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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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79.劉琮、荊州を挙げて曹操に降伏する

曹操は大軍を率いて襄陽に入城した。

降伏した劉琮をはじめ荊州の諸官は城門の前に整列して、(うやうや)しく曹操を出迎える。劉琮は降伏の証しとして、亡き劉表がかつて漢の朝廷より授けられ、今は自分が手にする荊州刺史の印綬を、錦の布に包んで曹操へ献上した。


「劉琮が州を挙げて降伏し、三軍の軍勢を放棄したのは神妙である。よってこれを嘉し沙汰を申し渡す。劉琮よ。そなたを列侯に封じ、青州刺史に任じる」


「そんな!僕は官爵に望みはありません。ただいつまでも亡き父の墓がある荊州にいたいと存じます」


と哀訴した。曹操はにべもなくかぶりを振って、


「わがままを言うでない。これより荊州は劉備そして孫呉と戦うための拠点となる重要な土地。年端も行かぬ貴公が(つつが)なく統治できる州ではないわ。黙って青州に向かうがいい」


と突き放した。


「蔡瑁。そなたを平南侯水軍大都督とし、荊州水軍を率いることを許す。蒯越。そなたを光禄勲とする」


以下、劉琮に降伏を勧めた傅巽・王粲らの重臣を関内侯に封じ、韓嵩・鄧義・張允をそれぞれ名のある官に任命した。


「「ははーっ。ありがたき幸せ」」


彼らに劉琮の嘆きが耳に入らぬのか、自国の降伏をさながら自己の幸運のように欣喜(きんき)として、曹操に深く恩を謝すのであった。


 -◇-


「丞相はあまりに人を()らなすぎる。あんな諂佞(てんねい)の小人に水軍を任せて大丈夫だろうか」


荊州の降臣らが下がった後で、はばからず慨然とそう放言している者がいた。侍中の桓楷である。桓楷は昔、荊州牧の劉表に仕えながら裏で長沙太守・張羨を(そそのか)して反旗を翻させ、彼が失敗するとさっさと見捨てて曹操の元に逃亡した経歴を持つ。

その後、次第に頭角を現しいまや侍中に昇進した、腐れ儒者・イヤミ三銃士の一人である。


曹操は桓楷の批判を耳にすると、ニヤリと唇を歪めながら、


「かつて荊州牧の劉表に仕えたおまえが、同族嫌悪する気持ちも分かる。が、わしにはわしの考えがあるのじゃ。

 我が軍は歩・騎馬に長じる百戦錬磨の兵ではあるが、水利水軍の法や兵舷の構造を詳しく知る者はほとんどおらぬ。義理の息子の秦朗に水軍の陣構えと統率の仕方を習った、徐晃と史渙(しかん)くらいのものだ。彼らとて実技訓練は豊富だが、実戦の経験はない。

 いま荊州の降将・蔡瑁を水軍の大都督とするのは、我が軍に水軍を率いる経験を積ませるがため。技術を習得して用済みとなれば、奴ごときいつでも首にできる。惜しくもなんともないわ」


「丞相のご慧眼、誠に恐れ入りました」


と桓楷が卑しい()びを見せて曹操にへりくだる。


「惜しくないのはもう一人いる。これ、于禁を呼べ」


そして参上した于禁と桓楷の二人に密命を授けた。


◇◆◇◆◇


三国志演義モードに変更された世界観か。困ったな。


実はオレ、羅貫中が書いた三国志演義の忠実な日本語訳って読んだことがないんだ。オレは先行する高坂岬さんの『【歴史コメディ】劉備の嫡子』を読んでカンニングしながら……ゲフンゲフン。

もとい、小説版三国志とか漫画版三国志とかは好きで読んだけど、あれってフィクションのフィクションだよな?


オレが覚えているかぎり、三国志演義と史実の比較を時系列順に並べると、


(1)降伏後、青州刺史に任命された劉琮は、封地に向かう途中で曹操の密命を帯びた于禁に殺される。

(→史実では、劉琮は殺されず無事に青州刺史に着任する)


(2)南へ逃げる劉備を慕って同行する荊州の民十万は、曹操軍の追撃に当陽で追いつかれ、無差別に殺戮される。

(→史実では、荊州の領民はもとの生活を安堵され、無差別に殺戮されたわけではない)


(3)劉備は甘夫人と息子の劉禅を捨てて逃亡、二人は探しに来た趙雲に見つけられるが、怪我をして足手まといになるのを憂えた甘夫人は、趙雲に劉禅を託して井戸に身を投げる。遺志を継いだ趙雲は、曹操軍百万の中を縦横無尽に駆け回り、劉備の元に帰還する。

(→史実では、趙雲は甘夫人と劉禅を助けて劉備の元に帰還する)


(4)張飛は長阪橋の上に仁王立ちして一騎当千の勇猛さを曹操軍に見せつける。背後の林に潜む伏兵の存在を恐れた曹操は退却するが、橋を落とした張飛の短慮で伏兵がいないことを見抜き、再び劉備追撃を開始する。

(→史実では、張飛は長阪橋を落とした後、対岸の曹操軍に向かって例の勇ましい言葉を吐く。なお、劉備は曹操軍の追撃を振り切ることに成功)


(5)間一髪、漢津で関羽が率いる船団に救助され、夏口に向かう劉備一行。孫呉の魯粛が同盟話を持ち掛け、諸葛亮は魯粛とともに孫権を説得に行く。

(→これは概ね史実どおり)


だったと思うが……。なんか、三国志演義って史実よりいろいろ血なま臭くない?



