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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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78.劉備、南へ逃走する

曹操軍二十万が怒涛のごとく荊州に押し寄せて来たとの報せが届く中、病床にあった荊州牧の劉表が死んだ。

後を嗣いだ次男の劉琮は、相次ぐ内憂外患にどう対処すればよいか分からず途方に暮れていた。


重臣の蔡瑁や蒯越らは、最初から和議という名の降伏論に傾いている。曹操と一戦交えましょう、という勇ましい主戦論が武官から上がらなかったわけではない。だが彼らの主張は、新野の劉備ら外様の客分に兵を貸し与えて曹操軍に応戦してもらおうという情けない話なのだ。これに傅巽(ふそん)という文官が三つの理由を挙げて反対した。


「その一。曹操は漢の天子様を擁しており、これに抗すれば朝敵の汚名を着せられまする。

その二。曹操軍は勇猛にして、その強馬精兵は久しく名あるところ。一方、我が荊州軍は二十年の平和を謳歌したため、久しく実戦を経験しておりませぬ。

その三。劉備は一度たりとも曹操に勝ったためしがありませぬ。彼に兵を貸し与えて曹操に勝てる見込みがありましょうか?よしんば曹操を撃退したとしても、果たしてその時、劉備が我々の下風に従いましょうや!?」


こう数え立てられれば、荊州に勝ち目がないことは明らかだった。結局、劉琮には降伏の道しか残されていなかった。劉琮は曹操のもとへ使いを遣り、和を乞う書を送った。


◇◆◇◆◇


劉琮降伏の報せは、新野の諸葛孔明のもとへ斥候を通していち早く届けられた。


「混乱に乗じて襄陽を奪えば、荊州が乗っ取れるんじゃねえか?」


相変わらずゲスな考えを劉備が口にする。女神様の扮する孔明は呆れて、


「バカなの?たしかに兵を率いて襄陽に向かえば、荊州牧の座は奪えるかもしれない。だけど、大恩ある劉表の死の直後のどさくさに紛れて、州を奪い取ったという梟雄(きょうゆう)の汚名は免れないわ!

 せっかく仁義に篤いフリをしてるのに、台無しじゃない!

 私が狙っているのは、荊州牧なんてチンケな地位じゃなくて天下統一なの!勝手に動いて邪魔しないでちょうだいっ」


劉表の娘の舅となった関羽も孔明に同調して、


「なりませぬ!我ら直属の兵は二万と五千。仮に劉備将軍が荊州の奪取に成功したとして、簒奪の汚名を着せられた我らに従う襄陽の将兵は半分もおりますまい。彼らを加えた士気も奮わぬたった三,四万の兵で、どうやって曹操軍二十万に抗戦できましょうや?!」


二人の正論に言い負かされた劉備は憮然として、


「……じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」


と孔明に尋ねる。


「逃げます」


「は?」


「今は逃げて孫権と同盟を結び、ともに曹操と戦うのです」


「アホか!孫権は荊州とは仇敵の間柄だ。そう都合よく事が運ぶわけないだろ?!」


「昨日の敵は今日の友。敵の敵は味方。唇滅べば歯寒し。昔からいろんな格言がありますが、それに当てはまるのがまさに今の状況です。

 こんな簡単な理屈が分からないから、あなたは戦下手なんて馬鹿にされるんですよ!」


と孔明が揶揄する。それを耳にした張飛が腹を立てて、


「やい、孔明!黙って聞いてれば偉そうなご託を抜かしやがって!だいたい、おまえは軍師と言いながら何の役にも立ってないじゃねえか?!」


「黙りなさい、ゴリ猪」


「なんだと!」


「劉備将軍の役に立ったためしがないのは張飛の方でしょうが!

 徐州では留守を任された城を呂布に奪われる。博望坡(はくぼうは)の戦いでは、大勝後に油断して後ろから追撃して来た夏侯惇に大破される。新野ではせっかく集めた兵に鞭打ってしごき、逃亡させてしまう。今どきパワハラなんてあり得ないわ。

 あなたが劉備将軍と義兄弟の交わりを結んでいなければ、即刻解雇の扱いよ!」


「待て、今は仲間割れをしている場合じゃない。まずはこれからの作戦を軍師殿に伺おうじゃないか!」


と趙雲が間に入って仲を取り持つ。


「コホン。では作戦を申し渡します。

 劉備将軍・張飛・趙雲それに私と徐庶は、新野の兵五千を率いて江陵に向かう。その際、襄陽の城下で降伏した劉琮の罪を問う。感激した将兵と民衆は劉備将軍を慕って後に付いて来るでしょう」


