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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章35 MAD DOG ④


 弥堂がアレックスたちと共に遮蔽物に隠れながら“G.H.O.S.T(ゴースト)”と銃撃戦を繰り広げていると――



《――そうよ、皐月組……ッ!》


「あ?」



 頭の中にエアリスの声が届く。


 先程の弥堂とアレックスの会話を聞いていて何か思いついたようだ。


 ちょうど手持ちのライフルの弾が切れたので、弥堂は彼女の相手をする。



《ユウくん! 皐月組に連絡して逃走のサポートを要請するわ!》

「別に構わんが、出来るのか?」


《あそこの若様の連絡先は入手してるわ》

「そうか。好きにやれ」



 どうでもよさそうに返事を返す。


 すると、同じく弾切れを起こしたビアンキがマガジンを入れ換える為に、弾避けの遮蔽物の陰に引っ込んでくる。


 そして弥堂の様子を見咎めた。



「オイ、テメエ。なにボーっとしてやがんだ。さっさと撃てよ」



 弥堂は無機質な眼を彼に向け、ちょうどいいと手に持ったライフルを見せながら質問をする。



「弾が出なくなった。なんでだ?」


「はぁ?」



 その質問にビアンキは眦を上げた。



「お前が撃ち切ったからだろ!」


「なんですぐに弾が無くなるんだ?」


「オマエが使ったからだよ!」


「じゃあもう出来ることはないな。後はせいぜい頑張れ」


「弾替えろよッ! そこにマガジン転がしてあんだろ⁉」



 とんでもないことをやらかしておいてのこの弥堂のやる気のない態度に、ビアンキは額に血管を浮かばせる。



 彼が指差す方を見ると、確かに床にいくつもの替えのマガジンが散らばっていた。


 ここに逃げてくる際にアレックスやビアンキが抜け目なく拾ってきたようだ。


 弥堂はとりあえずそれを拾ってみるが、すぐに首を傾げる。



「どうやるんだこれ?」


「なんで知らねえんだよ⁉」



 こんなイカレたドンパチをする人間がまさか銃の扱い方を知らないなどとは露とも思わず、ビアンキはビックリ仰天した。



「ダッハッハッハ! ガキ同士さっそく仲良くなってんじゃあねェか!」


「ウルセェッ! アレックスこのヤロウ!」



 その様子をアレックスが横から揶揄うと、ビアンキは怒鳴り返しながら弥堂の銃の弾を替えてやり、すぐに射撃へと戻った。


 ビアンキが復帰すると入れ替わりでアレックスも弾を交換する。


 そして彼も射撃を再開した。



「……とはいえ、キチィな」



 まだまだ数の多い敵を数えながら、アレックスは冷や汗を一筋垂らす。



 多少替えの弾があろうとも、どのみち手持ちの数ではとても足りない。


 兵数も武器数もあらゆる物量において、敵の方が上だ。



 今は彼らもまだ混乱しているから、どうにかこちらも抵抗出来ている。


 しかし、このままではいずれ押し込まれるのは考えるまでもない。



 弾切れになる前に一か八かの強行突破にて脱出を試みるべきか迷う。



「今はシノゲてるがこんな場所……、グレネードでも投げ込まれたら一発でオシマイだぜ……ッ!」



 アレックスは戦況に焦りを感じていた。



 だが――



 それは“G.H.O.S.T(ゴースト)”の方も同じだった。



 彼らは突然指揮官を失い、現在頭が不在だ。


 それも、内容の明白な任務や戦闘の中で失ったのではない。


 その任務が終わった矢先に、突然意味不明に指揮官が殺されたのだ。



 それをやったのは一応味方の立場のはずだった魔術師。


 その男は現在、何故か彼自身が制圧したテロリストと一緒になってこちらへ襲い掛かってきている。



 彼らにとってもこの状況は意味不明だった。



 今は指揮官を殺されたので、とりあえずそれをやった者に応戦をしている。


 だが、自分たちが何故あの連中と今戦っているのかについては、誰にも明確な答えがなかった。



“犯罪者どもめ……ッ!”



 隊員たちは苛立つ。



 ヤツらは博士を人質にとってはいるが、数はたったの数人。


 しかし、その数人でしぶとく抵抗をされている。


 仲間も何人も殺された。



 さらにその敵の中には、単独で何体ものモンスターを屠った魔術師までいる。



 得体の知れないモノを相手に、目的の見えない戦いを強いられ――


 彼らもまた疲弊し、焦燥をしていた。



 そんな状況下に一定時間置かれると――



“――クソッ! グレネードを持ってこい……!”



