2章裏 あたしは普通の高校生なのに、バイト先で偶然出会うわけないっ!
「――ちょっと待ったァ……!」
そう叫んで、あたしは勢いよく応接室に飛び込んだ。
自分の口で。
自分の手で。
自分の足で。
だからきっと、これはあたしが始めた物語だ。
だけどその物語は結局、何も出来ないままで終わってしまった。
だからこれから語ることは、そんな情けないあたしの愚痴とか言い訳でもあるけど。
それでもしっかり振り返って反省するためのものでもある。
『次』の時には、こんなことにならないように。
その『次』という時は、必ず訪れるから。
その時に、同じことにならないように。
正直なところ、あたしは今すっごく落ち込んでる。
罪悪感や自己嫌悪。
そういったものがヤバイ。
結局のところ、あたしは甘く見てたんだと思う。
今回の仕事のこと。
そして、あいつのこと。
それは認める。
素直に。
じゃないと進めないし、愛苗のところまで辿り着けないから。
だけど!
早速だけど言い訳をさせて!
ダメって言ってもするけど!
こんなことになると思わないじゃん⁉
多分これは共感してくれる人がどっかに居ると思う。
確かに、あたしのバイト先は探偵事務所で。
その現場に出るようなことを続けていたら。
いつかはヤバイことに遭遇しちゃうことになるだろうなって、そういう風には考えてた。
わかってたし、覚悟もしてた。
だけど、一気に飛び越えすぎじゃない⁉
なんでフツーにテロリストとか襲ってきて、フツーに銃とか撃ちあってんの⁉
ここ日本なんだけど⁉
どいつもこいつもバカなんじゃないの⁉
……んんっ。取り乱しました。
確かにそういう可能性があると言われてはいた。
だからこれもきっとあたしの想定が甘かったんだと思う。
そうは言っても――って、楽観視してた。
認めます。
だからそれはいい。
ホントは全然よくないけど、一旦いいってことにする。
傭兵だのテロリストだの魔術師だのは、一旦スルーする。
その上で、あたしがホントに言いたいのは――
あたしがホントに一番ムカついてんのは――
――あのバカだ。
なんなの?
傭兵だのテロリストだの魔術師だのが襲ってきてんのに、それよりも一番ヤバイのはあいつだったって!
イミわかんなくない⁉
確かにあたしは甘かった。
想定が甘く、見積もりも甘かった。
だけどその上で、それでも言わせて。
こうはなんなくない⁉
だってさ、おかしいでしょ?
一緒に可哀想な博士を守るって話だったのに、味方のはずのあいつがいきなり他の味方を襲い始めるのよ?
そんでなんか博士攫うし。
ワケわかんないじゃん。
え? 裏切ったってこと?
なんで?
その割にはテロリストとも戦ってるし。
自分以外全員敵ってこと?
バカなの?
てゆーかそもそもさ?
あたしもっと手前のとこからイミわかんないのよ。
これも言い訳にしか聞こえないだろうけど、それでも言うわ。
なんでウチのバイト先にあんた居んのよ!
おかしいでしょ⁉
え? 1年くらい一緒に働いてたってこと?
それにどっちも気付いてなかったってこと?
そんなことある?
そうなっちゃった理由はあるにはあるけど、それでもありえなくない?
大体さ、マジあいつなんなの。
あたしここんとこずっとあいつのこと探ってたわけじゃん?
愛苗のことと、先月の港の事件のこと。
そしてあいつ自身のこと。
それを探るためにマジがんばってたのよ?
あいつってば警戒心強いし、後ろ暗いし、全然人のこと信じないから、めっっっっちゃ気を遣って近づこうと苦労してたのに!
そのために付き合ってないのに付き合ってるフリして、デートまでしてやったのに!
なんでノコノコあたしのバイト先にきてんの?
マジありえないんだけど。
いや、ね。
ある。
話としてはあるわよ。
同じガッコの子にバイト先で偶然出逢っちゃってー、とか。
そういうの。
友達の体験としてそういうの聞いたこともあるし、マンガで見たこともある。
だけどあたしは、それが自分の身にも起きるとは全然思ってなかったのね?
だってさ、ウチのバイトちょっとっていうか、大分特殊じゃん?
探偵ってだけでもまず高校生がバイトに来るようなトコじゃないし。
それに加えて、ここは都紀子さんの事務所だ。
御影 都紀子さん。
本名は郭宮 都紀子さん。
つまり、あたしたちが通う美景台学園の生徒会長である郭宮 京子センパイのお姉さんであり――
そして先代の郭宮家の当主だ。
事情があって今は御影の姓を名乗って、こっそり生活しているらしい。
さらに、そんな都紀子さんを護るための場所があのビルなんだってさ。
だから、フツーにはバイトや社員を募集なんかしてない。
あたしもみらいの紹介で働かせてもらってる。
御影――あ、理事長の方ね?――のオッケーが出ないとあそこには入れないのよ。
なのに、なんであんたがいるわけ?
あんた怪しいヤツ筆頭じゃんか。
痴漢だし変態だし。
どうなってんのよここの面接。
あーっ、もう! マジでイライラしてきた……!
ていうか、全然反省になってない。
愚痴しか言ってない。
でも、あとちょっと、これだけ言わせて?
これ言ったらちゃんと反省するから。
ってことで。
そんなわけだから、あたしはバイト先で偶然――なんて夢にも思ってなくて。
しかも、最近追ってるヤツ――あ、追ってるってそういうイミじゃないからね?
しかもしかも、そんなあのバカと組んで――
全然知らない人を守るとか――
アメリカだとか清祓課だとか――
テロリストだとか魔術師だとか――
そんなことになってちょっとドキドキしてたら、そんな中であのバカがあんなことしだして、そんであんなことになるなんて思わないじゃん!
フツー思う⁉
思わないでしょ⁉
思うわけないじゃん!
つーか、一番最初に人殺したのあいつよね⁉
そんでそれキッカケであんな派手なことになったわよね⁉
つか、爆破もあいつか!
マジふざけんな!
だからっ!
そんな世界一のバカにっ――
――あたしはフツーの高校生なのに、バイト先で偶然出会うわけないっ!
言い訳終わりっ!
さ、いくわよ!




