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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章14 重ならない面影、触れられない記憶 ⑤


 少し、時間と空気に停滞を感じ、それに慣れることの選択を突き付けられる。



 そんな時――



<――わっふるわっふるッス!>



 突如、念話でメロが叫ぶ。


 弥堂はスッと眼を細めた。



 すると、ちょうどテーブルの上のチョコバナナワッフルにプスっとフォークを刺した希咲が、その表情の変化に気が付く。



「ん? あんたもバナナ食べたいの? ワッフルの方?」


「いらねえって言ってんだ……、待て。今なんと言った?」


「へ? ワッフル……?」


「ワッフル……だと……?」



 ギロリと希咲を睨みつける。


 突然敵意を向けられた形だが、希咲はジトっとした目になった。



「先に言っとくけど。あんたが考えてるようなことじゃないと思う。知らんけど」


「知らんのなら黙っていろ。判断をするのは俺だ」


「はいはい。食べちゃうからね」



 呆れた態度で弥堂をあしらい、希咲はチョコレートソースのかかったバナナを口に入れる。



(偶然か……?)



 メロやエアリスとの念話は弥堂の頭の中で伝わっているだけで、音声として届いているわけではない。


 希咲や周囲には漏れていないはずだ。


 しかし、それは仮に漏れていたとしても気付くことは出来ないことも意味する。


 それも事実だ。



<おい、ワッフルとはなんだ?>


<んあ? ワッフルはワッフルしかないだろッス>


<惚けるな>



 この悪魔は先日に一時的に希咲の捕虜となっていた時間がある。


 その時に実際に何が起こったのかはあくまで本人の証言による情報でしかない。



<言え。ワッフルとはなんの暗号だ?>



 弥堂は内通の可能性を疑った。



<なに言ってんッスかオマエ?>


<オマエの裏切りを疑っている>


<えっ⁉ ちょっと寝ちまっただけで裏切りッ⁉ それくらいでそこまでキレんの……⁉>



 ちょっと思い通りにいかないとすぐに「裏切った」とか言ってくるメンヘラ男にメロはドン引きする。



<違う。寝てようが起きていようが、突然『わっふる』などという意味不明な言葉を叫ぶ理由などない。不自然だ。言え>


<いや、ジブンはなんかエロいことが起きてそうな気配を感じて飛び起きたんッスよ>


<もっとマシな言い訳をしたらどうだ。そんな生き物はいない>


<だってジブン、サキュバスッスだし……>



 この人何言ってんだろと、メロは弥堂の視界を共有して現状を確認する。


 すると、映ったのはワッフルをパクっとして“ほわぁ~”っとする七海ちゃんだ。



<お、美味そうなワッフルッスね。ちょっとオマエも一口食べてみてくれッス>


<なんだと?>


<味も共有できないか試してみたいッス。チャレンジッス>


<なるほどな。そうやって俺を唆すようこの女に指示を受けたな? 騙されるものか>


<はぁ? そういうイチャモンはナナミに言えよッス。ジブンにやってもしょうがないだろッス>


<それを決めるのは俺だ。自分だけは助かるなどと安易に考えるなよ? 敵は皆殺しにする>


<ちょ、ちょっと目を離した隙になんでこの人ガンギマってんの? コワイんだけどッス>


<――ユウくん>



 弥堂とメロの会話にエアリスが割り込んでくる。



<ワタシがチェックしていたけれど、一応念話が他に漏れたりはしていないわ>


<そうか。ならいい>


<オイッ! 謝れよ! よくわかんないけどゴメンなさいしろよッス!>


<黙れクズ。役立たずは寝ていろ。二度と起きるな>


<ね、寝起きにこんなガチめの罵倒しないで欲しいッス……。でもまぁ、その調子なら計画は上手くいっているようッスね>


<計画?>


<だから、オマエがナナミに――って! うおぉぉぉぉッ⁉>


<む? どうした?>



 突然メロが叫ぶ。


 もしや病室の方に襲撃があったのかと弥堂は詳細を確認しようとするが――



<――ワッフルがきたッス!>


<なに……⁉>



 またもワッフルが――弥堂の警戒心が跳ね上がる。



<報告をしろ! ワッフルとはなんだ? 爆発物か?>


<うひょぉーッス! こんな偶然あるんッスね!>


<おいっ!>



 だが、メロは酷く興奮した様子で応答をしない。



<あー……、ユウくん。違うの>



 見かねたエアリスが代わりに答えた。



<今ね、小娘の昼食が運ばれてきたのだけれど――>


<――デザートにワッフルがあるッス! マナとはんぶんこするッス!>


<つまり、どういうことだ?>


<こっちは大丈夫よ。小娘も元気にごはん食べているわ>


<これはジブンの手柄ッス! イイダをシメてマナのご飯に毎回スイーツを付けるように強要したッス! イイダの自腹で>


<今の任務が終わったら説明するから気にしないでちょうだい。大したことじゃないし>


<……いいだろう>



 何か勝手なことをしているようだが、弥堂は気にしないことにした。


 代わりに別に気になったことを確認する。



<今更だが>

<なにかしら?>


<そのネコが寝ている間に、そいつの魔法をお前が使えるのか?>

<あぁ、それね。厳密には使えないわ。ただ、そのネコが発動させた魔法にユウくんを通して干渉して無理矢理維持していただけ。寝ているネコから勝手に魔力を吸い取って>

<え、なにそれ。コワイッス……>


<念話や視界共有などのユウくんと繋がる類いの魔法を発動中にサポートすることは可能。でも、ワタシ自身が起動することは出来ない。それはネコが自分でする必要がある。そんな線引きね>

