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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章15 風ニ薫ル ③


「――もぉーっ! マジさいあくっ……!」



 ショッピングストリートを出て、駅方面への道を希咲はダンっと踏みつける。


 だが勢いがよかったのはその一歩だけで、その後の足取りはどこか重い。


 あの後――



 謎の外国人が立ち去るのを茫然と見送っていると、希咲たちの背後にふと気配を感じた。


 恐る恐る振り返るとそこに居たのは、「ふぇぇ」と涙目の義妹支配人と、静かなる怒りのオーラを漲らせたクールビューティなバイトリーダーさんだった。



「――で、出禁なんて……」



 当然といえば当然だが、いい加減にお店の許容ラインを超えてしまったのか、二人はお店を追い出されてしまった。


「もう来ないでください」という御尤もなお言葉とともに。


 どうやら直接的に他の人間に危害を加えたのが不味かったらしい。


 それも至極当たり前のことなので、希咲には反論の言葉の持ち合わせはなく、大人しく退去要請に従う外なかった。



「ま、まだ愛苗といく前だったのに……。あんたのせいだかんね」

「俺のせいにするな。それくらいどうでもいいだろ」


「どうでもよくないっ! あんたのせいであたしの初めて失くなって、もう誰とも一緒にいけなくなっちゃったじゃんっ!」

「お前は本当にうるせえな……」


「うるさいじゃないっ! 責任とってよ!」

「……これは皮肉じゃないんだが、少し声を抑えた方がいいぞ」


「は?」

「バカめ」



 弥堂のその言葉に希咲は少し冷静になると、周囲からの奇異の視線に気が付く。


 どうやら今しがたの自分の言葉が、受け取り方によってはキワドイ内容にも聞こえるものだったことを自覚し、羞恥に頬を染めて顔を俯けた。


 そして、スススっと弥堂の隣に寄り、少し声を潜めて抗議を続ける。



「バカはあんただから! だって出禁よ、出禁っ! あたしもう恥ずかしくって……」



 本当に恥ずかしいのだろう。


 プルプルと身を震わせる彼女に、弥堂はやはりシレっとしたまま答える。



「出禁くらい別に大したことじゃないだろ」


「は? ばかじゃん? フツーは出禁になんてならないから」



 まったく悪びれもしないその発言に、希咲は眉を斜めにする。


 コロコロと変わる彼女の表情に、弥堂は内心で『相変わらず忙しいヤツだな』と浮かべ肩を竦めた。



「そうでもない。俺は昨夜も他の店で出禁になった。それくらいよくあることだ」

「あ、あんたってば……。あのさ、一日一軒ペースで出禁になってたら、入れるお店なくなっちゃうわよ?」


「そうしたら別の街に移ればいいだろ」

「うぅ……っ、人生観が違いすぎるよぅ……。こんな彼氏とやってけないよぅ……」


「なに泣いてんだ。バカじゃねえのか」

「ばかはあんたよぅ……」



 こんなDQN彼氏とは一刻も早く別れたいと、希咲は切実な涙を流す。


 だが、現状そういうわけにもいかない。


 このバカ男にはまだ用があるのだ。


 そのためには――



「――それより、何処に向かっているんだ?」


「映画館。駅ビルの」


「映画だと?」



 先程望莱と相談して決めた作戦を実行するために、駅へと戻る道を歩いていた。



「さっきめぐみがチケットくれたじゃん? せっかくだから使いましょ」


「ふざけるな。あんな密閉空間に誰が入るか」


「えー? またそれー?」



 また聞き分けのないことを言い出した困った子に希咲は溜息を吐き、それから今度は真面目な顔を作る。



「あのさ? 映画館なんて他にもいっぱいお客さん居るわけじゃん? 駅とも繋がってんだし。それみんな巻き込んでまで、誰があんたに何をするってのよ? リスクっていうか関係ない被害多すぎじゃんか。電車だって止まるだろうし、入ってるお店とかも壊れて、ケガしたり死んじゃったりする人もきっと大勢出る。あんた一人を狙うためにどんだけの被害を出すのよ。それやったら死刑確定だろうし」



 本来は口に出す必要もないごく当たり前のことをつらつらと言うが、それが弥堂に伝わらないのも当然のことだ。



「そうかもな。だが、それがどうした」

「マジばか。てゆーか、なんでこんなことマジメに話さなきゃなんないのよ……。そもそも狙われるわけないし。あんたって謎の組織かなんかと戦ってんの? 中学生かっつーの」


