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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
2章 俺は普通の高校生なので、バイト先で偶然出逢わない
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2章13 ドキドキの初デート ④


 希咲はこっそり周囲に視線を振って、知り合いがいないかを何度も確認する。



 こんな場所で一般の方々にオラついているのも問題だが、それよりもこのイカレ男と連休の初日からお出かけしているところを目撃されるのも非常にマズイ。


 もしも同じ学校の者にこんな場面を見られ、さらに動画を撮られて拡散でもされれば自分はもうおしまいだ。



 カーストだって3ランクくらい下がるし、友達も何人かフェードアウトしていくだろうし、何より高校在学中に彼氏(真)を作ることはもう諦めなければならなくなる。


 JK生命が終わるかどうかの瀬戸際に希咲は立たされていた。



 そんな風にキョドキョドとしていると、望莱から思念通話が入る。



<いやぁ、それにしても聞きしに勝るDQNぶりですね>

<どきゅん……? は? あんなのトキメクわけないし>


<あ、いえ。古のネットスラングです。頭おかしい人的な意味の>

<あー、ね。うんうん。あいつ超ドキュンよドキュン>


<ここまでアレだと、態度から彼の記憶の具合とか測るのはちょっと難しいですね>

<……うん。そーね。うん……>



 今日の目的の一つを思い出して希咲はより陰鬱な気持ちになる。



 そういえばそうだった。


 彼氏があまりにアレなせいで頭から消えてしまっていたが、今回の目的はこの罰ゲームのようなデートに耐え抜くことではなかった。



 自分がしなければならないのは、背後に立つ男からいくつかのことを見定めることであったと思い出す。


 だが――



<行動がなんもかんもハチャメチャだから、なにが不自然なのかが逆にわかんないっていうか……>

<どう育ったらこんな風になっちゃうんでしょう? そのへんのチンピラさんの方がよっぽどお行儀いいですよね? わたし興味あります>


<知りたいような……知りたくないような……>

<とはいえ、ここまで疑似的にわたしも“せんぱい”とデートしてみて数十分ですが、これは『ない』ですね>


<あ、さすがのあんたでもそう思うんだ>



 希咲から見たら弥堂と望莱はアレな子のワンツーだ。


 なので、そんな彼女にも一般的な女子の感覚があったことに少しだけホッとする。



<わたし、人に迷惑をかけるのが大好きなんです。わたしがかけられるのはNGです>


<クソじゃん>


<正確には迷惑をかけられた人のリアクションを見ることをエンタメだと思っています>


<聞いてないし>



 しかしその安心は儚くも消えた。


 やはりどちらも大差はなかった。



 それでも、無差別に他所の人にオラついたりしない分、若干みらいの方がマシかもしれない。



(いや、でも……)



 彼女はお金と家の権力を使って、単純な暴力や犯罪特化の弥堂とは別方向でより多くの人々に迷惑をかけたりもする。



(そう考えるとこいつってチンピラみたいなもんか……。どっかに閉じ込めて誰にも会わせなければ悪いことできない……? って、あ、それってただの刑務所じゃん……)



 やっぱり弥堂の方がマシなのでは? と考えた時――



「――おい」



 ついさっき独房に入れたばかりの受刑者が鉄格子の隙間から手を出してくる。


 希咲は「はぁ」と溜息を吐いてから顔を後ろへ向けた。



「今度はなによ」



 なんだかんだで優しい七海ちゃんは一応話は聞いてあげるようだ。



「何故あいつらに順番を譲る」


「はぁ?」



 すると、どんな状況に置かれても『自分は一切悪くない』と考える男がまた文句を言ってくる。



「ただでさえ待たされているのに、なんで待ち時間が増えるようなことをする」

「そんなのあんたが迷惑かけたからでしょ。文句言わないで」


「だいたい、予約をしているはずなのに何故待つんだ? 意味ねえだろ」

「もぉーーっ、うるさいなぁ……。ほら、あれ見て」


「あ?」



 希咲は弥堂のジャージを引っ張って列から少し横に顔を出す。


 そしてこの行列の先頭となる店の入り口辺りを指差した。



「……見える? あそこが受付って言うの。お店に入ったらまず受付行って案内してくれる店員さんに『○人なんですけど入れますか?』って聞くの。そしたら店員さんが『ご予約はされていますか?』って聞いてくれるから、予約してるならしてるって答える。そしたら席に案内してくれるから大人しく指示に従う。予約してなくって今日みたいに一杯だったら『席が空くのをお待ちになりますか?』って聞かれるから、待つならほら……、この列の隣の別の列に並んでる人いるでしょ? あっちに並んで大人しくする。待ちたくないなら大人しく帰る。文句は言わない。人を殴らない。物を壊さない。おーけー?」