<把握した>



 弥堂はそれで彼女らとのやりとりを打ち切る。


 そして目の前の希咲に集中する。



「……めっちゃ見てくるし」

「ワッフルとはなんだ?」


「まだ言ってんの? これ。バナナの下のやつ」

「…………」


「ホントは食べたいの? あんた『男がスイーツなんて』とか気にするタイプ?」

「そのような事実はない」


「あっそ」



 希咲は適当にあしらって、弥堂にワッフルを説明するためにフォークで触れたバナナをプスっと刺す。


 そのバナナが口に運ばれていく様を、弥堂は一部の隙もない鋭い眼光で視ていた。



<この人、七海ちゃんがバナナをパックンするところスゴイ見てます。ガン見です>

<ねー。きもいね>


<きっと今“せんぱい”の脳内の七海ちゃんは、マイクロビキニを着てバランスボールに乗っていることでしょう>

<なにそれ? いみわかんないし>



 こっちもどうせろくでもないことを考えているのだろうと、希咲はスルーすることにした。



<てゆーか、ちょっとわかってきました>

<え?>


<視線を向けないで下さいね。今、“せんぱい”の目。また少し蒼く光ってます>

<ん>



 希咲はナイフとフォークをワッフルに伸ばしながら弥堂の顏を視野に入れる。



<瞳の中心? 奥の方がちょっとだけ>

<……なってるわね>


<魔力の光だとこうしてカメラに映ったものがモニターに表示されないことが多いんですが……>

<そっちでも見えてるってことね>


<はい。こうして時間をかけて観察しているとわかってきましたが、光や反射の加減ではないと思います>

<……今、なにかしてるかもってことか。ワッフルに……? バカじゃないのこいつ>



 希咲は仕草には表れないよう、弥堂がジィっと視ているワッフルを素知らぬ風に口に入れた。



<さて、再度目的の確認です――>

<ん?>


<せんぱいのスキルの確認、それからマーキング>

<あっ……>


<七海ちゃんは悪いクセで感情移入して忘れてたかもしれませんが、それがわたしたちのミッションです>

<そ、そんなことないし……っ>



 そういえばそうだったと希咲は内心で気持ちを切り替える。



<……今、やる?>

<う~ん……。もしも、“せんぱい”のコレが、七海ちゃんと同種のスキルだったとしたら……>


<あたしが覗いた瞬間に、向こうにもナニカしたことがバレるかもしれないわよね?>

<はい。そうするとここまでの時間で稼いだ“せんぱい”の好感度が消し飛んで、いきなり襲ってくるかもしれないです>


<好感度……? 上がってるのこれ?>

<それも見てみてください>


<や、そんな機能ないし>



 脱力してしまうようなことを言う望莱に呆れを示す。



<理想は七海ちゃん以外のモノをあの目で見ている時にこっそり覗くことですが……>

<出来るかなぁ……>


<ここまでにも何回かやっています。店員さんとかお料理とかにも、あの目を向けているように見えました>

<スキル覗くのもそうだけど、こいつがそうしている時に何を考えてるのか頭の中も覗いてみたいわ。そんなこと出来ないけど>


<あとはマーキングですね。それをするには“せんぱい”に触れる必要がありますが>

<それも簡単じゃなさそうね……>


<なに言ってるんですか。そっちは超イージーですよ>



 希咲が難色を示すと、望莱が殊更軽い調子で言ってきた。



<え? そう?>

<はい。ていうか、昨日は向こうから勝手に触ってきたんですよね? 今日もやれそうなタイミングありましたし>


<それは……、まぁ、うん……。でもさぁ>

<はい?>


<そういう時のこいつってば、わけわかんないタイミングでわけわかんないことしてくるじゃん? だからあたしも「はぁっ⁉」ってなっちゃって、頭から飛んじゃうのよね……>

<まぁ、マーキングも打ち込んだ瞬間バレるかもなので、やるなら別れ際に「またデートよろしくね」って感じで握手チャレンジしてみましょう>


<ん。おけ>



 そうして算段をつけていると――



「――失礼します、お客様」


「え――」



――クールビューティなバイトリーダーさんがテーブルにやってきた。



 声に反応してパッと顔を上げたら、ブラウスを強烈に盛り上げる大きなお胸が目に入る。


「おっと」と反射的に目を逸らすと、その先にいた弥堂が店員さんのお胸をギラリと睨んでいた。



(きも)