「どうだろうな。何か知ってたら教えてくれないか?」

「知るわけあるかっ! はぁ……、殺意が無いことを証明しないと行き先を決められないカップルってなんなの……? ありえないでしょ……」



 希咲がガックシと肩を提げたところで、視界の先に開けた場所が映る。


 最初に待ち合わせをした“パパ活広場”だ。



 記憶に新しいその光景を眼にして、弥堂は不愉快そうに顔を顰める。



「おい、戻ってきたぞ。どういうことだ」



 その言い様に希咲もムッとする。



「だから駅ビルの映画館に行くんだってば。戻ってくるの当たり前でしょ」

「チッ、行ったり来たり効率が悪いな」


「デートなんだからあっち行ったりこっち来たりすんのはフツーでしょ。遊びに来てるのに効率とかゆーな。つまんないヤツ。てか、あんたここでちょっと待ってて」

「あ?」



 唐突な希咲からの要求に弥堂は眉を顰める。


 希咲は歓楽街の入り口あたりを指差した。



「タオル濡れちゃったから、あそこのコンビニで替わり買ってくる。トイレ借りるついでに」



 言いながら口を縛った半透明のビニール袋を弥堂の目線の高さに上げる。


 先程のカフェで洗ってもらった物だ。帰りがけというか、追い出され際にミッチーさんが慌てて持ってきて返してくれたのだ。


 感謝の気持ちと申し訳ない気持ちが同時に蘇ってきて居た堪れなくなったので、希咲はすぐにビニール袋を下げた。



「タオルなんか別にいらねえだろ」


「は? すでに人のタオル使わせといてなに言ってんの?」



 実際には自分で溢したジュースを拭くのに使ったのだが、七海ちゃんの中ではあれは弥堂のせいということになっている。


 弥堂本人も自分のせいで女に面倒をかけるということに違和感を持たなかったので、特にそれについて反論をすることを思いつかなかった。



「頼んでねえよ」

「どうせさ、あんたまた汚すんでしょ? タオルいるじゃん」


「いらねえよ」

「いるし。だって映画観ながらなんかジュースとか溢しそうなんだもん」


「するか。ガキじゃねえんだ」

「ホント、ガキじゃないのよ」



 何を言っても何か言い返され、ジト目を向けられる。


 弥堂は話の方向を逸らそうとする。



「だいたいお前、便所はさっき……」



 言いかけて、ジロっと希咲のお腹あたりに眼を遣る。


 その仕草に希咲は顔をより不機嫌そうにさせた。



「あによ?」


「あぁ、そうか。お前食い過ぎたから――」


「――ふんっ!」



 ノンデリ男がその先を口にする前に、七海ちゃんは左腕をブンっと振って腰の入ったリバーブローを弥堂の脇腹に突き刺した。


 弥堂はその一撃で脚に力が入らなくなり、ガクッと地面に膝を着く。



「ぐっ……」

「いい? 広場に入らないでここに居るのよ? 中行ったらどうせまた誰かとケンカすんだから」


「…………っ」

「ちゃんと大人しくいい子にしてんのよ? 聞いてんの?」



 内臓が痙攣して声が出せなかったので、代わりにシッシッと手を振って彼女を追い払った。


 希咲はツーンっと踵を返す。


 そして、蹲る彼氏を置き去りにしてコンビニへと向かった。




(どんな威力だ……っ)