――誰か荒っぽい者がそんなことを叫ぶ。


 冷静さを保った者はそれに反論をする。



“バカを言うな! あそこにはシズカ博士もいるんだぞ!”


“そうは言うが……、このままだと下手したらこっちが壊滅させられるぞ⁉”


“そ、それは……”



 隊員同士意見が割れる。


 それを調停する指揮官は不在だ。



 議論が停滞しかけた時――



“――グレネードを持って来たぞ!”



 背後からそんな威勢のいい声がかかった。



 その声のした方向は倉庫の出入り口だ。


 元々倉庫内にいた隊員ではない。


 そこから現れたのは――



“――ダニー……?”



――チンピラ隊員のダニーだった。


 隊員たちはダニーに注目をする。



“オマエ今までどこに……?”

“いや、逆だ。オマエはここの配置じゃなかったはずだ。何故ここに居る?”


“質問が多いぜ!”



 矢継ぎ早に質問を重ねられ、ダニーは辟易とする。


 しかしそれも無理はない。



 ダニーはホテルに配置された人員である。


 ここに居ないはずの者が突然現れれば当然の疑問だ。


 さらに――



“――というか、なんなんだその恰好は?”



 隊員はダニーの姿に怪訝な目を向ける。


 そしてそれも無理はないもので、ダニーは“G.H.O.S.T(ゴースト)”の戦闘服の上から何丁ものライフルをベルトで提げている。


 まるで戦争映画のワンシーンのような出で立ちで、とても現実で戦闘を行うような恰好ではない。



“あーもう! オレぁ捕虜の隔離を頼まれてたんだよ! ホテルで捕まえたスパイをこっちに移す役目だったんだ!”



 ダニーはとりあえず答えるのが楽な問いから答えていく。


 彼はまだホテルで戦闘が起こる前から捕虜としていた敵兵を監視する役に就いていたようだ。


 しかし――



“――それがこっちと連絡とれなくなったもんだからよ、様子を見に来てみりゃあこのアリサマだ!”



 その説明に隊員たちも納得を見せる。



“と、いうことは、応援に来てくれたのか?”


“オォ、そういうこった。他にも後から来るぜ!”



 ダニーの言葉に、優勢なはずなのに劣勢を感じていた隊員たちから次々に安堵と歓声が漏れた。



“……よし! これで勝ちが見えてきたな……!”



 そして“G.H.O.S.T(ゴースト)”たちは息を吹き返す。


 そんな仲間たちに、ダニーは威勢よく息を巻いた。



“アァ! このオレがいっちょ派手にブチかましてやるからよ。オマエら見とけよな!”


“は? お、おい……ッ!”



 ダニーはドンっと自身の胸を叩いて頼りがいを強調すると、部隊の前に出る。


 その先は当然敵の居る方向だ。



 ダニーの身体には、前面にも背面にも、何丁ものアサルトライフルがぶら提がっている。


 まともに射撃も出来ない装い。


 そんな姿のまま彼は両手に手榴弾を握りしめ、テロリストたちの隠れる工事車両の残骸へと突貫をした。



“うおォォォ……ッ! この卑劣なテロリストどもめ! このダニー様が正義の名のもとにぶっ殺してやるよ!”



 走りながら、あまり彼には似つかわしくない台詞を大声で叫ぶ。



 その様子は、弥堂たちからもよく見えている――




「――あれは、ダニーか?」



 弥堂は物陰からその姿を眼に映し、即座に銃口を向ける。


 しかし、その引き金を引く前に銃身の上に手を置かれ、そっと銃を下ろされてしまった。


 それをやったのはアレックスだ。



「おい――」


「――いいから。見とけよ」



 怪訝そうに抗議をする弥堂に、アレックスは器用なウィンクを見せた。



 そうしている間に、爆弾を持った黒人の特攻兵はもう間近だ。



“ダニー⁉ 近づきすぎだ! 何をしている……ッ!”



