2章裏 5月5日 ②
抑揚があんまない低い声で――
「俺が出来るのは主に近接戦闘だ。それに適した魔術をいくつか。遠距離攻撃や補助の類の魔術は不得意だ――」
――サラっと言われたアイツの言葉に、あたしはピクリと反応しそうになる。
自分を魔術師だと――アイツはそう名乗った。
あたしはそれに、ちょっとムカついた。
あいつがそっち系だってのは、みらいと話しててなんとなくわかってた。
そしてあたしたちはそれを散々探ってきた。
だけど、当然あいつだってそれを隠してるから、結局今日までその核心には至れないままだった。
なのに――よ?
コイツ、サラっとフツーに言いやがった。
や。言わないわけにはいかない状況だけどさ。
ホント、マジ、やだ。
でも。
おかしいな。
【魔術】なんてスキル。
あたしには視えなかった。
めっちゃあやしい。
内心ではそう思ってるけど、あたしは態度に出さないようにやっぱりスーン。
無よ、無。
そんくらいでかまってもらえると思わないでよね。
「オマエは?」
「あぁーっと……、ボクは逆にバックアップが得意かなぁ……」
次はもちろんあたしの番だ。
黄沙って女の子の質問に答える。
どう見ても小学生女子にしか見えない。
でも現場の戦闘の責任者なんだってさ。
ありえなくない?
だってイヌ耳カチューシャとかつけててさ、カワイすぎでしょ。
てゆーか、あの耳さっきから動いてない?
え? ホンモノ?
とゆことで、黄沙ちゃんをジィーっ……と――
――あ、【獣人】? そゆこと?
へぇー。日本にも獣人っていたんだ。
ならいっか。
相手のことより自分のこと。
ちょっと迷ったけど、あたしはやっぱりサポート系でいくことにする。
当日どんな状況になるかわかんないけど。
このバカと一緒にど真ん中で暴れるよりも、あたしは全体を見渡せて何かあったらフォローできるポジションの方がいい気がしたから。
だからあたしはサポートスタッフさんです。
ただの勘だけど。
「ナニ、デキる?」
「色々あるけど、一つはテレパシーみたいな?」
そう思ってもらえるように、そっち系中心のスキルで立ち回ろう。
そういう風に答えていく。
それに、ちょっと思いついたのよ。
今回のことを上手く利用すれば、昨日出来なかったことを仕掛けられるって。
見てろよ、変態め。
ということで。
そのためのシカケの第一弾がこのテレパシーだ。
ウソデートの時にみらいとやってたヤツね。
基本的には仲間としか出来ないんだけど、これをあたしと他の人との間でも出来るようにしようってコト。
それを可能にするスキルがあたしにはあるのだ。
それは――【仮初の絆】
本来パーティを組めない相手とでも、一時的にちょっと特殊なカタチでパーティを組むスキル。
あたしをギルド主ということにして、相手をその麾下メンバーという扱いにする。
そうやって、仮初のギルドを作る。
みらいはこれを『闇バイト編成』とか言って揶揄ってくる。
あいつめ。
ともかく、この【仮初の絆】を使って、普段みらいたちとの間でしか出来ないことを出来るようにします。
その一つが思念通話。
それをテレパシーってことにしとく。
大体一緒だしね。
距離がありすぎるとみらいたちとも繋がんなくなるけど、昨日とかはケータイで言う所の電波ブースターみたいなアイテムを使ってどうにかした。
ということで、今回はこれを弥堂と繋ぎます。
頭ん中にあいつの声が聴こえるってちょっとヤだけど。
まずは黄沙ちゃんと繋いで実演してみることになった。
「あはは……、じゃあ、ちょっと一瞬だけビリっとするかもだけど……」
これは実はウソ。
あたしは普段『マーキング』とざっくり言ってるけど、実際はそれに該当するスキルは一つだけじゃない。
何がしたいかっていうと要は『特定の人物の追跡』をしたいってことじゃん?
つまり、その追跡を叶える手段が複数あるのだ。
一つはマッピングスキルである【小指で支える世界】だ。
このスキルの主目的は周囲をマップとして視覚化すること。
その機能の一つとして索敵がある。周囲の人などを光点としてマップに表示するのだ。
だけど、一応仲間と敵は色を変えて表示されるんだけど、これはあくまで生命反応を表示するものだって、みらいが言ってた。
一つ一つを個人としては認識しない。
そこで、あたしが指定した特定の反応に印をつけて個別に追跡する機能がある。
通常これをマーキングと呼んでる。
そのまんまだけど。
これで出来ることはせいぜい居場所を追うことくらい。
効果時間も有限で、【小指で支える世界】の範囲から出ると解除されちゃう。
実はこれは2回だけ弥堂に使ったことがある。
一度目は、えーっと……、4月16日?