 弥堂は打たれた場所を手で押さえながら彼女の戦闘能力に脅威を覚える。



 あの細腕でコミカルな風に振られたパンチの威力は冗談で済まないようなものだった。


 当たりどころが悪かったのか、思いの外ダメージが大きい。


 芯まで撃ち抜かれたかのようで、まだ膝の痙攣が治まらず脚に力は入らなかった。



 そうやって、人通りの多い公共の場でみっともなく蹲っていると、弥堂の頭に人型の影が重なる。


 地面へと向いている弥堂の視界の中に、女物の靴が這入りこんできた。



「なにしてんの? ユウキくん」



 聞き覚えのあるその声に顔を上げると、そこに立っていたのはやはり弥堂の知っている人物だった。







「――アリガトゴザマァー」


「どうもでーす」



 レジ係の外国人男性に会釈をして希咲はコンビニを出口へ向かう。



<ホントにタオルを買いたかっただけなんですか?>


<え?>



 すると望莱が話しかけてくる。



<だってトイレ入ったと思ったら一瞬で出ちゃいましたし>


<あー、うん。つか、タオルの方がついで。トイレってゆーか、個室ならどこでもよかったんだけど、人目につかないトコで濡れた方のタオルを指輪に仕舞いたかったのよ>



 ちょうど店に入ってきた別の客と擦れ違いながら、右手の指輪に一瞬視線を遣って外へ出た。



<ふふふ。その指輪を使えば万引きし放題ですね>

<バカなこと言わないの。つか、“所有権”の問題でムリだし>


<せんぱいに指輪使わせたら“所有権”突破しちゃいそうですよね。自分が欲しいって思ったらその時点でもう自分の物だと心の底から思ってそうです。わたしもうちょっとで出来そうなんですよね>

<あんたそれやったら指輪没収するから>


<そんな……⁉ わたしこれが無いともう生きていかれません>

<そうなっちゃうから、“これ系”に普段から頼っちゃダメって言ってんじゃん>



 鼻から薄く嘆息して、少し歩くペースを調整する。


 元の広場へと進路をとった。



<今の“所有権”の話とほんのちょっとだけ似てるんですけど……>


<ん?>


<さっきの“せんぱい”の話です>



 望莱の声に少し真剣味が佩びる。



<関係ない人や建物にどれだけの被害を出したとしても襲撃を仕掛けられる。あれって、多分“せんぱい”自身が“そう”だから、他人も当然“そう”するはずだって考えているんだと思います>


<え? あれって単に口答えしたかったんじゃなくって、マジで“そう”考えてるってこと……?>


<もしも“せんぱい”が“そう”なら――って、話ですけどね>


<それってさ……>


<はい。リスクやコストを度外視して、与えられた目的だけを果たせればそれでいい。前にも言いましたね。カルトとかのテロリストのマインドです>


<…………>



 前に聞いた時よりも彼に関する情報が増えたからだろうか。


 前と同じように「そんなことあるわけない」とは笑い飛ばせなかった。



<と言いますか、そういう捨て身の襲撃を警戒すべきは、むしろわたしたちの方なのかもしれませんね>


<……なんかさ? 妖とかのモンスターみたいなのにはもう慣れたけどさ。テロだとか犯罪だとか、あとは軍も? そういうのには全然実感が湧かないわ……>


<これは正直に認めざるをえないです。わたしたちには“そっち”の経験が不足しています。逆に“せんぱい”は“そっち”――対人のスペシャリストなのかもしれないです>


<あー、ね。なんか、わかるかも>


<ハグレの退魔師って、どうしてもそっちに行きやすいんですよ。“せんぱい”が“外法師(ハグレ)”かはわかりませんけど>


<そうなの?>


<はい。身を潜めて生きるにはケツモチが必要じゃないですか? そういう人たちに飼われて工作とか暗殺に特化するんです。でも……、そうだとすると、港で魔王級を斃した勇者様とはイメージがズレちゃうんですよねぇ……>