「それが昔、あんたが言っていた支持率90%の成果か?荊州軍の弱兵はともかく、愚民なんて連れて行くだけ無駄だろう」


劉備が孔明の献策を鼻で笑う。


「さっさと降伏した荊州牧の劉琮に代わって孫権と同盟を結ぶためには、劉備将軍こそが荊州の民の支持を得ていると思わせる必要があるの。黙って従いなさい!」


「ふん。分かったよ」


不貞腐れたように答える劉備。


「次に張飛。南へ向かう途中、当陽という所に川が流れており長阪橋が架けられています。曹操軍の追撃を断つために、あなたはこの橋を落としなさい」


「はいはい、長阪橋ね。落とせばいいんだな?」


「そして趙雲。あなたには殿軍(しんがり)を務めてもらう。一応私も斥候は放つけど、曹操軍の追撃が来ないか観察するのが大事な役目と心得て」


「承知した」


そして孔明は関羽の方に振り返り、


「関羽将軍には後方で輜重の輸送を担当してもらいます」


「「「なっ……!」」」


劉備・張飛・趙雲は驚きのあまり息を呑んだ。


「てめえ!雲長兄貴をコケにしやがって!何様のつもりだっ?!」


「軍師殿には何か大そうなお考えがあるのかもしれぬが、率直に言って自分も納得しがたいですな」


張飛が吠え、趙雲も静かな怒りを口にする。諸葛孔明は関羽の方を見やると、


「関羽将軍を後方に回す理由は、将軍ご自身がよく分かっていらっしゃると思いますが」


顔をこわばらせた関羽は、やがてふうっと溜息をついて、


「……ああ、そうだな。皆の者すまぬ。俺は輜重の輸送担当に全力を尽くす」


と、孔明の処置をやむを得ぬと思い至ったようだ。


「官渡の戦いで劉備将軍をはじめ皆が袁紹軍に付いた時、俺は曹丞相の世話になっていた。顔良・文醜を斬ったことですでに恩を返したつもりだが、曹丞相と俺がまだ裏で繋がっていると疑う人がいてもおかしくはない」


「関羽!それは俺への当て付けか?」


劉備が苦虫を噛みつぶしたような顔で関羽を(そし)る。関羽は劉備に目もくれず、


「平、陳到。地味な仕事になるが、手伝いを頼んでもいいか?軍師殿、荊州で集めた輜重をどこに運べばいい?」


「夏口の城にお願いするわ」


孔明の答えに劉備は首を(かし)げ、


「夏口?あそこは黄祖が孫権に敗れてボロボロの廃城になっているんじゃなかったか?」


「ご心配なく。関羽殿の子息・関興に再建を命じて、城壁や屯所の改修は終わっています。我々は孫権と同盟を結び曹操と戦う間、夏口を拠点とします」


……くそっ。女神の奴、またオレの手柄を横取りしやがって!


「ふーん。そっか」


劉備は面白くなさそうに答えた。孔明は続けて、


「というわけで、輜重の輸送が終われば、関平・陳到は江夏太守の劉琦殿と協調して、夏口で兵の調練を行ないながら我々の到着を待つ。関羽将軍は船を率いて上流に遡り、漢津の渡し場で待機しておいて下さい」


と指示を出した。関羽は(うなず)いて、


「了解した。ところで軍師殿、興には何か策を命じておるのか?」


「いいえ。あの生意気な下僕……いえ、関興は命じなくても勝手に動くでしょう。来たる戦いの邪魔をしないように釘は刺しましたが」


「なあ、軍師殿。興と軍師殿の関係はいったい……?」


「んー主人と従者?なんかしっくり来ないけど、端的に言えばまあそんな感じかしら。

 では皆さん、私の立てた作戦に沿って行動して下さいね☆」


各人が自分の持ち場に散らばって行く。女神孔明は関羽を呼び止め、


「関羽将軍。先ほどはあなたの苦しい言い訳に誤魔化されてあげたけど、私の本音は別にあるの。分かるわよね?」


「それはどういう……?」


「あなたが関興を唐県に残し、曹操に帰順させようと考えていることは知ってるわ。あなた達が曹操の“埋伏の毒”となって、孫権を内部から撹乱するよう曹操から密命を帯びていることもね。

 べつにそれを(とが)めるつもりもないし、劉備将軍にチクるつもりもないけれど、来たる曹操との対決に向けて、私が立てた作戦の邪魔はされたくないの。

 もしあなたが劉備軍を裏切ったりしたら、その時はかわいい関興の命がどうなるか……」


と耳打ちした。


「……分かった。軍師殿の作戦にはすべて従おう」


「よかった。さすが関羽将軍、理解が早くて助かるわ」


と孔明は安堵の笑みを見せた。


次回。建安十三年(208)九月、荊州牧・劉琮は曹操軍に降伏する。三国志演義を基にした仮想モードに突入した世界で、関興は、曹操が于禁に命じて劉琮を殺害するという血生臭い場面を思い出す。謹慎中の関興はなんとか阻止するため、曹丕の目を逃れて外に抜け出そうとするが……お楽しみに!

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