 かなり距離を詰めたにも関わらず、ダニーは一向に手榴弾を投擲する様子を見せない。


 そもそも安全ピンすらまだ抜いていない。


 それでは的になるだけだと焦った仲間が声をかけるが、ダニーは奇声を上げながら敵の隠れる遮蔽物へと尚も走って行く。



 しかし、そんな無防備なダニーの身体を敵の銃弾が貫くことはなかった。



 やがて、弾避けの残骸の目前で、ダニーは急激に進路を変える。


 残骸のサイド――端の方へと全力ダッシュで回り込み――



「ウオォォォ――ッ!」



 そのまま弥堂たちが隠れている裏側へと滑り込んだ。



「あ――?」


「ウオラァッ! 喰らいやがれ――ッ!」



 何が起きていると弥堂が眉を寄せるのを尻目に――


 遮蔽物に身を隠しながらダニーは手榴弾のピンを抜いて一拍空けると、それを“G.H.O.S.T(ゴースト)”たちの方へと投げ込んだ。



 わずかに間が空いて、爆音と悲鳴が上がる。


 遮蔽物の向こうのその音を、弥堂は口を開けながら聴くと――



「――おい。まさか……」


「そういうことよッ」


「オマエらこれ使え!」



 弥堂が察したことをアレックスが肯定し、そしてダニーは持ち込んできた大量の銃火器を床に撒く。



「ヨッシャァー!」

「ヒャッホォー!」



 ビアンキとアレックスが歓声を上げてその銃に飛びつき、そしてすぐに“G.H.O.S.T(ゴースト)”への射撃を再開させる。


 弾を飛ばしながらアレックスは顔だけダニーへ振り向かせた。



「サンキュー、ダニー! 遅かったじゃあねェか!」


「クソッタレ、アレックス、テメエ……! こんなの話が違うぞ!」


「その文句はこのニイチャンに言ってくれ。今夜のことは大体コイツのせいだ」



 アレックスに抗議をしたダニーは言われるがまま弥堂を睨む。



「オイテメエ、マッドドッグ! オマエ本当にそのまんまの意味でマッドドッグじゃねェか……ッ!」


「よくわからんが、ダニー、アンタこいつらの仲間だったのか?」


「アァ?」



 弥堂が質問を返すと、ダニーは意気が削がれたようにテンションを落とし唾を吐く。



「……ホテルで言っただろ。オレらみたいなのは“G.H.O.S.T(ゴースト)”に居ても、捨て駒か肉壁にされるだけだ。今回を生き延びても先は永くねェ。だからこの任務中に戦死したフリをして、アレックスの傭兵団に入れてもらおうとしてたんだよ」


「そうそう。前からのツテでね。代わりに情報リークしてもらってたんだぜ」



 少し昏い疲れを滲ませるダニーと、イタズラに成功したような物言いのアレックス――


 二人の供述を聞いて、弥堂は呆れたように肩を竦めた。



「なんだよダニー。アンタ裏切者のクソ野郎じゃねえか」


「オマエに言われたくねェんだよ! つか、オマエ、これ、なんだ⁉ オイ、アレックス! なにがどうなったらこんな状況になるんだよ……⁉」


「ダハハー! オレもわかんねェ!」


「いいからテメエら戦えよ! オレにばっか撃たすんじゃねェ!」



 “裏”にドップリと両足の浸かった男たちは、行きつけの酒場で乱痴気騒ぎでもしているかのようないい加減さで口々に喚く。



 コイツらと一緒になりたくはないと、ビアンキだけはダニーに真面目に問いかける。



「つかよ、ダニー。もっと火力のある武器持って来れなかったのかよ⁉」


「ムチャ言うな! これでもかなりヤバイ橋を渡ったんだ!」



 ダニーの持ち込んだ銃器によって今暫しの継戦は可能となった。


 だが、相手を押し返せるほどには到底足りない。


 ビアンキはそのことに焦りを覚えている。



「少しは持ち直せたが、これでもまだ……」



 彼のその呟きに、ダニーはニヤリと歯列を剥いた。



「心配すんな! そろそろ来るぜ!」


「来る?」

「なにが……」



 ビアンキとアレックスがダニーの言葉に眉を寄せたその時――



 弥堂たちと少し距離を置いて向かい合う“G.H.O.S.T(ゴースト)”の部隊の背後――先程ダニーが現れた倉庫の入り口から、銃を装備した一団が突入してきた。


 それを見て、ビアンキは顔色を変える。



「クソッ! ここで増援かよ……ッ!」


「いや待て。あれは――」



 慌てて増援部隊に銃口を向けるビアンキをアレックスが制する。


 現れた一団へよく目を凝らすと――



“――ぐああぁぁ⁉”

“な、なんだオマエたちは……⁉”


“くたばれゴーストどもッ!”



