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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章32 DEMONed I Scream ②


ーーー



Tine, tine

Go lonraí an tine do shlí go lár an tSolais síoraí,

Ag dó an croí a fhágtar,

Ionas go mbeidh do sheoladh saor.


Seo an pháirc chatha ――

Seo do chríoch, a ghrá.

Tá deatach fós ag éirí as an gcré,

Sin tine a d’ith do chroí.


Cuir do lámh chugam,

Bain teagmháil liom,

Mothaigh mé sa tine seo.



ーーー




 悪霊(レイス)が謳う。


 弥堂にはわからない言語で。


 そして叫ぶ。



 獣の頭部を模った霊体から発せられるのは咆哮ではなく、女の悲鳴のような甲高い絶叫だ。



 巨大なジャッカルのような頭。


 躰は無く、ボロボロのローブのようなものを纏っている。


 そのローブの下からは蛇のように細い首が長く伸びていた。


 その首は未だ実体のままの人狼(ワーウルフ)の躰から伸びており、途中から霊体化している。



 霊体部分には物理的な攻撃は通用しない。


 “G.H.O.S.T(ゴースト)”やテロリストの兵士が撃った弾丸は、レイスの躰――ジャッカルの頭部を通り抜けてしまった。



 ボロボロのローブの裾の切れ端が蛇になっており、その10匹の蛇が人々を襲い魔力を吸っている。


 吸いきって抜け殻となった兵士を捨てると、レイスの霊体化が少し進んだ。




ーーー



An Bás, an Bás

Gan eaglais, gan sagart,

Croí fágtha gan slí abhaile,

Ní thiocfaidh sé choíche ar ais.


Seo an pháirc chatha ――

Críochnaíodh tú, mo stóirín.

Agus anseo, fanfaidh tú――

I bhfothain an laistigh den tine nach múchfar.


Glac an tine seo ――

Agus lig dúinn codladh go síoraí, le chéile.



