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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章35 MAD DOG ⑤


 弥堂が慣れない銃撃戦に身を投じる脇で、元カノが涙ながらに神に謝罪を続けている。



『――あぁ、神さまごめんない……。ようやくこの子も更生の兆しを見せたと思ったのですが、私の祈りが足りていませんでした……』


「うるせえな」



 ずっと無視をしていたのだが、いい加減鬱陶しくなってきたのでつい話しかけてしまう。


 すると、声をかけてくれるのを待っていたかのように、エルフィーネはガバっと勢いよく顔を上げて弥堂の方を向いた。



(このメンヘラめ)


『ユウキ――ッ!』



 心中で毒づいている間にロックオンされてしまう。


 どうせまた何かの説教だろうと、弥堂は先んじてうんざりとした顔を見せた。



「なんだよ。つか、お前。さっきあんな消え方しといて、こんなすぐにノコノコと出てくるなよ」



 さっきは言わないでおいたことを口にする。



『だって! あなた……、貴方が……ッ! また、あんな……、デタラメなことをするから……ッ!』


『だから言ったんだよ。このクズを生き残らせてもロクなことしねェって』



 すると、エルフィーネだけのヒステリーではなく、声だけだがルビアまで参加してきた。



『どうしてミラーを殺したんです⁉ せっかく上手くいきかけていたのに……! どう考えてもあれは殺してはダメな人でしょう⁉』


『どうせ弾みだよ弾み。なんにも考えちゃいねェ。ヤクのせいだ。これだからアタシャよ、ジャンキーはキライなんだ』



 口々に非難をされ弥堂はムッとする。


 とりあえず反論を試みてみた。



「あの女は俺をセラスフィリアと同じ呼び方しやがった。ムカついてたんだよ。だから殺してやろうと思ってた」


『嘘を吐くんじゃありません。そんな理由で殺すだなんてありえないでしょう』

『今思いついたんだよ。その場その場で適当なことしか言わねェんだ、このクズは』



 だが、女二人がかりでこられた口論に勝ち目などなかった。


 明らかに旗色が悪いのでそれ以上の反論はせず、弥堂は彼女らの言葉は無視することにする。


 代わりにエルフィーネのメイド服をジッと視た。



『な、なんですか……?』



 メイドさんはモジモジとしつつ警戒を露わにする。


 弥堂は先程思い出したことを彼女へ聞いてみることにした。



「さっき、お前に聞きそびれていたことがあったなと」


『私に、ですか? なんでしょうか?』



 真剣に説教をしていたのに勝手に話を変えてくる。


 エルフィーネは彼のそんなところに慣れ過ぎてしまっていた。


 なので、自分の話を引っ込めて気持ち居住まいを正す。


 そんなメイド女の顔を見つめながら、弥堂は真剣な表情で問いかけた。



「エル。もしかして、お前は魔法少女なのか?」


『はぁ?』



 余りに異次元な方向から飛んできた質問内容だったので、エルフィーネはあまりやったことのないような雑な口の利き方をしてしまった。


 そんな彼女へ弥堂は尚も問い詰める。



「今日だけじゃなく、前から思っていたんだが……」

『はぁ……』


「エル。お前は本気を出す時にメイド服を脱ぎ捨てるだろ?」

『えぇ、まぁ。足運びにスカートが邪魔なので』


「その時だ――」



 生返事を繰り返す元カノの股間へ向ける眼光を弥堂はギロリと鋭くした。



『あの……?』



 スカートの上から股間を押さえて隠しながら、エルフィーネは視線に軽蔑の意をこめる。


 しかし、そんなことでこの困った男は止まらない。



「お前は今日、白おパンツを穿いていた。間違いないな?」

『あの。セクハラです』


「なのに、だ。撲殺メイドから暗殺シスターに変わると、スカートの下にあったはずのおパンツが消え失せ、なんかエロいレオタードだけになる」

『ですから。セクハラです』


「変身した際に服だけでなくおパンツまで変わるのは、魔法少女の特徴だ」

『……バカなことを言っていないで、真面目に戦ったらどうですか?』



 エルフィーネから白い目を向けられるが、膨れ上がった弥堂の長年の疑問は簡単には解消されない。



「百歩譲って――おパンツの色が変わるのはまだいい。だが。消えてなくなるというのはどういうことだ?」

『何を言っているんですか貴方は』


「だってお前。あのエグイ角度のハイレグだぞ? あんなモンの上に穿こうが下に穿こうが、お前のもっさりおパンツが見えなくなるように隠せるわけがない。あれはどういう仕組みなんだ? まさかあの一瞬でおパンツを脱いでいるのか?」

