1章76 死に戻り辿り着く場所 ①
――ここは俺の死に場所だ。
そう息巻いてみたものの、死んで戻ってきたはいいものの、だからといってそれで何かが変わるものでもない。
他人から見たら俺のことは奇跡的な復活を遂げたように見えているかもしれないが、別にこれは奇跡でもなんでもない。
俺にとっては当たり前のことで、だからこそ、この復活を機にいきなり強くなったりもしない。
つまり、何も変わっていないということだ。
「マ、マナ……」
水無瀬が木の根で作ったシェルターのようなものの隙間からメロが顔を出す。
水無瀬は根を動かして彼女を自分の近くへと引き寄せた。
「メロちゃん」
「マナ……、少年は……」
「うん。あのね……」
状況を説明してやろうとしたところで、水無瀬がカクッと顔を落とす。
「マナ? 眠いんッスか……?」
「うん……、なんでだろ……、がんばらなきゃ弥堂くんが……」
メロは心配そうに彼女を支え、そして俺の方を見た。
俺は顎を振って水無瀬に付いているよう指示を出す。
メロは緊張を浮かべてコクリと頷いた。
それだけの意思疎通をして俺はまた悪魔どもへ向き直る。
待てよ。
あのバカネコ本当にちゃんとわかっているのか?
全く信頼性がないが、まぁもういいだろう。
改めて敵の軍勢を視る。
さっきまでと同じ肉人形――レッサーデーモンに混じって、より格の高い悪魔も並んでいる。先日殺したボラフと同じくらいの下級~中級悪魔と謂ったところか。
状況的には死ぬ前よりも厳しいものになっている。
開戦したら10分、15分保てば十分な健闘だろう。
それに――
「あれはなんだ……?」
門を視る。
死ぬ前にはなかった巨大な石の門。
ビルのように聳え立つ見上げるほどの高さの門だ。
半開きの扉の向こうには龍のような姿の大きなエネルギー体がジッと息を潜めている。
(あれは精霊か……?)
そして門の中からは、続々と他の悪魔が出てきている。
その中には今並んでいる連中よりももっと強力な魂の強度を持った個体まで確認できた。
門には多大な魔力が今も供給され続けている。
恐らく龍脈と呼ばれていたこの地のエネルギーだろう。
それを大地から吸い上げ、“世界樹の杖”を通して門へと渡っている。その魔力が増えれば増えるほどに扉が開き、また門自体の大きさも増しているように俺には視えた。
そして、その扉の空いている面積が増えれば増えるほどに、より強力な悪魔が顕れているようにも視える。
これは紛れもなく――
「――地獄の門、と言ったところでしょうかね」
杖に眼を向けたことで、その近くに立つアスと顔を合わせることになり、ヤツはニヤリと嗜虐的に哂った。
「もう推察済みかと思いますが、これは我々の棲む次元へと繋がっています。それ専用の門ではないのですが、異なる世界へと繋げる性質があるようでしたので、それを利用させてもらいました」
「……異なる世界、だと?」
「えぇ。今回は我々悪魔の世界に繋げています。これが開けば開くほどに同胞たちがこちらへ現界します」
「そうか」
「普段自力で受肉出来ない弱いモノにはその補助をし、普段強力すぎるが故に制約を受けているモノには通り道を拡げて差し上げている。時間が経てば経つほどに数も強力な個体も増えていく。もしかしたらお暇をされている魔王の一人でもそのうち顔を出すかもしれませんね」
「そうか」
大体思っていたとおりだったので、おざなりに聞き流す。
「おや? あまり興味がなさそうですね。それとも恐怖が過ぎて現実味が感じられませんか?」
「いや? 震えあがってるよ。ションベンが漏れそうだ」
「フフフ、また嘘ばかり」
「そんなことよりも――」
「はい?」
俺から水を向けるとアスは見下すように片眉を上げた。
「異なる世界とは、他の世界とも繋がるのか?」