<あいつマジめんどい>


<ふふ。わたしは逆にどんどん興味が湧いてきます>


<マジめんどい>



 ベクトル違いの同じ言葉を繰り返すと、弥堂を待たせている広場が見えてきた。



<あいつちゃんといい子にしてるかな……>

<七海ちゃんのママみがハンパないです>


<ママじゃないし。つか、ママだったらちゃんと一緒に連れてかなきゃダメでしょ……、って――⁉>

<どうしました?>



 弥堂を置いてきた場所に視線を向けると、希咲の目にとんでもない光景が飛び込んできた。



 希咲の視線の先、そこには――




――見知らぬ女性の胸を鷲掴みにする弥堂 優輝の姿があった。




「ちゃんと一緒に連れてけばよかったぁーーっ!」




 ちょっと目を離しただけですぐに性犯罪を起こすクズ彼氏に、七海ちゃんはゴーンっと白目になった。








 時間は少し戻って――



「――ねぇねぇー? ユウキくんお腹いたいのー?」


「うるせえな。どっか行けよ」



 希咲が立ち去った後に入れ違いで弥堂の前に現れたのは、キャバクラ店“Void(ヴォイド) Pleasure(プレジャー)”のエスコートバニーであるマキさんだった。


 当然バニースーツではなく私服姿である。


 腹を押さえて地面に蹲る弥堂に、彼女は嬉々として絡んできた。



「なぁーんでそんな冷たいこと言うかなー? 心配してんじゃーん」


「余計なお世話だ。大したことはない」


「でも座ったままじゃんか。あー……、もしかしてぇ……?」



 マキさんは指先をピンっとさせた手を唇に添えて、悪戯げに目を細める。



「パンツ見てるでしょー?」



 弥堂の正面でしゃがむスカート姿の彼女は嬉しげに笑った。


 弥堂はうんざりと眉を顰める。



「見てるんじゃない。見えているんだ」


「えー? ちがうよー?」



 マキさんはその場でしゃがんだまま、手だけを内緒話をする時のように口の横に立てる。



「見せてるんだよ……?」



 彼女のそういったわざとらしい蠱惑的な仕草にはもう慣れているので、弥堂は嘆息し義務的に注意をする。



「バカなことを言ってないで隠せ」


「えー? それってもしかしてジェラシー? 他のヤツには見せるな的な?」


「そんなわけないだろう」



 辟易としながら弥堂は依然として解放されたままのマキさんの股間をジッと視る。


 ギラついた赤色を黒いレースが縁取っている。


 以前に見た希咲のパンツと酷似していて、弥堂はイラっとした。



「すっごい見てるし」

「赤は攻撃色だからな」


「そうだぞー? ウサギさんのお目めも真っ赤。食べちゃう気マンマンだぞー?」

「それは恐いな。どっか行け」


「それならユウキくんが逃げればよくない? もしかして勃っちゃったの? 勃っちゃって立てなくなっちゃったの?」

「言ってて恥ずかしくないのか?」



 日々オジさんたちのセクハラと戦っているせいか、ナチュラルにオジさんのようなセクハラを口にする耳なしウサギを弥堂は侮蔑の眼で見た。



「てゆーか、めずらしーね? こんな昼間から街に居るなんて。似合わないぞ?」

「ほっとけ。用があれば昼だろうが夜だろうが必要な場所に行く」


「せっかくだから遊ぼーよー」

「用があるって今言っただろ」


「じゃあ一緒にいこ? ついでに服選んであげるよ」

「服なら着てるだろ。必要ない」



 ハッキリと言い切った弥堂をマキさんはジッと見てパチパチとまばたきをする。



「ジャージじゃん」

「あぁ」


「あ、でも今日は学校ジャージじゃないね。ちょっとだけ進歩した感じ?」

「学校ジャージでこっちに来ると華蓮さんがうるさいんだ」


「あは、うける。でも、ダサイよ?」

「どうでもいいだろ」


「だからお姉さんが選んであげるって言ってんじゃん? あ、お金は自分で払ってね? あと、ついでに報酬としてワタシにも服買って」

「わかった。服を買えるだけの金をやるから、キミ一人でどこかに行け」


「なぁーんでそんなこと言うのさー! ねーえ! 遊ぼーよーっ! ねぇーねぇーっ!」

「触るな」



 弥堂が全く言うことを聞いてくれないのでとうとう焦れたマキさんは、彼のジャージをグイグイと引っ張ってダダを捏ね始めた。


 弥堂は迷惑そうな顔をした。



「おい、やめろ」

「一緒にショップまで行ってお会計してくれるまで離さないぞー!」


「金ならやるっつってんだろ」

「やーだー。ユウキくんも一緒じゃなきゃやだー!」


「こいつ、調子に乗るなよ――」

「あっ――」



 遂に弥堂は実力行使に出る。


 ダダっ子バニーさんのお胸をガシっと豪快に鷲掴みにする。



 マキさんは掴まれた自身の胸をジッと見下ろし、パチパチとまばたきをした。


 そして、ニッコリと微笑む。



「お? なんだー? 男子高校生ー? 盛っちゃったのかー?」



 彼女はまるで怯むことなくむしろテンションを上げた。



「いいよー? “そっち”先にいくー?」


