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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章03 Good Morning ③



 ガラガラガラっと勢いよく開かれた引き戸は、まるで昨日の朝の焼き直しのようにレール上を走って行き止まりのストッパーに当たるとやはり反動で跳ね返ってくる。そして、戸を開けたものが入室を済ませる前に再び出入口を塞いでしまった。



 そして3秒ほどの間を開けた後に今度はカラカラと控えめに開かれる。



 その空いた戸の隙間から気まずそうに顔を覗かせたのは、やはり昨日と同じ人物だった。



 水無瀬 愛苗(みなせ まな)の登校だ。



 彼女は胸に手を当て弾む息と胸を落ち着かせると、その喜びを浮かべた瞳を前へ向ける。




「みんなぁ、おはようっ!」



 教室中の全ての生徒へ届けるように元気な挨拶の声を投げかける。


 すると――



「水無瀬さんおはよう」

「おはよう水無瀬」

「おはよう!」

「愛苗っちはろぉー!」

「おはよう水無瀬さん」

「よぉーっす水無瀬ー」

「おはよう!」

「ご機嫌よう愛苗さん」

「おはよおおおぉっ‼」

「うおおぉぉぉぉっ‼ 水無瀬さああんうおおおおぉぉっ‼‼」

「おはよー! 愛苗」

「まなちゃんおはよぉ」

「おはよう」

「おはようございます。水無瀬さん」

「ちっ……」

「……おはよう……」

「愛苗ちゃんいそいでぇー」

「おっ、おはよう、水無瀬さん」

「おはよう」

「うーっす」

「おはよー」

「やぁ、水無瀬くん!」

「けほっ、けほっ……おはよぅ……」



 弥堂&希咲ショックでおかしな空気になっていた教室内に、連鎖して花が咲いていく。



 謎の空気感でも問答無用に明るくしてくれる、水無瀬 愛苗の存在に多くの生徒達が感謝をした。



 もたもたと自席へのルートを探していた水無瀬は、その自席の近くに自身の親友の姿を見つけると、ぱぁっと顔を輝かせ一目散に向かっていく。



「ななみちゃああんっ――って、はわーっ⁉」


「あん、もうっ」



 だが自身の走る勢いを制御できずに盛大に躓いた。


 そしてそんなことは想定済みとばかりに何事もなく希咲に抱き留められる。



 そのままギュッと彼女に抱きついたまま顔を見上げ、ふにゃっと表情を和らげた。



「えへへ。ゴメンねぇ」


「あんたホントどんくさいわねぇ。なんで何もないとこで転べるわけ?」



 呆れたような希咲の問いにも「えへへ」と曖昧に笑みを返していた水無瀬だったが、突如「あっ!」と声をあげるとパっと希咲から身体を離す。


 ツンツンしたことを言っていた割に水無瀬に突然離れられ、希咲は「あっ……」と寂しそうに顔を曇らせた。



「ご、ごめんね、ななみちゃん。私今日はホントに汗かいちゃってるかも……」


「べ、べつにそんなの気にしないのに……」



 くっつくのがイヤで身体を離されたわけではないことに安堵しつつも、希咲はもじもじとしながら言葉を返す。



「でもでもっ、今日はすっごいダッシュしちゃったし」


「あんたまた寝坊? もう、しょうがないわね。今日も髪直したげるから。ほらっ、こっちおいで」



 呆れたような口調とは裏腹にやたらとウキウキした様子で、希咲はやんわりと水無瀬の手をとり、そのまま彼女の自席へと誘導する。



 出会って3秒でイチャつき始めた二人の様子に、多くの生徒さんたちがほっこりとしながらお手てを繋いで仲睦まじく歩く二人の少女を見守った。



 自席のすぐ目の前でそんなやりとりをしながら通り過ぎる二人の女の子に、弥堂は一瞬だけ気味の悪いものを視る視線を送るが、すぐに希咲に見咎められては面倒だと目線を切る。


 誤魔化すように逆のサイドへと振った目線は先ほど水無瀬がやってきた教室の出入り口を映した。



 紅月の周辺も特に何事もなかったように談笑に戻っていたが、紅月の妹がいつの間にか居なくなっているようだ。


 時間も時間だし自分の所属する教室へと帰ったのだろうかと見当を付けていると、自身の左横で人が立ち止まった気配がする。



 朝から面倒ごとばかりだとうんざりしつつも潔くそちらへ視線を戻すと、そこに居たのはやはり水無瀬と希咲だった。



 水無瀬は弥堂へ向ける瞳を一際強くキラキラとさせると、



「おはよう、弥堂くんっ!」



 元気いっぱいに挨拶をしてきた。



 水無瀬 愛苗の顏を見上げ、そして視る。



 昨日よりずっとその輝きが強く、その存在がより強くなった。



 そんな気がする。



 とりあえずいつもの様に一回は無視をしてみるかと無駄な抵抗を考えてみるが、水無瀬の傍らからジトっとした視線が送られてきているのを感じてすぐに観念する。



「そうか、そういうものだったな」


「そうよ、そういうもんだっての」


「?」



 自身の目の前の男の子と、自身の隣の親友からポソッと呟かれた声に水無瀬は首を傾げるが、すぐに弥堂の顏が自分の方へ向けられたのでよくわからないままニコーっと笑う。



 彼女のその笑顔に弥堂は一度溜め息を吐いてから、



「おはよう、水無瀬」



 と、挨拶を返した。



「えへへー、おはよー!」



 弥堂から挨拶が返ってきたことでさらに笑顔を強めた彼女は、目の前に居るのにも関わらず弥堂の方へ両腕を伸ばし、親愛の情を精いっぱいこめてヒラヒラーっと両の手を振った。



 まるで子供番組のお姉さんが小さなお子さんたちにするようなその仕草に、強い屈辱を感じた弥堂はビキっと口の端を吊り上げ思わず拳を握る。


 そしてそんな弥堂の仕草を見た希咲は口元を綺麗に伸ばした指で隠し、顔を背けて「ぷっ」と噴き出した。



 さらに、そんな3人の様子を見ていた生徒さんたちの何人かはギギギっと悔しげに歯を噛み締める。


 ある者は水無瀬 愛苗に希咲 七海といった可愛い女の子に個別に挨拶をしてもらえる弥堂 優輝という男を妬み、またある者はこの2年B組のベストカップルとの呼び声が高い水無瀬×希咲の間に入り込む弥堂という異物を憎んだ。



 そんな周囲の様子に不思議そうに首を傾げる水無瀬だったが、間もなくして希咲に「ほらっ、いくわよ」と手を引かれ退場していく。



 そうして二人が立ち去った後の弥堂の席に新たに近づく者があった。



 普段、自分と水無瀬以外に弥堂に話しかける者など例外を除けばほとんど居ないので、希咲は「あたしたちに用かしら?」と足を止めその様子を窺ったが、どうやら弥堂に用事があるようだ。



 入れ替わりで弥堂のもとに現れたのは、クラスメイトの野崎 楓だ。



 野崎さんはとても真面目な子でこの2年B組の学級委員を務めている。眼鏡をかけて結った後ろ髪を片方の肩から前へ垂らしている、大人しそうな文学少女といった風体だ。



 そんな善良な彼女に対しても、無法が服を着て歩いているような弥堂が何か無茶をするかもしれない。


 何かあったら、というか何かある前に自分が飛び出して行って止めなければと希咲は謎の使命感を宿しながら、水無瀬のおさげを解きつつ慎重に二人の様子を監視する。



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