「……お前バカにしてんだろ」



 七海ちゃんが小学生にもわかるように、優しく丁寧に『お店の入り方』を教えてあげると、弥堂はビキっと口の端を引き攣らせた。



「あたしがバカにしてるってゆーか、あんたがおばかなんだもん。子供でも出来ることもしないから」


「大体受付に店員が居ないなら意味ねえだろ」


「ここ混んでるんだから忙しいんでしょ? 次のお客さん入れるためにテーブル片付けてるかもなんだし。しょうがないじゃん」


「だったら、こんなもん列を追い抜いていって店員を呼べばいい。それで『予約してるから入れろ』と言えばいいだろ」



 ワガママ男がなおもゴネると、希咲は「んー」と言葉を探してから答える。



「もしかしたらそれでも対応してくれるかもしんないけどさ。そうすると他の並んでる人がヤな気分になるかもでしょ?」


「あ? どういうことだ?」


「だからー。あたしたちが予約してるって他の人から見たらわかんないわけじゃん? 並ぶのも待つのもみんなヤなの。だけど、なんか横から割り込んで入ってく人とか見たらみんなイライラしちゃうかもでしょ? あんたみたいに」


「それはそいつらが馬鹿なだけだ。予約をしてたら入店を優遇されるのは当然の権利だろ」


「そーだけど、それはお店に入れるまでの権利じゃん」


「あ?」


「『あ?』っつーな。もぉ、しょうがないなぁ……」



 溜め息を吐いて希咲は身体ごと弥堂の方を向く。


 人差し指をピンっと立ててしっかりと説明をする。



「だからさ。予約で約束されるのはお店に入れるってとこまでね? おけ?」

「そんなの当たり前だろ」


「ん。でさ、その後の楽しく平和に過ごせるってとこまでは含まれてないわけ? わかる?」

「……? よくわかんが」


「だからぁー。お店に入ることを『権利だー』って振りかざして他の関係ない人の反感買っちゃうと、その後楽しく平和に過ごせなくなっちゃうかもでしょ?」

「……襲撃をされる恐れがあるって話か?」


「それは言い過ぎだけど、まぁ、大袈裟に言うとそういうことよ。実際そこまではされないかもだけど、席が近くなっちゃったら聴こえるようにイヤミ言われるかもだし、トイレとかで擦れ違ったら舌打ちされたりとかさ。色々あるじゃん? そうなったらつまんないでしょ?」

「…………」


「周りに居る人たちってみんな知らない人だし、多分喋ることもないけど。でも同じ空間を共有するわけだからさ。お互い気分を害さないようにした方がいいじゃん? そうした方が自分も楽しめるわけだし、トラブルも起きない。でしょ?」



 最初は何を言っているのか弥堂にはわからなかったが、心中で「なるほど」と一定の理解をする。


 希咲の言っていることに共感して納得をしたわけでは決してない。


 これが彼女の処世術なのだろうと――そういう納得だ。



 彼女は弥堂に対しては激烈な対応を見せるが、普段の学園で他の者に対してはそうではなかった。


 実際に彼女と関わるまでは彼女の立ち振る舞いを見て、対人関係の調整が上手いとさえ思っていたほどだ。


 そのスキルの根幹にある考え方に触れて、それには理解をした。



 しかし、それで彼女の言うことを聞くかというのはまた別の話だ。


 弥堂は何となく反論を続けたい気持ちがあったので、さらに口答えをする。



「だが、気分を害したと文句を言ってくる者が居たらそんなもの――」

「――ぶん殴ればいいはナシね? そうなった時点でもう平和じゃないでしょ?」


「……じゃあ――」

「――脅迫もダメ」


「……なら――」

「――買収とかバカじゃん?」


「…………」

「ベツに周りの顔色窺って媚びろとか言ってないの。大人しくしてるのはビビってるとかじゃないし。だからあんたは一個も悔しくない」



 しかし、完膚無きまでの先回りで弥堂は論破されてしまう。


 それをした少女は勝ち誇るわけではなく、少しだけ困ったように眉を下げた。



「トラブルを起こさないように気をつけるにはどうしたらいいかってだけ。モメてから解決するんじゃなくって、モメる前に芽を摘むの。わかるでしょ?」


「…………」


「今誰も文句言ったりとかしてないでしょ? 誰もあんたに敵意を向けたりも。あんたがカラんだりとか悪いことしなければ誰もあんたのジャマしない。だからあんたが悪いことしなければいい。でも、みんな平和にしてるのに、あんたがヘンなことしたら誰か怒っちゃうかもでしょ?」