ーーー




 歓んでいるのか、悲しんでいるのか――


 定かではない絶叫をまた上げる。



 その悲鳴が空間に波紋を起こし、倉庫中に拡がる。


 音の波に触れた人間は恐慌状態となり、身動きが出来なくなった。


 そうして手と足を止めた者を火の魔人が襲い、焼き殺していく。



「――こんなものは聞いてないぞ……ッ!」


「ワタシの台詞よ! どうしてあんな“外法師(レモン)”を紛れ込ませたの⁉」



 勝利目前でトロフィーを取り上げられたダリオとミラーが口論をしている。


 他の者のように恐慌には陥っていないが、随分と感情的になっているのはレイスの叫びを浴びた影響だろう。



 嘆きを叫ぶ悪霊――それがレイスだ。


 その嘆きは死への嘆き。


 レイスの絶叫はそれ自体が特殊スキルのようになっており“死の嘆き(キーニング)”と呼ばれている。



 魂の強度の低い者は浴びただけで恐慌状態に陥り、それを逃れた者も不安に駆られ冷静ではなくなってしまうのだ。



 異世界の魔術学書に書かれていた説明を思い出して、弥堂は二人から目線を切りレイスを視る。



 人狼(ワーウルフ)――魔物ならまだ対処の仕様はあった。


 だが、死霊(レイス)はどうしようもない。


 アレを倒すには、魔術や魔法が必要だ。



 そう考えた時、その魔術の詠唱が聴こえてくる。


 数名の“G.H.O.S.T(ゴースト)”の魔術師たちが一斉に火の玉を死霊へと放った。



 だが、それらは死霊の霊体に触れるとあっけなく霧散してしまう。



 魔術なら何でも効くわけではない。


 使用する魔術に己の“意”――魔力ダメージを上乗せできるような一定レベル以上の魔術師でなければ通用しない。


 そこには存在としての格――魂の強度も影響してくる。



 彼らにこのレイスを討伐しろというのは、メロに魔法でアスやクルードを倒せと要求をするようなものだ。


 ましてや、弥堂のように彼らが使った程度の基本的な魔術すら使えない者にはなおさら不可能だ。



 仮にあれを魔術や魔法なしで仕留めるのなら、ルビアのような“神意執行者(ディードパニッシャー)”を連れてくるか――


 加護すら使えないのならもうエルフィーネでないと無理だろう。



 しかし、彼女たちはもうどちらも死んでいる。



 だが――



 弥堂にはアレを倒せる存在に一つだけ心当たりがあった。


 それも、至極簡単に、あっさりと倒せる――そんな存在に。



<――ユウくん!>



 それを思い浮かべたタイミングでエアリスから念話が届いた。


 恐らく彼女も弥堂と同じ答えに行き着いたのだろう。


 だから――



<小娘をそっちに行かせるわ!>


<ふざけるな>



――だから、即座に却下する。



<だけど……! アレは――>



 言い募ろうとするエアリスを無視して、弥堂は自身の心臓の上に右の掌を当てる。


 そして“零衝”を打ち込んだ。



「――ぐ……っ!」


<ユウくん……⁉>



 心臓が強く跳ね、弥堂の口から血が吐き出される。


 しかし――



「――戻ったな」



 自身の掌を視下ろしながら、身体の中で急速に魔力が循環し始めたことを実感した。



 魔力の枯渇状態からの回復が遅れていた。


 しかし、心臓が拍動する度に魔力が作られるのなら、無理矢理動かしてビックリさせたらいっぱい作られるのではと試してみたのだ。


 まだ効果が残っていたはずの“WIZ”も再び効いてきたような気がする。



<い、いや、それは戻ったっていうか……>



 適当に心臓に負担をかけてみたらなんかイイ感じにおクスリが効いて身体がバグっただけなのだが、エアリスの心配を他所に弥堂は火の魔人の方を視た。


 そして――



「【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】――」



――今度は成功し、弥堂はこの『世界』から消える。




ーーー



Tine, tine

Dóigh na rianta, na cuimhní, na rudaí a cheanglaíonn,

Gan mearbhall, gan fánaíocht,

Ionas nach bhfillfidh do spiorad ar ais.



ーーー




 ほとんどの兵士たちがパニックになっていた。


 レイスの威容と異様な叫びの前に恐慌状態となっている。



 The Keening――死の嘆き。



 その泣き声に、死者への悼みを呼び起こされる。


 喪った人を思い出し、そして自分の生命も喪いたくないと心を痛める。



 死を悼み、死に痛み――


 多くの者が涙を流し慟哭した。



 “G.H.O.S.T(ゴースト)”も、テロリストも――


 誰もが誰かの名前を叫び、泣く。



 父親、母親、恋人、子供――


 あらゆる喪失に、あらゆる死に――


 その悼みと痛みに区別はない。



「――あっ、あぁ……っ! おばあちゃん……、おばあちゃん……っ!」



 博士――福市 穏佳(ふくいち しずか)は祖母を悼んだ。


 祖母の病気を治すことが彼女の原動力だった。



 しかし、その彼女の死によって、祖母の存在と、自分自身の存在――


 そのどちらも喪ってしまった。


 その嘆きが声となり涙となり、戦場に溢れ出す。




ーーー



Tine, tine

Chaill tú mise, agus fágadh tú sa dorchadas,

Gan solas sa teach, gan fuaim ach do anáil féin.

Lig don tine dul tríd na ballaí,

Chun do bhrón a ghlanadh ―― agus mise a mhothú fós ann.



ーーー




 泣き叫ぶ彼女の痛みを死霊が謳い、魔人がユラリと火を揺らし、狙いを定める。



 死霊(レイス)の“死の嘆き(キーニング)”で生者から生きる活力を奪い、それを亡骸として火の魔人が火葬する。



 博士は火の魔人と目が合ったことを自覚した。


 しかし――



「い、いやぁ……っ。死にたく、ない……っ。たすけて……、おばあちゃん……っ!」



――死にたくないと嘆きながら、しかし身体は動かせない。



 そんな彼女に向って、火の魔人は両腕を突き出しながら走り出した。




ーーー



Cuir do lámh chugam,

Bain teagmháil liom,

Mothaigh mé sa tine seo.


