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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章裏 4月26日 ③


――水無瀬家夫婦の寝室。



「――こ、このヤロウ……ッ⁉」



 この部屋に入るなり、どこかから取り出した薄いゴム手袋を装着して、弥堂は淀みのない動作で物色を開始した。



「やっぱり手馴れてやがるッス……!」



 既に犯罪者として一定のステージに昇っている同行者にメロは畏れをなした。


 だが、弥堂の方もそんなネコさんへ胡乱な瞳を向ける。



「お前がこの部屋のこのタンスあたりに入っているとリークしたんだろ」


「だって言わないとジブンを殺すだろッス?」


「そんなことをしたら現場に証拠が残るだろ」


「ここでない所でなら殺るんッスね……⁉ ジブンら仲間だろォ!」


「そのような事実はない。いいからお前も探せ」



 役立たずの仲間とやらに指示を出し、弥堂は黙々と仕事をしていく。


 すると――



「――あった」



 箪笥の上段の引き出しの中、銀行の通帳や印鑑などと一緒に目的の物が入っていたのを発見した。



「少し前の住民票に保険証。それからこっちは病院の診察券か……」



 手の中のカードや書類を不躾にジロジロと眺めながら成果を確認する。



「処方された薬もあるな。念のため頂いていこう」



 目ぼしいものを配達バッグの中に放り込んでいく。


 そうしていると――



「――オイ、少年! こいつを見てくれよッス……!」



 ベッドの方をゴソゴソしていたネコさんが何かを持って来た。



「なんだそれは……?」



 弥堂は眼を細めて、二つの肉球に挟まれた箱を視る。


 煙草の箱より少し大きいくらいの物だ。



「グフフ……、わかってるくせにぃ」



 見慣れない物の正体を訪ねると、ネコ妖精は三日月型に細めた目尻を垂れ下げ、邪悪で淫蕩な笑みを浮かべた。



「ほら、ここ見るッス」


「『0.01』と書いてあるな」


「そうッス。あとはわかるな?」


「わからんが」



 ニャシシっと笑うメロにジト目を向けつつ、一応記憶の中の記録を探ってみる。


 すると該当するものがあった。



「……あぁ。そういえば華蓮さんのとこで見たな」


「ん? カレンさん?」



 思わず呟くと、今度はメロの方が聞き咎める。



「オイ、オマエそれ誰のことっスか? デート中に急に他のオンナの名前出しやがって。どういうつもりッスか?」


「お前にとって盗みに入るのはデート感覚なのか?」


「カァーッ! 口答えすんじゃあねェッスよ! 誤魔化したッスね? ますますアヤシイッス……」


「怪しくない。ただのキャバ嬢だ。気にするな」


「キャバ嬢って……」



 ノリノリで尋問を開始したメロは、あっというまに呆れたような顔になった。



「オマエ……、高校生のくせに既に懇意の嬢がいるんッスか? そういえばモールで会った時もこれからキャバに行くとか言ってたッスね。あんな血塗れで行ったら店も迷惑するだろうに……」