っていうか、今は劉琮が降伏した直後の場面じゃん。青州の封地に向かう途中で曹操の密命を帯びた于禁に殺されるとか急に言われても、あれこれ画策する時間がない!

それにオレは今、唐県の屯所でおとなしく蟄居(ちっきょ)謹慎してるのに。


どうしよう?


劉表が遺言で、劉琮がこの乱世で生き長らえるよう宜しく取り計らって欲しい、と関羽のおっさんに頼んだ以上、その場に立ち会ったオレも約束を守ってやらなければならないよな。


しかたない。夕闇にまぎれて曹丕の目を盗み、秘儀“滑翔の術”で外に出るか。

……と思いきや。


「待て。どこに行く気だ?」


なぜ気づく?


義兄(あに)上、なにとぞお見逃しを。オレが世話になった方の子息が命を狙われているのです」


「ふむ。詳しく話を聞かせろ」


オレは三国志演義(を基にした横山光輝の漫画)で読んだことは伏せて、降伏した前荊州牧の劉琮が青州へ向かう道すがら于禁に暗殺される陰謀を曹丕に話した。


「何故おまえがそんな陰謀を知っている?――と聞くのは野暮だな。なるほど、これが噂の【先読みの夢】というヤツか」


と曹丕が勝手に納得してくれる。


「なあ、秦朗。俺は父上に言われたことがある。曹沖にあって俺に足りぬ物、それは徳だ、と」


「はあ……」


何が言いたいんだろう、この人?オレは悩み相談を聞いてやるほど曹丕と親しくないぞ。


「ここで謹慎中のおまえがこっそり出て行くのを見逃せば、徳と言えるのか?」


いや、それはどうだろう?確かにオレは曹丕に借りを一つ作ったと恩に感じはするが、徳とはちょっと違うような……。


「もし義兄(あに)上ご自身の()()()劉琮の命を救ったら、それは徳と言えるかもしれません」


「ふーん。ならば秦朗、おまえに命じる!俺に成り代わり、前荊州牧の劉琮の命を助けに行って来い。これでいいのか?」


「!」


うわーなんか曹丕がイイ人に見える!今日は機嫌が良いのか、単に退屈しのぎの気まぐれなのかは知らないけど。


「あ、ありがとうございます。義兄(あに)上!」


オレは曹丕に礼を述べて、従者の鄧艾を連れて外に出た。


 -◇-


「鄧艾。悪いがこれから一仕事だ。劉琮殿を助けに行く」


「承知した」


「そう言えば、おまえ、甘寧の娘の華ちゃんにプロポーズしたのか?」


鄧艾はジト目でオレを睨み、


「……三年前、若が桐柏(とうはく)ダムを造るとか訳の分からないことを言い出すから、俺は地形の測量をして設計図を描き、荀彧様に献策するレポート(『済河論・改』)まで書いた。ようやくお役御免かと思ったら、今度は荀彧様に命じられてダム建設工事の監督をさせられる。空いた日には関羽様に剣術を鍛えられる。正直、地獄のような三年だった」


「あ、うん。お疲れ」


「ああ、身も心も疲れてヘトヘトだった。華に告白する時間なんかどこにもない。

 なあ、若。俺、もう18歳と9か月だぞ!このまま二十歳を迎えて魔法使いになっちゃったら、どーしてくれるんだよ?!」


この時代、平均寿命が短く、元服(成人)は早い者で13歳、遅くとも15歳と言われている。二十歳を超えたらおっさん扱いなのだ。そして前世では30歳を童貞のまま迎えたら“魔法使い”と呼ばれるように、この世界ではチ〇コ未使用のまま二十歳を迎えたら魔法使いになれるらしい。


「えっ?鄧艾、おまえまさかイケメンなのに童t……」


「そ、そうだよ、悪いか!?全部、若のせいだからなっ!」


顔を真っ赤にしてオレに不満をぶつける鄧艾。

プークスクス。


いや、笑い事じゃない。オレも前世24歳で童貞のまま死んだ。そして関興に転生して9年。24+9=33。ぎゃー!オレも立派な魔法使いじゃん!


「俺、この戦争が終わったら、今度こそ華に告白するんだ」


おい、鄧艾。やめろ!それはフラグと言ってだな……


次回。劉琮の暗殺を命じられた于禁と桓楷をみごと撃退した関興。しかし、かつて関興に恥をかかされた仕返しとばかりに、腐れ儒者イヤミ三銃士の華歆が、愛国心の証拠として二百万銭もの大金を寄付しろと無茶な要求を突きつける。どうする、関興?お楽しみに!

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