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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章70 不誠実な真実 ①

 ピンク色の魔法球が空を踊り狂う。



「――どいてくださいっ!」



 弥堂の救出を阻むクルードへ愛苗は半ば出鱈目に光弾をばら撒いた。



「ギャハハハハッ! いいぞォ! もっとだ……!」



 その攻撃をクルードは嗤いながら拳で打って防ぐ。



「邪魔……しないで……っ!」



 魔力を溜めてから魔力砲を放つと、自分でばら撒いた弾幕を飲み込みながらクルードを襲う。



「まだ足りねェんだよッ!」



 それを正面に見据えたクルードが一吠えすると彼の口からも似たような魔力砲が発射され、愛苗の放ったそれとぶつかり相殺された。



「私、急いでるんです……!」



 クルードの動きが止まった隙に愛苗はその横を通り抜け、弥堂が生き埋めになっている建材置き場へ向かう。


 しかし、すぐにクルードに横に並ばれてしまった。



「【光の盾(スクード)】!」



 振るわれた拳を魔法の盾で受け止める。


 無理に衝撃を抑えようとはせずに自分から吹き飛ばされ、その威力を利用してさらに飛行魔法を加速させた。



 だがそれでも、簡単にクルードに先回りされてしまう。



「どうして邪魔するんですか……!」


「クッ……、クカカ……」


「なにがおかしいんですか……⁉」


「アァ? そりゃ可笑しいさ……!」



 ニヤニヤと哂いながらクルードは魔法の盾の上から打撃を放ち、無理矢理愛苗の速度を減衰させる。



「オマエ、イライラしてるだろ?」


「そ、そんなの当たり前です……!」


「いいぜ、もっと苛立てよ……ッ!」


「え?」



 意味がわからないと怪訝な顔になる愛苗を尻目に、クルードは掌の上に魔法球を創り出した。


 愛苗を見てニヤリと哂う。



「ゥオラッ!」


「あ――っ⁉」



 そして彼女の目の前で、その魔法球を弥堂が埋まっている建材置き場へと投げた。



「セ、【光の種(セミナーレ)】……ッ!」



 愛苗は慌てて自分も魔法球を撃ちだし、クルードのそれを追わせる。


 二発、三発と追加で撃ちだした。



 スピード重視で撃ち出した初弾はクルードの魔法球に追いついた。



「おねがいっ!」



 愛苗の願いに応えて横からぶつかりにいくが、逆にクルードの魔法球に弾き返されてしまった。


 だが、僅かに減速させることには成功したようで、その間に後続の魔法弾が追い付く。



「みんな、がんばって……っ!」



 数発のピンク色の魔法球が、クルードの赤い魔法球に体当たりをしかけた。


 押し競饅頭のように身を寄せ合って、クルードの魔法球を建材置き場までの射線から押し出そうとする。



「クククク……ッ」


「――っ!」



 その様子をクルードが馬鹿にしたように笑いながら見ていると、カチンときた愛苗の瞳にキッと力がこもる。


 するとその感情に呼応した魔法球たちが、ギリギリのところでクルードの魔法球を建材置き場の上に逸れる軌道へと押し出した。



「おぉ。やるじゃねェか」


「ふざけないでください!」



 まるで他人事のように感心するクルードに愛苗は非難を向ける。


 クルードは自分へ向けられるその感情に、嬉しそうに嗤った。



「そうだ。いいぞ。もっと怒れ」


「やめてください!」


「やめねェよ。どうだ? ムカつくだろ? イラつくだろ? だからもっと怒れよ」


「私は弥堂くんを助けたいんです……!」



 互いの意思と意思は通じ合うことなくただぶつかり合うだけだ。



「だったらもっと怒れよ。邪魔だろ? オレサマが。イラついてムカついて怒ってキレて殺せよ! それだけが自分の我を通せる方法だ!」


「そんなこと……っ! だからお願いしてるんです! お願いして譲り合って、みんなで仲良くできるように……っ! 怒るなんて、そんなのいけないことです……!」


「ハッ! よく言うぜ! ウソつくんじゃあねェよ!」


「私、ウソなんて……!」



 高速で飛び回り攻防を繰り広げながら言葉をぶつけ合う。


 弥堂の元へと向かう愛苗とその進路を妨害するクルードのドッグファイトだ。



「いーや、ウソだね! 自分でわかってんだろ?」


「なにがですか⁉」


「自分が強くなってることだよ!」


「――っ⁉」


「昨日よりかなりマシになってるぜェ? 感情が昂って、それを魔力にのせて、魔法で表現する。それが闘争心だ! 気合ののってねェ攻撃なんかで誰も倒せやしねェよッ!」


「そんなことありません……!」


「あるねッ! 今日のテメェは明らかに昨日よりもノってる! 昨日はなかったモンが今日はある! それはなんだ⁉ その闘争心はどこから来てる⁉」


「私……、わかりません……っ!」


「だったらわかるまで続けてやるよォッ! ニンゲンどもを脅かされたからか? 親に手を出されたからか? それともテメェの男をヤられたからかァ? アァン⁉」


「弥堂くんは……っ、『弥堂くんの』です……っ!」



 追い縋ってくるクルードへ魔力砲を放ち大きく回避させる。


 そうして距離をつくって建材置き場へ進路をとるが、やはり振り切ることは出来ない。



「どいてぇっ! 弥堂くんを助けさせて……! 早くしないと……っ!」


「ギャハハハハ……ッ! もっとキレろよ! かかってこいよ!」


「早くしないと……っ、弥堂くんが死んじゃう……っ!」


「ア?」



 バカ笑いをしていたクルードは、愛苗のその言葉に気の抜けたような顔をした。



「なに言ってんだオマエ……?」


「なにって……」


「死んじゃうっつーかよォ……」


「だって、あんな……っ!」


「もう死んでんだろ?」


「――え……?」



 毒気が抜けたような顔で、まるで当たり前のことのように言う。


 クルードのその言葉に愛苗も力が抜け、止まってしまった。



「いや、生きてるわけねェだろ? ニンゲンだろ? アイツ」


「……あっ、そんな……」


「オマエの方がわかるだろ? ただのニンゲンがあれ喰らって生きてられるかよ」


「そんなこと……」


「百歩譲ってオレサマのパンチがなかったとしても、あの勢いでぶっ飛んで、あそこに突っ込んで、そこに自分より重たいモンがあんだけ倒れてきたら――死ぬだろ? 死ぬよな? ニンゲンは。アタリマエだろうが」


「そんなことない――っ!」



 愛苗は我を失ったようにクルードへ向かっていく。


 指摘された事実から目を逸らすように。



(そんなわけない……っ!)