「…………そうは言うが――」


「――今度は『そんなことで実際に文句を言ってくるヤツなんかいるわけない』って言うつもり?」


「…………」


「自分を見ろ。今あんたの脇を通って先にお店に入ってく人見たらさ。あんた絶対カラむし、店員さんにも文句言うでしょ?」


「……言わない」


「はいはい。お行儀よくできてエライねー? イイコイイコ」


「触るな」



 こちらの頭に腕を伸ばして撫でてこようとする彼女の手を弥堂は振り払う。


 希咲は特にそれを気にした様子もなく、



「ベツにさ。混んでる遊園地みたいに1時間も2時間も乗り物待つわけじゃないでしょ? ちょっとくらいいいじゃん」



 軽い調子でそう言って「んべっ」と舌先を見せてきた。



「ほら、進んだじゃん」



 受付に店員が来て対応を再開したのか、列が少し進む。


 希咲がそのまま前を向いてしまったので、弥堂はそれ以上の反論の機会を失った。



 少しだけ店に近づいてまた列が止まる。



 どうしてか、これ以上反論をすること自体が負けのような気がして、弥堂は黙ってまた彼女の背中へ眼を向けた。


 そうするとまた会話がなくなる。




<なんか、いくらなんでも社会性がなさすぎません?>


<あんたも大概よ?>



 その間に希咲は魔道具による通信でまた望莱とやりとりをしていた。



<んー、でもわたしって、やろうと思えばお外で普通のフリをすることは出来るんですよ?>

<いつもやってよ>


<でも“せんぱい”って、それすら出来ないっていうか、しようともしてない……? というか……>

<普通がわかってない?>


<あ、はい。それです。普通の基準が違うと言えばいいんですかね。そんな印象です>

<基準が違う、か……>



 希咲も彼に関してこれまでに似たような印象を受けてはいた。


 こうして街に一緒に出てみると、それがより一層に顕著に感じられる。



<違う文化圏の人が日本に来ちゃって馴染んでない――みたいに見えます>

<日本人なのよね?>


<少なくとも戸籍での出自はそうですね。でもそれは偽装しようと思えば――>

<――出来るってことか>


<ですです。イメージ的には後進国のスラムの人が日本に来たらこうなる――的な?>

<それはいくらなんでも言い過ぎって……、あっ――>



 その時、希咲は以前に彼の口から聞いた過去の関係者の名前を思い出す。


 “ルビア”に“エルフィ”。


 それ以上や以外に深く訊いたわけではないが、日本人の名前は一人も出ていない。



<どうしました?>

<ううん。ほら、外国に居たことがある風なこと言ってたって……>


<そういえばそうでしたね。でも、だからといってもなレベルですが>

<こいつさ。多分あたしにだけじゃないと思うけど。他人とか周囲への警戒感がハンパないのよ>


<いっつも“こう”ってことですか?>

<んー……、あたしの知ってる“いつも”よりも、今日はちょっと……>


<警戒レベルを上げてるってことですかね>

<まぁ、今日はこっちも彼女ムーブだし>


<それを警戒するってことは、『こうなってることが変だとわかってる側』だと自白するようなものなんですけど……>

<……あいつおばかだけど、そういう駆け引きとか騙し合いに関してはバカじゃないと思う>


<では、もう少し様子見ですね>

<あー、まー、うーん……>



 そうするしかないのは理解しているが、希咲は快くは頷けない。


 望莱が苦笑いする気配が伝わってきた。



<やっぱキツイですか?>

<だいぶ……>


<子供にする注意みたいなのしてましたもんね>

<……ちょっと前にウチの“かける”に同じこと教えたばっかよ>


<小学生レベルで草>

<あたしは笑えない>



 声に出して溜息を吐いてしまう。



<わたしたちのメンドイ事情は横に置きますけど>

<ん?>


<“これ”、普通の女子は無理じゃないです?>

<あー、ね……>


<七海ちゃんはずっと下の子たちの面倒見てきたから耐性出来てますけど。子育て経験のない普通の女の子じゃ耐えられないと思います>

<……うん。なんかしっくりきた。弟妹とファミレス来てる時と近いわ。目を離すと何するかわかんないから心配って感じ>


<まぁ、これはきっと運命です。七海ちゃんならこんな“せんぱい”ともお付き合いできます>

<多少ガマンできるってだけで、彼氏にしたいかって言われたらあたしだってゼッタイにNGなんだけど>


<七海ちゃんったらヒドイです。せんぱいが可哀想です。あ、次のデートは遊園地でお願いします。何が起こるのか鑑賞したいです>

<イ・ヤ・よッ! あんたが一緒に行ってきなさいよ。浮気相手として>


<いいですけど。もしも警察のお世話になった時には、七海ちゃんの番号を保護者の連絡先としてお巡りさんに渡しますね?>

<あぁ、うん……。あたしが悪かった。絶対やめて……>



 何があっても自分が迷惑を被るシステムになっていることに希咲は大いに不満を抱いた。





<――え? 好き。こんなのムリなんだが?>



 こちらでは大層興奮した様子のメロに弥堂が絡まれていた。



