2章35 MAD DOG ③
「――は……?」
銃声に遅れてそんな間の抜けた声が場に響く。
それは誰か、男の声。
だが、それは別に誰のものでもいい。
ジャスティン・ミラーの“異能”――サイコメトリーは、弥堂の心の所作を感知した。
だが、止められなかった。
弥堂が何かしらの不快感のようなモノを感じた次の瞬間にはもう行動を終えていた。
その速度に反応が追い付かない。
ほぼノータイム。
それくらいの速さ。
直前に弥堂に何かを問い詰めていた福市 穏佳博士の言いたかったことは――
“賢者の石”、“WIZ”、そして“馬鹿に付ける薬”、この3つが同種のモノである。
その内の一種を何故弥堂が持っている。
――おそらくそんなことであろう。
博士からそれを指摘されたことに気付いた瞬間――
弥堂はマズイと感じた。
アムリタが材料に含まれるモノを自分が所持していたのを知られること。
それが“WIZ”だけならまだしも、“馬鹿に付ける薬”も含まれること。
“WIZ”は禁止薬物だが、これはこの世界で作られこの世界で出回っているモノだ。
だからまだいい。
しかし後者――“馬鹿に付ける薬”は違う。
その出所を探られることになるのは非常にマズイ。
この3つが紐づけば、最悪の場合『異世界の勇者』に繋がってしまう。
だから、これ以上この場で、博士の喋ることを他の者に聞かせるわけにはいかなかった。
弥堂は瞬間的に、反射的にマズイと感じた。
それは反応のような所作だ。
上に並べたように順番に理屈立てて結論――解決方法に一瞬で辿り着いたわけではない。
だが――
身体には――
魂には――
――それが染みついている。
なにか不都合なことがあった場合、それを解決する手段として『ナニ』を選択するか。
目的・目標と設定した事柄を達成する為の手段として『ナニ』を採用するか。
問題の解決方法を模索する思考が発生するよりも遥かに速く――
習慣づいた、染みついた『ソレ』を、身体が実行する。
どうしようもなく最底辺まで堕ちたニンゲンは、不都合なことは殺して解決しようとする。
そんなバケモノが引き金を引く直前――
福市博士が手に持つモノを見る弥堂の視線に釣られて、ミラーも博士の手元を見ていた。
つまり、視界から弥堂を外していた。
だからそのこともあって、弥堂の起こした行動に何も反応が出来なかったのだ。
ミラーの視界に映った、福市博士の身体がナナメに傾いていく。
その現象に何も出来ることはなく、何かしらの思考を浮かべることも出来ない。
『ソレ』が完全に横になる前に――
ブツッとモニターの電源が切れた時のように、彼女の視界は真っ黒に閉ざされ何も見えなくなってしまった。
見えなくなったし、何も考えられなくなった。
突然の凶行。
突然の悲劇。
それらの影響が“彼女”の心に一瞬の反応を齎す。
しかしそれが、解決の方向へと思考を向けることはない。
出来ない。
何故ならもう――
彼女は死んでしまったから――
銃声から少し遅れて、ドサッと女の身体が倒れる。
床に側頭部を打ち付けて跳ねた頸は、次は後頭部から落ちる。
少しの水音を鳴らして止まった頭の下から、赤い血が漏れ出て拡がっていった。
彼女の瞼は見開かれたまま――
その瞳にはもう光は無く、上を向いた先に在る天井を写すことはない。
もう二度と、何も映らない。
だって、彼女は――
ジャスティン・ミラーは死んでしまったのだから。
弥堂が発砲した拳銃から放たれた弾丸は、ミラーの頭を撃ち抜いた。
当然、誤射ではない。
「――あ……?」
ミラーが床に倒れると、信じられないというよりも、そもそも何が起きているのかわからない――
――そんな間の抜けた声が場に響く。
それは誰か、男の声――“G.H.O.S.T”の隊員の内の誰かだろう。
だが、それは別に誰のものでもいい――どうでもいい。
それよりも――
「――ひっ……⁉」
自身の足元近くに仰向けに倒れたミラーの死体の顔――
その額に空いた穴を凝視して、福市博士が悲鳴を漏らしかける。
その瞬間――
弥堂はなけなしの魔力で【身体強化】に火を入れて、スタートを切った。
“ミラー指揮官――ッ⁉”
“――キサマァ……ッ!”