「……どういう意味です?」
「別に。開けたら天使のヤサだったなんて間抜けなことも起こるんじゃないかって、ただの下らない思い付きだ」
探るようなアスの視線に、俺は適当に肩を竦めてみせる。
「……私が操作する分にはそんなことはありえませんね」
「そうか」
そしてまた興味を失ったように流した。
俺の顔を数秒見てからアスは切り替えたのか、話を転換させてくる。
「さて、一応訊いておきますが、どうするつもりです?」
「既に言ったが、皆殺しだ」
端的に答える俺へ向くヤツの目が鋭いものになる。
「これも一応言っておきますが、我々にはもはやアナタを相手にする理由がない。魔王はもう誕生しました。プロジェクトは達成。あとはこの後に顕れるであろう天使との戦いに備えるのみです。何が言いたいかわかりますか?」
「命乞いをしているのか?」
「……向かってこなければ見逃してやると言っているのです。もう一度言いますがプロジェクトは達成し、本タスクは既に完了しています。どうせ我々と天使との争いに巻き込まれて街ごと滅びるでしょうが、逃げたければ追いませんよ」
「達成だと? よく言うぜ。あいつの自意識を書き換える為の誘導・洗脳に失敗しておいて」
「アナタのせいでね」
怒りに火が点いたのか俺を見るアスの目から赤い光が強まる。
だが、それも一瞬のことで、アスは溜め息を吐いてそれを吐き出した。
「まぁ、それは認めましょうか。確かに失敗しました。ですが時間の問題でもあります。このまま徐々に馴染んでいって、今の彼女の意識は変わる」
「だろうな」
「理解に苦しみますね。わざわざここで向かってくるメリットがない。まさか勝てるとは思っていないでしょう? 戦えばどうなるか、この光景を見れば容易に理解できるでしょうに」
「別に。ただ死ぬだけのことだろう?」
「そして、生き返る――と?」
答えを引き出そうとするようなヤツの言葉に、今度は俺が眼を細めることになる。
「死んでいましたよね? どんなトリックです?」
「つまらない手品だよ」
「私には本当に死んで生き返ったように見えましたが」
「そんなわけがないだろう。死者の蘇りは『世界』は許していない」
「そう。許さない。最大の禁忌であり、種族を問わずに史上誰もそれを成功させたことはない。禁忌中の禁忌。それが本当に蘇生なのであれば、魔王の誕生以上に天使どもが血眼になってアナタを殺しにかかるはずの」
アスの目に再び怒りが灯る。
悍ましいほどの悪を目にした時に沸き上がる正義感。
それに似た色の怒りだ。
それを悪魔が人間である俺に向けている。
「天使が来ていないってことはそうじゃないんだろう」
「もしも蘇生なのだとしたら、それは我々悪魔も許さない。死者の蘇りは認められない。生命は生まれ生きて死にそして『世界』へ還る。蘇りは循環していない。単一の存在に『世界』から分け能えられたモノが滞り、循環しない。廻らせず還らせず、自己のモノとして占有する許されざる悪業だ。我々の存在理念上絶対に許すことは出来ない」
言葉どおり本当の怒りを発している。
俺の言葉など聞いていない。
「なるほど。理由が出来ました。その業の正体、見極めましょう」
「つまらない手品だと言っただろ? ガッカリするなよ」
「それに個人的興味としても、アナタのチカラの正体を探るのが途中でしたしね。いいでしょう。もう少し付き合って差し上げます」
アスは片手を振り上げた。
「認知から消えるチカラに、超回復なのか復元なのか蘇生なのか……、それにそのナイフ。全てを検証してあげます」
「肩の力を抜けよ。心配しなくても全部見せてやるさ」
「フフフ……、さぁ! この男を殺せェッ!」
アスが手を振り下ろすとレッサーデーモンと下級悪魔の一部が俺へと向かってくる。