『やめてください。セクハラです』



 弥堂は異世界時代から、エルフィの変身スキームに疑いを持っていた。


 この機会にメイドさんのスカートの中身について並々ならぬ関心を示すが、彼女は「セクハラだ」と繰り返すばかりで答えをくれない。



『というか、エロいとかエグいとか言わないでください。ひどい辱めです』



 ついにはそう怒られてしまった。



 さらに――



「――オイ、オマエサボってんじゃあねェよ狂犬ヤロウ」



――友軍にも怒られてしまった。



 戦闘中にメイドさんのおパンツにうつつを抜かしていたら、フェリペに見咎められてしまった。


 彼は弥堂に恨みを持っているので、ちょっとしたことでも神経が逆撫でされてしまうようだ。



 弥堂は脊髄反射で言い訳を開始する。



「お前が持って来たこの長い銃。引き金押しても弾が出ないんだ」


「アァ?」



 弥堂が新しく拾ったライフルを強調すると、「貸してみろ」とフェリペが手に取る。


 原因は1秒で判明した。



「弾が出ねェもなにも。セーフティかかってんじゃねェか。解除しろよ」


「意味のわからんことを言うな」



 それを指摘されるが、弥堂はすかさずプロの見解に口答えをする。



「意味わかるだろ! つか、こんなの常識だろうが!」


「バカめ。これは殺人兵器だぞ。人殺しの道具が安全って意味わかんねえだろうが」


「なに言ってんの⁉ つか……、オマエもしかして銃の使い方知らねェのか……?」


「今日初めて触った」


「なんなんだよコイツ……ッ!」



 フェリペは激しく困惑しながら弥堂のライフルの安全装置を解除してやった。



「おらよ!」


「…………」



 弥堂はそれを無言で受け取る。


 なにかバカにされたような気がしたので、素直に礼を言いたくないと思った。


 とりあえず嫌がらせをするために何か言い返そうと考えた時――



 倉庫の入り口から、また新たな一団が突入してきた。



 今度は“G.H.O.S.T(ゴースト)”側の援軍のようだ。


 現れるなり、入り口近くに展開していたこちら側の援軍部隊へ銃弾を撃ちだす。



「――あれは、まさかホテルに居た戦力か?」

「オイ! 話が違うぞダニー!」



 アレックスとビアンキに問われ、ダニーは首を横に振った。



「いや、あれはこの港に元々来ていた戦力の残りだな。外で待機してた連中だ」


「クソ、まだいたのか。ちょっとキツイな……」

「チッ、せっかく盛り返せそうだったってのによ……ッ!」



 悔しげに遮蔽物を叩いたビアンキへ、アレックスは真剣な目を向ける。



「ビアンキ。獣人化は?」



 ビアンキはさらに眉間を歪めて頭を振った。



「今日はもうムリだ。やったら多分さっきのシェキルみてェに獣に呑まれて暴走する。そうなったらオマエらも襲っちまう……」


(へぇ?)