<あの『べぇ』ってするのカワイクない? ジブン好きになっちゃうんですけど?>


<知るか>


<オマエもっと感謝しろよ? 普通の女子だったらオマエみたいな反社ヤロウ既にフラれてるからな?>


<うるさい黙れ>



 弥堂の振舞いについてメロも同じ感想と評価のようだ。


 悪魔にすらコンプラアウトと見做された男は不機嫌さを強調する。


 その態度に呆れて、メロは若干冷静さを取り戻した。



<つーか、オマエなんかいつもよりピリピリしてねェッスか?>


<当たり前だろ>


<なにが当たり前なんッスか?>


<言わなきゃわからんのか? この店自体が罠かもしれんのだぞ>


<はぁ?>



 また意味のわからないことを言い出したと考えると、そこへエアリスが参加してくる。



<ネコ。これは決して大袈裟な話ではないの>

<え?>


<女の誘導に従って店に入ったら、店員も客も全員敵だった。そんなことが何度もあったわ>

<えぇ……>


<最低でも年に1回は必ず起こるイベントよ。多い時は毎月ね>

<それは引っ掛かりすぎなんじゃ……。異世界ってそんなに物騒なとこだったんッスか?>


<まぁ、そうね。向こうじゃ当たり前よ>

<だから少年はこうなんッスね。するってーと、異世界の人々もみんなコイツみたいに態度悪いのがデフォなんッスか?>


<…………ソーネ。向こうじゃアタリマエヨ……>



 エアリスはスッと目を逸らした気分でどうにか肯定したが、幸い彼女に目はなかったので不自然さに気付かれることはなかった。



<まぁ、でも、そうだとしても、もうちょっと態度を改めた方がいいッスよ>


<うるさい>


<だって、オマエって彼氏のフリしてるんだろ? それなのにこんな女子に嫌われるムーブのお手本みたいなこと全達成するノリでやってたら……、あ――>



 言いながらメロは気が付いた。



 いくら弥堂の頭がおかしいとはいえ、ここまで傍若無人に振舞うのは不自然だと思っていた。


 しかし、彼の意図に気が付く。



 そもそも今回のデートを行わなければいけなかったのは、希咲の彼氏だと名乗ったせいだ。


 何故そんなことを言い張っているかといえば、それは愛苗を忘れているフリをする為には必要なことだからだ。



 しかし、そのおかげでその場を一度凌ぐことは出来たが、今度はそのせいで希咲から距離を置くことが不自然になってしまった。


 一日や二日くらいなら彼女の連絡に返事をしなくても、多少は言い訳がきく。


 だが結局、それではジリ貧になる。



 希咲の彼氏だと言い張らなくてはならない。


 とはいえ、それをずっとは続けられない。


 ならば、どうすればいいか――



<――フッフッフ、ジブン閃いたッス。ピンっときちまったッスよ>


<あ?>


<見てくれッス。このシッポ>


<見えないが>


<ピンってなってるわね>


<わざわざ実況しなくていい>



 緊張感のない女どもとの気の抜けたやりとりに弥堂はイライラし始める。


 というか、列の進みがまた止まってしまったことで、その前から既にイライラしていた。


 意識せずに爪先が動き、タンタンタンと――靴で地面を叩き出す。



<おい、お前は何を閃いたんだ?>


<え? あ、それなんッスけど――>



 おかしな思い違いをされていると困るので、メロから聴取をしようとした時――



 むぎゅっと。



 地面を叩いていた爪先を踏まれる。



「そういうイライラアピールすんな」


「…………」



 前を向いたまま弥堂の靴の爪先を踵で踏んで抑えつける希咲がすぐ間近にいた。


 トンっと、そのままの姿勢で頭だけを真上に向けた彼女の後頭部が弥堂の胸に当たる。


 サングラスとおでこの隙間から覗くジト目が弥堂を見上げていた。



「貧乏ゆすりとかみっともないからやめて。まじむり」



 そう言ってから彼女の頭が離れる。


 だが、弥堂のことは微塵も信用していないようで、足は踏んづけられたままだ。



 グッと、ほんの僅かに体重をかけられる。


 痛みはない。


「もうすんなよ」と言外に伝えられている気がした。



<え? なに? なんで? 好き>



 希咲に何か文句を言ってやろうとしたが、頭の中に届いたメロの声に邪魔をされる。



<あんなにツンツンしてたのに、なんでこんなに近付いてくれるの……? 好きになっちゃうに決まってんだろ?>


<うるさいぞ>


<ジブン甘くみてたッス。ツンデレなんてオワコンだと思ってたッスけど、間違っていたッス。ツンツンしながら距離感はギャルとか優勝以外ありえないんだが? そこんとこ少年はどう思ってんッスか?>


<普通にムカつくが?>


<カァーッ、ダメ……ッ! オマエはホントダメな? なんにもわかってねぇッス……!>



 頭の中で限界化する悪魔を注意しようとしたら弥堂は逆に説教されてしまった。



<つーか、ヤベェッス。男視点で見るナナミの破壊力マジパネェッス! いくら課金したらいいんッスか? サブスクやってるッスか? ジブン、“VRナナミン”を定期購読したいッス!>