視界一杯に拡がった異形の軍勢。
それへの単騎駆け。
紛れもない地獄変。
間違いのない絶望。
壮観なほどの悪夢。
この死線を越えることは出来ないだろう。
いっそ感動すら覚える。
これは皮肉ではない。
俺はいつものように、これまでのように、培った積み重なった己を以て挑む。
キックスターターを蹴り下ろすようなイメージでドルンっと心臓に火を入れる。
麻薬によって無理矢理心拍数を上げられた心臓は次々に血液を送り出し体内に循環させる。
それによって生成速度が上がり増えた魔力を【根源を覗く魔眼】へ流しこむと、蒼銀の魔力光が瞳にかかる。
許容以上の血液を流されたことにより肥大化し皮膚から浮き出た血管は爆発しそうなほどに熱い。
破裂寸前までオーバーフローした魔力を使って、この身に刻んだ“刻印魔術”を順に起動していく。
【身体強化】
【領域解放】
己をただ敵を殺す為だけの装置とする。
心臓を危険に晒してただ死へと向かう。
「――【falso héroe】」
『世界』から己を引き剥がし、涎を撒き散らしながら走ってくる間抜け面の背後に回る。
「――聖剣」
先頭集団の中で最も強そうな“魂の設計図”を持った個体へ、ナイフほどの長さの魔力により生成された刃の剣先を向ける。
「――【切断】」
聖剣に宿る古の聖女の魂――その“加護”である『切断』が、聖剣が悪魔に触れた瞬間に発動し、受肉した実体を貫いてその魂までをも切断する。
一体を仕留めると周囲の悪魔どもが奇声を上げながら殺到してきた。
こいつら悪魔は強い。
生物のスペックからして人間より上だ。
だが、ボラフがそうだったようにこいつらは下手くそだ。
悪魔のルールとして格上に逆らえなくなっている以上、基本的に格上と戦う方法をこいつらは模索したことがない。
ただ、持ち合わせた力を格下相手に力任せに振り回すだけだ。
己のチカラを使った最適な戦闘方法など考えたこともない。
当たれば即死する攻撃を、俺は左右の足を交互に動かし重心をズラし、的を動かしながら躱し、捌いていく。
エルフィーネから教わった体捌き。
そして聖剣による攻撃。
これらは通じている。
基本は避けに徹し、機があれば聖剣の一撃で仕留める。
その作業を繰り返していく。
悪魔だろうと人間だろうと、何を相手にしても俺の出来ることは変わらない。
それを同じように繰り返す。
だが、違う――
今日は違う。
ここは違う。
今までとは違うモノがここにはある――
「――お、おぉ……、少年のヤツすげぇッス。やりあってるッスよ……!」
「びと……、くん……」
メロは弥堂の戦いぶりを見て興奮し、意識を朦朧とさせる愛苗の肩を揺すった。
眠りに落ちかけている彼女はわずかに瞼を開けて、同じ光景を見る。
だが――
「……だめ……、びとう……く……」
彼女は違う感想を抱いたようだ。
「え……?」
メロは弥堂の方へ視線を戻す。
その先ですぐに事が起こった。
最初こそどうにか通じていたものの。
しばらく――5分も保っていないかもしれない――すると、弥堂は回避をミスし肩を打たれて大きくバランスを崩す。
「少年――ッ⁉」
メロの叫びも虚しく、そこを別の悪魔に摑まれ、地面へと引き倒され、他の悪魔たちに群がられ、殴る蹴るの暴行を受ける。
集った悪魔たちの隙間から外へ伸びる弥堂の足が痙攣を始め、血の染みが囲いから漏れ出て、足の痙攣が止まる。
彼はいとも容易く殺されてしまった。
「そんな……ッ」
わかっていた結果ではあったが、こんなにも無慈悲に、こんなにも呆気なくそう為ってしまうものなのかと、メロは握っていた手から力が抜ける。
それと同じ感想を抱いたアスもつまらなそうに眉を顰めた。
「……意味ありげに向かってきて、なんとも呆気ないですね」
「――まったくだ」