法廷院たちと初めて揉めた日ね。
この日の朝のHR後に愛苗のとこに挨拶に行って、自分の席に戻る前にさりげなく弥堂に触れてマーキングをした。
なんかクラスのみんなにヘンな風に誤解された気もするけど、あれはさりげなかったからセーフです。
それはさておき。
なんでそんなことをしたかっていうと、あの日は愛苗の初お弁当渡しの日だったからだ。
あいつがなんかゴネて逃げる可能性があるとあたしは疑っていたので、念のためにマーキングしといたのだ。
普段はゼッタイにこんなことしないんだけど、愛苗の初お弁当だからこれはしょうがないの。うんうん。
それに放課後にはちゃんと解除したし。
だからあの日お弁当を受け取った後、あいつが校舎の外に出てったことはあたしにはお見通しだったのだ。
って言っても、このスキルでは居場所を知ることしか出来ないから、詳しい様子は見えないんだけどね。
体育館のとこでしばらく止まってたから多分あそこで食べてたんだと思う。
反応的に他には誰もいなかったから、多分あそこで一人でご飯。
レモンティ飲みながら、ちょっと可哀想って思ってた。
二度目はその次の日、4月17日だ。
この日は愛苗のことであいつに頼みたいことがあった。
放課後にコンタクトをとろうと思ったんだけど、あたしこの次の日から旅行だったじゃん?
だから絶対に逃がすわけにいかなくて。
それで昼休みにギャーギャー揉み合いになった時にマーキングしといたのよ。
これもしょうがないの。愛苗のためだから。
だから正門前で不良に絡まれてる時も、校舎の中を移動するあいつの動きはあたしには把握出来てて。
正門から現れるタイミングもわかってるからバッチシ待ち伏せ出来たってわけ。
この時は「バイバイ」した後にすぐ解除してあげたんだけど、今にしてみるとそのままにしとけばよかったって少し後悔。
とはいえ、美景とあっちの島では距離があり過ぎるからどっちみち勝手に解除されちゃったんだけど。
というわけで、マーキングその1が【小指で支える世界】の索敵と追跡の機能。
続いてその2が、今ここで使おうとしてる【仮初の絆】の機能の一つだ。
これはさっき説明したとおり、仲良しじゃない人とも即席で組むためのスキルなんだけど。
これはホントに誤解しないで欲しいんだけど、実はこのスキルは犯罪者の人たちが強盗とかする時に使うことの多いスキルなのだ。
これがみらいが“闇バイト編成”って言ってた元ネタ。
要はスキルの使用者は指揮する人とか指示役の人ってこと。
そんで会ったばかりで信用できない手下を指示すると同時に、監視もするってわけ。
だから【小指で支える世界】とも併用・同期することで当然居場所は掴めるし、さらに【仮初の絆】の効果で相手の様子まで見ることが出来る。
監視するだけじゃなくって、連絡用に思念通話まで出来る。
今回はこれをテレパシーってことにして、弥堂にマーキングするというわけなのだ。
そんで、何がウソかっていうと――
【小指で支える世界】も【仮初の絆】も、繋いだ時に別に痛みなんてない。
むしろ【小指で支える世界】の方はまったく何も感じないだろう。
【仮初の絆】は勘のいい人は何かを感じるかも。
じゃあ、なんでそんなウソを吐くかというと、これが今回の作戦のキモなのだ。
マーキング手段はもう1つある。
これがなんというか切り札的なスキルで。
これを使えば、マーキングした人物に関してあたしが知りたいと思った情報を、その人が記憶してる限りは何でも見ることが出来る。
条件や制限はもちろんあるけど。
これは一番あたしが使うことを躊躇してるスキルで。
これまでにも僅かな回数しか使ったことがない。
そんなスキルだ。
これを打ち込む時には、それなりのショックがある。
多分気のせいじゃ済まないくらい。
それを誤魔化すために、あたしはここでウソを吐いた。
あたしは今回最終的に弥堂にこのスキルでマーキングするつもりだ。
それを成功させる為に、まず【仮初の絆】を使う。
どういうことかはその時までナイショ。
もしかしたら察した人もいるかもだけど、ヒミツね?