Tine, tine

Is róbheag mo lámha,

Ní choinníonn siad an fhuil a shileann,

Má mhaireann an pian,

Glac an tine seo ――

Agus lig dúinn codladh go síoraí, le chéile.



ーーー




 死は救い。


 苦しみからの解放。


 その火は其処への導火(みちび)



 腕を伸ばして迫る魔人へ、博士も腕を開いて伸ばす。


 まるで受け入れ、迎え入れるかのように。



 だが――



 火の腕が福市博士に触れるよりも速く、彼女の傍に突然姿を現した弥堂が獲物を浚う。


 博士の身体を片腕で抱えながら飛び退り、魔人と距離をとった。



「あ……? え……?」



 まだ恐慌状態から抜け出せていない博士は目を白黒させる。


 そんな彼女のことは無視して、弥堂は魔人を魔眼で視た。



「…………」



 ホテル内で戦った魔術師ハサンのことを思い出す。



「なるほどな……」



 あの時に、ハサンが火炎瓶で味方の隊員を焼こうとしていたのは、この魔人を作り出すための生贄にするつもりだったのだと見当をつける。



 火の魔人と為ったタパス。


 死霊と為ったヨギ。



 どうやら彼らの魔術は生贄を用いる術法に進化しているようだ。



 火の魔人の本体――中の本体であるタパスが現在どうなっているのかはわからない。


 魔人を撃つ銃弾は、纏った炎に触れると中の本体に届く前に溶けているようだ。



 これほどに文字通りに火力の高いバケモノに、あの狭いホテル内で出てこられていたら非常に危なかった。


 つまり――



「――運がいいぜ」


「え――?」



――皮肉のつもりの呟きに博士が反応する。


 涙を溜めた彼女の瞳を視下ろして、弥堂は適当な慰めをかける。



「生き残れるかもなって、言ったんだ」


「で、でも……、あんな怪物……」


「そうでもないさ」



 “G.H.O.S.T(ゴースト)”の隊員を襲う火の魔人の動きを見る。


 触れると延焼するあの炎は確かに危険だが、魔人自体の運動性能は大したことがない。


 レイスの方とは違って素体となった人間の性質を多く残したままのようだ。



 火の様子を魔眼に映す。


 炎は無限に躰から湧き続けているというよりは、生贄を燃やして得た火を躰の周囲で旋回させ続けているように視えた。



 その霊子の動きをよく視て憶え、それから自身の左手をチラリと視下ろす。


 魔力はそれなりに戻った。




ーーー


Seo an pháirc chatha ――

Críochnaíodh tú, mo stóirín.

Agus anseo, fanfaidh tú――

I bhfothain an laistigh den tine nach múchfar.


Tine, tine

Dóigh na rianta, na cuimhní, na rudaí a cheanglaíonn,

Gan mearbhall, gan fánaíocht,

Ionas nach bhfillfidh do spiorad ar ais.



