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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章07 lunch break ④



 2年B組教室。



 弥堂によって空気を滅茶苦茶にされた後、しばらくはお互いにチラチラと窺い合う気まずい雰囲気が続いたが、現在は女子6名、和気藹々とランチを楽しんでいる。



「――えーー⁉ じゃあG.W終わるまで戻ってこれないかもしれないのー?」



 早乙女が大袈裟に驚いてみせると希咲はそれに答える。



「んーー。最初は10日間で帰ってきてG.W前の27日と28日は登校しようと思ってたのよ」


「なにかトラブル?」


「そういうわけじゃないんだけど……なんか長引きそうなのよね……」



 少し心配そうに眉を顰める野崎さんへ向けた返答に、今度は日下部さんが首を傾げる。



「旅行に行くんだよね?」


「んとね。説明がめんどいから、いちおそういう風に言ってるんだけど…………聖人たちのご実家関連の……なんていうか、イベント……? みたいな……?」



 舞鶴は我関せずといった態度で、一生懸命ご飯をたべる水無瀬をうっとりと見つめている。



「……えーと…………もしかして、あまり訊かない方が……?」


「や。言いたくないとかそういうんじゃないんだけど……とにかくややこしくて…………出来れば関わんない方がいいと思うし……」


「ふぅ~ん…………でも七海ちゃんのお家って普通のお家だよねー?」


「そーよー。うちのママはフツーの人よー」


「そうなんだ? でも七海はその……関わって大丈夫なの……? 彼らのお家ってなんていうか……やんごとない的な旧家……? だったよね……?」



 日下部さんにそう問われ「あははー」と、とりあえず苦笑いだけ先に返す。

 そして、自身のオカズを箸で掴んではせっせと水無瀬の口へ運ぶ舞鶴を見ないようにしながら答える。



「まぁ、あたしの場合もういまさらっていうか? 何回か関わっちゃったから、向こうのお家の人たちも無関係とは見てくんないだろうし…………それにほら? あいつらだけでほっとくと何やらかすかわかんないしさ」


