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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章裏 ジャスティン・ミラー #EX➁


 それは一旦尋問が終わったからなのか――



 弥堂と、ミラーさん。


 触れあっていた二人の手は離れていた。



 だけど――


 今度は弥堂の方からミラーさんの手の甲に掌を重ねる。



「俺の言葉の真実は、アンタが証明してくれ」



 サイコメトリーを自分に使えと――あいつの方から言った。


 ミラーさんはそれにさっきまでとはまた違った風に困惑。



 そしてここからは、まるであいつの方が尋問をしてるみたいに、ミラーさんに質問をしていく。



 サイコメトリーって実際どういう風に見えてるのか。


 ミラーさんにはどんな世界が見えているのか。


 それを聞いてる。


 そうしてあいつは情報を得ていく。



 パッと見では――


 自分のことを説明して相手にわかってもらう――


――そんな会話にも見える。



 でもあたしには、何故だかこの光景がすごく危ういモノのように見えていた。



「アナタは冷たい“蒼”よ。その色がほとんど変わらない。今もそう。小さな蝋燭の火のようで、でも揺れない蒼」



 あぁ、うん。なんかわかるかも。



 変わらない心。


 揺れない精神。


 ピッタリのイメージ。



「でも、保護者の女性のことに触れられた時は、その蒼が焔のように膨らんで熱を持った。ワタシはそれに“怒り”を感じたわ」



 ルビアさんのことでなんか怒りをずっと抱いている……?



「まるで占いでも聞いてる気分になってきたよ。何故それがわかる?」



 それに触れられてもあいつはそんな風に冗談めかして、やっぱり揺れない。


 でも、最初はその話題に怒ったのよね?


 その怒りはホント?


 それとも、わざと怒って見せた……?



 ミラーさんから見た人の心の動きを教えてもらってる。


 感情は色。


 思考は指向。


 目的があって、叶えるために。


 どこに向かって、どんな色?



 正直なところ、あんまりちゃんと頭に入ってこなかった。


 弥堂のことに思考が向かってしまう。


 じゃあこの感情は何色なの?



「自分の能力が好きじゃないのか?」



 またセンシティブなことを言う。


 それはどこに向いてるの?



「――好きよ」



 ミラーさんも顔色を変えずに言い切る。



 あぁ。このひと、強いひとなんだ。



 サイコメトリーは人に嫌がられる。


 それには納得。


 そうだろなって思ってた。


 あたしも自分のあのチカラをそう思うもん。



 話はミラーさんの経歴に。



 ミラーさんはイギリスの魔術学校に通ったり、日本で陰陽術を習ったりしてたんだって。


 すっごい頑張ってきた人なんだ。


 てか、そんなの教えてくれるガッコがあったことにも驚き。



 個人情報だからあんま聞かない方がいいのかもだけど。


 この世界の魔術とかの歴史の話も絡んでて興味が向いちゃう。



 アメリカでは魔術はあんま流行ってないんだってさ。


 じゃあ日本では流行ってんのかって言われたらそれもビミョーだけど。


 てゆーか、業界自体が流行っちゃマズイもんね。



 でもそんな日陰の業界でも日本には陰陽府があって仕切ってたから、今日までそれなりのカタチで続いてるのかも。


 でもアメリカでは宗教と政治の折り合いが悪くて、色んな大人の事情で魔術が成長しなかったみたい。


 だから“異能力者(ギフテッド)”を集めて、そっち系が強力な他の国に対抗しようとしてるのね。



 対抗とは謂っても、ベツに異能力バトルを仕掛けようって話じゃない。



 国内の異能力者で対応できないような霊害が起こってしまった場合、国外のそういった機関に解決を頼らなければならない。もちろん無料じゃない。


 すっごい足元を見られるってみらいが言ってた。


 だから自国のそれ系の戦力を増強しなきゃ、いつまでたってもその利権や勢力図は覆せない。



 日本で謂えば、陰陽府とキリスト教とかとのバチバチ。


 うーん、ややこしい。



 ってことで、次はキリスト教のお話。


 ガッコで習ったフツーの歴史でもややこしいのに、魔術のことも絡むと余計にややこしい。



 最近ちゃんと知ったばっかだけど、日本の中だけでも似たようなもの。


 清祓課、陰陽府。


 郭宮と美景と、京都。


 紅月の本家と、分家。


 色々タイヘン。



 世界でもそっち系がウラに隠れちゃったのは資本主義社会の中では主流でいられなかったから、みたいな?