主を殺された“G.H.O.S.T”の隊員たちの怒り、嘆き、泣き声が一斉に弥堂へと降り注ぐ。
しかし、生憎弥堂には英語はわからない。
何を言っているのかわからない言語など、鳴き声と一緒だ。
泣き声は鳴き声、そんなものどうでもいい。
(そんなものより銃弾を吐きだせよ、素人め――)
その間に弥堂は博士の傍まで辿り着く。
その時になって、一斉に全ての銃口が弥堂へ向けられた。
だが――
“――ッ⁉ キサマ……⁉”
――弥堂は博士に密着して、自分の身体の前に彼女を出す。
博士がそこに居る為に、彼らは弥堂を射殺することは出来なかった。
「――絶対に立つなよ」
「え――?」
耳元でボソリと呟かれた低い声。
博士の理解は追い付かない。
弥堂はそんなことにも構わずに、彼女に足払いをかけて床に転がした。
博士は足元付近にあった“死体”に重なるような形でうつ伏せになる。
すぐ目先には、穴の空いたミラーの死に顔だ。
気が狂ったような博士の悲鳴を聴きながら――
「【falso héroe】――」
――弥堂は『世界』から自身を引き剥がした。
全てのモノからの認知を外れた世界を駆け抜ける。
次に姿を戻したのは、包囲網の外側最後方――
――アレックスを連行していた隊員たちの背後だ。
脇腹に掌を当て、“零衝”を使って即座に右側の一人を絶命させる。
そしてアレックスをブラインドにしながら、左側にいたもう一人の首に手を伸ばした。
“――ぉごぇ……⁉”
身体強化魔術任せに力尽くで喉を握り潰し、その隊員の小銃を奪う。
博士を中心に広がる包囲陣はまだこちらに気付いていない。
その背中目掛けて、なるべく射線が地面と平行になるように銃弾をバラ撒いた。
「な、なんだァ……ッ⁉」
突然の急展開に着いていけていないアレックスは、次々に倒れる“G.H.O.S.T”たちの姿を映すその目を白黒させる。
「働いてもらうぞ」
「なんだと?」
弥堂は彼の手元にチラリと視線を向けると、そう端的に告げた。
それ以上は語らず、銃を乱射したまま敵部隊へと突っ込んでいく。
その場には両手を拘束されたままのアレックスが、わけもわからないまま取り残された。
弥堂はある程度まで敵に近づき、ある程度数を減らしたところで、弾の出なくなった小銃を敵兵へと投げつける。
再び【falso héroe】を使った。
今度はまた博士の傍に現れる。
「寝てんじゃねえよ。さっさと立て」
「ひ、ひぃぃ……っ」
爪先で床に伏せる彼女の脇腹を突いて急かす。
状況が理解出来ず文句も言えない彼女の手に、弥堂は黒鉄のナイフを手渡した。
彼女の両手にしっかりと柄を握らせた上から自身の手で包み、ギュッと力を入れて固める。
博士は突然持たされた凶器をジッと見た。
「え?」
「これで拘束を切れ」
「え?」
「舌を噛むなよ」
「え――?」
弥堂は言いたいことを一方的に告げると、何一つ察していない様子の彼女の襟首を掴んで大きく振り被る。
そして身体強化魔術を全開にして、彼女を敵の包囲の外へと放り投げた。
「――い、いやあぁぁぁぁぁ……っ⁉」
「どおおぉぉぉぉぉッ⁉」
放物線を描いた彼女は包囲の外で棒立ちになっていたアレックス目掛けて飛んでいく。
両手でしっかりと握ったナイフを身体の前面で構えたまま――
アレックスは迷う。
反射的に逃げようとしたが、女に甘い彼は受け止めるべきかと思いついてしまう。
そうして棒立ちになっている間に、二人は衝突した。
「――いっでえぇぇぇ……ッ!」
「あ、あの、すみません、わた、わたし……っ!」