ーーー



 死霊はさらに謳い叫ぶ。



「――あぁ……っ、あぁ……っ! いやぁぁぁ……っ! 死ぬのはいやぁ……っ! いきたくない……っ!」



 “死の嘆き(キーニング)”にあてられ、博士がまた号泣しだした。


 その歌は弥堂の魂すら僅かに震わせ、重圧を与える。



 だが、人でなしの人殺しには、死を悼む気持ちも、死を恐れる心も無い。



 人の歩む道は出口のないハードノック――


 死は救いであり、生こそ終わりのない苦痛の連続なのだ。



 弥堂は胸に右手をあてる。


 十字を切り祈る相手はいない。


 零から生み出した衝動を心臓へと徹す。



 強制された拍動が血を巡らせ魔を灯し熱を生み出す。



 心臓は動き。


 血は流れて。


 痛みはここに在る。



「――俺はまだ、生きている……っ!」



 まだ死んでいないのなら、まだ続けなければならない。



「日本に来たら日本語で歌え。なに言ってっかわかんねえんだよ」



 弥堂は冷嗤(せせらわら)う死霊を蒼銀の光で睨みつけた。



「ナメやがってインポ野郎が。殺してやるよ」



 湧き上がる激情を殺意へと変換する。


 だが――



「――む、むり……、むりです……っ!」


「あ?」


「もうだめです……! 死、死ぬんです……、あ、あはっ……、みんな死ぬんです……っ!」



 隣から弱音が聴こえてくる。


 強い恐慌状態に陥った福市博士のものだ。


 泣き笑いをしながら彼女は正気を失いかけている。



 レイスの“死の嘆き(キーニング)”のせいなのはわかっているが、弥堂自身も他の者よりはマシとはいえ、いつもよりもメンヘラ具合がブーストされていた。


 なので、自分の言葉を否定されたことにイラっとする。



「チッ、めんどくせえな――」


「きゃあぁーっ⁉」



 舌打ちと同時に右手でガッと博士のケツを雑に鷲摑みにする。


 そしておざなりな手つきでとりあえず揉んどいた。



「な――ななななな……っ⁉」



 これっぽっちの未練もなくすぐに手を離すと、博士は両手でお尻をおさえる。


 TPOを弁えぬセクハラに対して、若くして博士号を持つ女性をしても驚きを言語化出来なかった。



「ふむ……」



 弥堂はそんな彼女の様子に構わずに、ケツを揉んでいた右手をジッと視下ろす。


 そして――



「おい――」



――博士をジロリと睨む。



「な、なんなんですか……⁉」



 その態度に流石の福市博士も怒りを露わにした。


 弥堂は真剣な眼で彼女に告げる。



「――俺はギャル好きだ」


「ほんとになんなんですか!」



 状況も考慮せず無許可で自分のような地味女のお尻を揉んでおいて――


 なのに、わざわざギャル好きであることを面と向かって宣言してくる――


 そのあまりにも無礼な仕打ちに、博士の恐慌状態が解除された。



 温厚で大人しいお姉さんである彼女であっても、それを上回る強烈な怒りが湧き上がったからだ。



 そして同時に、弥堂の方も『付き合ってもいないのに彼女ヅラしてくるギャル』への怒りが湧き上がった。


 好きじゃないのにギャル好きだと言わされてムカついたのだ。



 左手に蒼い焔が蘇る。


 戦う準備は出来た。



「お前はもう用済みだ。どっか行ってろ」


「最低です! このクズ!」



 福市博士は生まれて初めて他人を口汚い言葉で罵った。


 そんなハツモノ罵倒を背に浴びて、弥堂は火の魔人の方へ走り出す。




ーーー



Tine, tine

Chaill tú mise, agus fágadh tú sa dorchadas,

Gan solas sa teach, gan fuaim ach do anáil féin.

Lig don tine dul tríd na ballaí,

Chun do bhrón a ghlanadh ―― agus mise a mhothú fós ann.



ーーー



「――知ったことか」



 魔人も弥堂に狙いを定め、向かってくる。


 だが、その反応は決して速くはない。


 動作も人の認知領域を超えるようなものではない。



 それなら――



「――殺せる」



 銃弾を融解させるような超高温の赤い炎。


 近付くに連れ、チリチリと肌が焦げる。


 だが――



「――知ってるか? 火は青い方が強いんだ」



 死霊は謳う。




ーーー



Cuir do lámh chugam,

Bain teagmháil liom,

Mothaigh mé sa tine seo.



ーーー



「だったらこの火を焼いてみろ……!」



 適当なアンサーを叫び、弥堂は蒼い焔を纏った左手を魔人の火の中へと突っ込んだ。


 再生産されたばかりの魔力を注ぎ込む。



「【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】……ッ!」



 怒りの名を喚ぶと、蒼い焔が赤い火を燃やし、その渦に穴を空けた。


 “死の嘆き(キーニング)”の影響の副産物ともいおうか、普段は感情の希薄な弥堂の怒りが増幅されており、【燃え尽きぬ怨嗟レイジ・ザ・スカーレット】の威力を上げていた。