 これはよくわかんないな。


 でもいっそオープンにしちゃえば、そういうのが得意な人は儲かりそうなのに。


 あ、儲けられたら困るってこと?



「金にならないってことか?」



 あいつは身も蓋もないことを言う。


 似たようなこと思っちゃったけど。



 でも、弥堂はそう口にしたけど、そうは思ってないみたい。


 なんで?



「大丈夫よ。間違っていても怒らないから言ってごらんなさい。思っていることを口に出して、その都度正否を確認していくのは重要よ。間違っていたら修正すればいいだけなんだもの」



 うんうん、そうよね。


 はい! ミラー先生!


 あたしもそう思います!



 ミラーさんは賢い。


 あと、やさしー。


 考え方にシンパシーを感じたからか、あたしはすっかりミラーさんのファンだ。


 なのに、あいつときたら――



「だってカルトって儲かるだろ?」



 あのさ?


 もう少しこう、なんとかならないの? 言い方とか。


 ほら。ミラーさんもフリーズしちゃったじゃんか。



「居もしない神を信じるような馬鹿を騙して金を巻き上げるのが宗教って商売だろ? しかも国のお墨付きだってんなら、全国民に詐欺商品を毎月売りつければいいじゃないか。金を払えない者や抵抗する者は刑務所にぶち込んで財産を巻き上げればさらに儲かる。借用書にサインすることを条件に釈放すれば、その後の人生での稼ぎを搾取することだって可能だ」



 おいだまれ! ウチのガッコごとバカで民度低いって思われちゃうでしょ!



「あぁ。独占で既得権益はたくさん儲かる。だって金を独占できるからな。信仰に税金もかければいい」



 あたしは頭を抱えた。


 あっちのお部屋の中の大人たちもみんな“おーまいが”って感じ。



 でも、ちょっと納得もした。


 さっきの思い付きじゃないけど。


 こういうヤツを儲けさせないためなのね。


 うん。そりゃダメだわ。


 てか、それただの反社じゃん。


 サイテー。



 つーか。


 なんか?



 あいつカルト宗教がキライみたい?


 や。信者さん本人たち以外はみんなキライだろうけど。



 つか、宗教自体がキライっぽい?


 あれ?


 でもエルフィちゃんってシスターさんじゃなかったっけ?



 メイドさんでもありシスターさんでもある。


 そしてメンヘラで地雷。


 なにそれ?


 よくわかんないけど絶対カワイイだろ。



「さらにこれも言うようにしている。『そんな神本当は居ないんじゃないのか?』『どうせ神を名乗る悪魔を信仰しているんだろ。この異端者め』と。カルト宗教なんて麻薬と一緒だ。その信者は人類社会のガン細胞だ。ブン殴って踏みつけてやりながらそう罵ってやるのさ」



 まだなんか言ってるし。



 あ、待って。ちがう。


 なんか不自然。



 この物言いの仕方は見たことある。


 ケンカしてる時のだ。



 あ――


 そっか。これ、挑発してるんだ。



 カルトのテロリストがスパイで紛れてるって言ってたもんね。


 もしかして、相手がムカつきすぎてつい反応しちゃうようなことをわざと言ってる?


 そうやって探ってるの?



 うわ、こわ。


 こいつ、こわ。



 なんだろな。


 こういうのにはホントに慣れてるっていうか、狡猾っていうか……


 マジで頭いいのか悪いのかわかんないヤツ。


 こういう方向だけじゃなくって、日常生活でも他人の心の所作に目を向けて欲しいです。マジで。



 でもさ。


 これやってハズレだったらさ。


 他の人にはただの頭おかしいヤツって思われちゃうだけよね。



「ジャスティン……、あの……」



 ほら。


 エマさんだっけ。


 秘書のお姉さんが「これ記録してだいじょぶなの?」って今困惑してる。



 でも、あいつはそういうの――


 全ての他人に何をどう思われてもどうでもいいのよね。


 それは日常生活の中ではもちろんアレなんだけど。


 でも、こういう場だと――



 これをスゴいって言っていいのか。


 あたしにはまだわかんなかった。




 次はイギリスと魔術学校のお話。


 貴重なお話が聞けたなって、あたしは満足。


 でもあいつはなんかキレてる。


 いみわかんない。



 やっぱり闇の者だから、イギリス留学とかそういうキラキラした感じのを敵視するのかな?