 その話を横で耳に入れながら弥堂は片眉を僅かに撥ねさせる。


 どうやら獣人(ライカンスロープ)の力は自由に何度も使えるものではないようだ。


 しかし――



「――安心しろ。そうなった時は俺がお前を殺してやる。だから捨て駒になって敵を減らしてこい」


「アァッ⁉ ふざけんなよこの狂犬ヤロウ……!」



 現有戦力の効率的な運用アイディアを提示したが、弥堂はまた怒られてしまった。


 そのことに気分を害したその時――



 倉庫の外から一台の装甲車が乱暴な運転で入ってくる。


 敵のさらなる増援かと思いきや、その車は現れたばかりの“G.H.O.S.T(ゴースト)”の援軍を何名か轢き殺しながら弥堂たちの隠れる方へ走ってきた。



 遮蔽物の端まで来ると車体を横に向けてタイヤを滑らせる。


 激しいスキール音を鳴らして、その車は弥堂たちの背後で停車した。



 すぐにドアが開く。


 その中から出てきたのは――



「――オラ、武器のオカワリだぞ。クズども!」


「エマ――!」



 裏切ったはずのエマだった。


 元はアレックスたちと繋がりのある情報屋として潜入し、ミラーの秘書官をやっていた女性だ。


 しかし、彼女はダリオと共にミラーにアレックスたちを売り渡したはずだった。



 そういえば弥堂がミラーを殺害してから、戦場で彼女の姿が見えなくなっていた。


 ダニーがパチンッと指を鳴らす。



「オレらの援軍の数が多かったのはもしかして……」


「そうだよ。アタシが別で解放した連中だ」



 ダニーの問いに不機嫌そうに彼女は答える。


 次はアレックスが口を開いた。



「なんだよエマ。またあっちも裏切んのか?」



 その問いにエマは不本意そうに舌打ちをし――



「――ルセェ。コイツのせいだ」



――そして弥堂を睨んだ。



「やってくれたな、テメエ……ッ!」


「あ?」



 何を言われているのかわからなかったが、黒人とはいえ女ごときにナメられるわけにはいかないので、弥堂は悪態を返す。



「彼女を……ッ、ジャスティンを殺しやがって……ッ!」



 彼女はミラーを殺害したことに激しい怒りを覚えているようだ。



「アイツが、あの子がいなきゃ、“G.H.O.S.T(ゴースト)”にアタシの居場所なんてねェんだよ……! チクショウ……! なんでこんな……ッ!」


「そうか」



 どうやら弥堂のしたことで、彼女の身の振りに致命的な損害を与えてしまったようだ。


 しかし弥堂はそんなことに関心はないので、どうでもよさそうに流した。



 弥堂のその態度にエマがさらに眦を上げた時、アレックスが愉快そうに笑い飛ばす。



「ハハッ――路地裏の売女が高望みなんかすっからだよ! お花畑のブロンディじゃあるまいしよ!」


「ウルセェ! アレックステメェ! その役立たずのキンタマ喰いちぎるぞ……ッ!」



 上手い具合にエマのヘイトが彼に向いたので、弥堂は会話に興味を失くし彼女が持って来た武器を物色する。


 そうしたら、手持ちのライフルよりも太い、なんかイイ感じに強そうなヤツを見つけた。


 どうやって使うのだろうと、ペタペタと適当に触っていると――



「――オ、オイ、それはマジで危ねェから雑に扱うなって……! 後で使い方教えてやるからそこに置け。な?」



――弥堂の手つきに不安を覚えたフェリペが説得してくる。


 その間にもアレックスとエマの口論は続いている。



「――相変わらず口がワルイねェ! 下手に澄ましてるよりそっちのがお似合いだぜ!」

「黙れッ!」


「黙るのはオマエだよクソビッチ。そのワッリィ口を塞ぐのにちょうどいいモンがあンだ。タマより棒の方を突っこんでゲロ吐かせてやっから口開けろよ」

「アァ? だったら口より先にチンポ出してみろよ腰抜け。敵をぶっ殺す片手間で抜いてやンよ。この早漏ヤロウ……!」


「あわわわ……」



 周囲が一気にスラムの路地裏のような様相になり、福市博士は頭を抱えたまま床に蹲ってただ震えるばかりだ。



「――クソッタレ! ムカついてきた……!」



 アレックスの軽薄な煽りが続き、ついにエマが激昂する。



「寄こせ――!」



 そして弥堂がフェリペに渡すまいと抱えていた武器をガッと奪い取った。



「オ、オイ……、オマエ、それ……」



 アレックスは彼女の持つモノを見てギョッとする。