「……少しは嫌がれよ」



 そんな彼女に弥堂の方がテンションを下げる。


 弥堂の伝家の宝刀であるセクハラはマキさんにはあまり通じない。


 むしろ彼女は嬉しそうにもして余計にウザガラみをしてくるので、弥堂は彼女のことを若干苦手にしていた。



「うふふ。自分から勝手に胸揉んできたくせに嫌がれとか……、性癖歪みすぎじゃない? そーゆーのも好きだけど……。次はそういう風に演技してあげよっか?」

「必要ない」


「てゆーか、全然手離さないね?」

「あ?」



 そう指摘され、胸を掴んでいる手に意識を向けるとその手首をマキさんにガッと掴まれて、逆に胸に押し付けられる。



「おい」

「ふふふー。あ、でも、ブラウス皺になっちゃうから、あんまり乱暴にはしないでね?」


「心配することが違うだろ」

「えー?」



 人通りの多い場所でしゃがみこみながら女性の胸を掴む男に、通りすがった人々は最初にギョッとしてからジロジロと見つつ過ぎていく。



「そういえば……」


「うん?」



 往来で自分の胸を掴みながら何かを思い出したようにする男にマキさんはテンポよく返事をする。


 内心では『この子やっぱり手離さないなー』と考えつつ、表面では愛想のいい笑みを浮かべた。



「この広場にそういう服装の女が多い気がするんだが……」


「え、そう?」



 言われてパパ活広場に目を向けると、確かに“そういう系統”の女がそれなりに居るような気もした。



「ここにはなにかそういうドレスコードがあるのか?」


「あはは。なに言ってんの。そんなわけないじゃーん」


「だが、キミは普段街で遊ぶ時はもっと水商売の女風の恰好をしていなかったか?」


「あれは夜だけー。ほら、ワタシも一応“地雷系女子”の端くれとしてさ? ちょっとそれっぽい服買ってみたんだー。どう? 似合うでしょ?」



 パチンっとウィンクしながらマキさんはその場で腕を拡げる。



 今日のマキさんのコーデは春らしい淡いブルーのブラウスにチェック柄のウェストの高いミニスカートだ。


 彼女本人の明るい性格のせいもあり、あまり地雷感はない。


 それにしゃがんだままなので、服装もよく見えない。



 だが、そんなこととは関係なく、また弥堂に“地雷系”の意味が通じるはずもなく――




「――地雷、だと?」



 その単語に強烈に紐づいた記憶が再生され、弥堂はギロリとマキさんの真っ赤なおぱんつを睨む。



「ぱんつじゃなくって、服を見てよー」

「お前、刻印を打たれたのか?」


「へ? 刻印……? タトゥーのこと言ってんの?」

「似たようなものだな」


「ワタシはタトゥーはやってないよ? 知ってるでしょ?」

「うるさい。いいからちょっと見せてみろ」


「えっ⁉」



 問答無用で弥堂がマキさんのスカートの中に手を突っこむと、さすがの彼女も驚きの声をあげた。


 一刻の猶予も無いかもしれないのでそんな彼女に説明している時間もない。


 左右の腿の間に無理やり手を突っ込んで隙間を押し広げる。



 下着をズラすために指を伸ばして、黒の縁取りに弥堂が爪をひっかけようとした瞬間――




「――なにしとんじゃこのボケェーッ!」




 横合いから超スピードで脚が伸びてくる。


 スニーカーの靴底が弥堂の横顔をぶっ叩き、ボッカーンと彼の身体を引き飛ばした。



「え――?」



 突然の出来事に茫然とするマキさんの目が向く先で、ゴロゴロと地面を転がった弥堂が、広場と通りとを仕切る石壁にゴチンっと頭をぶつけた。



「だ、だいじょうぶですか……っ⁉」



 突発的で無慈悲な暴力とは裏腹に、本当に自分の身を案じていることが伝わるような痛ましい声をかけられる。


 声のした方をマキさんが見ると、そこに居るのは当然希咲 七海だ。



「えぇっと……?」


「あ、あの、あたし、なんというかコレの彼女というか……、その、本当にこのバカがすみませんでした……っ!」



 希咲とは初対面となるマキさんは、あまりの事態に着いて行けずに首を傾げる。


 希咲は自分から“そう”名乗ることに強い抵抗があったが、今は自分のことよりも性被害に遭った女性へのケアを優先させるべきだと考え、勢いで名乗って勢いで頭を下げた。



 またもパチパチとまばたきをした“自称地雷系の端くれ女子”は、泣きそうな希咲の顔をジッと見て、次に頭を押さえて苦痛を堪える弥堂の顏をジッと見て、それからもう一度希咲の顔をジッと見る。


 そして――




 唇をニンマリと蠱惑的なカタチへと変えた。


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― 新着の感想 ―
弥堂ってこの時マキさんのことちゃんと心配しての行動なんだよな。外から見たらやばい行動だけど
恋愛に誤解と障害は付きものですよね
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