「なに――ッ⁉」
拍子抜けしたような言葉を漏らすと別の場所から弥堂の声が答えてきた。
反射的にそちらへ顔を向けると、集団から突出して孤立していた悪魔を一体、ちょうど背後から弥堂が刺し殺した場面が目に入った。
さっきまで弥堂を殺して燥いでいた集団は首を傾げている。
アスは無傷の弥堂へ驚愕の目を向けた。
「……なにをした?」
「別になにも」
そっけなく答え、弥堂はまた悪魔の集団へと挑む。
先程と同じようなシーンが焼き増しされる。
アスは疑いの目でその様子を観察し、何分かして焦れた。
「――試してみますか」
その呟きと同時、悪魔に囲まれ対応に四苦八苦する弥堂の近くに銀色の魔法剣が顕れ、そして即座にその首を刎ね飛ばした。
上へ向けて派手に血が噴き出し、悪魔たちは歓びの声を上げて赤いシャワーを浴びながら死体を囲む。キャッキャと手を叩き、その内の一体は落ちた弥堂の首を拾って天へと掲げる。
彼らは首無しの死体周囲を踊りながら回ってその死を貶めた。
弥堂の身体はその囲いに隠されて見えなくなる。
「あっ、あぁ……ッ」
「だ、め……」
愛苗とメロの悲痛な声は悪魔の歓声に掻き消される。
だが、すぐに別の場所が騒がしくなった。
歓びではなく、怒りと戦意を吐く悪魔の声。
「バカな――ッ!」
これもまた先程の焼き増しのように、死んだはずの弥堂が別の場所に現れ、他の悪魔を襲っていた。
その異様さに肉人形と下級悪魔たちは半ばパニックを起こして叫んでいる。
「――ッ!」
アスはバッと首を回し、今しがた弥堂を殺害した場所を確認する。
「どきなさいッ!」
そこにはまだ先程の集団がいたので、魔法弾を水平に掃射して邪魔な肉壁を消し飛ばし、視界をクリアにする。
すっきりとしたその場に弥堂の死体はない。
弥堂の首を持って踊っていた個体に目を向けても生首は消え失せ、それを掲げていた悪魔はやはり首を傾げていた。
「幻術……? そんなはずはない。だが、それなら……ッ!」
アスは苛立たしげに表情を険しくする。
「直接殺してみますか――」
そして悪魔たちと戦う弥堂の眼前へと転移した。
「――っ⁉」
「遅い――」
弥堂は反射的に聖剣をアスへと突き入れる。
だがその手首をあっさりと掴まれ、逆にアスの手刀に正面から左胸を貫かれた。
「少年――ッ⁉」
「だめ……」
先と同じように少女たちの悲鳴があがる。
胸を貫き弥堂の背中側へ突き抜けたアスの手には、クルードを殺害した時と同様に心臓が握られている。
ズルリと手を引き抜き足元に弥堂の死体を放り捨てた。
足で顔を動かしてこちらへ向けさせると瞳孔が完全に開いている。
確実に即死だ。
「動くなッ!」
わっと歓声をあげて悪魔たちが死体へ群がろうとすると、アスはそれを制止し、心臓を手に握ったままジッと死体を監視した。
血を流しながらピクピクと動いていた死体はすぐに動かなくなる。
その生命活動は確実に終えている。
「死んだ。殺した。間違いなく絶命している」
アスは確認するように三度同じことを口にした。
「やはり死者蘇生など、ありえませんね。」
検証を終了し、死体から足を離した。
「最後まで正体が掴めなかったのは業腹ですが、所詮はニンゲン。こんなものでしょう……」
忌々しそうに呟きながらグチュッと心臓を握り潰す。
「だめ……」
シンと静まった場に、力無い愛苗の声が届く。
アスは踵を返した。
「……だめだよ……」
アスが背を向けた1秒後――
残された弥堂の死体に刻印が浮かび蒼銀の光がそれを淡くなぞる。
アスは背後へ向けて潰した心臓の残骸を投げ棄てた。
その心臓は地面に落ちる前に虚空に消えてしまう。
背を向けるアスはそれに気付かない。
背後の弥堂の死体。
その肉体は死んだ。
そしてその“魂の設計図”は肉体の死に遅れて崩壊が始まる。