 魔人の躰に渦巻いていた火、そこに空いた穴の向こうには黒く炭化した本体が視える。


 恐らくこの穴はすぐに塞がるだろう。


 今が好機だ。



 その時、弥堂の右腕が魔人に掴まれる。


 手首を握られ、炎が弥堂の身体に燃え移ってきた。



 だが、弥堂はそれを無視して左手を赤い炎の穴に突き入れる。


 火の中の人間体に拳を触れさせ、即座に爪先から強烈に捻った。



 正確に稼働した“零衝”は魔人の身の裡に弥堂の殺意を徹す。


 目、口、鼻、耳――それぞれがあった場所から煮え滾った血を噴きだした。



 そして背中側から躰を破裂させる。


 血と内臓を四散させるのと同時に、魔人の火が吹き飛んだ。



 すると、弥堂の右腕に残っていた火が炭化した魔人の肉体へと火の粉を飛ばす。


 僅かずつだが、その身に火が拡大していく様子を見せた。


 このままでは復活される。



 弥堂の腕に残った火も燃え拡がっている。


 ゆっくりとだが、腕を昇って肩にまで達しようとしていた。



「ちぃ……!」



 弥堂は左手で黒鉄のナイフを抜き、先程人狼に噛ませた右腕の傷口にその刃を突き立てる。


 博士のケツを揉んだ時のような雑な手つきで傷口を抉り骨を断った。



 ナイフから手を離すと右の手首を掴む。


 蒼い焔で赤い火を握り潰しながら、自身の右腕を毟り取った。



 傷口から血が噴き出す頃には、半身に火を戻した魔人が腕を振ってくる。


 弥堂はその腕を搔い潜って、左手で握ったままだった右腕を大きく振り回した。



 捥いだ右腕をこん棒のように使って、魔人の黒い頭をぶん殴る。


 魔人はフラフラとバランスを崩した。



 弥堂は続けて、二の腕の途中までしかなくなった右腕を魔人の燃える躰にぶつける。


 その火で傷口を焼き適当な止血をしながらタックルをすると、魔人は転倒した。



 弥堂はその上に馬乗りになる。


 ナイフは右腕を捥ぎ取った時に落としてしまった。


 だから、その右腕で殴り続ける。



 腕の切断面を魔人の顔面に何度も叩きつける。


 壊れた傷口から骨が出てくると、その先端で掘るようにして顔面を抉り続けた。


 ザシュッ、ザシュッと削っていると、やがて魔人は動かなくなった。



 失血のショックで激しく息切れをしながら、魔人の“魂の設計図(アニマグラム)”を視る。



 高温の火の近くにいたせいで起こった脱水症状と魔力の減少で、身体は著しく消耗している。


 顎や鼻先を伝って落ちる汗と、右腕のグジュグジュの火傷から垂れる血肉が床を汚した。



 やがて、魔人の死を確認する。



「あと……、一匹……っ」



 片腕になったことでバランスを取るのに難儀しながら、膝に力を入れて弥堂は立ち上がった。


 もう何の役にも立たなくなったボロボロの右腕を適当に放り捨て、レイスを睨みつける。



 彼のバケモノにもまだ知性や理性が少しは残っているのか――



 死んだ魔人――仲間を見て激しく絶叫をあげた。



 その“死の嘆き(キーニング)”は物理力すら伴って全方位へと拡散される。


 死体や瓦礫、様々なモノを吹き飛ばした。



 弥堂は片手と膝を床についてその衝撃に耐える。


 だが――



「――きゃあぁぁぁぁ……っ⁉」



 一般人の福市博士には抗いようもなく、弥堂の方へ飛ばされてくる。


 弥堂は舌打ちをして、彼女の身体を受け止めた。



 そうすると、弥堂もその場にはもう留まっていられない。



「あ、あの、う、腕が……っ⁉」


「うるせえ――!」



 弥堂の見せた残虐ファイトのせいで再び恐慌を起こした博士を一本だけになった腕で抱えながら、弥堂は彼女とともに大きく吹き飛ばされた。


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― 新着の感想 ―
インド産悪霊が唐突にアイリッシュ?ウェールズ?で歌い出す理由が気になる。あと、グロいw
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