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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章06 School Days ④


「――てかさ、あんたも座れば?」



 記憶の中から幻出する女どもを精神力で無視していると、希咲からそんな言葉をかけられる。


 弥堂は彼女へうんざりとした眼を向けた。



「それはさすがにお節介が過ぎるぞ。余計なお世話だ」



 そう言い放つと幻覚の女どもがゴミを見るような目を向けながら消えていった。


 当然そんな言い草に不快感を示したのは彼女らだけではない。



「はぁ? なんであたしがあんたなんかのお世話するわけ? 勘違いしないでよね」



 その言葉に反応したのは弥堂ではなく周囲の者たちだった。



「わわわ……っ! 聞いた? マホマホ。古の文献でしか見たことないようなツンデレムーブだよっ」

「いや、そういうんじゃないでしょ……」

「ふふ。見事なツンデレ芸ね」

「小夜子。茶化さないの」


「ちがうから! 芸じゃないからっ!」



 希咲が否定の声をあげたタイミングで弥堂は撤退を計る。



「弥堂くん、どこか行くの?」



 しかし水無瀬に呼び止められた。



「…………あぁ。用事がある」


「そうなんだ。一緒に食べれたらよかったのにね……」


「それは遠慮……そうだな残念だ。機会があればな」



 即座に断りを入れようとしたが、希咲からの視線に圧を感じたのでどうともとれる返事に切り替えた。


 その弥堂へ希咲は懐疑的な目を向けている。



「……てか、何の用事だってのよ。昼休みでしょ?」


「……仕事だ」



 弥堂は恐らく男性の97%が使ったことのある嘘を吐いたが、希咲さんはこれっぽっちも信用していない。「ふぅ~ん……」と嬲るような目で弥堂を見た。



「ねーねー、野崎さん」


「うん? なにかな?」


「今日の風紀委員の昼シフトってこいつ入ってんの?」


「え? えーと……あははー…………」



 もはやその態度が物語っているが、野崎さんは曖昧な笑みを浮かべ困ったように弥堂に視線を寄こした。


 善良な彼女につまらない嘘を吐かせるのは忍びないので、弥堂は肩を竦め好きに答えるよう促す。


 野崎さんは使える女だ。良好な関係を保っておく必要がある。



「えっとね、今日は入ってなかった……かも……?」



 彼女なりに精いっぱい間をとってくれたようだ。



 だが――



 希咲は何故か少し嬉しそうに「ふぅ~ん」と声を鳴らし、着席中の机に両肘をつき胸の前で手の甲を上に両手を組む。


 その手に自身の顎をのせて少し首を傾げるとニッコリと綺麗な笑顔を造り――



「で?」



 見上げてくるその表情は完璧な笑顔だが、弥堂にはその顔が嗜虐的に映った。



「守秘義務により答えかねるな」

「いや、今野崎さんが入ってないって言ったじゃん」

「うるさい黙れ」

「でた、パワープレイ。認めたわね」



 無駄な抵抗を試みるバカな男へ向ける視線を呆れたものに変えて続ける。



「てかさ、ここで一緒にごはん食べてけばいいじゃん」

「用があるって言っただろ」

「ないじゃん」

「あるっつってんだろ」

「休みってゆったもん!」

「言ってねーよ」



 周りを他所に二人は口論を開始すると――



「なにこれ、カップルの会話?」

「しっ! 怒られるよ!」

「……これはこれで別コンテンツとしてアリね」

「趣味が悪いわよ、やめなさい……」



 周りは周りでその様子を楽しみヒソヒソと所感を述べる。



 すると、「オホンっ」と咳払いの声が聴こえ議論は止まる。希咲にジト目を向けられた彼女らは素知らぬ顔で世間話を始める。



 対戦相手のいなくなった弥堂が視線を遊ばせると水無瀬の姿が目に入る。



 彼女は何か大きな期待に輝かせた瞳でワクワクしている。



「……無理だぞ」



 愛苗ちゃんはシュンとした。



「あんたも往生際が悪いわね」

「お前はしつこいぞ」

「しょうもない嘘つくのが悪いんでしょっ」

「嘘ではない。風紀委員とは別件で用事がある」

「はぁ? なによそれ?」

「キミには知る資格がない」

「……このやろう…………」



 瞳に攻撃色を宿し始めた希咲に両の掌を向け、争う意思はないことを示唆する。



「代役は多い方がいいのかもしれんが、人選ミスだ」


「……別に、それだけで言ってるわけじゃないし」


「俺も面倒だからというだけで断っているわけではない。単純に忙しいんだ」


「へぇ~~……」


「……疑うな。これは嘘ではない。さっきも言っただろう? こうして弁当を貰ってもいつでも受け取れるわけではない。風紀委員の仕事がメインだが、だからこそそれがない時は他の雑事を片付けねばならんこともあるし、必要があって人に会う時もある。今日は後者だ」


