1章10 Shoot the breeze ③
私立美景台学園の2年B組の教室にて、昼休みも終わりに近づき午後の授業の開始時刻が迫る中で、7名の高校生たちによる魔法少女に関する議論が深まっていた。
「だって魔法少女はみんなのために戦ってるんだよ! 風紀委員といっしょだよ!」
「それは違うな」
「そりゃ違うでしょうね。こいつみんなのために戦ったことなんて多分一回もないわよ」
「うるさい黙れ」
「そんな……ななみちゃんまで…………」
「や。べつに魔法少女が悪いって言ってんじゃないわよ? むしろこいつが悪い奴だから一回成敗してくんないかなって」
「しないよ⁉ 魔法少女は街の平和を守るんだもん!」
「だから、それが危険だというのだ」
お手てとおさげをブンブンして熱弁する水無瀬へ、弥堂は溜め息混じりに説明をしてやる。
「いいか? 確かにその場面だけを見れば奴らは街の平和を守り、世界だかを危機から救ったかもしれん。だが、それは異常なことだ」
「え? どうして?」
「百歩譲って、一度きりのことならばいい。緊急事態下でたまたま居合わせた民間人が協力をして事態を鎮静化した。そういうこともあるだろう。だが、それがその後も当たり前のことのように続くのはいいことではない」
「いいことをしてるのに……?」
「考えてもみろ。警察やら軍隊やらが手を焼くような魔物だの怪人だのをただのいち民間人が倒すのだぞ。それは警察や軍隊をも凌ぐほどの暴力を個人が所有しているということにもなる」
「で、でも……っ」
「治安は警察という仕組みによって守られるべきであり、国防は軍という仕組みによって守られるべきだ。国家に管理されていない暴力が野放しにされているなど正気の沙汰ではない」
「魔法少女は悪いことしないもんっ!」
「それだ。魔法少女の安全性はその者の善意に頼るしかない。どこの誰かも知れない人間の善意が恒久的に保たれるなど誰も保障が出来ない」
「そんなことないもんっ!」
「それに、だ。例え奴らが心変わりをしなかったとしても、魔法少女頼みで成り立つような国や世界などどのみち先はないだろう。そいつらが居なくなったら成り立たなくなるような平和など不安定極まりない」
「うっ……でも……っ!」
「最善は魔法少女なしで成立する治安維持を構築すべきだが、どうしても魔法少女を組み込みたいのならば最低でも国家公務員として雇い入れるべきだ。だが、それは無理だろう。奴らは必ず独自行動をし、自ら危険を探してまわる」
「あぅ……あぅ……」
「さらに言うならば。これはプリメロシリーズではないが、他の魔法少女に関する事柄を記した文献では、『悪堕ち』という状態になり寝返る個体について書かれていた。それも考慮すればやはり俺は魔法少女は排除すべきだと考える」
「うぅぅぅぅぅ…………ななみちゃ~ん……っ!」
大好きな魔法少女を一生懸命擁護しようと立ち向かった愛苗ちゃんだったが、悪の風紀委員に論破されかけて親猫に泣きついた。
支援の要請をされた希咲は「ゔっ⁉」と呻くと気まずげに目をキョロキョロさせる。
愛苗ちゃんはガーンとなった。
「え、えーーと…………そもそもアニメだしーとか、魔法少女ってそういうもんだしーとかってのは野暮なのよね?」
ショックを受けた彼女の顔を見て罪悪感に駆られた希咲は慎重に言葉を選びながら口を開く。
水無瀬は期待をこめた瞳で彼女の言葉を待つ。
「うーーーーーん…………認めたくないんだけど。これはホントにマジでめっちゃムカつくから認めたくないんだけど! あたしもこのバカと大体同意見なのよね……」
愛苗ちゃんは再びガーンとなった。
「あっ、まって! ちがうってば! こいつみたいに魔法少女が悪いとか、排除とかそんなことは思わないんだけどっ! ほら? あたしの場合は聖人っていう実例がいるからさ。あちこちのトラブルに首突っ込みに行くのはちょっといただけないかなぁって……」