<意味のわからんことを言うな>


<もう好きになれよ! 普通に付き合おうッス! それがゴールでいいだろ? なんで好きにならんのだッス! この人でなし!>


<うるさい黙れ。それよりさっきの質問に答えろ>


<さっき……? あぁ! あれね! 大丈夫ッス! ジブン今日の少年の狙いがマルっとわかったッスから! ちゃんとそれに沿ったサポートをしてやるッスよ!>


<あ?>



 メロが勝手に何かを強く請け負ってくる。



<とりあえず少年。ナナミのケツを見てみろッス>


<ケツだと?>



 希咲がすぐ間近に居るので、弥堂は足元を見下ろすようにして希咲の下半身に眼を向けた。


 だが――



<服で見えんが>



 アウターのニットがスッポリとお尻まで覆ってしまっているので視界には映らなかった。



<うむッス。どうしてこうなっているかわかるッスか?>


<知るか>


<ちょっと周囲の女どもを見てみろッス>


<おい、こんなことに何の意味が――>


<クラァッ! 口答えをするなぁーッス!>


<うるせぇなこいつ>



 念話だと物理的に口を塞ぐことが出来ないので、弥堂は仕方なく周囲の女性たちをジロジロと見回す。


 様々なファッションの女性たちがここには多く居た。



<ナナミみたいにパンツ穿いてる女を見るッス>


<おぱんつは誰でも穿いているだろ>


<ここでのパンツはズボンのことッス。長ズボン>


<だったら最初からそう言え>



 先ほど順番を譲って前に行かせた女性がそういう服を着ていたので、弥堂はそのヒップラインに視点を合わせる。



<この姉ちゃんだけじゃなくって、他の似たようなデニム穿いてる姉ちゃんたちと、ナナミの違いに気付かないッスか?>


<あ? 何が違うんだ?>


<よく見ろッス。なんか、こう、ウエストの位置が高めなズボンで、上に着てる服の丈が短めでベルト入れるトコらへんが見えてたり、裾をズボンに入れてたりとか、そういう着方をしてる姉ちゃんが多いだろッス>


