2章裏 G.H.O.S.T #EX
弥堂はこれから“G.H.O.S.T”の指揮官さんに紹介されるみたい。
あたしは自分が潜むためのスポットを探しながらそれを監視中。
隣のビルがいいかな。
人目を逃れながらちょっと特殊な愛用ブーツ――【跳兎不墜】で空間を踏んで高く跳ぶ。
それを何度か繰り返してあたしは一気にホテルの隣のビルの屋上まで上がった。
大体20Fくらいの屋上に着地すると同時に――
「【小指で支える世界】――」
――周辺のMAPを表示させる。
ここから作戦領域を監視することにした。
気配の遮断は……、どうしよ。
この隣のビルも作戦範囲ってことで一般人には退去してもらって、“清祓課”で一時的に徴収だか占拠だかをしてるらしい。
だから清祓課のスタッフさんがここに来た時に隠れてたりするとヘンに怪しまれちゃうかも?
あとで佐藤さんに相談しよ。
とりあえず弥堂の様子を【仮初の絆】の監視機能で見てることにする。
一回言ったけど、これはワルイ人のボスが手下の仕事ぶりを監視するためのものだ。
わかってる?
あんたなんか手下なんだから。
ちゃんとお仕事しなさいよ。
あと七海さまって呼びなさいよね。
あ、それはダメか。バレちゃう。
そんなことより。
あいつ、いきなりアメリカの人を殴ったりしないわよね……?
マジ心配。
口も態度も性格も全部ワルイから、誰とでもすぐにケンカになっちゃいそう。
てゆーかさ。
あいつって英語喋れないのに、どうするつもりなんだろ。
“G.H.O.S.T”ってアメリカから来たアメリカの部隊でしょ?
ってことは基本みんな英語で喋るわけじゃん?
そんなとこに日本語しか喋れないギリ犯罪者未満のヤツを押し付けたらさ、逆に迷惑じゃない?
そう思ってる内にもうご対面だ。
“G.H.O.S.T”の指揮官さんは意外にも女性の人だった。
しかも若いし。キレーな人。
佐藤さんと多分英語で挨拶して、握手してる。
ミラーさんって言うんだって。
その短いやりとりを聞いただけで、シゴデキって印象。
ふわー、カッコいいなぁ。
あたしもあんなお姉さんになりたい。
すぐに弥堂の紹介に。
そしたら案の定――
「――あいあむとむ」
あのさぁ……
また言ってるし。
あんたはトムじゃないってこないだ言ったでしょ?
え? それすらわかんない感じ?
まさかこいつあれでゴリ押しする気なの?
……スゴいな。逆に感心しちゃった。
物怖じしないって、あそこまでいくと最早特殊スキルじゃない?
ムテキか。
ほら、さ?
日本人って外人さんに外国語で話しかけられるとさ、「あわあわ」しちゃうってよく言うじゃん?
あいつそういうの全然ないのね。
逆になんかエラそうにしてるし。
つか、少しは不安になったりしないの?
だってさ、あのホテル内で英語わかんないのってあいつだけなわけじゃん?
自分だけ言葉通じなくって心細いとか思わないのかな。
あれ……?
そういえば――
あいつ前に、なんか外国で拾われたとか言ってなかったっけ……?
自分だけ言葉が通じない環境には経験があるからだいじょぶってこと?
それにしたってエラそうにしすぎだけど。
誰ともお話出来なくって心細いってのもそうだけど。
これ仕事なわけじゃん?
会話出来ないって絶対支障出るわよね。
そういう不安もないってわけ?
なんかあいつ。
うん。そう。
すっごく慣れてる。
あたしにはそんな風に見えた。
つか、あたしも行けばよかったかなぁ。
そしたら通訳してあげれたのに。
あいつ英語わかんないの自分だけなくせに、逆ギレして殴りかかりそう。
こないだそんな感じで、カフェで外人さんとケンカしたし。
あ、でも。
相手が気遣って日本語で喋ってくれた。
うぅ……、ゴメンねミラーさん。
ウチのバカ息子をよろしくお願いします。
この子バイトとか初めてで、色々とアレだと思うんですけど見逃してください……
ちょっと一安心出来たと思いきや――
――ダメだ……っ!