 え? 怒ってるんじゃなくって疑ってる?


 なにを?



 どうも、さっき聞いた『プロテスタント』と『プロフェッショナル』を同じ意味だと勘違いしたみたい。


 それで『イギリスはプロじゃない』とかワケわかんない文句言ってる。


『プロ』しか合ってないし。ばかじゃん。


 てか――



 は、はずかしい……っ!


 なんだか同じクラスのあたしまではずかしい……!


 中学でも習ったでしょ!



 あいつも流石に恥ずかしかったのか。


 なんかまた過激でセンシティブなこと言って誤魔化そうとしてる。


 アメリカ相手に核とかゆーな!



 勢いにのったおバカは今度は秘書の黒人のお姉さんにまでイチャモンを。


 逆ギレして誤魔化す癖直しなさいよ!



 それから宗派と魔術の関係などのお話を通って、ミラーさん自身のお話に戻ってくる。



 ミラーさんのお家は名家だったんだって。


 紅月とかみたいな?


 それをまた盛り上げたいんだってさ。



 その為に留学とかして魔術を身につけようとした。


 でも――



「えぇ。ワタシには才能がなかったから……」



 自分の望んだ才能があるわけじゃない。


 だけど――



「――だが、アンタには“異能”がある」



――うん。


 魔術はダメだったけど、その留学のおかげで“異能(ギフト)”に気が付いた。


 よかった――



――とはいかず。


 今度はそのせいで在学中の人間関係がよくないことに。



 それは、魔術師の中の“異能力者(ギフテッド)”だったからなのか。


 それとも、その“異能(ギフト)”が“サイコメトリー”だったからなのか。



「日本の陰陽師もそうだけど、魔術師も選民思想や優生思想が強いわ」



 あーね。


 陰陽府のスタッフさんがそう。


 めっちゃ見下してくるし。


 でも“弥堂”を経験した後だから今度からはあんまし気にならなそう。



 あいつと比べたら全人類いい人に思えちゃいそうだわ。


 そのクズときたら――



「なるほど。同情するよ」



――なんて心のこもってないことを。


 まじくず!



 ミラーさんがジト目に。


 あたしも多分ジト目に。



「優生だろうが劣生だろうが、ニンゲンに生まれた時点でどいつもこいつもゴミだ。どこでもそれは一緒なんだな」



『生きてるなら殺せる』


 さっきのあいつの言葉。


 この言葉の前では全ての生き物が等しい。



 それを思い出して、そして――



 ん?


 どこでも?


 なんかひっかかった。



 なんでだろ?


