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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章04 Home Room ③


「あの、弥堂君?」


「む? どうした野崎さん」



 すると、風紀の名のもとに絶好調で好き放題をしている弥堂へ、もう一人の風紀委員である野崎さんから声がかかる。


「あん?」と、希咲は頬杖をついたままそちらへ投げやりな目を向けた。



「ごめんね、邪魔をして」


「いや、構わない。どうしたんだ?」


「うん。あのね……今日はとりあえず今朝の事例についての話で他の違反のことについては……」


「あぁ。大丈夫だ、問題ない」



 何が問題ないのかは希咲にはわからなかったが、『今朝、重大な校則違反が見つかった』、そういえばそんな話だったなと思い出す。



「いいか、貴様ら。これから紹介するのはあくまで一例だ。貴様らが重ねた数多の罪の中の氷山の一角であり、これだけが問題ではないと覚えておけ」



 何やら遠回しで勿体ぶった言い回しをする弥堂の口ぶりに、面倒くさくなった希咲は「どうせあたしカンケーないし、もういいやー」と適当に窓の外を見ることにした。



 しかし――



「今朝、学園の建物の外に大量の菓子類が捨てられているのが発見された」


(…………んっ?)



 次いで聴こえてきた言葉に違和感を覚え、すぐにまた弥堂へ視点を戻すことになった。



「場所は文化講堂だ。窓のある位置のすぐ下に食べかけの袋と中身が散乱していた。恐らく講堂内から窓の外へ捨てたものだと思われる」


(えっ……⁉ ちょっ……それって…………!)



 端的な説明でも覚えがありすぎて現場の絵がやたらと鮮明にイメージ出来てしまい、焦った希咲は不意に机についていた肘を滑らせてしまう。慌ててバランスをとろうとしたことでガタッと大きく音を立てて机を動かしてしまった。



「ゔっ――⁉」



 その音に反応して教室中の視線が自分に集まり彼女は動揺した。



「どうした、希咲?」


「ど、どうしたじゃねーわよ……あんた、それって…………」



 その視線の中の一つ、弥堂へ戸惑いの声を返す。自分は何も悪いことをしていないはずなのに何故か胸の動悸が激しくなる。



「何もないのなら静かにしていろ。今はHR中だぞ」


「何もって……あんたいったい――」


「――希咲さん……? 大丈夫ですか?」


「えっ――⁉」



『あんた一体どういうつもりなわけ?』と弥堂を問い質したかったが、多少気を持ち直したらしい担任教師に心配の声をかけられ言葉に詰まる。



「な、なんでもない、です……うるさくして、ごめんなさい……」



 結局口を噤むしかない彼女は先生と弥堂以外のクラスメイトへ向けて謝罪をし、不服そうに姿勢を正して座り直した。



 弥堂はそんな彼女を一度ジッと見詰め、それから何事もなかったかのように再開する。



「言うまでもないが、学園内での無許可での菓子の持ち込み及び飲食は校則違反だ」


(こっ……こいつぅ…………! どの口が……っ!)



 希咲は悔し気に唇を噛み締め弥堂を睨んだ。



 もしかして――などと他の可能性を考慮するまでもなく、昨日の放課後に文化講堂で法廷院率いる『弱者の剣(ナイーヴ・ナーシング)』と揉めた時の物だろう。


 現場に捨てられていた菓子は間違いなく構成員である本田の所有物で、それを見咎めた弥堂が彼の胸倉を掴み菓子ごと二階の窓の外へ宙吊りにすることで、無理矢理手離させた時の物に違いない。



「その所持しているだけでも違法な物を、あろうことか学園の敷地内に不法投棄していく。これは挑発行為だ。犯人は非常に陰湿で卑劣な人格であり現体制へ反抗的で挑戦的な思想を持っていると予想される」


(それ全部あんたのことだろうがぁーーっ‼‼)



 確かに菓子自体は本田の持ち物だが、こうなるように仕向けたのは弥堂だ。少なくとも半分以上は弥堂が犯人と謂える。



 陰湿で卑劣で反抗的で挑発的。



 さすが犯人ご本人様からの自己紹介は説得力が違った。高精度で当該人物の特徴を捉えている。



(ああぁぁっ……! 色々ありすぎてすっかり忘れてたあぁぁぁっ……!)



 弥堂の言う通り校則違反といえば確かにその通りなのだが、昨日は他に衝撃的な出来事が多すぎて完全に失念していた。


 希咲は頭を抱える。



(あたしが……あたしがちゃんと片付けさせてれば…………っ!)



 そうしていれば、今こうして教室が地獄のような雰囲気にならなくて済んだだろうし、教師や職員の方々の手を煩わせることもなかっただろう。



 昨日のトラブルの原因の一端を担っているとはいえ、本来彼女は被害者である。


 しかし、昨日あの場に居た自分以外の他の者たち全員がちょっと頭がおかしすぎた。


 とても常識的な行動を求められないような連中ばかりだったので、自分さえもっとしっかりしていればクラスメイトたちにも先生にも嫌な思いをさせることはなかったと希咲は強烈な罪悪感に襲われる。



 おまけに昨日のあの出来事は誰にも知られたくない。


 自分でそう望んで弥堂に願い出て、隠し通すための取り引きまでした程だ。


 とても申し訳ない気持ちでいっぱいだが、だからといって詳細を語るわけにもいかない。



 しかし、それは弥堂も同じはずだ。



 いくら風紀委員の仕事だからといっても、ここで自ら事を大袈裟にする必要などないはずなのに、一体彼はどういうつもりなのだろうと疑問を抱く。



 まさか、早速裏切って取り引きを反故にでもするつもりなのだろうか。



 だが、それを現在の衆目に晒された状態で彼に問い質すことは難しく、疑心暗鬼と罪悪感で希咲はとても居心地が悪くなる。



 肩を縮め、両手を足の間に入れてそれを腿でキュッと締める。そしてキョロキョロと周囲の顔色を窺うその姿は、現在のクラス内の多くの生徒たちと同じ完璧な挙動不審であった。



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