同じ日本語で喋っても、あいつはいつも通りに相手を困惑させるようなことを言う。
適当なことを言って。
失礼なことを言って。
またウソまで吐いて。
そんなあいつにあたしは呆れてしまったので、お相手のことを考えよう。
てゆーか、ミラーさん。
ジャスティン・ミラーさん
すっごいキレーな人。
アメリカの特殊部隊の指揮官っていうからさ、あたしはなんかイカつい軍人さんみたいなのが出てくるって思ってたのね。
だから、こんなキレーなお姉さんが出てきたのはすっごく意外だった。
あ、おっぱいもおっきぃ。ぐぬぬ。
でもしょうがない。外人さんだから。悔しくない。
つか、あのバカいきなりこのお姉さんのお胸触ったりしないでしょうね?
そういえば今日はまだセクハラらしいセクハラしてないし。
こいつは一日最低一回はセクハラをするはずなので、そろそろやらかすかもしんない。
ミラーさん逃げて!
でも特にそういうこともなく、次は今回の護衛対象の人を紹介される。
紹介って言っても遠巻きに見ただけだけど。
福市 穏佳博士。
なんか落ち込んでるっぽいっていうか、元気がない。
まぁ、でも、そりゃそうか。
博士の方もミラーさんと一緒で意外な印象。
思ってたよりもフツーな感じのお姉さん?
この人を守ってあげなきゃ。
ここで佐藤さんが退散。
あっさりとした感じで弥堂を置いてったけど、こんなのを日本からのヘルプって言って預けるの不安じゃないのかな?
そしたらミラーさんが部下の人を呼ぶ。
こっち――っていうか、弥堂の方に近寄ってきたのは黒人さんだ。
なんか強そう。ムキムキだし。
あたしが最初にイメージしてた軍人はこんなイメージだった。
でも、すっごく態度ワルイ。
え? アメリカってこういうのアリなの?
だから弥堂も許されてんのかな?
この人はダニーさん。
つか、ミラーさんと仲悪いなぁ。
どっちもキライなのを隠そうともしてないし。
え? これで仕事になるの?
だいじょぶ?
あたしこんなピリピリした職場ヤなんだけど。
面食らったあたしが人間関係に胃を痛めてると、あっちは何故かセンシティブな話題に移行してる。
あっという間にさらに険悪な空気に――
――と、思ったら。
なんかあのバカがまたワケわかんないこと言って、それにみんな困惑しちゃった。
そのせいでミラーさんたちの険悪さが有耶無耶に。
あいつぅ……、またテキトーなことばっか言って。
みんなビミョーな顏になっちゃったじゃんか。
他人のセンシティブを自分のセンシティブで上塗りしやがった。
あいつが人が死んじゃったみたいなことを匂わせたから、他の人は自分の話をしづらくなっちゃってる。
どうせウソでしょ。
なによ、拾って育ててくれた女――って、それってルビアさんだっけ?のこと?
え? 庇って死んだ……?
う、うそよね? あたしそんなのヤなんだけど……
もしかしてそういう悲しいことがあったからこいつってばこんな感じでグレちゃって……って、あっ⁉
弥堂はなんかすっごく見下すみたいな目で、ミラーさんとダニーさんの握手を見てる。
ほら、ウソだった。
誰が騙されるかっつーの。
こういうウソとかマジないわ。
そんでミラーさんがいなくなった途端に態度ワルくなるし。
「女のくせに鼻っ柱が強いな。白人の女ってあんなもんなのか?」
お前さぁ……
やっぱウソだったし。
「女なんてみんなバカだからな。適当に同情させて負い目を感じさせてやったら簡単に騙せる」
バカはお前だバーカ!
くそぅ、なんかあたしまでバカにされた気分。
こいつはやっぱり何処に行っても一番サイテー。
そしてサイテーなクズ男はダニーさんと二人っきりに。
だいじょぶかな?
ケンカしたりしないかな?