 自分に言い聞かせるように。



 今までだって、彼は普通じゃ勝てないような相手と戦って、普通じゃ死んでしまうような目に遭ってきた。


 だけど、それでも彼はどんな相手とだって渡り合ってみせたし、どんな状況からでも生き延びてきた。


 今回だってきっと大丈夫なはずだ。



 だが、愛苗は焦って感情のままにクルードへ攻撃をしかける。


 クルードの言葉を否定するために。



「ギャハハハハハ……ッ! いいぞ、また一段昇ったなァ……ッ!」


「……っ!」



 クルードは愛苗が放つ魔力砲を躱し、その回避先へ先回りしていた魔法弾を拳で殴って打ち消す。



 昨日はどの魔法も避ける必要すらなかったのに、今は防御行動をとっている。



 確かに彼の言う通り、今自身の身の裡から湧き立つ感情が、魔力にのって身体を廻り、そしてそれが力になっている。愛苗は確かにそれを感じていた。


 感情を掻き立てられ、搔き乱され、だが皮肉にもそれが自分の魔法を強くしていた。


 それも認めたくなくて、愛苗はがむしゃらに力を奮う。



「クカカカッ! そうかよ! モヤシヤロウはこういうつもりだったのか! 早く言えってんだッ!」



 それがさらにクルードを悦ばせ、そしてそのことにさらに愛苗の感情は沸き立つ。


 強くはなってはいるが、しかしその戦いはどこか精彩に欠けていた。









「――最初からずっとそう言っていたんですがね……」



 クルードと愛苗の戦いを遠巻きに観察しながら、アスは呆れたように呟いた。



『モヤシヤロウはこういうつもりだったのか! 早く言えってんだッ!』



 クルードのこの発言に対してのアンサーである。



 それを離れたこの場所で言っても伝わらないし、聴こえるように言ったところでやはりどうせ伝わらない。


 無能な部下にも手を焼くが、無能な上司もやはり厄介だと辟易としてしまうが、やはりそれも今更言っても仕方がないこと。そう切り替えをした。



「予定が狂ってしまったかと思いましたが、存外に軌道修正されましたね。あの男は殺す予定でしたし手間が省けました」


「…………」



 独り言のように呟くアスの近くには、悍ましい啼き声をあげる杖と、銀髪の少女。


 少女は身を震わせながら俯き、何も言葉を返さなかった。



「生身でグールに襲われ、我が身可愛さについ魔法を使ってしまう。その結果、両親を死なせてしまう。これがベストでしたがまぁ、これはこれでそれ程悪くない」


「…………」


「ですが、まだ足りない――」


「――え?」



 不可解な言葉に少女が思わず顔を上げると、アスは歩き出してこの場を離れて行こうとしていた。



「だいぶ揺らいではいますが、存在の根幹を揺るがすにはまだ至らない。まだ、あと、もう一押しか二押しが必要ですね……」


「あ、あの……っ」


「……はい?」



 背中を向けてどこかへ歩いていくアスを少女が呼び止めると、アスは不快感を隠そうともしない顔で振り向いた。



「あの、どこへ……?」


「……あぁ」



 アスはひどく億劫そうに答える。



「今私が喋っていたことを聞いていなかったんですか? 聞いていれば私の目的が読み取れるでしょう?」


「ご、ごめんなさい……」


「まぁ、いいです。逃げたニンゲンを捕まえにいくのですよ」


「えっ……?」



 少女の目が驚きに開かれる。



「言ったでしょう? 足りないと。あの娘の両親をもう一度連れてきて目の前で殺すのです」


「そ、それは……っ⁉」


「それは? それはなん――⁉」



 苛立ちに細めようとしていたアスの目が逆に大きく開かれた。



 その視線が向く先は銀髪の少女――



――少女を超えたその先。



 そこにあるのは稼働中の“世界樹の杖(セフィロツハイプ)”。