「刺さってる! 刺さってるってネエチャン……ッ!」
「そ、その、こうそくを、わたし、切れって、いわれて……っ!」
「だからオレに刺さってるんだってよォ……ッ!」
アレックスが必死に訴えかけると博士はハッとなる。
慌ててナイフを引き抜くが、血が噴き出すようなことにはならなかった。
幸い刺さったのは刃先だけだったようで、内臓には届いていなかったようだ。
それでも、衣服も肌も破れて多少の血は滲んでくる。
自分のしでかした凶行に博士は顔色を白くした。
「あ、あわわ……っ⁉」
「は、はやく……! 拘束を切ってくれ!」
「な、なんでですか……⁉」
「知らねェよ! やれって、アイツに言われたんだろ⁉」
「そ、そうでした……っ!」
二人ともわけがわからないまま、とりあえず弥堂の指示通りに動く。
博士はモタモタとアレックスの両手首を縛るバンドをナイフで切る。
その覚束ない手つきをアレックスが心配そうに見守っていると、やがて無事に拘束は解かれた。
アレックスは自由になるとすぐに足元の死体から銃を奪う。
それをビアンキに付いている隊員に向けて発砲し、即座に2人射殺した。
「そのナイフ貸してくれ! 仲間の拘束も解く」
「は、はい……っ!」
博士は両手で握ったままのナイフを勢いよくアレックスに突き出す。
アレックスはビョーンっと背後に飛び退いた。
「あ、あぶねェな! 落ち着けよ!」
「す、すみません……!」
「ま、いいや。借りるぜ?」
「はいぃぃぃ……」
アレックスは博士の手からナイフを受け取ろうとする。
しかし――
「……ん?」
グイグイと引っ張っても彼女は一向にナイフを離そうとしない。
「オイ! 早くしてくれよ!」
「は、はなれないんですぅぅぅ」
「は?」
「手が手が固まちゃってわたしわたしうぅぅぅ……っ!」
どうやら色々とショックすぎて身体が硬直してしまったようだ。
アレックスはスッと真顔になって、ダァーっと涙を流す彼女の顔をジッと見つめる。
そして――
「――すまん!」
「へ?」
博士の前でパンっと両手を合わせると申し訳程度に腰を折る。
そして目を丸くする彼女を担いで――
「――もういっちょ頼むわ……ッ!」
「い、いやあぁぁぁーーっ⁉」
――先程の弥堂よろしく、ビアンキの方へと彼女を投げ飛ばした。
再び刺殺ミサイルが宙を舞う。
「――うおぉぉッ⁉ あ、あぶねェッ⁉ な、なんだこの女⁉」
「わたわたし、あの、切れって……!」
「ナイフをこっちに向けるな! はなれろぉぉぉッ!」
仲間の動揺する叫びをバックにアレックスは激戦地へ銃口を向ける。
そこでは弥堂が一人で大立ち回りをしている。
手近な隊員を盾にしながら集中砲火を浴びないようにして、どうにか多勢に無勢を凌いでいた。
だが――
「――クソ……! どういう状況なんだよこれ……!」
――一体誰を撃てばいいのかわからなかった。
今、自分の敵となっているのは誰なのか。
「もうどうにでもなりやがれ……ッ!」
わからなかったので、とりあえず数の多い“G.H.O.S.T”を適当に狙うことにした。
歴戦の傭兵である彼にも、今のカオスな状況は手に負えないようだ。
「なんなんだアイツ……ッ!」
さっき彼に対して確かに取引きを持ち掛けた。
しかし、それはにべもなく無視されてしまった。
当然だ。
あの日本人のイカレ魔術師は“G.H.O.S.T”と手を組むような話を、指揮官のミラーとしていたのは聴こえていた。
だから元々敵であるアレックスたちを助ける理由もメリットも一つも無い。
なのに――
手を組んで――