どっちも短気そうだし……
と思ったけど、意外とだいじょぶ。
陽気な黒人さんとあの陰キャクズとじゃ合わないかなって思ったけど、なんかそこはかとなくノリが合うみたい。
弥堂はダニーさんに色々教えてもらいながら一緒に移動。
ダニーさんが日本語喋れてよかった。
つか、あたしも今の内に一回戻るか。
さっき黄沙ちゃんに「15分で1回戻れ」って言われたし。
佐藤さんも戻ってくることだし。
ここの屋上を使うってことも言っとかないと。
気配を消して屋上からピョーンっ。
ホテルの入り口前に戻りながらも、ヤツの監視は怠らない。
敵よりも油断ならないわ。
そうやって弥堂の映像に目を向けると――
あいつもあいつで、油断なく周囲を観察してる。
こないだのデートの時みたいに、歩きながらさりげなく目線を動かしてた。
おしゃなカフェだとクッソ不審者だったけど、こういう場所だとその姿はなんか様になってる。
聞くべきこともちゃんと聞いてるし。
てゆーか、ダニーさんガラ悪いなぁ。
むしろ弥堂側の人って感じ。
キラキラ系女子みたいなミラーさんとじゃ、そりゃソリが合わないわよね。
それはさておき。
アメリカの“異能者”の事情とかも教えてもらってる。
あたしに、じゃないけど。
だけどあたしもあたしでそういうのよく知んないから、黄沙ちゃんとお話しながら内心で「ふむふむ」と頷く。
やっぱそっち系の人材はそんなにいっぱい居るわけじゃないのね。
日本は陰陽府があるからそこのスタッフ――じゃなくて陰陽師さん中心だけど、アメリカはそうじゃないみたい。
みらいがいっつも“スタッフさん”って言うから伝染っちゃったじゃん。
あいつめ。
ともかく。
人材不足だから“G.H.O.S.T”はあちこちから人をスカウトしてて、だから色んな人種の人が居る。
つか、あいつ――弥堂ね?――フツーに性別とか人種とか、そういうこと口にする。
センシティブだってわかんないのかな?
これ終わったら一回お説教しなきゃ。
普段の同年代の日本人しかいない教室とはワケが違うのよ。
あ、でも、教室にもリィゼがいるか。
でもあの子もあの子で、日本人の平均より大分ノンデリだからなぁ。
てゆーか弥堂――あいつって海外に居たのよね?
ヘンなの。
それにしても――
どっちも口ワルイなぁ。
傍から――っていうか盗み聞きしてると、弥堂とダニーさんの会話はケンカしてるみたいにも聞こえる。
でも実際はワリと仲良くお喋りしてる。
関西人同士の会話みたいな感じ?
知らんけど。
てゆーかさ、あいつが他人と友好的に話してるとことか初めてかも。
や。そりゃ野崎さんとかが相手だとあんまヘンなこと言わないしオラついたりもしないけど。
でもあれはどっか一線引いてるような感じがする。
見ててなんとなくだけど、あいつ、ダニーさんのことキライじゃない。
そんな気がする。
話は“G.H.O.S.T”の戦力についてに。
なんかさ、“異能力者”の人って、対人戦にはあんま慣れてないんだってさ。
あたしはそれにちょっと納得。
あたしたちの周囲で忙しそうにしてる“清祓課”のスタッフさんたちをチラ見。
例えばこの人たちとか、あと陰陽府のスタッフさんたち。
その人たちとあたしがバトる――とかってことになったとするじゃん?
イキってるみたいでちょっと恐縮なんだけど、でも、その場合はあたしが勝つ。
少なくとも、今までに見たことのある“そっち”の人たちが相手なら、そうなる。
でも、妖をやっつけるって話になるとそうじゃない。
多分ここの人たちや陰陽府のスタッフさんの方がずっと上手にやる。
あたしは逆に“そっち系”は苦手。
かといって対人戦の経験が豊富ってわけでもない。
向いてるのは対人だけど、戦った経験が多いのは妖とかそういう系の方なのだ。
そんなことを考えつつ。
弥堂を監視しつつ。
佐藤さんや黄沙ちゃんと必要なやりとり。
マルチタスク。あたしもシゴデキ。ドヤっ。
一通りの確認が終わって、ここであたしも一旦持ち場に移動することに。
あたしはさっきの屋上を使っていいってことになって、通信機をもらってまた移動。
人目を避けてからの連続ジャンプで屋上に戻ってくる。
その間に弥堂の方も目的の場所に着いてた。
あたしが今居るのは隣のビルの屋上。
弥堂はホテルの20F。
偶然にも大体おんなじくらいの高さの場所になった。
20Fには福市博士のお部屋もあるんだってさ。
そのフロアの、ダニーさんのチームの人たちが待機してる部屋に弥堂は通される。
そこであいつを迎えたのはダニーさんと似たような感じの人たちだった。
またガラ悪いなぁ。
流石にここには日本語喋れる人はいないみたい。
その人たちの話を聞いてくと――
――って!
