう意味――



――って、聞き返すことは出来なかった。




 それはきっと――



 所詮は束の間の静寂のようなモノで――


 仮初の平和だったんだと思う。



 自分のカンはかなりの確率で当たるって、自分でわかってたはずなのに――



 それでも見苦しくも、浅ましくも、情けなく。


 どうか外れていて欲しいと願うだけの弱っちぃこんなあたしを嘲笑うかのように――



――それは突然。


 ノックもなくドアを開けて、あたしたちのトコロに訪れた。




 博士の寝室にいきなり銃で武装した男たちが突入してくる。


 乱暴な足音で床を踏んで、無遠慮に踏み込んでくる。



 平和な時間に完全な終わりを告げられた瞬間だった。



 唐突に。


 無慈悲に。


 また――



 あたしの知らない世界がここから始まる。


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