てゆーかさ、ちょっと聞いてよ。
話は少しそれるんだけどさ。
なんかあたしのスキルって、妙に“こっち系”が多いのよね。
こっち系ってのは犯罪チックってことね。
おかしくない?
だって、あたしってとっても品行方正な女子高生じゃん?
なんで?
どうしてこんな仕打ちするの?
才能は自分で選べないとはいえ、あたしはこのことに心の底から遺憾の意を表明します。
しかもさぁ。
みらいのやつなんだけど。
あの子は回復魔法とか支援魔法が得意なのね?
んで、「わたし聖女様みスゴくないですー?」とかってドヤ顔してくるわけ。
おかしくない?
だってさ。
あの子ってキャラ的にどう見ても“聖女”ってよりは、“邪神の巫女”って感じじゃん?
闇の者っていうか、そっち側じゃん。
マジ納得いかない!
言ってもしょうがないけどさ。
そんなわけで、あたしが普段スキルを使いたがらないのは、みらいたちにいつも言ってる「当り前みたいに使ってるとラインが曖昧になっちゃうから」というものだけでなく。
シンプルに自分のスキルが「好きじゃないから」というのもある。
使わなきゃしょうがなくなれば結局使うんだけどね。
では気を取り直して、黄沙ちゃんに【仮初の絆】を。
マーキングする時に軽いショックを感じてもらうために、電気ショックを与える攻撃スキルをめっちゃ手加減して同時発動。
これでピリっと静電気くらいのを感じるはず。
成功。
同様のやり方で解除をする。
その後であいつとも繋いでみようって話になったけど、案の定それは断られた。
うーん、警戒心っ!
でも、あたし的にも本番まで見せない方が都合がいいのでほっとく。
ふふん、ばーか。
後は“マッピング”や“索敵スキル”をちょっとぼかして伝えておく。
このスキル構成なら後方に配置されるはずだ。
もしも当日何事も起こらなければ、あたしは自分のチカラを特に見せずにやり過ごせる。
考えなしで飛び込んだけど、あたしなりに修正して、そんでそういう狙いをつけたのだ。
見てなさいよ、くそへんたいめ。
ヨユーぶってられるのも今のうちだけよ。
昨日キスしてこようとした仕返しはしっかりするから。
乙女の唇は安くないの。
未遂でも許されないから。
あたしは『ウェアキャット』――スキル名のまま。
あいつは『マッドドッグ』――そのまんまの名前。
佐藤さんは最後にキモいウィンクをして退室していった。
そして――
あたしは都紀子さんに叱られる。
多分この後みらいにも叱られる。
うぅ……、ごめんなさい……
それから案の定――
「――なにを考えているんですか⁉ 二人ともっ!」
――やっぱり怒られた。
あたしは都紀子さんに素直にごめんなさいをする。
そしてこれもやっぱり。
ごめんなさいの出来ないあんにゃろーは謝らない。
あいつのことはともかく、都紀子さんのことを少し。
都紀子さんは探偵をしながら、あたしみたいな特殊な子を保護したりしている。
あたしはその中でも、こうなった事情がかなり特殊なんだけど。
この世の中には、陰陽師とか魔術師とかのお家に生まれたわけじゃなくっても、たまたま魔力とかそういうヘンなチカラを持っちゃう子がいたり。
それ以外にもギフテッド――魔術とかともちょっと違う、そんな超能力みたいなチカラを持った子がいるんだってさ。
で。
やっぱりそういうチカラがあると、社会からハグレてしまいやすい。
都紀子さんは、そういうハグレちゃった子の保護や支援をしている。
それをするのに探偵ってお仕事は色々と都合がいいらしい。
隠れ蓑としてだけじゃなく。
探偵の情報網を使ってそういう系の子を見つける。