「ちゃんと来店前に自殺して治したから問題ない」


「オ、オマエ……、まさか日常的にあんなことしてんッスか……?」



 メロは昨日の弥堂の戦いぶりを思い出し、化け物を見るような目を彼へ向けた。


 弥堂は何でもないことのように首肯する。



「死ねば治るんなら死ねばいいだけのことだろ」


「バカは死んでも治ってないようだが?」


「お前は治るかもしれんぞ。試してみるか?」


「に、日常会話の中で殺害を仄めかしてくるのはやめて欲しいッス」



 ギロリと眼を向けると臆病なネコさんは途端にヘタれた。



「まぁ、いいッスけど……、マナの前で絶対にやるなよ? ビックリしておしっこ漏らしちゃうッス」


「今のところその予定はない」


「ならいいッスけど。つーか、そんな生命を賭けてまで行きたいキャバってどんだけなんッスか? ジブンも行きたいッス!」


「お前もついこの間一緒に行っただろ。仕事の関係だ。それよりもそれを寄こせ」


「は?」



『0.01』という謎の暗号が書かれた箱を持つメロの眼前に手を差し出すと、彼女はその掌をジッと見た。



「……オマエ、これもパクってく気ッスか?」


「あぁ。よこせ」



 念のため確認してみると、やはり即答で同じ答えが返ってくる。


 メロは不審感を覚え始めた。



「こんなモンまでパクって一体どうする――ハッ⁉ ま、まさか……ッ⁉」



 そして嫌な想像に行き当たってハッとした。



「オマエ、これマナに使う気ッスね⁉ 入院中なんッスよ⁉ しかも意識不明なのに! ムチャすんじゃねェッスよ!」


「違う」



 淫蕩な悪魔に弥堂はジト目で否定する。



「あ、まぁ、それは流石にオマエでもしねえッスよね。ハフハフしてる時に心臓止まっちゃったりしたらトラウマッスもんね。でも、それじゃあ……、ハッ⁉ ま、まさか――」


「…………」



 しかし、ネコさんはまたすぐに別の妄想を思いついたようだ。


 そんなケダモノを弥堂は軽蔑する。



「――オマエ、まさか寝てるパパさんの横でママさんに使う気ッスか⁉ これから一緒に生きていく女の子の両親にNTRレイプとか正気ッスか⁉」


「正気じゃないのはお前だ。ケダモノめ」


「まぁ? ゴム使ってくれるのは配慮があるとは思うッスけど? それでもちょっと尖り過ぎじゃないッスか? このドスケベめ」


「違う。人聞きの悪いことを言うな。というか――」



 容疑を否定しつつ、弥堂はジロリとメロを視た。



「『これから一緒に生きていく』とはなんだ?」


「へ?」



 問うと、メロは不思議そうに首を傾げる。



「マナのことッスけど?」


「それはわかる。俺が訊きたいのは『一緒に生きていく』の部分だ」


「オマエとマナのことッスけど?」


「どういうことだ?」


「えーッ⁉」



 意味がわからないと弥堂が主張をすると、された側のメロも意味がわからないといった風な反応をした。



「だってオマエ、あんな感じでマナを救っておいて、まさか今更になって『後は知らん』って放り出す気じゃないッスよね……⁉」


「むしろ、当たり前のように今後も面倒を見てもらえる気でいられるのは酷く不愉快なんだが」


「えぇっ……⁉ ウッソだろオマエ⁉」



 まるでこちらが人でなしかのように驚く図々しい生き物を、弥堂は見下げ果てる。


 今回のことに関しては弥堂の言い分にも一定の正しさはあった。


 しかし――



「――だが、まぁ……、そうだな」


「ん?」



 続いて弥堂の口から出てきたのは拒否でも抗議でもなかった。



「今回に限っては、俺があいつを引き取ろうと思っている」


「へ?」


「なんだ? 不服か?」


「い、いや、そういうわけじゃ……。だって流れ的に拒否ってきそうだったし……」



 予想外のことを言われたようにメロは口を半開きにする。


 まさか弥堂が他人の言い分を受け入れるとは思ってもいなかったからだ。


 そんなメロを弥堂がジロリと睨むと、彼女は慌てて媚びた笑みを浮かべてきた。



「今回はお前の言う通り、あそこまで手出しをしてしまったからな。今後も暫くはケツを持ってやることにする。だが、それが当たり前のことだとは思うなよ」


「そ、それは……、ヘヘッ、マナが起きたらちゃんとジブンの方から伝えておくッスよ」


「……あいつもそうだが、俺が今言っているのはオマエに対してだ」


「な、なんッスか……⁉ ジブンちゃんと感謝してるッスよ! そうやってすぐコワイ感じにしないで欲しいッス!」


「……まぁ、いい」



 ここで言うことではないと弥堂は口を噤んだ。


 今は仕事をする時間でもある。



「とにかく、“それ”は水無瀬家の母にも娘にも使わない」


「……まさかナマで⁉ マナにナマで⁉」


「うるさい黙れ。違う」


「じゃあ、これ何に使うんッスか?」



 そしてお決まりのパターンのように三度目。


 メロはハッとした。



「――ま、まさか……ッ⁉ これジブンに使う気ッスか⁉」


「その“自分”は俺のことか? オマエのことか?」


「ジブンのことに決まってんだろ! わかるだろッス!」


「わかんねえよ。だが、まぁ、そうだ。お前に使う」