 あたしもその部分だけは同じことを思ったのに。



 陰陽術の話が終わって、今度は弥堂が魔術の話をする。


 でも、ヘン。



 あいつのしてる解説みたいなの。


 魔術学校でちゃんと習ったはずのミラーさんが『聞いたことない話』だって言ってる。



 これ、あたしたちの時と一緒だ。


 あたしっていうか、みらいと蛮。



 弥堂から『魂の設計図』とかの話を聞いた時。


 みらいも蛮も、そんなの『聞いたことない』って言ってた。


 言葉も概念も。



 弥堂のする魔術の話も特異なものみたい。



『生産量』『ストック量』『消費量』


 これ覚えとこ。


 あとでまたみらいと蛮に訊いてみよ。



 だけど。


 あいつの語る魔術の話は、あたしにとってはなんかわかりやすかった。



 魔術が使えないあたしには、それ系の話って今まで聞いてもピンとこなかったんだけど。


 でも、今あいつから聞いた話は、こんなあたしみたいな素人にもわかるように噛み砕かれた解説――そんな風に思えた。



 でも、あいつは弥堂 優輝。


 相手のためにそんな配慮をするわけがない。



 ってことは――よ。



 これを噛み砕いたのはきっとあいつじゃない。


 あいつにこれを教えた人。


 勘。



 そしてここでも出てくるのが、『世界』と“存在の強度”――



 つまり、この魔術の知識も“魂の設計図”とかと同じ出処ってことね。


 だけど、これこそ、どこでも聞いたことのない話。


 たぶん。



 うーん……。


 なんだろ、この違和感。


 ここにあいつのなにかがある気がする。



「……やっぱり初めて聞く概念ね。魔力に関しては“ある”か、“ない”か。それが“多い”か“少ない”か。そういう考え方しか教わらなかったわ」



 確か蛮もそう言ってたわね。


 それは日本の陰陽師の知識。



「そうか。生憎俺はこの考え方しか教わっていない」



 これ多分ウソ。


 カンだけど。


 言葉自体はウソってほどじゃないかもけど、でも頭の中はウソ。



 次は魔力の測定法のお話。


 どうやって魔力を測るのかって。



「それも魔術よ。相手の魔力を測るための魔術があるの。他の測定方法はワタシの知識にはないわね」



 陰陽術もそう。


 蛮も、みらいも、聖人もそうやって計ったって。


 他の方法はないみたいに言ってた気がする。



「アナタは他の方法を知っているの?」


「いや? この世界の魔術師たちは、そうやって魔力を測定するとしか聞いたことがないな」



 これもウソ。


 さっきと一緒。


 言葉はウソじゃないけど、頭の中は違うはず。


 ただの勘だから説明出来ないけど。



 そもそも――



 こいつの魔術理論みたいなのはホントだったとして。


 てか、それは多分ホントだとあたしも思う。



 じゃあさ。


 それをこいつに教えたのって誰なの?



 ここまでの話だと、自分を拾って育ててくれた人がそうってニュアンスで喋ってるわよね?


 つまりルビアさんってこと?



 それウソだと思う。



 あたしはルビアさんのことを知らないけど。


 でも多分ちがう。



 前にあいつから聞いた時、なんかすっごく雑で荒っぽくていい加減な人って言ってた。



 あたしがそれで浮かべるのは、パワハラしてる時の弥堂――


 あんな感じの物言いをする人ってイメージ。



 弥堂から聞いたルビアさんの言葉は今でもよくわかんないけど。


 でも、その教えが自分を生かしたってあいつは言ってた。



 あぁ――そっか。



 この尋問が始まる前に聞いた3つの言葉――



 諦めろとか。


 あと、運がよければ、とか。


 これってあいつがたまに言ってた「運がなかった」と同じ言葉だ。



 こっちだ。


 こっちがルビアさんだ。


 でも魔術は違う。



 多分ルビアさんは全くわからない人に説明する時に、解り易く噛み砕くみたいな物言いをする人じゃない。


 会ったことないけど、絶対そう。



 ああいう風に魔術のことを噛み砕けるんなら。


 あっちの3つの言葉ももっとわかりやすく弥堂に伝えたはず。



 だから違う。



 正直かなりの部分を勘で決めつけちゃったけど。


 でも結構自信ある。



 んじゃ、魔術の話は誰に教わったんだろ。


 エルフィさん?


 つか、その2人しか名前知らないしなぁ。



 いや、でもエルフィさんも違う?


 なんかさ。


 エルフィさんは大体のことは殴って解決するゴリラみたいな人って言ってたし。


 でもそのイメージってルビアさんだよなぁ……、うーん……?



 じゃあ、またベツの女?



 ん? 女?


 なんで女って思ったのあたし?


 ベツに男だって……、いや、女だ。


 間違いない。



 なんかそんな気がする。


 あのやろう。



 あたしはミラーさんと話す女の敵を睨む。



 あの光景も最初は不気味って思ったけど。


 なんかずっと手握っててさ?


 チャラくない?



 え? なにこいつ?


 全然モテ系って感じないのに、なんかチャラくない?



 言っとくけどさっきからあんたが言ってる『キミ』とかマジキモいから。



 やっぱりよ。


 こいつってば、ただのエロいヘンタイなだけじゃなくって。


 こいつってば、女関係でもクズなんだ。



 くそぅ。ゆるさねえ。


 ゼッタイにこんなヤツに愛苗は渡せない。



 なんか傍から見てると口説いてるみたいな感じになってるし。


 なんかミラーさんもどこかちょっとエロい感じになってるし。



 あたしなに見せられてるわけ?