「なるほどー…………つまり結納ってこと?」


「なんでだよ」



「うんうん」と頷いてから大仰に言い放った早乙女に対して、思わずちょっと低い声が出て慌てて「んんっ」と体裁を繕う。



「わーん! まなぴー! 七海ちゃんが怒ったーー!」



 しかし、早乙女はわざとらしく泣き真似をしながら席を立つと水無瀬に縋りつく。


 食事中にお行儀がわるいとは思うも、よく見れば彼女はもう自分の昼食を終えていたようで、小柄な見た目のわりに意外と食べるのが早いと、脳内でメモをする。



「どうしたの、ののかちゃん?」


「七海ちゃんがヒドイの! ののか達よりもバカンスが大事なんだよ!」


「ちょっと、ののか! んなこと言ってないでしょ!」



 めんどくさい彼女が言いだしそうな台詞を引用して嘘をつく早乙女に希咲が抗議すると、水無瀬は困ったように苦笑いした。



「ののかちゃん。あのね? ななみちゃんは大事な用があってお出かけするからしょうがないんだよ……?」


「甘いよ、まなぴー! まなぴーは七海ちゃんの彼氏でしょ⁉ 自分の彼女が他の女と旅行に行くんだよ? いいの⁉」


「そこまでよ、ののか。愛苗ちゃんに余計な概念を教えないで。それは穢れよ。私たちはあるがままをコンテンツとして鑑賞させて頂くだけ。そう話し合ったでしょう?」



 舞鶴が同意してくれなかったので早乙女は他の者に目を向けるが、全員に呆れた目で見られて憤慨する。



「でもでもっ! まなぴー寂しくないの⁉ 半月近く七海ちゃんに会えないんだよ⁉ 寂しいでしょ?」



 その言葉に、「かれし?」と首を傾げていた水無瀬はシュンと肩を落とす。



「さみしい…………」



 へにゃっと眉を下げたそのお顔を見て、七海ちゃんもへにゃっと眉を下げた。



「ご、ごめんね……っ! ごめんね愛苗っ! なるべく早く帰ってくるから……っ!」



 彼女は既に半泣きだ。



「……ううん。あのね……私、だいじょぶだから……! だから気にしないで楽しんできて……?」



 健気にニコっと笑ってみせる愛苗ちゃんの姿に七海ちゃんの涙腺は崩壊した。



「お、おみやげ……! おみやげ買ってくるから……! だからゆるして……みすてないでぇ……っ! クルマっ! クルマ買ってあげるから……っ!」



 ヒモ男に貢ぐダメ女みたいなことを言い出した希咲に取り縋られた水無瀬は「免許ないよぅ」とお顔をふにゃらせた。


 その二人の様子を周囲はほっこりと見守る。



「まなぴー! 七海ちゃんが居ない間はののかが面倒みてやっからな! 安心しろ?」



 水無瀬の腹に顔を押しつけて抱き着いている希咲の、水無瀬を挟んだ逆側から早乙女も抱き着いてくる。



「う、うん……ありがとう、ののかちゃん。ていうか、昨日まで愛苗っちって呼んでなかった?」


「そんなの気分だよー。まなぴーの方がカワイイかなって。そんなことより、なんだこのお胸はー!」


「わっ⁉ ののかちゃん、くすぐったいよ……⁉」


「ちくしょー! このロリ巨乳めっ! ののかとキャラ被ってんだよちくしょー!」


「ののか! コラっ! やめなさい! てか、あんた口調ブレブレよ⁉」



 水無瀬のお胸に顔を突っこんでなにやら憤慨する早乙女を日下部さんが引き剥がすと彼女はさめざめと泣き出した。



「うぅ……ののかはこれまでロリ系として生きてきたのに、ここで自分の上位互換と出会ってしまったのよ……その辛さがマホマホにわかる⁉」


「え、えーと……あんたもなんか苦労してるのね……」


「この学校はロリ系には生き辛すぎるんだよぅ……」



 彼女も彼女で何か苦労をしているようだ。



「の、ののかちゃん元気だして……? 私、お話きくよ……?」


「まなぴー…………ちくしょー、明日からはののかに任せとけー? 七海ちゃんのことなんておじさんが忘れさせてやっからな?」


「え? 忘れないよ?」



 ゲス顏で告げた早乙女の言葉の意味は当然水無瀬には通じない。

 それをいいことに早乙女はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。



「ふっふっふ……まなぴーが忘れなくても七海ちゃんはどうかな?」


「えっ?」


「バカンスが楽しすぎて七海ちゃんはまなぴーのことなんか忘れて帰ってこなくなるかもだぞー?」


「そ、それは困るよー!」



 何でも真に受けてくれる水無瀬に早乙女はさらに調子づく。



「だからぁ……昔の女のことなんて忘れて、ののかとなかよく――」



 しかしそれを許さぬ者もいた。


 横合いからヌッと手が伸びてきて早乙女の顔面をワシッと掴む。



「――言ったでしょう? ののか。解釈違いは許さないと……」


「ギャアーーーーっ⁉ ツメがっ、ツメがーーーー⁉」



 やっかいオタクの手によりNTRおじさんは強制退場させられた。



「七海ちゃん……私のこと忘れないでね……? ずっとずっと待ってるから、きっと帰ってきてね……?」


「わぶっ――⁉」



 縋りついていた希咲の頭をギュッと胸に掻き抱くと、大きなお乳に顔面を圧迫されて希咲は呼吸を奪われた。


 慌てて水無瀬の腕をタップして許しを乞い解放してもらう。



「……もうバカね。ちゃんと帰ってくるに決まってるじゃない」



 これまでの付き合いの中で、何度も水無瀬の胸で窒息しかけた経験をもつ希咲は慣れたもので、この程度でパニックを起こしたりはしない。



「私のこと忘れない……?」



 ウルウルおめめを向けてくる彼女に苦笑いをして、今度は逆に自身の胸に抱く。


 特にその理由が明確に語られることはないが、そのことで水無瀬さんが窒息するようなことには決してならない。



「だいじょぶだから。あたしがあんたのこと忘れるわけないでしょ?」


「ほんとに……?」


「ホントに。約束する。あたしは絶対に愛苗のこと忘れない」


「……えへへ…………私もななみちゃんのこと忘れたりしないからね……?」


「はいはい。てかフツーにメッセ送るし。あんたも好きな時にメッセ飛ばしてきていいからね?」


「うん!」



 隙あらばイチャつく二人に周囲も満足気だ。



「やっぱカップルなんだよなー。これは解釈違いにはならないの? 小夜子ちゃん」


「ふむ…………アリよりのアリね」


「小夜子は実際なんでもいいんでしょ……」


「はい。じゃあ、まとまったところでみんな席に戻ってご飯片付けちゃいましょ。お行儀悪いよ?」



 そうして野崎さんの号令のもと、少女たちは席に戻りまた輪になって談笑を再開する。


 この場にはただ、ほのぼのとした雰囲気だけが彩られていた。


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>七海ちゃん……私のこと忘れないでね……? ずっとずっと待ってるから、きっと帰ってきてね……? 意図的伏線?
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