――新たな勢力は“G.H.O.S.T(ゴースト)”たちへと射撃を開始した。



 その様子に弥堂はスッと眼を細める。



「あれはお前らの仲間か?」



 そう聞くと、ダニーは得意げに笑った。



「あれはホテルでオマエがスパイ扱いして捕虜にした連中だ! オレが解放して武器を持たしてやったんだよ!」


「そうか、どうりで……」



 弥堂がホテルを爆破して行動を開始した時、捕虜を解放して混乱を起こそうとした。


 そのつもりで本部まで踏み込んだが、捉えていたはずの捕虜の姿は無く、代わりにそこにはアレックスたちが居た。


 しかし、そのアレックスたちも、助けに来たはずの仲間の姿がないと怒りを露わにした。



 それは、ホテルでの騒ぎが起こってからずっと姿の見えなかったダニーの仕業だったと判明する。


 どうやら彼も彼で、自身の都合で暗躍をしていたようだった。



「おまけにホテルに残ってた“G.H.O.S.T(ゴースト)”の連中にはよ、ミラーからの指示だっつって『絶対にここを動くな』ってフカシいれてきたぜ!」


「ということは、敵の増援は来ないということか」


「そういうこった!」



 その言葉にアレックスが下品な口笛を吹く。



「ダニー! テメエやるじゃあねェか!」


「ったりめーよ! だが……」


「アン?」



 得意満面から反転、ダニーはどこか納得のいかないような顔になる。



「なんかよ……、数が多いな」


「なんだと?」



 改めて援軍に目を向けてみると、その数は十人以上だ。



「オレがこっちに連れて来れたのはせいぜいあの半分くらいだったはずなんだよ。なんせ、誰が本当にオマエらの仲間なのか――オレには全員を見分けることは出来なかったからよ。だからホテルで捕虜になった連中の大半は解放だけして放置したから、今頃は向こうで暴れるか逃げるかしてるはずなんだが……」


「どういうこった?」


「まぁ、実際目の前で“G.H.O.S.T(ゴースト)”をぶっ殺してるし、多い分にはいいんじゃね?」



 そう話し合っていると、援軍の中から一人の男がこちらへ走って来る。


 先程のダニーのように遮蔽物の裏に勢いよく滑り込んできた。



「――ヒャッホーゥ!」


「フェリペ!」



 それはホテルで弥堂に捉えられたラ・ベスティアの構成員であるフェリペだった。



「パーティに遅刻しちまったぜ! だが、料理はたんまり残ってるみてェじゃねェか。オレがたいらげていいんだよな? ビアンキ!」


「オォ! 好きなだけ喰っちまえよ!」



 心配していた仲間の生還にビアンキは喜ぶ。


 フェリペは彼へパチンとウィンクをしてから一転――


 険しい目つきで弥堂を睨んだ。



「テメエ! この狂犬ヤロウッ! よくもやってくれやがったな……ッ!」


「あぁ。お前のボスや仲間を助けてやったのは俺だ。心から感謝して存分に働け」


「んなこと言ってねェんだよ! ふざけんなよファッキンジャップ!」


「なんだ? 何を怒っている?」


「テメエ! ホテルでオレに何をしたか忘れたのか⁉」



 どうやら弥堂による酷い拷問を受けたことを根に持っているようだ。


 当たり前だが。



 実際の当時の光景を知らないので、アレックスが陽気に彼らを仲裁する。



「ハハ、そいつに言っても無駄だぜフェリペ。なんせイカレてっからなァ!」


「なんでこんなヤツと手を組んでんだよアレックス! チクショウ!」



 どこか愉しげな様子すら見せながら、彼らは発砲を続ける。



 数の上では不利だったが、捕虜となっていた仲間の復帰によってテロリスト側が俄かに活気づく。


 挟み撃ちをされる格好になった“G.H.O.S.T(ゴースト)”部隊は、移動と再展開を余儀なくされた。


 犯罪者たちは勢いにのって押し返していく。



 そんな中で――



「クソ……! せっかく助けに来たってのに、なんでこんなイカレたことになってんだよ意味わかんねェ……ッ!」



――登場したばかりのフェリペは早速正気度を削られ、己の境遇を嘆いていた。



 そして――



『――あぁ……、また……、またです……。悪そうな男たちとはすぐに仲良くなる……』



 草葉――もとい、瓦礫の陰で、お師匠さまも弟子の素行に嘆いておられた。



 彼女が神に懺悔する声を聴きながら、弥堂は無心で人間を撃ち殺していく。


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