「そ、そうッスよね……。いくらなんでもそこはサスガにっていうか――『そうだ』⁉ 今『そうだ』って言った⁉」


「そうだ」



 めんどくさそうに肯定の意だけを繰り返すと、幼気なネコさんはまたビックリしてしまう。



「なに考えてんッスか⁉ ジブンネコさんなんッスよ⁉ ムチャすんじゃねェッスよ……ッ!」


「いいから大人しくしろ」



 弥堂はメロの手から謎の箱を奪い取り、ついでにそれを持っていた彼女の前足を掴んだ。



「や、やめろォー! マナの両親のベッドでオマエと異種族間バトル……とか! なんぼなんでも特殊性癖すぎるだろうが……ッ!」


「うるさい黙れ」



 暴れて抵抗をする彼女の前足を握る手にグッと力をこめると、途端にメロは大人しくなりギュッと目を瞑る。


 それをいいことに、弥堂は彼女の前足をグイっと乱暴に引き寄せた。



 そして――




「――なんッスか……? これ……」



 メロは胡乱な瞳で自身の前足を見た。



「手袋代わりだ」



 弥堂はつまらなそうに答えると再び部屋の物色に戻る。



「…………」



 メロは今度は死んだ目でもう一度前足を見る。



 その手には謎の箱に入っていた薄さ0.01㎜ほどのゴム手袋(?)が被されていた。


 それは前足だけでなく、4本の足全てに装着させられている。



 それらを見つめている内にメロの身体が小刻みに震え始めた。



「――クッ……! なんだかジブン性別の自認が曖昧になってきたッス……! まさかこのお手てをオマエの尻に突っ込めとか言うつもりじゃないよな⁉」

「気色の悪いことを言うな。この家の物にあちこち触っても、お前の指紋を残さないために着けたんだ」


「我々ネコさんの肉球に指紋なんてあるんッスか?」

「ん? 肉球は俺たち人間で言う所の掌に該当する部位なんじゃないのか? 指紋って言ったら指だろ」


「指にもちっさい肉球があるが?」

「うるさい黙れ。口答えをするな」


「じゃあ言い直すッスけど、我々ネコさんの指に指紋とかあるんッスか?」

「知るか。自分のことだろ」


「仮にあったとしても警察の方々も我々ネコさんの指紋なんか集めてないと思うッス」

「そうかもな」


「じゃあなんでこんなことしたんッスか?」

「念のためだ」


「……オマエは頭がオカしいッス」



 周到なのかいい加減なのかイマイチよくわからない弥堂に呆れながら、メロはゴムありのお手てを「ていっ、ていっ」と振ってみる。



「意外ととれないッスねこれ。驚愕の装着感ッス」

「とれたら困るだろ」


「これめっちゃ気になって不快なんッスけど?」

「そんな気がするだけだ。すぐに慣れる」


「オマエ、こんなことジブン以外のネコさんにはするなよ? みんなビビッてションベンちびっちゃうッス」

「善処しよう」



 こちらに顔も向けずにそう言う弥堂の後頭部をメロは懐疑的な目で見た。


 だが驚きのフィット感に苛まれるお手てが気になって仕方がなく、ブルルルルッと震えさせる。


 やはりゴムはとれなかった。



 メロはさらに「オラオラオラオラ……ッ!」とネコさん正拳地獄突きを連続で放ってみる。


 若干興奮してきた。



「ハァハァ……、クゥッ……! マジでオスの気持ちになってきたかもしれん……ッ! 少年、オマエはジブンを一体どうするつもりなんッスか……⁉ こんな扉を開かされちゃったらジブン……」


「よくわからんが。しかし、言うことを聞いている内はいいようにしてやる」


「い、いいように……ッ⁉ そ、それはスケベな意味でってことッスか……⁉」


「違う。だがそれは今はいい。それよりも、この部屋にはもう用はない。次だ」


「へ?」



 せっかく手袋を着けてやったのにネコさんは全く役に立つことなく、弥堂はこの場での作業を終えた。


 肩透かしを食ったような顔をするメロを置いて両親の寝室を出る。



「あいつの部屋は二階だったな」


「そうッスけど……、オマエなんで知ってるんッスか? キメエんだけどッス」


「二人が起きる前に済ませるぞ。急げ」



 何故水無瀬家の間取りを知っているのかということへの明確な回答はせずに、弥堂は階段を昇る。


 メロもその後に続いた。




 その後、愛苗の元自室でも同様の作業が行われる。


 目ぼしいものを手当たり次第にバッグに放り込む弥堂の姿を、メロは何とも言えない顔で見ていた。



 作業をする弥堂の手に視線を当ててみる。


「ふぅ」と、溜め息とともに何故だか涙まで零れてきた。



 昼時の住宅に押し入り、そこの住人を不当に拘束して、そして女子高生の下着を摑み取り。



「ご、強盗ッス……。それも大分ショボイ方の……ッ。ジブン、魔法少女のマスコットになって、キラキラネコさんライフを送るはずだったのに……ッ。どうしてこんなことに……ッ!」


「つべこべ言うな。さっさと必要な物を捜し出せ」



 何やら唐突に挫折をしたようで、メロは情けない顏で弱音を吐いた。


 そんな彼女へ弥堂は情け容赦なく犯罪の指示を出す。



 そうして彼女の意見を聞きながら、入院中の愛苗に必要な物をある程度確保することに成功した。


 あとは現場からの逃走だけだ。


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