或いは恭順した――
――したはずの“G.H.O.S.T”の指揮官を、あの男は突然、なんの脈絡もなく射殺した。
何か口論をしていただとか、そういう雰囲気でもなかった。
そうする意味が――
そうなる理屈が――
何一つ無く。
何と何とも繋がっていなくて。
誰にも理解が出来ず――
だからここに居る誰しもが、頭の中に穴を空けられたかのように、思考を止めてしまった。
ここで自分たちの拘束を解いたということは、おそらく彼を援護すればいいのだろう。
普通に考えればそういうことになるのだろうが――
「――アイツ。いきなりオレらも殺しにこねェだろうな……」
「――お前が敵対しなければな」
「――うおわあぁッ⁉」
独り言のつもりだった問いに、突然背後から答えがくる。
敵のど真ん中で暴れていたはずの弥堂が、いつの間にかアレックスの背後に居た。
「死にたくなければ勝手に戦え」
「オ、オマエ……、さっきからそれ、どうやってんだ? ワープなのかそれ?」
「魔術だ」
「そうか。魔術って便利だな」
「そうだな。魔術は便利だな」
適当な返事だが、とりあえず魔術って言っておけばゴリ押し出来るので、それは弥堂の本音だった。
しかし、今はそんなことはどうでもよく、すぐに思考を切り替える。
「あっちの工事車両の残骸まで退くぞ」
「オォッ!」
弥堂とアレックスは先程の人狼戦で大破した工事車両を目指して走る。
「ビアンキ! 博士を!」
「ど、どうなってんだよこれ!」
「ダハハーッ! オレもわかんね!」
通り抜け様にビアンキにも声をかける。
混乱しすぎた彼は少し涙目になりながら慌てて落ちていた小銃を何丁か引っ手繰り、博士を担いで二人に続く。
すると、未だに博士が握ったままのナイフの刃先が、ビアンキの目と鼻の先でチラつく。
「だからあぶねェって! それどうにかしろよォッ!」
「はなれないんですぅごめんなさいぃぃぃっ!」
そうして喚きつつ、“G.H.O.S.T”の銃弾に追われながら一行は退避した。
4人は無事に残骸の裏へと飛び込む。
すぐにカカカカンッと、遮蔽物を銃弾が打ち鳴らし始めた。
特に顔色を変えることなく、弥堂は福市博士に手を伸ばす。
「ナイフを返せ」
「は、はい……」
「チ、汚れてんじゃねえか」
「…………」
弥堂は博士の手からナイフを引っ手繰ると、汚れた刃を見て不愉快そうに眉を歪めた。
そして、彼女の着ている白衣を引っ張り、それでゴシゴシとナイフを拭く。
博士は自身の着用する衣服を茫然と見下ろした。
白に付着した赤を目に映して顔を蒼くし、さらに――
「ゔ――っ⁉」
――先程間近で見たミラーの死に顔がリフレインして、胃の底から何かがせり上がってくる。
バッと振り向いて、彼女は四つん這いになって嘔吐した。
「オイオイ、大丈夫かよレディ」
イタリア産のチャラ男はすかさず彼女の介抱に近づき、苦しむ女の背を撫でまわした。
ビアンキはその行動に文句を言いたくなるが、優先順位が違う。
先にまずはこっちだ――
「――オイ! この狂犬ヤロウ! テメエまたムチャクチャしやがって! こっからどうすんだよ⁉」
「無駄口を叩いてる暇があるならさっさと撃ち返せ」
「ちくしょうッ!」
こうしている間も、弥堂たちが身を隠している残骸には“G.H.O.S.T”部隊の銃弾が次々に撃ち込まれている。
その間隙をついて、ヤケクソになったビアンキが拾ってきた小銃で応戦を開始した。
「助けてもらっといて言うのもなんだがよォ――」
「あ?」
今度は博士を介抱するアレックスに話しかけられ、弥堂は反対に顔を向ける。