 店員さんが希咲に話しかける。



「ご注文のものが揃いましたので伝票を置いておきます。お会計の際にレジまでお持ちください」


「あ、はい。わかりました」



 大体の飲食店で当たり前に行われるようなやりとりをした。


 しかし、その当たり前のことが出来ない子もいる。



「おい――」



 伝票をジッと視ていた弥堂はその視線をギョロリと店員さんの顏へ向けた。



「はい?」


「わざわざ後回しに別の場所でする必要はない。金なら今ここでくれてやる」


「え――」



 そう言って弥堂は動き出す。


 だが――



 ガッと――素早く希咲の手が弥堂の手首を掴んだ。


 弥堂の眼玉が希咲へ向く。



「なんの真似だ?」


「なんのマネよ?」



 ほぼ同時に同じ言葉を吐いて二人は睨み合った。


 この状況がまったく理解できない店員さんは戸惑いがちに声を出す。



「あ、あの……?」


「あ、だいじょぶです。こいつはあたしに任せて逃げてください」


「え……? にげる……?」


「さぁ早く! 今のうちにっ!」


「えっ? えっ……?」



 何が何だかわからなかったが、希咲の勢いに押されてバイトリーダーさんは逃げて行った。


 その背を見守ってから、希咲は再び弥堂をジッと睨む。



「あんたこの手はなに?」



 そう言って自分も掴んだ弥堂の手に目線を遣る。


 その手に握られてるのは数枚の万札だ。



 何を咎められているのかわからないと弥堂は肩を竦める。



「金を払おうとしたんだが」

「お金は最後にレジで払うの。そう言われたでしょ?」


「ふん。知らない人間の誘導になど、誰が馬鹿正直に従うか」

「バカじゃん? つか、あんたそれ、また胸に突っ込もうとしたでしょ?」


「そのような事実はない」

「うそ」



 希咲は性犯罪者へ向けるような目で弥堂を軽蔑する。



「マジ信じらんないんだけど」

「誤解だ。というか、金を突っこめるような隙間などなかっただろ。お前と違ってパンパンに膨らんでいたからな」


「は? あんた今なんつった?」

「なにも」



 どうやらお金を捻じ込む隙間を探して店員さんの胸をジロジロ見ていたようだ。



「きもすぎ」

「とにかく、俺はエプロンに金を入れようとしただけだ。それなら文句はないだろ」


「んなわけあるか! 一緒じゃん! ここはそういうお店じゃないの! お金はフツーに手渡しなさい! レジで!」

「うるせえな」


「うるさいじゃない! もぉーっ! あたしマジでハズイから、ヘンなことすんのやめてよっ!」

「注文が多いな」


「注文といえば……」



 希咲は一旦お説教をやめて弥堂の手を離す。


 椅子にちゃんと座り直して、改めてテーブルの上のものを見渡した。



「……あんたこれどうすんの?」



 げっそりとした顏で不安を漏らす。


 最初よりは並んでいる皿は減ってはいたが、先程補填された分もあり、まだそれなり以上の料理が残っている。



「ホントに食べんの? 似合わなすぎなんだけど」



 弥堂の前に置かれたオサレパフェを胡乱な瞳で見ながらそう言うと――



「食うわけねえだろ、こんなもん」



――ヤツはいけしゃあしゃあと無責任なことを言い放つ。