こいつら犯罪者じゃん!
性犯罪者!
どうなってんの⁉
あたしはマジびっくりだったんだけど、あいつは何故か言葉も通じないのに打ち解けていく。
あー……、ふぅーん?
そういうこと?
やっぱ性犯罪者同士でなにか共鳴するものでもあんのかな。
マジないんだけど。
あーあ。やっぱあたしあっちに行かなくてよかったなぁ。
あの中に混じるとか絶対にヤ。
は? え? なに?
仕事前に痴漢した……?
えっと。
ジョークよね……?
いや。
あいつならやりかねない。
痴漢したっていうか、存在してるだけで既に痴漢だし。
つかお前らなに笑ってんだ。
あそこの人たちは自分たちの犯した罪や、弥堂のやったことを聞いて何故か手を叩いて喜んでる。
反省しろよクズども。
マジさー。
ドン引き以外になにもないわ。
<て、底辺だ……、ここが人類の最底辺だ……っ!>
うるさいじゃないでしょっ!
え? “G.H.O.S.T”ってそういう感じなの?
えぇ……、なんかイメージ変わっちゃったなぁ……
あ、でもでも、ミラーさんはマトモだったわよね。
いや待って?
ま、まさか、実はああ見えて……⁉
い、いやっ、ダメよ七海! 決めつけちゃダメ。
保留っ。まだ保留だから!
あー、でもなんかサガったなぁ……
あたしがモチベ下げてる間に、弥堂はダニーさんから作戦の説明を。
それ受けた後、しばらく待機に。
あいつはすみっこで一人で体育座り。
寝るとか言って、そのまま大人しくなる。
え? マジで寝てんの?
あんたメンタルどうなってんの? アスリートなの?
って思ってたら――
<――おい>
――って、テレパシーで話しかけてくる。
…………つかさぁ。
「おい」じゃねーんだわ。
あたしはあんたの彼女とか嫁じゃないって言ってんでしょ。
エラそうに呼びつけんじゃ――
――って、いけない!
ダメよ七海。
憎しみに囚われちゃダメ。
今のあたしは、ウェアキャットくん中学二年生男子。
あのバカのことはなんか絡みづらい不良のセンパイくらいに思っとこう。
それならギリ我慢できる。
<――ん? 呼んだー?>
ってことで、あたしはことさら軽い調子でお返事。
どうやらあいつは、あたしから自分の様子が見えてんじゃないかって疑ってるみたい。
ちっ、カンのいいヤツめ。
犯罪者的第六感ってヤツ?
めんどいから適当にぼかしておく。
ホントのこと言ったらゼッタイにゴネるし。
ちなみに、あたしからの見え方は『弥堂の視界をジャックしてる』とかじゃなく。
なんていうか、俯瞰?するみたいな感じで、あいつの姿を見下ろしている的な?