「オマエここから本当にどうするつもりだ?」
「…………」
少し気は落ち着いたが、それでもアレックスには弥堂の行動の着地点がまるで見えない。
弥堂はその問いにすぐには答えず、どさくさに紛れて博士のケツを撫でているアレックスの手をジッと視た。
そして――
「――アァ?」
――無言のまま、弥堂はアレックスに掌を上に向けて差し出す。
当然、求めているのは握手などではない。
「――くれよ。タバコ」
「は? さっきはいらねえって……」
アレックスは博士のケツから手を離し、煙草の箱を取り出す。
「ほれ――」
それを弥堂へと向けた。
弥堂は彼の手の中の箱から一本だけ煙草を取り出し、それを口に咥える。
アレックスはさっき死体から銃と一緒に盗んでおいたジッポライターを取り出す。
それを点火しようとするが――
「――ア?」
――その手に、弥堂が上から手を被せて、点火を制した。
アレックスが怪訝そうな目を向けると、弥堂はジッと彼の目を真剣に見つめ返す。
二人はそのままジッと目を合わせた。
何かが通じたのか――
アレックスは何も言わずに、自分も煙草を一本取り出す。
それを口に咥えた。
火は“まだ”点けない。
「なにやってんだよ! オマエらも戦えッ!」
この修羅場の中で煙草を咥えたまま悠長にしている男たちに、一人で対抗しているビアンキが焦れる。
「いいからちょっとだけ、一人で頑張っててくれ」
「なんだってんだチクショウッ!」
無茶を言うアレックスに文句を叫んで、ビアンキはまた残骸の向こうに射撃をした。
アレックスは目の前の相手に意識を向けると――
「――アレッサンドロ・ディ・ルフィオーリ。傭兵団ラ・ベスティアのカシラだ。傭兵と謂えば傭兵。マフィアと謂えばマフィア。そんないい加減なのがオレたちだ」
「弥堂 優輝。見ての通りだ」
ここまで散々殺し合ってきた男たちは、戦場の果てで終に名乗り合う。
次は弥堂から口を開いた。
「この街の地回り――皐月組っていうヤクザのかなり上の方に顔が利く。身を隠すヤサや、当座のシノギを世話してやれる」
「いいねェ。まさに願ったりだ。で? そっちは何を望む?」
遮蔽物の残骸や床を削る銃弾の音が鳴り止まぬ中で、二人は淡々と必要な情報を交換する。
弥堂は懐に入れていた拳銃をアレックスに見せた。
「初めて使ったが気に入った。だが、これやこれの弾を仕入れるルートを持っていない」
「グロックか。お安い御用だ。あちこちの国のワルにそれなりに顔が利くからな。それだけでいいのか?」
「もしも、海外に高飛びをすることになった時、ヤサが欲しい」
「それも余裕だな。ツテはいくらでもあるし、得意分野だぜ」
「…………」
「…………」
二人は数秒言葉無く――
「――取引き成立だ」
アレックスはニヤリと笑って、ジッポライターをチンッと鳴らす。
一つの火に、二つの煙草の先端が刺し込まれた。
弥堂とアレックスは、一口吸って煙を吐きながら、また数秒目を合わせる。
そして――
同時にプッと煙草を吐き捨てて、銃撃に参加した。
「――しっかし、イイのかァ⁉ こんなことしでかしちまって!」
「知るか。取引きを持ち掛けたのはお前の方だろ」
「ハッ、サイコーだぜ――!」
アレックスは獰猛に牙を剥き、嬉々として銃弾をバラ撒いた。
「な、なんなんですかぁ……っ」
耳を傷める銃声の中――
彼らの流儀がわからない福市博士は、なにやらワケ知り顏でスカしていたクズ男とクズ男に、せめてもの抗議をした。
当然、その声は誰にも届かない。