誰の目にも映らないが、これから崩壊するその“魂の設計図”に、もう一つの同じ“魂の設計図”が重なり、上書きするように為り変わった。
「だめ、だよ……、びとうく……ん……」
現場から離れていくアス。
その背後でムクリと、弥堂の身体が立ち上がった。
胸の傷はなく、生命消えたはずのその瞳には蒼銀の光。
その手には同じ色に輝く光の刃。
その切っ先を向けて襲い掛かり、アスの背中に突き立てた。
「――な、なにッ⁉」
殺したと完全に結論づけていたアスは、自身の背中に奔った衝撃によって気が付く。
「チッ」
慌てて振り返ると、聖剣の刃が徹らなかったことで苛立ちを露わにした弥堂がそこに。
殺す前と同じ姿のまま、当たり前のようにそこに居た。
「そ、そんなバカな……ッ! まさか本当に復活……? 事実としての死者蘇生が成立しているというのか……ッ! 貴様ッ! 生き返ったのかッ⁉」
「死にに戻っただけだよ」
ただのニンゲン相手に驚愕の目を向ける大悪魔に、弥堂は何でもないことのように答える。
そして――
「――【falso héroe】」
『世界』から自身の“魂の設計図”を一時的に引き剥がし、他者の認知から消える。
「――ッ⁉」
一拍遅れてからアスは焦って背後へ振り向き、そして周囲へ視線を走らせた。
消えた弥堂は離れた場所で、他の悪魔たちに襲い掛かっていた。
アスはそれを追わない。
無意識に自覚なく安堵のような息を漏らし、怪物の戦う姿を見る。
大した魂ではない。
人間の範疇。
そして弱い。
今も下級悪魔ごときに翻弄されている。
やがて対処しきれなくなり、右腕と左足を捥がれた。
それだけでもう戦えなくなる。
悪魔どもがトドメを待つばかりのエモノへ襲い掛かる。
そこでヤツの姿が消えた。
数秒遅れて少し離れた場所で地面に転がる片手片足のない半死体を見つける。
また姿を消す魔術を使ったようだが、無駄な足掻きだ。
ニンゲンは左手で黒いナイフを抜き、淀みのない動作でそれで自身の心臓を突くとナイフを抜き、返す刃で首を斬った。
「な、なにを……ッ?」
その異様な行動にアスは思わず声を漏らす。
すると、先程のように倒れて失血死した死骸に刻印が浮かび、蒼銀の光に一瞬包まれると、ヤツは五体満足な状態で復元しまた立ち上がった。
そして、また向かってくる。
今度はその一部始終をアスも目にした。
「本当に死んで、生き返っている……」
アスたち悪魔や、その敵である天使でさえ不可能としている死者蘇生。
そして『世界』の存続の為に最大の禁忌としている事柄。
それに対する驚愕と忌避。
だが、それと同じくらいに、このニンゲンの男の在り方に嫌悪感を抱く。
死んで生き返ることが出来たとしても、それで強くなるわけではない。
同じようにまた殺されるだけだ。
あの男自身それを自分でよく理解している。
それなのに、死んだふりをして逃げればいいものを、生存の為にそれを使えばいいものを、また同じように殺されに向かってきて、そして今もまた目の前でもう一回死んだ。
「バケモノめ……」
あれは生物ではない。
そんな生理的な嫌悪をアスは抱く。
あまりに悍ましいモノを目にしたように言葉を失う。
あれではまるで、もう一度死ぬ為に現世に還ってきているようなものではないか――
その現象に驚いているのはメロも同様だった。
「お、おぉ……ッ! アイツすげー! 不死身なんッスか⁉ キメェけどスゲェッス!」
あれなら永遠と繰り返していればいつか勝てるのではないか。
そんな希望を俄かに抱くが――
「……だめ……びとうくん……、そんなこと……、しちゃ……だめ……」
やはり愛苗は違うものを感じているようで、戦う彼の方に存在しない手を伸ばそうとし、そこで力尽きてまた眠りに入ってしまった――




