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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
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09.劉表の督郵、新野県を査察する

豊作続きと兵糧の密売で、関羽(←出世したらしい)が県令を務める唐県はいつの間にか400万銭の収益を上げました。それを元手に人生を賭けた大バクチを打つ関羽の話です。

前半の語り手は関興、後半は関羽のおっさんです。


二年後の建安八年(203)。四歳になった。

オレは筋トレやランニングで基礎体力を養うと同時に、木刀を握って毎日千回の素振りに汗を流した。同時に関平兄ちゃんの傍らで、家庭教師が教えてくれる歴史や論語・孫子の兵法を学び、政治の書の管子を読んで知識を増やした。


ちなみにオレは韓非子は嫌いだ。法家思想の即効性・有能性は認めるが、人を税金を納める道具としか見ないような政治を敷くと、自壊するのも早い。

学習のおかげで、オレのステータスは四歳児とは思えぬ成長を遂げた。


--関興--

 生誕  建安五年(200)  4歳

 統率力 49

 武力  63

 知力  87

 政治力 51

 魅力  72

 スキル 弩弓術 先読 交渉 鑑定 雷天大壮


フフン、単純に武力の数値を比較すれば、オレはあいつら屯田兵より強いだろうな。七歳上の関平兄ちゃんともいい勝負だ。なんせ前世の高校時代に弓道部に所属したおかげで、スキル【弩弓術】を獲得したこの世界のオレは、四歳児とは思えぬほど弓が上手い。十五間離れた的に当てるなんて楽勝だし。


さて、関羽のおっさんの善政で新野県の人口が急激に増えたため、荊州牧の劉表は新野県の東部を分割して新たに唐県を設置した。県令にはもちろん関羽が任命された。そして、もともと関羽配下だった屯田兵千人と、県内から徴兵した千人、新たに襄陽から派遣された兵千人の合計三千人が唐県の守備に配属された。


州境を接する田豫と相互不可侵の約定を結んだ関羽のおっさんは、襲撃される恐れがない県城を城壁で囲むつもりはなく、浮いた軍資金を新たな灌漑用水路の建設や、住民の税負担を軽くするために惜しみなく使った。それがさらに評判を生み、関羽が治める唐県には、流浪民や帰服した無頼の輩が数千人集まった。


塩の密売人だったと噂がある関羽のおっさんは、裏稼業に手を染めた者と気が合うらしく、軽業師や盗賊上がりを斥候として雇い、掏摸スリや盗人、声帯模写の名人を直属の部下に従えた。孟嘗君かよ!


しかたがないので、オレは絵描きや書の達人・陶工や鋳物師それに旅役者を招聘し、表面上、唐県は真面目に文化振興を考えてます、という体裁を整えた。


一方、楊賢や陳京ら陽気な屯田兵は、愛する嫁さんを見つけて結婚し、軍屯所の寮を出て農村に住むことになった。

その辺、関羽のおっさんは大らかで、いざ事が起こった場合、ただちに兵が集まることができれば、軍屯所に詰める必要はないと考えているようだった。

金や兵糧についても同様らしい。ただ軍屯所の蔵に眠らせておくのはもったいない、住民なり商人に預けておいて、いざ必要が生じた場合に徴集できれば、彼らがどのように使おうと問題ないとの認識だった。



ある日、襄陽都城から唐県の軍屯所に督郵(監察官)がやって来た。


「荊州牧の劉表様のもとに訴状が届いてな。唐県の米蔵には兵糧がなく、金蔵には銭の蓄えがなく、武器庫には武具がなく、県令殿が私腹を肥やしているとの告発じゃった。そこで劉表様はわしを唐県に派遣され、事実を確認せよとの仰せじゃ」