<それがどうした>


<こういうのが今流行ってるんッスよ>


<だからなんだ>


<ここでナナミのケツに戻れッス>



 弥堂は希咲のケツに戻る。



<なんでナナミはお尻をスッポリ隠してるかわかるッスか?>


<あぁ。恐らく武器を隠すためだ>


<ドアホーッス! オマエが昨日ケツを揉んだからじゃろがい! これはガードッス! 警戒されてるんッス!>


<そうだったとして、だからなんだ?>


<うむッス! それはな?>



 メロは厳かに頷いてそして――



<…………>


<……?>



 特に何も思いつかなかったようだ。



<おい>


<まぁまぁ。今のは流行りとか女性心理を語ってジブンの女子力が高いことをアピールしたかったんッス>


<無駄な話を俺に聞かせるな>


<というわけで、オマエちょっとナナミの服捲ってみろッス>


<あ?>



 支離滅裂なメロの指示に眉を顰める。



<そんなことしたらまたうるせえだろ>


<ジブン見たいッス。ナナミのヒップラインを>


<見てもしょうがねえだろ>


<それがアレッスよ。武器の類をあのダボニットで隠してないか確認する必要があるッス。そうだろ?>


<それはそうだな>



 弥堂は納得すると同時に希咲のお尻に手を伸ばした。


 ニットの裾を指で摘まんでそれを捲り上げようとするが――



――ガッと。



 その前に、振り向きもしないまま希咲に手首を掴まれてしまった。


 そしてその手を持ち上げられ――



「この人ちか――」



『この人痴漢です』と宣言しようとした希咲だったが、この人は痴漢ではあるが自分の彼氏でもあったことを思い出してパッとお口を塞いだ。


 代わりにジトっと弥堂を睨む。



「あんた、今度はなんのつもり?」


「お前服の下に武器を隠しているだろ?」


「…………」



 また非常識なことを言い出した男に還す言葉はなく、希咲は溜息を吐いた。


 そして――



「――こっち来て」


「あ?」



 掴んだままだった手首をグイっと引っ張って弥堂を隣に立たせる。



「退屈しちゃったからまたおばかなこと考えてたんでしょ?」

「そんなわけがあるか」


「後ろ、人が増えてきたし。いいからここに立ってて」

「チッ」



 弥堂は自分でもどういう状況なのかよくわかっていなかったので、とりあえず舌打ちだけして自分が不満を持っていることをアピールするが、それは希咲にはスルーされた。



「ほら、こっち持って」


「あ?」



 希咲は自分の服の背中側の裾から弥堂の手を離させて、代わりにサイドの裾を掴ませる。


 そしてついでにペロンとお腹を捲ってみせた。



「中にタンクトップ着てるから。捲ってもパンツもブラも見えないから。わかった?」

「そんなものに用はない」


「はいはい。それ掴んでていいから。大人しくしててね」

「…………」


「もうちょっとだから」

「…………」



 あんまりな扱いに弥堂は呆然としてしまい、希咲の服を掴んだまま大人しくなった。



<おぉ。大人しくなりましたよ。“さすなな”です!>


<あぁ……、うん……>



 弥堂を躾した見事な手際にみらいさんから“さすなな”が飛んだが、七海ちゃんはビミョーなお顔だ。



 落ち着きのない子に自分の身に着けているものを触らせておくとちょっと大人しくなる――


 そういった手法だったのだが、保育園児の妹やみらいさんを相手によく使うスキルだったので、希咲は気を遣って言わないでおいてあげた。



 クッと――少しだけ服を引かれる。


 隣に顔を向けるが、弥堂はこちらを見てはおらず特に何かを喋りだす気配もない。



 親指の腹で掴んだニットの感触を確かめているようだ。


 もしかしたら手触りがちょっと気に入ったのかもしれない。



「…………」



 希咲はそんな彼の顔をサングラス越しに見て、何を思えばいいかわからずガックシと顔を下に向けた。



 それから間もなくして、二人はようやく受付に辿り着く。




「――いらっしゃいませ。大変お待たせ致しました。“Lushe Luce(ルーシェ・ルーチェ)”へご来店いただきましてありがとうございます!」



 お店の制服に身を包んだ女性の店員さんがペコリと頭を下げ、上手な困り顔を作って挨拶をしてくれた。



「フン――」と鼻を鳴らす音が聴こえた瞬間に希咲は素早く隣に手を伸ばし、イチャモンを付けようとしたに違いない男の口を塞ぐ。



「予約してた“弥堂”です。遅れちゃってゴメンなさい」


「弥堂様ですね? 確認致しますので少々お待ちください」



 店員が予約帳を確認するためにレジに向かうと、弥堂は口を塞ぐ希咲の手を外した。



「おい、断りもなく勝手に俺の名前を使うな。個人じょうほ――」


「――あーっ! もううっさい! もうちょっと黙ってて!」



 希咲は再び厳重に弥堂の口を塞ぐ。



<ほら、だから言ったじゃん>


<えー? わたしは男の子のプライドを守ってあげようとしただけですのにぃー>



 弥堂の名前で予約を入れたのは望莱だった。


 希咲が思念で彼女に愚痴をぶつけていると、すぐに店員が戻ってきた。



「確認とれました。お待ちしておりました」


「すみません、遅れてしまって。席ってまだ大丈夫ですか?」


「はい。お取りしてますよ。ただ……、時間がランチタイムになってしまいましたので、ランチメニューになってしまいますが……」


「あ、だいじょぶです! 悪いのはこっちなので。文句なんて何もありません。いい? 文句はないのよ? わかる?」



 途中からは手の中で何やら「もごもご」言っている弥堂に言い聞かせつつ、希咲はペコペコと店員さんに頭を下げる。