そのまんま監視カメラの映像みたいな感じ。
多少ならアングルやズームを変えることも出来る。
さらに、ちなみに。
何がどうなってこんなことが出来ているのかはあたしにもわかんない。
こういうスキルで、それが出来るから出来てる――そうとしか言えない。
そんなコンビニの店長室のモニターに映ってるみたいな――
ちょうどこないだパパが応接室にしかけたヤツみたいな――
そんな映像があたしの目の前にある。音声つきで。
なんか空中にモニターみたいなのが浮かんでんのよ。
あたしにだけ見れて、他の人には見えない。
そんな不思議ぱわー。
つか、今はそんなことよりさ――
<キミ大丈夫なの?>
<なにがだ>
――こいつのスパイチェックの方が心配だ。
これから一人一人ミラーさんと面談があって、そういうチェックをされるらしい。
どう考えてもヤバイでしょ。
だってこいつってば何もしてなくてもあやしいんだもん。
その上“サイコメトリー”だなんて。
あいつもそれは気になってたらしく、あたしに“サイコメトリー”について訊いてくる。
どうもあたしの能力のことも、同じ超能力みたいに思ってるっぽい。
そう言われると「確かに!」って自分でも思っちゃった。
けど、ゴメン。
あたしもわかんないわ。
だからサイコメトリーの想像が出来なくって心配だって言ってんのに。
でもあいつは自信あるみたい。
いやいや、あんた自分のことわかってないってば。
マジでヤバイって。
スパイとかそういうの関係なくさ。
こいつの頭の中って、どうせワルイことと、えっちなことでいっぱいじゃん?
別件で逮捕されちゃいそう。
だからあたしは「マジでヤバイって!」ってことを訴えてるのに、あいつはいつものヘリクツ。
もう知んないからね。
って呆れたところで。
またこっちの監視スキルについての話に戻る。
しつこいわね。
なんかこいつめっちゃ疑ってない?
なんなの? 自分の視界があたしに見えてるって。
てゆーかさ、ヘンじゃない?
フツー自分が見られてるって思ったら、今まさにあたしの前にあるような監視映像――こういうのを想像しない?
なに?
『自分の視界をジャック』って。
ん……?
最初、テレパシーを繋いだって時。
あいつは「魔術で似たようなことをしたことがある」って言った。
視界をジャック? 視界を共有?
そういう魔術がある?
それとも使える……?
あたしが小さな疑念を持ったその時――
「――ぎゃあぁぁぁーーッ⁉」
バカがまたとんでもないバカなことをした。
ってかマジばかっ!
え? なにがあったかって?
し、しらないっ!
あーもーっ。
なに考えてたか飛んじゃったじゃんか。
なんですぐ頭おかしいことするかなぁ。
ほら見なさいよ。
歴戦の性犯罪者たちもドン引きしてんじゃん。
やっぱそうなんだ。
あいつってば、変態の中でもスーパーな変態だったのね。
うんうん。知ってた。
あーあ、せっかくあの人たちと仲良くなれそうだったのに。
これじゃ教室と一緒じゃんか。
ばか。
ああいうことしたら自分がどう見られるかとか少しは考えなさいよね。
こないだもゆったじゃん。
あっ。
どう見られるかといえば。
ビルの屋上で一人あいつを監視してるあたしのこの姿も、傍から見たらどう見えるんだろ。
なんか。
珍獣の観察動画を観たリアクションを配信してるライバーさんみたいな?
そんな感じ?
んんっ。
えっとぉー、こんなクソ企画やらされてるあたしのことをー、ちょっとでもカワイソーって思ってくれたらー。
CH登録と高評価よろしくでーす。
応援のコメントとかも待ってまぁーす。
なんて。
現実逃避気味にそんなふざけたことを考えたその時――
ハッ――⁉
なにかヤな感じがして、あたしは反射的に振り返って頭上を見る。
そしたら、なんか黒い小さな影がスイーって飛び去って行った。
え?
なにあれ?
んん? あれって学園にある警備ドローンじゃない?
つか、みらいの会社で作ってるヤツ。
え? なに?
ってことは――
珍獣を観てリアクションしてるあたしを観てリアクションしてるみらいが配信してそれを観てるリスナーがいるってこと……?
……そんなわけないか。
いくらなんでも配信はしないよね。
や、待って。
あの子ならやりかねない。
前に、変装してイベントに参加する蛮のことをストーキングしてる動画晒してたし。
確認だけでもしなきゃ。
ってことで、みらいに電話。
出ない。
あいつめ。
やってんな?
もう! この忙しい時にっ!
とりあえず急いでメッセだけ。
えっと……
『顔だしNG』
これでよし。
……何の話だったっけ。