「…………わかったわよ。悪かったわね……」


「拗ねるな。期待に添えず悪いな」


「なんであたしが拗ねなきゃいけないのよっ。チョーシのんな!」



 二人の口論は一応の解決へ向かったようで、それを鑑賞していた人々は改めて所感を述べる。



「やっぱりカップルだよぉ」

「……なかなか見ごたえがあったわね」

「同じ大学を出て別々に就職して三か月。擦れ違い始めた二人……ってところかしら」

「お弁当を作ってるのも一緒に食べたいのも水無瀬さんなんだけどね…………でもそう考えると倒錯した人間関係が垣間見えて二度おいしい……かも……?」



 割と好き放題に言っている彼女らを希咲は再びジト目で黙らせる。



「ということだ、水無瀬。悪いな」


「ううん。気にしないでっ」


「キミに俺の予定を伝える術などないからな。そういうわけだから次からは――」


「――ID交換すればよくない?」


「――…………」



『もう作ってこなくていい』そう伝えようとしたが、最後まで言い切る前にインターセプトされる。


 自身にとって何か非常に都合の悪いことを言われた気がした弥堂は口を挟んできた者を視る。


 相手はもちろん希咲だ。



「あによ。DMなりチャットなり、やりようあるでしょ」


「…………ちょっと何を言っているのかわからんな……」


「わかんないことないでしょ。あんただってedgeくらいやってんでしょ? パパっとID交換してメッセ一つ送ればそれで解決じゃない」


「…………ちょっと何を言っているのかわからんな……」


 半眼でこちらを追い詰めてくる希咲に対して二度同じ言葉で惚けてみた。もちろんそんなものは通用しない。



「嘘つくんじゃないわよ。風紀委員ってedgeで連絡とり合ってるって前に野崎さんに聞いて、あたし知ってんだから」



 チラっと野崎さんに目線を遣ると彼女は両手を合わせて謝意を示してきた。悪意あってのことではないので彼女は責められない。



「ほら、パパっと今交換しちゃいなさいよ」



 続く言葉に希咲に目線を戻すと彼女は「ふふ~ん」とドヤ顏だ。



(こいつ……)



 彼女の隣の水無瀬さんはわたわたとスマホを取り出し、また期待をするような目でこちらを見ている。



「…………悪いが今日はスマホを家に忘れてな……残念だ」


「あ、あんた……よりによってあたしにその言い訳が通じると思ってんの……⁉」


「なんのことだ」




 希咲はビシッと弥堂の胸元を指差す。



「そこっ! 内ポケにスマホ入ってんの知ってんだから!」


「つまらん嘘を吐くな。貴様が俺のスマホの在処を何故知っている」


「何故もなにもあるかー! あんたHRの時、あたしにスマホ見せてきたじゃん!」


「ちょっと何を言っているのかわからんな」



 熱くなった希咲はガタっと勢いよく立ち上がるとズカズカと歩いて弥堂にとりつき、彼の上着の中へ手を入れようとする。



「出しなさいよっ! ここに入ってんでしょ!」


「おいやめろ。無理矢理服に触れるのはセクハラだと言ったのはお前だろうが」


「なにがセクハラかー! 朝っぱらから変な写真みせやがって!」


「変だと? あれはお前の写真だろうが。あれが変になるのはお前が変だからじゃないのか?」


「うっさい、へりくつゆーな!」


「なにが屁理屈か。人目も憚らず男の胸を弄る変態女め。恥を知れ」


「変態はお前だろうが! 女の胸を弄る変態やろー!」


「人聞きの悪いことを言うな。俺がいつそんなことをした」


「こっこここここのやろうっ……! 昨日あたしにしただろうがっ! なになかったことにしてんだ⁉」


「なかったことにしろと言ったのはお前だろうが」


「だまれ、へりくつやろー!」



 突然掴み合いを始めた二人に周囲はぽかーんとしていたが、漏れ聴こえてくるセンセーショナルな二人の言葉に誤解が生まれ加速していく。



「写真⁉」「七海ちゃんの⁉」「胸⁉」「まさぐる⁉」と、二人の関係性についてヒソヒソと協議が行われる。



「いい加減に出しちゃいなさいよっ!」


「あっ――貴様っ!」



 ついに希咲の手がズボッと弥堂の服の中へ突っ込まれた。


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