 お話はミラーさんのサイコメトリーの具体的な話になってる。


 それって言ってもいいやつなのかな?


 なんかこのクズに騙されてない?



 なんかわかんないなぁ。



 これって仲良くなれたって見ていいの?


 なんかどういう基準でウソって判定したとか、そういう重要な情報をミラーさんから抜いてない?



 その話はすごく抽象的な話だった。


 あたしのスキルとは全然ちがう。



 そしたらあいつがまた――



「――加護の名は聴こえなかったのか?」



 は? なにそれ?


 また聞いたことない系の話をぶっこんできた。



 そしてそこでまた気付いた。



 ミラーさんのギフトの話もそうだけど。


 弥堂のこういう系の話も、『それ言っても大丈夫なやつ?』じゃない?


 だって、こいつそれずっと隠してたっていうか、見せないようにしてたわよね?



 これもわざと?


 あーっ! もうわかんない!


 なんもかんもあやしい!



 なので一旦置いといて。



 あいつは“異能(ギフト)”のことを“加護――ライセンス”って呼ぶみたい。


 あたしたちはスキル?


 あ、でも、スキル=ギフトかって聞かれるとちょっとビミョーよね?


 ライセンスってのもなんか意味が違うような?



 そういや前もライセンスがどうとかって言ってたっけ。



 加護。


 許可証。


『世界』が許す。


 みたいな。



 やっぱり、全部一緒っていうか?


 一つの繋がった設定っていうか?


 考えかたのように聞こえる。



 そういや、みらいが「システムが違う」とか言ってたっけ。


 案の定、やっぱり加護の話については、ミラーさんも知らないって。



 そしてあいつは――



「俺の手に触れろ」



 今度はまるで命令をするように。



 サイコメトリーで読んで、自分の言ってることが正しいかどうかを、ミラーさんが証明しろとか言ってる。



 ホント、ムチャクチャ。



 すごい度胸っていうか、頭おかしいっていうか。


 でも、ううん。


 こいつ――



――コワイ。




 多分ミラーさんも今、そう思った。



 他人には嫌われたチカラ。


 それに躊躇わずに触れる。


 使われることを恐れない。



「効率がいい」とかって、いつもみたいに。



 それは一見歩み寄っているようで――


――脅しているようにも見える。



 そんなチカラなんかよりも、もっと恐ろしい自分というモノを見せつけることによって。


 まるで、「お前のソレなんてちっぽけなチカラだ」って言われてるみたい。



 さらに――



「――神など何処にも居ない。人知を超えたモノを人が勝手にそう定義をしただけだ」



 これも前に聞いた。



 そしてこれもウソじゃない。


 やっぱり、なにかっていうか何処かで?


 統一された知識とか教え。



 どこで? だれに?



 こいつを探るっていうことは、この辺のことを知るっていうことなのね。


 でも、簡単じゃなさそう。



 なのに――



「――今、俺が喋った知識は、他のどの宗教組織や魔術組織も持ち得ぬ知識だ」



 え?



 そう思った矢先に、あいつはこんな風に簡単に言う。


 まるであたしに聞かせてるみたいで余計コワくなる。



 なんで?


 それも隠してたんじゃ……?


 てか、それってどういうこと?



 あいつのその言葉の真偽を、ミラーさんが見る。


 ウソじゃない。



 まるでガソリンを辺りにばらまくような――


 そんなヤケクソみたいなムチャクチャ。



 でも、あいつに、じゃなくて。


 ミラーさんになにか、火がついた。


 ううん。


 元々あった小さな火。


 隠してた火が強くなった。



 サイコメトリーのことについて、もっと詳しく話しだす。


 能力自体っていうより、それを通した弥堂の話。



「そうね。アナタの心は変化が見極めにくい。それだけじゃなく、感情と思考――それらがうまくつながっていないの」

「感情が起因となって、それを解消する方向へ思考が向くって説明したわね?」

「アナタはそれらが全部切り離されてしまっていることがあるの」



 なんとなくわかるかも。


 あたしもあいつと話しててそんな風に感じたことある。



「戦場から帰ってきて、PTSDを発症してしまい、日常生活に戻れなくなった兵士。そういう人に同じような症状が見られるわ」



 これはみらいが弥堂の正体を予測してた時に近いことを言ってたかも。


 そして――



「サイコキラー――」



 ゾクリと――


 またあたしの背筋に怖気が奔った。



 だけどミラーさんは――



「――アナタ、ワタシと一緒にステイツに来ない?」



 え?


