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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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85.呉範、諸葛孔明を論破する

「いやあ。たった3万の兵で80万と号する曹魏の大軍を撃退するのは、さすがに無理じゃないか?」


と疑問を呈した甘寧の問いには直接答えず、呉範は孔明を名指しで、


「諸葛孔明よ。周瑜提督がこの後3万の兵で曹魏の大軍を破ることは、貴公()知っておろう?」


と質問で返した。孔明は表情を変えることなく、


「……あんた、何が言いたいわけ?」


と氷のような冷たく鋭い語気で問い(ただ)す。呉範は涼しい顔で、


「誤魔化さなくてもよい。貴公の正体など、とうに知れておる。私と()()ということくらいな」


と敢えて自分が転生者であると(ほの)めかし、孔明を牽制する。


「ふーん。それがあんたの【風気術】のカラクリなのね。単なる前世の知識を悪用して予言し、さも的中したかのように振る舞う悪徳占い師ってところかしら?」


「辛辣な物言いだが、貴公の振る舞いだって似たようなものだろう。試しに我が孫呉を曹魏との戦いに巻き込もうと、貴公が孫権将軍の説得に使うセリフを占ってやろうか。


 曰く、曹操の軍勢は遠く許都より行軍して疲れ果てており、聞けば劉備を追った軽騎兵は一昼夜で三百余里も進軍したとか。これは、強弩といえどもその末端では勢いが衰え、薄手の布すら穿つことができぬという(たと)えそのもの。兵法の戒めを無視した曹魏軍の敗北は必至だ。また、曹魏軍の兵站は伸び切っている。降ったばかりの荊州で現地調達を強行すれば、曹操は民心を失い上手く統治できぬだろう。

 次に曰く、北方の兵は水戦に不()れで、長江で生まれ育った呉越の兵と水上で互角に渡り合えるはずがない。荊州で水軍兵を手に入れたとはいえ、威圧して服従させたにすぎぬ。指揮官に心服しない軍隊は恐れるに足りない。

 さらに曰く、中原の乾燥した風土で育った北方の兵は、南方の湿った風土や食事に慣れず、必ずや軍内に疫病が蔓延する。


されば、八十万と号する大兵力も、その実、戦えるのは十分の一にも満たぬ。

 水戦に()れず烏合の衆を率いる曹操を、少数とはいえ精鋭の呉越の水軍兵を率いる英雄・周瑜提督と荊州の民に人望の厚い劉備将軍が、タッグを組んで迎え撃つのだ。これで勝てぬわけがなかろう。

――とまあ、こんなところか」


呉範が開陳した【先読みの風気術】を聞いていた魯粛が思わず息を呑む。魯粛・孔明・周瑜が密談を重ねた時に、孔明が熱く語ったセリフそのものなのだ。あの場にいた三人以外、話が外に漏れるはずがない。だが呉範は苦も無くそれを言い当てた、奴の術はホンモノだ。


得体の知れない占い師と馬鹿にしておったが、奴にはすべてお見通しなのだ。正面切って敵対するのはまずいかもしれない。

そんな魯粛の内心を見透かしたように、呉範がニヤリと笑って、


「私の能力を信じてもらうために、ここにいる方々の未来を占って進ぜよう。

 魯粛殿。貴公は周瑜提督の死後、孫呉を背負う大黒柱となる。が、劉備将軍との過度な融和に走り、孫権将軍から疎んじられて憂死するだろう」


「!!」


魯粛は戦慄した。呉範に心の内を探られ、自分の将来を決定づけられた気がした。


「劉備将軍よ、貴殿は蜀を得て皇帝を名乗る。悪ふざけが過ぎるものよ。そして我が孫呉と対立したあげく、荊州に攻め込み夷陵で返り討ちに遭う。無謀にも孫呉に戦いを挑んだ己の悪行を悔いながら、白帝城で(もだ)え死ぬであろう。

 もっとも、そこの孔明が史実を改変するであろう故、私の占いが“はずれ”ることも予言しておく。


 関羽殿。貴殿は自らの過ちが原因で我が孫呉との同盟を反故にしたあげく、曹仁が籠る樊城を攻めるも攻略に失敗、息子の関平とともに斬られて死ぬ。


 張飛。そなたは部下に仕出かしたパワハラの報いを受け、文字どおり寝首を搔かれぶざまに死ぬ。


 甘寧。そなたは孫呉に仕え、濡須口で曹操の陣営に夜襲をかけ、あの老いぼれを討ち取る寸前まで行く。合肥では撤退する孫権将軍を身を挺して(かば)い、その時に受けた傷がもとで命を落とすことになろう。惜しいことにな」


劉備も関羽も張飛も、己の()(ぎわ)を死神に宣告されたかのように固まったまま、その場に立ち尽くした。呉範は満足げに見回して、


「私が立てた占いの結果はそこの諸葛孔明にも見えておる。私が述べた貴殿らの未来が変わるとすれば、それは諸葛孔明が史実を改変して……」


「いいかげんにしなさいよ!あんた、人の将来を何だと思ってるの?!仮にそれが見えたとして、望みもしない本人に告げてなにが面白いわけ?」


と女神孔明が激怒する。呉範はどこ吹く風で、


「私は事実を事実として告げたまでだ。史実にも語られた【先読みの風気術】に何か問題があるのか?倫理的に問題というなら、それは孔明、私が貴公にとって不都合な真実を彼らに暴露したからというのが本音であろう。違うか?」


「……」


呉範が正史『三国志』に【風気術】師として伝を立てられていると開き直られれば、この三国志の世界を造った女神様としても、呉範を(とが)め反論するすべはない。ぎりりと唇を噛んだままおし黙る孔明。


皆が呉範の【先読みの風気術】の脅威に屈服する中、ひとり甘寧が、


「ふん、馬鹿馬鹿しい!どうして俺がチビちゃんのもとを去って、孫呉に仕えなきゃならんのだ?牛飼いあがりの鄧艾の野郎が言ってたぞ、()()()()()()()()()()()()ってな。学のない俺には理屈は分からんが、現に鄧艾が牛飼いじゃなくなってチビちゃんに仕えてる以上、そんな得体の知れない奴のお告げなんか、まやかしに決まってるだろ!」


啖呵(たんか)を切る。


「それにさ、こいつのお告げは合肥の戦いでは大ハズレだったんだぞ!絶対勝てるとイキって攻め込んだものの、揚州刺史の劉馥りゅうふく殿と徐晃・史渙(しかん)のコンビにこてんぱんにされて、死傷五千・捕虜八千の大惨敗を喫したんだからな!」


「くっ…!あ、あの時は……」


味方と(勝手に)親しんでいた甘寧に思いもよらぬ反撃を受け、呉範はたじろぐ。そこへ。


「そのとおりだ!」


と現れたのは、鄱陽(はよう)で兵の調練をしているはずの孫呉の水軍提督・周瑜であった。


次回。赤壁の戦いの真打ち登場!満を持して周瑜が現れます。

史実では、周瑜は劉備を信用ならない梟雄(きょうゆう)だと警戒し、赤壁の戦いではやむを得ず協力して曹操を撃退したものの、劉備との同盟には最後まで頑として反対し続けました。この世界の周瑜は果たして……お楽しみに!

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