関羽のおっさんは、督郵を米蔵・金蔵・武器庫に案内した。


「空っぽではないか!」


「はい。見てのとおりでございます」


「劉表様がせっかくお主を県令に引き上げてやったというのに、お主は恩を仇で返す気か?!」


「いいえ、そうではありません。王者は民を富ませ、覇者は武を富ませ、亡国の君は蔵を富ませると申します。劉表様は王佐の才ある君子と評判のお方、必ずや王者のまつりごとを目指していらっしゃるものと考え、私は民に蓄えさせております。お疑いならば、どうぞ鼓楼に登って鼓を叩いてみて下さい。食糧も武具もすぐに集まることでしょう」


関羽は堂々と反論した。督郵は、言われたとおり鼓を鳴らす。すると、農村に点在する家々から軍屯所に米俵が運び込まれた。もう一度鼓を鳴らすと、鎧を着て槍を携えた兵士が三千人、息せき切って軍屯所に駆けつけた。


「うーむ。じゃが、銭はいかがした?」


すると商家の番頭が荷車に金庫を積んでやって来て、


「遅れて申し訳ございませぬ。県令殿から至急、銭が必要との知らせを受けましたので、お預かりしている軍資金の一部を持参しました。十万銭ございますが、もっと御必要ですか?」


関羽は無造作に金庫の中から一千銭ばかり取り出して袋に詰め、


「督郵様。かような遠い田舎までのご出張、誠にご苦労様でございます」


と言って銭袋を督郵に渡した。金庫をチラリと一瞥した督郵は、


「関県令の治政と忠誠がよく分かった。告発は、関県令の名声を妬んだ者が起こした虚偽であろう。劉表様にはそのようにご報告申し上げる」


と述べ、上機嫌で襄陽都城に戻って行った。


◇◆◇◆◇


(関羽のつぶやき)


危なかったなあ。

まさかこんな時期に査察が入るとは思いもしなかったわ。

俺は手持ちの銭をすべて商人に預け、荊州中から買えるだけの米俵を買い集めて、曹操配下の朗陵県令・田豫に密売していたのだ。


どうやら曹操閣下は、袁紹軍閥を継いだ袁譚・袁尚兄弟との長い戦いを始めるらしい。そのため、兵糧がいくらあっても足りぬ状況だそうだ。


俺は、唐県を治めるために劉表殿から授けられた軍資金の横流しと、この二年間でせっせと貯めた銭を合わせた四百万銭で、米四万石を買い集めた。それを六百万銭で売り渡した結果、差し引き二百万銭のボロ儲け。

わはは、成金だ!ただしその銭が田豫から俺の元に送り届けられるのは、来月まで待たなければならない。

なので今、唐県の米蔵・金蔵は空っぽ。ちょっと調子に乗りすぎたか?!


そんな時に、都城から監察官の督郵が派遣されて来たのだ!


「荊州牧の劉表様のもとに訴状が届いてな。唐県の米蔵には兵糧がなく、金蔵には銭の蓄えがなく、武器庫には武具がなく、県令殿が私腹を肥やしているとの告発じゃった。そこで劉表様はわしを唐県に派遣され、事実を確認せよとの仰せじゃ」


……終わった。


督郵に米蔵・金蔵・武器庫が空っぽだとバレれば、どう考えても俺が唐県の兵糧や銭を横領したと判断されちまう。俺は都城に連行され、横領の罪で死刑となるかもしれん。まずいぞ。そうなる前に、督郵を殺して逃亡しようかな?


頭の中で必死に打開策を考えてみたが、なかなかいい知恵が出て来ない。

そしたら息子の興が、


「大丈夫です。父上は堂々と督郵殿に蔵を案内して下さい。手は打ちました」


と、落ち着いた様子で俺に告げる。

なるほど。こんなこともあろうかと、俺の知らぬ間に兵糧と銭をかき集めてくれたのか。俺は興の言葉を信じて、督郵を米蔵・金蔵・武器庫に案内し、扉を開けた。


「関県令、これはどういうことだ?告発どおり、蔵は空っぽではないか!」


督郵が俺をとがめる。

やべえ。俺は目の前が真っ暗になった。


「……はい。見てのとおりでございます」


「劉表様がせっかくお主を県令に引き上げてやったというのに、お主は恩を仇で返す気か?!」


「……」


言い逃れようのない現実。もはやこれまでか。

すると。


「いいえ、そうではありません。王者は民を富ませ、覇者は武を富ませ、亡国の君は蔵を富ませると申します」


誰だ?俺自身はしゃべってないのに、俺そっくりの声じゃないか!