 その傍らに近づく者を眼に映して驚愕をした。



 そこには青白く発光する刃を構えて“世界樹の杖(セフィロツハイプ)”に突き立てようとしている弥堂の姿が――



「き、貴様――っ!」



 驚きに硬直しかけたアスは寸ででハッとすると、素早く弥堂へ向けて魔法弾を放った。



「――チッ」



 無限に湧くグールの元凶とも言うべき“世界樹の杖(セフィロツハイプ)”の破壊を目論んでいた弥堂だったが、あと一歩のところでそれを阻まれる。


 高速で迫る銀色の弾丸をバックステップで一つ躱し、もう一つを聖剣(エアリスフィール)で斬り裂いた。



「貴様なぜ……ッ⁉」



 死んだと思っていた男が突然背後に現れたことで、アスは思わず声を荒げる。


 弥堂は言葉なく、ただ静かにアスへ向けて半身を作った。



 その姿が露わになる。


 身に纏っている黒い革のスーツの胸元は裂けていて、だがその中の弥堂の身体にはクルードに斬り裂かれたはずの傷はなかった。



 そしてその場の様子は愛苗の目にも映っていた。



「――弥堂くん……っ!」



 焦燥に駆られていた丸い瞳が喜びに彩られる。



「ハァ……? なんで生きてんだアイツ……」



 対照的にクルードはポカーンと口を開けて呆けていた。


 確かな手ごたえがその拳に残っている。


 生きているはずがないと確信があったのだ。



「こっちはいい! 集中しろ!」


「うん……っ!」



 思わず彼の元へ飛び出そうと魔力を強めるが、弥堂に機先を制されて踏みとどまる。


 だが、愛苗は素直に頷いた。



 そしてバッとクルードの方へ身体を向ける。


 その顔には笑顔さえ浮かんでいた。



「チッ」



 その顔にクルードは苛立ちを露わにする。


 せっかく彼女に本気の敵意というものを植え付けられそうだったというのに、それをたかがニンゲンごときに台無しにされたからだ。



 だが――



 ユラァっと、愛苗の全身からオーラのように魔力が漏れ出す。



「ヘェ……?」



 クルードは表情を一転させ、それを興味深げに見た。



「どういうことかわかんねェが、それがテメェの闘争心か?」



 愛苗の周囲に次々とピンク色の魔法弾が生成されていく。


 彼女は真っ直ぐにクルードを見返した。



「私もよくわかりませんけど、でも――」



 一軍と呼べるほどの夥しい量の魔法弾が空を埋めた。



「――私、がんばります……っ!」


「そうかよ。せいぜい死ぬ気でかかってきなァ……ッ!」


「これで、思いっきり戦える……っ!」



 上空では愛苗とクルードが対峙し、そして――




「――どういう絡繰りです……?」


「何を言っているのかわからないな。もっと具体的に聞いてくれないか?」



 地上では弥堂とアスが睨み合う。



「フフフ、いいでしょう。興味が湧きました。謎を謎のままにはしておけない性質(タチ)なんです」


「そうか。それは難儀だな」


「実験をしてあげます。全てを明るみにだして解き明かし我々の知の糧として差し上げましょう」


「それは怖いな。だが、気をつけろ」


「……?」



 常と変わらぬ平淡な声で告げられる弥堂の言葉に、アスの眉が怪訝そうに歪められる。



「実験には事故が付き物だ。油断をしていると魂まで吹き飛ぶぞ」


「ニンゲンが……!」



 そしてその極めて挑発的で侮辱的な宣戦布告に悪魔の目に赤い怒りの色が灯った。




 戦況は変わり、それぞれが1対1でぶつかりあうカタチとなる。



 愛苗とクルードが――



 弥堂とアスが――



――正面から対決する。


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