それで声をかけて保護して、ここの事務所で働かせたりして探偵のスキルを身に着けさせる。
一般常識とかも教えてイイ感じになったら独立支援――
――っていうような、そういう活動をしてるんだって。
都紀子さん的には、出来ればチカラを隠しながら平穏に自立して欲しいって思ってるみたい。
だけど結局はその特殊なチカラを見込まれて“清祓課”とか、そういう系のトコにスカウトされちゃいがち。
それは仕方ないことでもあるし、ありがたいことでもある。
でも、都紀子さんは多分それがちょっと悲しいんだ。
本人は言わないけど、あたしにはそう見える。
こういう世の中の――というか“ウラ”の事情を、あたしがちゃんと知ったのは去年の夏休みあたりから。
あたしもあたしでこんなんになっちゃったから、みらいの紹介でこの事務所でバイトさせてもらえることになった。
基本は事務バイトだったんだけど、それがきっかけというか入口だったんだと思う。
この頃からみらいも“あっち”の事情とかをちゃんとあたしに教えてくれるようになった。
みらいはあたしを清祓課に関わらせたくなかったから、多分この事務バイトってのがあの子のギリギリ許容できるラインだったんだと思う。
それなのに。
現場にまで出ていくようになったのは都紀子さんではなく、これもあたしの勝手だ。
あたしのことは、都紀子さんには“異能力者”って説明してある。
でもパパや他の調査員さんたちには秘密。もちろん他所の人にも。
だけど多分パパは勘づいてるかも。
ともかく、人手不足を見てらんなくなったから、あたしはそのチカラを使うことにしたのだ。
だから、それはみらいの気遣いを台無しにしちゃったことにもなる。
あたしはよくあの子に「全然言うこときかない!」って怒ってるけど、実はそれはお互い様で、“おあいこ”なのだ。
全くいい意味での“おあいこ”ではないので、お互いに直さなきゃいけないところでもある。
またもやそれなのに。
だからつまり。
今回もあたしがやらかしたこの勝手は、やっぱりみらいや都紀子さんの心遣いを台無しにすることなのだ。
それは本当に申し訳なく思ってる。
でも、こればっかりは退けないの。
でも、それでもやっぱりごめんなさい。
弥堂は――
「俺はまとまった金が欲しいんだ。一発数百万から数千万円を狙える仕事以外はやらない。だからこの仕事を受けたんだ」
――と都紀子さんに言う。
あたしはこれに少し「ん?」ってなった。
お金に汚いこと。
それを他人に恐喝すること。
それ自体はいつも通りなんだけど。
『金は力で手段だ。必要な時に必要なだけ使うべき物だ。使うべき時以外は無駄な消費を極力減らし、使う時に使える幅を拡げるために稼げる時に稼げるだけ稼ぐ。それだけのことだ』
あいつは前にこう言ってた。
あんま認めたくないけど、あたしも結構同意見。
今回はその『稼げる時に稼げるだけ稼ぐ』、そういう時ってこと?
なんか違う気がする。
なんていうか、ホントにお金が必要そう。
切実とか切羽詰まってるとか、そんな感じの。
なんで?
ハッ――⁉
こいつさては高飛びする気ね?
逃走資金ってやつ?
マジ反社。
つか、ゼッタイ逃がさないから。
こうなると、今回のバイト参加してよかったって思う。
知らないとこでコイツが大金手に入れて、そんでどっか遠くの外国とかに逃げちゃうとこだった。
そう思うと、結果論だけどこうなってラッキーかも。
でもその分、都紀子さんには心配かけちゃった。
都紀子さんは優しいから、弥堂のことも純粋に心配してる。
でも、なんか……。これも、なんか。
心配の仕方が、なんだろ……?