 ついでに遅刻したバカ男の頭も無理矢理下げさせた。



 女性店員さんはクスリと笑う。


 今の時点では若いカップルの可愛いじゃれあいに見えているのかもしれない。


 その余裕と思い違いはどれだけもつだろうか。



「いいんですよ。お気になさらないでください」


「あ、ありがとうございます……」



 カワイイ制服を着た優しい店員さんに、七海ちゃんは束の間の癒しを得た。



「それではお席にご案内いたしますね? ご予約のカップルシートはこちらです――」



 言いながら店員さんは、希咲や弥堂に半身を向けるようにして身体の向きを変える。


 店員さんの手が店の奥を指し示すのを視て、弥堂の魔眼がギラリと光った。


 ガシっと、口を塞ぐ希咲の手首を掴む。



「え?」


<――ユウくん……っ!>


<あぁ>



 戸惑う希咲の声を無視して、焦ったようなエアリスからの念話に応えた。



<これは罠よ……!>


<やはり、か……>


<は? 罠? なにが?>



 メロは着いていけていないが、弥堂とエアリスは阿吽で意思疎通をする。



<このパターンは間違いないわね……!>


<奥に座った瞬間に全員が武器を抜くか、それとも店ごと爆破か>


<え? なに言ってんのッス……>



 弥堂のように、生命を狙われる覚えがあったり、常に追われる立場に身を置く者は、建物の奥の席に通されることを異常に嫌うのだ。


 その中でもさらに異常な精神を持つ弥堂は、奥に通されることだけで敵対行動と見做す癖がついている。


 これまでに言葉を交わしたことはなくとも、それをずっと間近で見守ってきたエアリスにも同じ価値観が出来上がっていた。



 しかし、そういうわけではないメロは違う。


 いきなりテンションを戦闘レベルにまで持っていった二人にどん引きだ。



<い、いやいや、そんなわけねえだろッス! フツーのニンゲンしかいねえッスよ⁉ しかも女ばっか。誰が襲ってくるっていうんッスか?>


<こいつらが全員魔術士だったら女であることなど関係ない。こんな場所で囲まれて一斉に魔術を撃たれたら終わりだぞ>


<そんなことしたらこの人たちも危ないだろッス!>


<初めから同士討ち前提の自爆兵だったらそんなことは関係ない>


<え、えぇ……>



 脳内で揉めていると、店員が案内を始めようとする。



「それではあちらのお席へ――」


「――断る」


「えっ……?」


「あ、あんたまた何言ってんの⁉」



 弥堂は店員さんをギロリと睨んだ。



「悪いが表の席にしてもらおうか」


「え? で、ですが、ご予約はカップルシートで……」


「思っていたものと違った。それは他のカップルにくれてやれ。俺たちは外に座る」

「こ、こらっ! ヘンなワガママ言わないのっ!」


「も、申し訳ありませんが、テラス席は現在満席となっておりまして……」


「それなら問題ない」


「あ、こら何処行くの⁉」



 店員の誘導と希咲の説得を無視して弥堂は踵を返す。


 突然の行動に希咲も止めるのが間に合わなかった。



 弥堂は店の建物から出て歩いて行く。


 だが通りに戻るのではなく、向かったのはテラス席だ。


 目星は先ほど既に付けていたので迷いなく一つのテーブルへ進む。



「美味しいザマス! 美味しいザマスわねぇ! ジョセフィーヌちゃん?」


「キャンキャンっ!」



 弥堂が視線を向ける先には、ストリートに近い位置にあるテーブルだ。


 その席では、肥えたセイウチのようなシルエットのご婦人がマドレーヌを喰い散らかしており、ボロボロと地面に落ちる食いカスをバカ犬がかっ喰らっている。


 見た目だけは不自然なキレイさに整えられた盆栽のようなプードルを視て、弥堂はスッと眼を細めた。



 それから視線を動かし進路上にある他のテーブルを確認する。


 その内の一つのテーブルに目を付けた。



「あ~ん! ヨっくんあ~んしてあげる! あ~ん!」


「あ~ん! めぐめぐやさしぃ~! あ~ん!」



 聞いているだけで殺意が湧くような声色でイチャつくカップルの女が、皿の上の唐揚げにフォークを突き刺そうとした時――


 弥堂はその皿に手を伸ばし、ガッと唐揚げをいくつか手に掴んだ。



「なっ、なななななにするんだぁキミィ~!」



 その唐揚げが思ったよりも熱かったので、弥堂はムカつく。


 唐揚げを盗まれて抗議をしようとした男の座る椅子に、ガンっと八つ当たりの蹴りを入れて黙らせた。



 そうして通りすがりにパクった唐揚げを持って、セイウチ婦人のテーブルへと向かった。



「キャンキャンキャンキャンッ!」



 パンカスを喰らうバカ犬の前に肉を投げると、その犬は喜んで喰らいつく。



「あら……? どうしたんザマス、ジョセフィーヌちゃん?」



 飼い犬の様子が変わったことに気付いたセイウチ婦人が顔を動かすと、自身のテーブルの近くに立つ不審な男に気が付いた。



「あら? なんザマスか? ワタクシに御用ザマスか?」


「…………」



 婦人の言葉を無視して弥堂は飼い犬の首輪から伸びるリードに眼を向ける。


 婦人の座る椅子に括りつけられているようだ。



 弥堂は唐揚げを一つ、通り側の方へ投げた。



「キャンキャンキャン!」


「あららららららっ⁉ ジョセフィーヌちゃん⁉」



 バカ犬はまっしぐらに肉の方へ走って行く。


 ピンっと張りつめたリードに椅子を引かれたご婦人は慌てる。


 だが、圧倒的な体重差から引きずられるほどではない。



「キャンッ! キャンッ!」