 彼女が手に取ったのはロケットランチャーだ。


 エマはそれを持って倉庫の入り口付近の戦線を睨む。



「コイツらを皆殺しにしてから逃げる。もうそれしか……」



 ブツブツと呟きながら砲口に弾頭をこめて、肩に担ぐ。



「……アタシに生き延びる道はねェンダヨォォ……ッ!」



 そしてアレックスを押しのけ、遮蔽物になっている車の残骸に足をかけて身を乗り出すと――



「ぶっ飛べクソどもがァァ……ッ!」



 一切の躊躇なく屋内で砲弾を発射した。


 籠ったような低音が鳴るとすぐに砲弾の向かった先で爆発が起こる。


 その後にはまた悲鳴と怒号だ。



「ウオォォォ――ッ⁉」



 発射の寸前に、アレックスは慌てて身を投げ出してバックブラストから逃れた。


 だが――



「――グエェェ……ッ⁉」



 不安定な足場でそんなものを発射したエマがその上に落ちてくる。


 アレックスの口から潰れたカエルのような声が漏れた。



 しかし、彼はすぐにエマを押しのけて立ち上がり――



「――よっしゃァ! チャンスだぜ! ぶっ殺せヤロウどもッ!」


「オォッ!」

「ヒュゥーッ!」



 この程度のことには慣れたものと、むしろ舞い込んだ機に素早く乗る。


 ビアンキとダニーが号令に応えた。



 弥堂はふと、フェリペの様子に気が付く。


 彼は射撃に参加していない。



 彼は苦悶の表情で脂汗を流す。


 引き金の傍に置いた指を震わせていた。



「おい。お前なにサボってんだサンバ野郎」



 弥堂は先程サボリを注意された意趣返しに積極的に彼を詰る。


 すると、フェリペに睨み返された。



「テメエに折られたせいで指がイテエんだよォッ……!」


「そうか。それは気の毒だな」


「クソ! くたばれ、このマッドドッグが……ッ!」



 自分に都合の悪いことを言われたので弥堂は苦しむ彼を無視して、銃を片手にダニーの隣に並ぶ。


 何秒間かそこで射撃を行って――



(マッドドッグ……)



――今しがた呼ばれた自分のコードネームについて思い出した。

 


「そういえば――」



 それは隣にいるダニーにホテルでそう呼ばれた時のことだ。



「おい、ダニー」


「ア? な、なんだよ?」


「ちょっと思い出したんだが」


「オ、オマエ、この状況でツレションしてる時みてェに世間話を振るなよな……」



 ダニーは応戦に忙しそうにしながらも弥堂の相手をしてくれる。



「アンタがホテルで言いかけた『マッドドッグ』の話なんだが」


「アァ? それがどうした?」


「なにか、少しニュアンスが違ったように感じたんだが、あれはどういう意味だったんだ?」


「ハァ……⁉」



 こんな状況で気にすることかと、ダニーは素っ頓狂な声を出す。


 しかし、すぐにこの男は頭がおかしいのだったと思い出して、仕方なく答えてやることにした。


 機嫌を損ねると何をされるかわからないからだ。



「あぁーっと、それならよ……」


「あぁ」


「オレら――っつーか、海兵のスラングだよ」


「スラング?」



 弥堂は不可解そうに眉を寄せる。


 ダニーは少し表情を緩めた。



「オォ、そうだ。まぁ、『イカレてる』は『イカレてる』って意味なんだろうけどよ。少しいい意味なんだよ」


「わからないな。どういうことだ?」


「仲間や味方の尊敬を集める勇敢なヤツがそう呼ばれるんだ。えぇっと……、日本語だと、なんだ……?」



 ダニーは遮蔽物から銃口だけを覗かせて狙いも付けずに適当な射撃を行いつつ、宙空へ目をやって弥堂にもわかるような言葉を探す。



「……あぁ、これか! そうだな――」



 そして弥堂へ向かってニカっと笑った。



「――“勇者”ってヤツだ!」


「…………」



 しかし、その単語を聞いた瞬間、弥堂は激しく気分を害した。


 ガッと、ダニーの胸倉を掴む。



「てめえ誰が勇者だこのガングロ野郎ッ。許し難い侮辱だ」


「アァッ⁉ だから褒めてるっつってんだろ⁉ なんでキレんだよこの頭の悪い黄色ザルがよ……ッ!」


「頭がワリィのはテメエだろうが。レイプ魔の分際で人間ヅラしてんじゃねえよ」


「いーやオマエだね! 昔のよ、オレらの大統領が言ってたんだ! オマエらアジアの猿は頭蓋骨のカタチが違うから脳みそ少なくってよ、生まれつき種族的にバカなんだってよ! バァーカッ!」



