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エピローグ


 ステラはあの後、パンをしこたま食べ、コーヒー牛乳をしこたま流し込み、「足りないし!」と文句を言いながらそのままいなくなってしまった。


 今頃魔導大学で新生活を送っている事だろう。きっと大学でも無双っぷりを発揮しているに違いない。



 ベルもあれきり見かけなくなった。


 けど、人形用のティーセットはそのまま台所に出しっぱなしにしてあり、朝、ブリオッシュとコーヒー牛乳を入れておいてやるといつの間にかなくなっているから、ハエとりリボンに捕らえられたわけではなさそうだ。



 悪役令嬢のジェラルダインは兄君の辺境伯の元へ身を寄せたものの、ファンが連日のように城に押し寄せ外出もままならならず、最近は姿を見た者はいないと言う。


 イグアナを追いかけて取り逃していたとか、勇敢にもサボテンのトゲに挑んでいたとの目撃証言もあるが、悪役令嬢に相応しからぬ残念っぷりに影武者ではないかとの見方が強いようだ。




 さて、ステラとベル、そしてジェリーが家を去ってからひと月ほど過ぎた頃、俺は冒険者ギルドの事務所にいた。


「じゃあ、よろしくお願いします。」


「はい! ありがとうございます!」


 事務所の受付嬢に採用通知を渡され、俺は深々と頭を下げた。


 数ヶ月に及ぶ日雇い派遣労働生活もやっとのことで終わりを迎え、兵学校と魔術学校の剣術の指南役として採用される事となった。


 どうやら、先日の魔導士アースラを捕らえた功績が認められたようだ。


 泰平の世に剣術など文字通りの無用の長物かと思っていたが、善良な人々の生活を脅かすのは魔物やモンスターとは限らないからな。


 アースラ然り、農村の家畜を盗む盗賊団然り。


 農村と言えば、そのうち実戦訓練の一環として学生を派遣してやろう。手練の用心棒が一人いるよりも、素人集団でも数を頼んだ方がコソ泥どもには効果がある。



 ギルドの事務所から家へ帰る途中、ジェリーとよく買い物に来た市場を通り抜けた。


 雑貨屋の前を通ると、ジェリーが好んで使っていた石鹸のお香、『ミント&スパイスオレンジ』の香りが漂ってきた。


 懐かしくなり、つい購入してしまう。それに、最近の兵学校は女性の比率も高まっているようだから、おっさん臭でスメルハラスメントなどと言う事になれば、ハラスメントの被害者よりも俺が傷ついてしまう。



 ぶらぶら道草を食いながら家へ帰り着くと、玄関の前に女の子がひとり、立っていた。


 スカーフを三角に折って頭に被って顎のところで結んでいる。


 一瞬、ステラかと思ったが、スカーフの下の髪は濃い金髪で、肌もステラより白い。


 それに、着ているドレスは仕立ては良さそうだが、スカートは後前で裾も斜めになっているし、靴下も片方がずり下がっている。おまけに水溜まりにでもハマったのか、片足の靴と靴下は泥まみれだ。


「どちら様ですか?」


 尋ねてみたものの、この残念感は何となくどこかで覚えがあるような気がする。


 少女がこちらを振り返ると、濃いまつ毛に囲まれた大きな蒼い瞳を輝かせた。


 ぼさぼさの髪には貝細工の髪飾りが絡みつくようしてについている。


 少女は深々とお辞儀をした。


「兄さま、ただいま戻りました。」


 唖然と見つめる俺に異変を感じた少女はしばらく戸惑ったような顔をしていたが、


「あ、そうか。」


 と思い当たり、


「はじめまして、ステラの兄さま、お世話になります。」


 と、にっこり笑った。


 ふんわり、おっとりとした、こぼれるような優しい笑顔で。


 俺はハッと我に返り、思わず叫んだ。


「お世話になります!? 」




【おわり】



 最後までお読みいただき本当にありがとうございました。


 お読みいただいた方が少しでもほっこりとしていただけたら嬉しいです。

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