 それってスカウト?


 そんなどストレートに?



 てゆーか!


 さっきからのこいつの態度も、スカウトされたくて営業してたとか言ってる!


 なにそれ!



 おかしいじゃん!


 あんた清祓課のバイトにきたんでしょ⁉


 なんで急にアメリカに就職とかって――



――あぁーーーっ! そうか……っ!



 こ、こいつ……っ。


 高飛びする気ね⁉ アメリカに!


 ま、まさかそのためにこの仕事を……⁉



 だから隠してた魔術とかの話をオープンにして自分を売り込んだんだ!



 ど、どうしよう……⁉


 それされたらこっちはめちゃくちゃ困る……!



 単純にアメリカに逃げられるのもそうだけど、なにより“G.H.O.S.T(ゴースト)”に入られたらマズイ。


 あたしたちが勝手に手を出していい存在じゃなくなっちゃう。


 これ、どうにかジャマしなきゃ……!



 でも、ミラーさんは何故かこいつを気に入ったみたいだし……


 てゆーかさ?



 なんか。


 なんかこいつさ?



 年上の女の人に取り入るの手慣れてない?


 都紀子さんもなんだかこいつに甘かった気がするし。


 なんなの?



 とか思ってたら――



「アンタが言った郭宮って、“どっちの”郭宮だ?」


「フフ、もちろん正当後継者の郭宮サマ――じゃなくって、そのお姉さまよ」



 え? 都紀子さん?


 なんで?



「ウフフ。ワタシが最初に口にした郭宮はお姉さまの方を示唆していたのだけれど。どうやらアナタは違う方を想像してしまったようね?」



 よくわかんないけど。


 なんか弥堂の方もミラーさんにやりこめられてたってこと?



 ミラーさんとやり取りしてた郭宮は都紀子さんの方?


 ってことは学園の生徒会長である京子(みやこ)センパイとか理事長とは直接繋がってるわけじゃない?


 弥堂は都紀子さんの子飼いのスタッフみたいな扱いってこと?


 や。でも、それでも、みらいがそれを知らされてないってのはヘンだし……



 ハッ――⁉



 年上……、女性……、甘い……ッ!


 ま、まさか、このクズ、都紀子さんとか、もしかしたら京子センパイとか理事長まで。


 今やってるみたいにチャラいことして、口止めさせてるとか……⁉


 そ、そんなことありえる……⁉



 本人がもしもやろうと思えば聖人なら出来そうだけど、だってコレ弥堂よ?


 やっぱクズ男って、一見陰キャそうでもそういうの得意なの?


 こ、こわい……、クズ男こわい……っ!



「まさか正当後継者様の方にも繋がりがあるなんて。しかも。ということはよ? その側近たるあの御影もアナタを知っていることになる。その彼女たちに認められている“外法の魔術師”――そんな人材が無能であるはずがない」



 なんというか。


 あたしみたいな純真なJKには考えの及ばない次元でのイカガワシイ攻防があったみたい。


 クズ男の特殊な女たらしスキルは置いておいても。


 これはやっぱり、こういう状況とか環境への慣れの差なんだろな。



 でも、悔しくない。


 おかげであたしも色々と有益な情報を得たし。



 あたしだって、ちょっとはやるでしょ?



 なんて――


 チョーシにのってイキってたのが悪かったのか――



 この後に、大変なことが起こる。



 ううん。


 あたしが何をどう思ってたって、思ってなくたって。


 そんなの関係ない。



 関係なく起こってた。


 誰にも止められず。



 だって。


 あいつはいつだって変わらないんだから。



 あいつとミラーさんが、手を取り合う――


 そんな風な光景だったはずなのに。



 あいつは突然“G.H.O.S.T(ゴースト)”の人たちを――



 これから仲間になるはずの人たちを襲い出した。


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