 希咲の眉がまたナナメになった。



「食べないのになんで頼むのよ!」

「うるせえな。金払うんだからいいだろ」


「よくない! 食べ物を粗末にすんな! あたしそういうのマジきらい!」

「そう思うんならお前が勝手に食え。金はもってやる」


「もぉーーっ!」



 自身の主義主張に反することを平然と言ってくるので希咲は怒り心頭となるが、しかし同時にこの男に言っても無駄だということもわかっている。


 半ば諦めながら、頭の中でテーブル上のもののカロリー計算を始めた。



 そんな時――




「――う、うわあぁぁぁぁっ! めぐめぐぅーーっ!」



――突如他のテーブルから男の悲鳴が響く。



「こ、今度はなによ……」



 普段はこんな騒がしい店ではないはずだ。


 この男の行く場所には必ず人々の悲鳴があがるようになるのだろうか。



 希咲はそんなことを考えつつ、少々うんざりとしながら声のした方へ目を向ける。


 すると、そこは若い男女のカップルの席だった。


 先程ジョセフィーヌちゃんを脱走させる為のカラアゲを弥堂にパクられた人たちだ。


 椅子から離れた男が床に膝を着き、座ったままの女の腰に抱きついている。



(おや、これは……?)



 もしや別れ話をされて泣きついているのだろうかと、七海ちゃんは悪いと思いつつ若干興味を持ってしまった。


 しかし――



「どうしたのー? ヨっくん」


「べ、便器に……っ! 便器に血があぁぁぁっ……!」


「は?」



 聴こえてきた声に思わず顔を顰める。



「食事中に大声でやめてよ。汚いわね……」



 愚痴を溢しながら彼らから目線を戻す。


 すると――



(そういえば……)



 ふと、弥堂に迷惑をかけられたあのザマス口調のマダムは無事にジョセフィーヌちゃんを捕獲出来たのだろうかと今更心配になる。


 今度はカップルの席とは反対側になる通りの方へ目を向けた。



<ねーねー、みらい>

<はい? どうしました?>


<さっきさ、ワンちゃん追いかけていったオバさんいたじゃん?>

<それならご安心を。スタッフに捕獲させて返しておきました。店には戻らないよう話もつけてあります>


<あ、そなんだ>

<なにか気になることが?>



 どうして急にそんな話をと、望莱は希咲に尋ねる。



<や。あのマダムなオバさんさ、「ザマスザマス」言ってたじゃん?>

<はい……?>


<もしかしてリィゼも歳とったら「ザマス」とか言うようになっちゃうのかなぁって心配になって……>

<まぁ。ザマス進化ですか。リィゼちゃんの生態に新たな学説が生まれましたね>


<うん。もしそうなったら一緒にお買い物とか行くのちょっと恥ずかしいなって>

<……あの、七海ちゃん? もしかしてちょっと飽きてます?>



 どうやら滅茶苦茶な出来事が連続で起こりすぎたせいで、七海ちゃんは良くも悪くも慣れてしまったようだ。


 しかしそれは油断とも言える。



 通りの方を見ながら望莱と関係ない話をしていたせいで希咲は気が付くことが出来なかった。


 自身の対面の席に座っているはずの男が其処に居ないことに。


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