 肉はギリギリ犬が届かない位置に落ちており、バカ犬は上体を浮かせたまま前足をグルグルと空回りさせている。



「ア、アナタ……⁉ 一体何を――」



 セイウチ婦人がクレームを言おうと口を開けた瞬間、弥堂はその口の中へ唐揚げをいくつか押し込んだ。


 婦人は反射的に口を閉じてそれを噛んでしまう。


 すると、途端にあっつあつの肉汁がジュワっと溢れだした。



「あっつぁ⁉ あっつぁ……⁉」



 猫舌だったのか、婦人は陸に漂着したセイウチのように暴れ出す。


 その隙に弥堂は素早くナイフを抜くと、その刃を振るってバカ犬のリードを断ち切った。



「キャンキャンキャン!」



 バカ犬は喜びの声をあげながら届かなかった肉へと食いつく。


 弥堂はすぐにナイフを仕舞った。



「くぅ~ん……」



 碌に噛まずにすぐに肉を飲み込んでしまった犬が、物欲しげな目を弥堂へ向けてくる。


 弥堂は残った唐揚げを指で摘まみ、犬に見せつけるように左右へ揺らした。



 そして――



「キャンキャンキャンキャンッ……!」



 人通りの多いストリートの方へ肉を投げると、バカ犬は全力でそれを追いかけて人混みの中へ消えていく。



「ジョ、ジョセフィーヌちゃああぁぁぁぁん……っ!」



 ドスドスと地面を揺らしながらセイウチ婦人も慌てて飼い犬を追いかけて行った。



「あ、あんた……」



 呆然とした声が背後から聴こえてきたので、弥堂はそちらへ振り返る。


 そこには言葉が見つからないのか、愕然とした様子の希咲と店員さんが居た。



 彼女たちを見下すように鼻を鳴らして、弥堂は空いたテーブルの上に一万円札を何枚かバラまく。



「会計は俺が持つ。足りなきゃくれてやるから言え」



 店員さんは呆然としたまま荒れたテーブルの上のお金へ目線を動かした。



「足りないというか……、大分多いと思う……」


「そうか。釣りはチップとしてくれてやる。このテーブルを使わせろ」



 この店の接客はかなりレベルが高く、店員一人一人に教育が行き届いていると評判だ。


 しかしそんな店員さんも、余りのことに敬語がどこかへいってしまったようだ。



「さっさと片付けろよ」



 半ば放心状態の店員さんに冷たく言い捨てて、弥堂は勝手に空けたテーブルの椅子に腰を下ろした。



 テラス席や店に面する通りの人々の視線が集中している。



「あ、あの……」



 そんな中で、何と言っていいかわからなかったが、何かは言わなきゃいけないと感じて、希咲はどうにか声を絞り出す。


 だが、言葉は何も出てこなかった。



「……お、お席を、あちらに変更させていただいても、よろしいでしょうか……?」



 すると、プロフェッショナルな店員さんが先に立ち直り、どうにか軌道修正をしてくれる。


 希咲はそんな店員さんに尊敬の気持ちを向けつつも、「いっそもう追い出してくれないかな」という気持ちも同時に浮かべた。


 だが、こんな迷惑をかけられてもこう言ってくれる店員さんを相手には「はい」と答えるしかなかった。



「え、えと……、ホントにいいんですか……? ご迷惑じゃ……」



 迷惑じゃないわけがないのはわかっているが、そう言わざるを得なかった。



「は、はい……。ですが、元のお席は他のお客様をお通ししますので、後からの変更は出来ません。そちらはご了承ください……」


「はい……。それは、もう……、はい……。もちろん、です……。すみません……」



 とっても恥ずかしい思いで希咲は頭を下げる。



「じゃ、じゃあ、あの席を、使わせて、いただきます……」


「はい。すぐに片付けますので、座ってお待ちください」



 通常ならば、片付けが終わってから席に座らせるものだろう。


 しかし、店の中を動き回られると困る客として無事に認定されたようだ。


 なので、一刻も早く座らせておくべきだと判断されたのだろう。



 それはわかる。


 希咲にも覚えしかないので痛いほどにわかるのだが――



「――あたしも、座らないとダメ……、ですよね……?」


「……あの、困ります……っ」


「あはは……、ですよね……。はい……」



 あの席に座ることに途轍もなく抵抗があったので一応聞いてみたがダメだった。


 七海ちゃんは下を見ながらトボトボと歩いて、弥堂の対面の椅子にチョコンっと座る。


 恥ずかしすぎて周囲を見ることが出来なかったので、膝の上でギュッと握った自分の手を見つめながらプルプルと震えた。



 店員さんがパタパタと忙しそうに片付ける気配が頭頂部や首筋に伝わってくる。


 チラリと視線を上げてみると、こんなことをしでかした非常識男が何も気にした様子もなく普通に座っている姿が目に映った。


 表情は変わらないが、周囲を警戒・威嚇するように眼玉をギョギョロと動かしている。



 それを見て希咲は今度は怒りでプルプルと震えてきた。


 だが、あの男の威嚇行動のおかげで、周囲からの視線はどんどんと自分たちから外れていってもいる。


 七海ちゃんは今だけは見逃してやることにした。



「おい、俺の名前は予約リストから消しておけよ。従わないのなら――いてっ」


「…………」



 だが、それすらも許されないようで、親切で寛容な店員さんを脅迫しようとしたバカ男の膝に、テーブルの下でケリを入れる。


 そして親の仇のような目で睨んでバカを黙らせた。




 こうして、二人はようやく席まで辿り着くことが出来た。


 だが、まだ安心は出来ない。


 すぐに次の試練だ。



 そう――



 ついに始まるのだ。



 注文が……!


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