「うぅ……そうなのかな……?」
「んーーー、自分と全然関係ない人だったらまぁ、好きにすれば?って言えちゃうかもだけど。例えば愛苗が魔法少女やってるとかってなったら、心配だから全力で止めるし――って、ちょっとあんたどうしたの?」
「なっ、ななななななんでもないもんっ!」
丁寧に水無瀬を諭そうとした希咲だったが、何故か途中で汗をダラダラ流してキョドキョドし始めた彼女の容態を問うと、彼女からは『ないもんのポーズ』が返ってきた。
「そ、そう……?」と希咲は不審に思いつつも、このままこの話題が流れそうな気配がしたのでとりあえずスルーすることにした。
「どうやら結論は出たようだな。話は以上だ」
「なにを偉そうに。てゆーか、魔法少女よりも先にあんたっていう暴力を管理するべきよ」
しかし、空気の読めない男がこういう時ばかり自主的に口を開き余計なことを言うので、自身の胸元に垂れる後ろ髪を指でクルクルしながらジトっとした目を向けた。
「その必要は――」
『その必要はない』と返そうとした弥堂だったが、希咲の仕草を見て言葉を止め彼女をジッと視る。
「あによ?」
無遠慮に見つめてくる男に不愉快さを隠そうともせずにぶつけるが、彼は動じない。
両耳の後ろから纏めて前に垂らしている、水無瀬と同じような希咲のおさげを見て、弥堂はようやくずっと感じていた違和感の正体に気付いた。
「そうか。髪型が変わっていたのか」
「あん?」
その言葉を聞いて希咲の機嫌がさらに一段階悪くなる。
「なによ? 悪いの?」
「さぁな。いいか悪いかなど俺の知るところではないし、俺の気にすることでもない。好きにするといい」
「はぁ⁉ なによそれっ!」
『女の子なんだし自由にファッションを楽しむといいよ』と伝えたつもりだったが、何故か非常に彼女の癪に障ったようで弥堂は眉を顰めた。
「知らんぷりすんな! あんたはもっと気にしなさいよ!」
「何故俺がお前の髪型なぞ気にかけねばならん」
「あんたのせいで髪型作り直すはめになったんでしょうが!」
彼女の怒鳴り声が鼓膜に刺さり弥堂は顔を顰め、そして希咲のテンションに引き摺られるように彼も不機嫌になっていく。
「ねーねー、委員長。あれって、『大好きなカレのために髪型変えたのに気付いてもらえなくてスネて、やっと気づいてもらえたと思ったら今度はホメてもらえなくて激オコなカノジョ』っていう伝統芸能?」
「ののか。そんなの伝統にしてる国なんてないし、あれはそういうのじゃないと思うな」
この二人の言い合いに慣れてきたのか周囲は平和だった。
「あんたがあたしの髪グチャグチャにしたのが悪いんだからっ!」
「言いがかりはやめてもらおうか」
「なにが言いがかりかーーっ! あれは女子にやっちゃいけないことBEST5の一つよっ!」
「なんだそりゃ。めんどくせーな。残りの4つは何だ? 言ってみろ」
「うるさいっ!」
今後こういったことがないように改善を図るため、予めNG行動を把握しようと彼女にそれを尋ねたら理不尽にも怒鳴られ、弥堂は不条理な社会を呪った。
「さっきいきなりキスされそうになったのは?」
「それは人としてやっちゃいけないことよ!」
茶々を入れるように早乙女が口を挟んでくると、希咲は彼女の方へビシッと指を向けて言い切った。
早乙女も早乙女で、気まぐれに口を挟んだだけのようで「まぁ、それは確かにそっか」とあっさり納得をして引き下がった。どうやら弥堂を援護してくれるわけではないようだ。
「女子に勝手に触んなってあんだけ言ったのにまだわかんないわけ⁉ バカなんじゃないの!」
「うるさい。しつこいぞ」
「しつこいってなによっ! あんたまだ謝ってないじゃん! あやまってよ! あたしにごめんないさいして!」
「――待って、ななみちゃん……っ!」
弥堂を苛烈に責め立てる希咲を止めたのは意外な人物だった。