「劉表様は王佐の才ある君子と評判のお方、必ずや王者のまつりごとを目指していらっしゃるものと考え、私は民に蓄えさせております」


こっそり辺りを見回すと、興が書いた台本を、俺が雇った声帯模写の名人に読ませていやがった!「手を打った」とはそういうことか!


「ですので、もし督郵様がお疑いならば、どうぞ鼓楼に登って鼓を叩いてみて下さい。食糧も武具もすぐに集まることでしょう」


俺は自信ありげに堂々と述べた。督郵が言われたとおり鼓を鳴らすと、農村に点在する家々から軍屯所に次々と米俵が運び込まれた。きっと自分の家で食べるためのストックを持って来てくれたのだろう。

もう一度鼓を鳴らすと、鎧を着て槍を携えた兵士が大勢、息せき切って軍屯所に駆けつけた。

よし、乗り切れる!


「うーむ。じゃが、銭はいかがした?」


しまった。最後の難関が立ちはだかった。さすがに軍資金数十万銭は、住民に用意できるはずがない。

どう言い訳しようかと俺が悩む間に、商家の番頭らしき風体の男が荷車に重そうな金庫を十ばかり積んでやって来ると、


「遅れて申し訳ございませぬ。県令殿から至急、銭が必要との知らせを受けましたので、お預かりしている軍資金の一部を持参しました。十万銭ございますが、もっと御必要ですか?」


と告げて、俺に眼くばせした。


こいつは……先日興が雇ったばかりの旅役者の座長じゃないか!

おそらく、どこぞの商家の主人のふところから、俺の部下の掏摸すりが蔵の鍵をスリ取り、その鍵を使って、同じく部下の盗人が蔵から金庫を盗み出す。そして商家の番頭に扮した座長が、荷車に積んだ金庫を運ぶよう、一芝居打ったというわけだ。

ハハハ、面白い。このシナリオを描いたのも、きっと興だろう。


俺はとどめに金庫の中から一千銭(=100万円)ばかり取り出して袋に詰め、


「督郵様。かような遠い田舎までのご出張、誠にご苦労様でございます」


と言って銭袋を督郵に渡した。まあ露骨な賄賂だ。効果てきめん、金庫をチラリと一瞥した督郵は、


「関県令の治政と忠誠がよく分かった。告発は、関県令の名声を妬んだ者が起こした虚偽であろう。劉表様にはそのようにご報告申し上げる」


と述べ、上機嫌で襄陽都城に戻って行った。

督郵の姿が見えなくなると、ホッとするあまり俺は椅子に座り込み、


「やれやれ助かった。興、ありがとな」


「危機一髪でしたね。父上が裏稼業に手を染めた者を雇ったことが、かように役に立つとは思いませんでした」


「いや、おまえの大胆さには本当に驚いた」


実際、それが正直な感想だ。兵糧の密売を思いついた悪知恵といい、督郵の急な査察を切り抜けた機転といい、興は並の四歳児とは思えぬ。


「興、おまえは何者だ?」


思わずつぶやいた俺の言葉が聞こえたのか、興はかわいい笑顔で振り返り、


「いやだなあ。オレはただの四歳児、父上の息子ですよぅ」


と答えた。


十万銭は、盗んだ商家に後できちんと返しました。


次回、袁尚から荊州の劉表の元に曹操挟撃の文が届きました。劉表は劉備にどうするべきか尋ねます。承諾か拒否か?劉備の出した答えは?!お楽しみに!


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