 育ちの悪い男たちは極めて差別的な言葉を応酬し、お互いに不毛に罵り合った。


 それで気分が晴れることはなく、ただ苛立ちを加速させるだけだ。



 特にメンヘラの弥堂は一度イライラすると暴力を行使しないと気が済まなくなる。



「クソが。ムカついてきたぜ。おい、女――」



 そして手近な女に当たり始めた。


 ターゲットにされたのはエマだ。



「――アァ⁉ ジャップのガキがナメた口きくな!」


「黙れ。犯すぞクソアマ。それよりも、この港に来てる敵の戦力はこれで終わりか?」


「アン? あぁ……」



 売り言葉に買い言葉でカチンときたエマだったが、意外と建設的な質問をされてしまったので、仕方なく戦場を見渡す。



「……そうね。これで全部。もういないわ」



 そして弥堂の問いを肯定した。


 弥堂は頷く。



「そうか。女。お前この車で戻って入り口を塞いで来い」


「なんだって……?」


「連中は一人も逃がさない。ここで確実に皆殺しにする」


「このイカレ野郎。簡単に言ってくれるけど、あそこにはまだ援軍の戦力が残ってるだろ。アタシに死ねってのか?」


「俺がどうにかしてやる」


「は――?」



 目を丸くするエマを放って、弥堂は念話を意識する。



「エアリス。時間は?」


<もう大丈夫よ>


「わかった」



 端的にやりとりをして、次はまたダニーに声をかけた。



「おいダニー。このクソ野郎。爆弾よこせよ」


「はァ? 爆弾だァ?」


「さっきアンタが使ってたヤツだ。まだあんだろ? 出せよ」


「バ、バカ……、発砲中に服を引っ張んなよ……ッ!」



 弥堂に懐を弄られながらダニーは慌てて射撃を中断し、仕方ないので彼に手榴弾を渡してやる。


 弥堂はそれを受け取ると、周囲に向けて発声した。



「おいクズども。聞け――」



 味方のクズどもが弥堂に注目する。



「今から俺があの援軍部隊をまとめてぶっ殺してやる。そうしたら俺とこの女で、元々いた部隊の残存兵力を横から撃つ。お前らはここから押し込め」


「は? アタシ……?」

「まとめてって、どうやって……」



 要は敵の援軍を潰してから本隊に十字砲火を仕掛けるという話なのだろうが、矢継ぎ早で言葉足らずな弥堂の説明に誰も着いてこられない。


 弥堂はそんなことは気にも留めず、ダニーの方を向く。



「ダニー。この爆弾はどう使う?」


「これはオマエ。このピンを抜いてから5秒で爆発する。3秒でもう投げろよ?」


「そうか」



 ぞんざいな態度で頷く弥堂に、ダニーは不安そうな目を向けた。



「マッドドッグ。オマエ、それどうするつもりだ?」


「その名を証明してやる」


「あ――?」



 弥堂はまた全体を見回し――



「てめえらに俺の勇敢なところを見せてやる。それを見たらお前らどうしようもねえクズどもは俺を尊敬して、俺の為に働け。いいかクソッタレども、よく聞け。俺は――」



 極めて挑発的な言葉とともに、今まで何度もそうしてきたように――


 弥堂は手榴弾の安全ピンを引き抜いて放り捨て、そして彼らに自分を教えてやる。



「――俺は、抜かずに三発出せる」



 その言葉に全員が呆気にとられた顔をした瞬間――



「【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】――」



――彼らの居る『世界』から姿を消した。




 そして、次に姿を現したのは、入り口付近に展開していた“G.H.O.S.T(ゴースト)”の援軍部隊のど真ん中だ。



「よぉ、クソッタレども。一緒に死体になろうぜ――」



 気さくに声をかけると一斉に銃口を向けられる。


 だが、それらの銃から弾丸が放たれるよりも先に――



 彼らに対して見せつけるようにして掲げた手榴弾が爆発を起こした。



 弥堂の自爆に巻き込まれて、援軍部隊は弾け飛ぶ。



「な……ッ⁉」



 味方の傭兵たちはその文字通りの自殺行為を前に言葉を失った。



 全員が射撃を止めて、ボロ雑巾のようになって床に転がる弥堂の死体を茫然と見ていると――


 ふいに、その死体が起き上がった。



「おい、全員さっさと動け――」



 そして何事もなかったかのように命令をしてくる。


 誰もが思考をフリーズさせてしまう中――



「クソッタレ!」



 いち早くエマが我にかえり、車に飛び乗った。


 そして弥堂の指示通りに倉庫の入り口を塞ぐような形でその車を止めた。



 彼女は車からすぐに降りてくると、弥堂と共に“G.H.O.S.T(ゴースト)”の本隊への射撃を始める。



「ハッハァーッ! 意味わかんねェ! イカレた夜だ! マジでサイコーだぜッ!」


「クソだよクソ……ッ!」


「人生最悪の夜だ……ッ!」



 ヤケクソになったようにアレックスたち傭兵3人も敵への攻撃を再開した。



「ハハハ……、ゾンビとか、ワルイ夢だぜ……」



 引き攣った笑いを浮かべながらダニーも引き金を引く。



 敵の退路を断ち、増援を潰し、ここからが最期の攻防だ。


 あともう少しで生きて帰ることが出来る。




 クズどもはかっ開いた目ん玉を血走らせながら、己の正気を誤魔化して人を殺す。



 生きて戻るたびに、こんなことはもう御免だと、もう二度とやらないと反省し、そしてまた繰り返す。



 クズは戦いから逃げるために、戦い続ける。



 ずっと。


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このノリが好き。あと >“勇者”ってヤツだ ひゅううう
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