ま、いっか。
あたし的にはこの後みらいになんて説明するか考えないとだし。
というわけで、弥堂も帰ったし。
あたしはパパが送りのクルマを準備してくれてる間に、みらいに電話をかける。
でも、話中だったからメッセで概要だけ送っとこ。
『…………って感じでまぢヤバイの!』――と。
これでよし。
そうしてパパに送ってもらってお家に帰る。
実はパパには愛苗の捜索をお願いしてた。
パパはこう見えても、探偵としては結構スゴ腕らしい。
だけどそんなパパにも手掛かりすら――ううん、愛苗が元々存在していたという形跡すら見つけられない。
収穫なしではあるけど、フツーの捜し方じゃダメなんだってことはよくわかった。
パパが調べてこれなら、フツーのやり方じゃもうムリなんだ。
だからやっぱり、あたしがやるしかない。
玄関に入る。
すると、それを待ってたかのようなタイミングでのみらいからのコールバック。
その第一声が――
『――んもぅ。七海ちゃんったら困ったさんです』
――という呆れの混じったものだった。
これには何も言い返せない。
あれだけ言われていたにも関わらず、あたしは勝手に清祓課とコンタクトをとってしまったのだから。
在野の戦力が欲しい清祓課に、彼らの把握していない“異能”を知られること。
そしてそれが天使を撃退したものであること。
あたしたちはそれを隠さなければならなかった。
これはこっぴどくお説教をされるだろうし。
これをいいことにお仕置きと称して、またヘンな要求をされるに違いない。
添い寝とか、パンツとか。
だからあたしはある程度の覚悟――洗濯済みならギリ――をして電話に出たんだけど。
でも、みらいからは特にそういうことは言われなかった。
あの子はどこか急いでるようで。
佐藤さんとの話の内容をテンポよく確認されていく。
そして――
『――よくわかりました。このみらいちゃんにお任せください』
――とだけ、あの子は言った。
そのまま特にあたしを咎めることもなく、みらいとの電話は終わってしまった。
なんだろ。
怒られたり、セクハラされたりしたかったわけじゃないけど。
なんにも言われないと、かえって罪悪感が。
というか――
なにかあった?
あの子の方でも。
まさか聖人がなんか勘づいた、とか?
うーん。
わかんないけど、今は立場的にかけ直して問い詰めることはしづらい。
仕方ないか。
あたしはあたしの方に集中しなきゃ。
これ以上やらかさないように。
バイトの当日にみらいたちは美景に戻って来られない。
今回はあたし一人でどうにかしなきゃなんだから。
そんで次の日、5月4日。
この日は思ったより全然平和だった。
一日中みらいと明日の作戦会議をすることになるかなーって思ってたんだけど、むしろあの子の方が色々と忙しそう。
だからあたしは家事をがんばる。
明日は家に居られなさそうだから、今日の内にまとめてやっつける。
まずは洗濯だ。うりゃーっ。
明日あたしが留守の間は、みらいの――というか紅月家のお手伝いさんを派遣してもらえることになった。
顔なじみの横手さん。
優しいおばさんで、ウチの子たちにも大人気だ。
あたしはこれまでずっと、みらいのお世話をしてきたけど。
やはりこれもお互いさまで、今日みたいにみらいが色々助けてくれる。
だからホントはしょっちゅうお尻ひっぱいたりして叱ったりとかはしたくないんだけど……
あれで頭がおかしくさえなければなぁ……
ちなみに横手さんは紅月家の、えーっと……23代目?のお手伝いさんだ。
これまでの20何人の歴代お手伝いさんの殆どは、頭のおかしい望莱お嬢さまのオモチャにされることに耐えられずに辞職している。
入れ替わりのペースが速かったのはあの子がまだちっちゃい時で、最近は落ち着き……はしてないけど、なんというかそこはかとなくマイルドになった……かも……?
本人の供述によると、
「普通の人ってどれくらいで壊れるのか段々わかってきました」
――だそうです。
「一回お医者さんに診せた方がいいかな?」って紅月パパに真顔で相談されたことがある。
あたしはコメントを差し控えさせていただいた。
でも、ダメだと思う。
あの子の極まったレベルのヒールをかけても、まともになんなかったし。
ああいう子だって思って受け入れるしかないのだ。
ワルイことしたらお尻はぶつけどね。
あ。
弥堂の頭にもみらいのヒールを使えばワンチャン……?
ダメそうだけど機会があったら試してみよう。
そんな機会があるような展開になればいいな。
そんなみらいさんはこの日、佐藤さんと色々な相談や調整をしていたようだ。
あたしのことで交渉するために、今回の清祓課の任務に色々な便宜を図ってくれたみたい。
あたしが自分(紅月)の関係者であること。
自分(望莱)が戻るまで、あたしをスカウトしたりしないこと。
そういう話をつけてくれた。
あと――
これはあの子は言わなかったけど――
当日の作戦上のあたしの扱いについて、雑に扱わないように――とか。
多分。
うーん。
年下のくせにナマイキ。
なんて言えた立場じゃないけど。
あの子帰ってきたらハンバーグ作って晩ごはんに呼んであげよ。
そんな感じであたしは弟や妹たちと休日を過ごし、いよいよ次の日。
あやしいヤツとコンビを組んでのあやしいバイトが始まる。
あたしは今あいつを追ってるはずなのに。
そのあいつと組んで全然関係ない人を助ける。
ヘンなの。
 




