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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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77.関興、曹丕と対決する

語り手は、前半が関興(秦朗)、後半が曹丕です。

今回の計略は、なろう戦記によくあるパターンです。

どこで気づくか。


建安十三年(208)七月。夏の暑さが(こた)える許都にて。

すでに荊州侵攻を決めた曹操は、劉表の討伐にはどのような策をとればよいか荀彧に尋ねた。


「天下の三分の二が丞相に平定された以上、荊州は追い詰められたことを自覚しておりましょう。二十万の大軍で公然と宛・葉に出兵する一方、間道伝いに軽騎兵一万を進め、敵の不意を突くのがよろしいでしょう。さすれば荊州は手も足も出ず、頭を下げて罪を償おうと使者を送って来るに相違ありません」


「なるほど。そなたは間道伝いに軽騎兵を進めよとの策を講じたが、それは秦朗が領する唐県を攻めてもよいという解釈で間違いないな?」


荀彧は近ごろ急に秦朗に冷淡になった曹操に不審を抱き、


「お待ちを。丞相は関羽・秦朗と不可侵の約定を結んでいたのではありませぬか?」


「フン。あれは田豫が勝手にやったこと。この乱世に五年も約定を守ってやったのじゃ。感謝されこそすれ、非難される謂われはないわ!

 それに、秦朗の態度を見極めろと申したのは荀彧、そなたじゃぞ!

 おとなしく唐県を挙げて我が軍に臣下の礼を取ればよし。逆に(おご)って我が軍を牽制しようとするなら、その時は力ずくで攻め滅ぼしてやる」


「……分かりました。軽騎兵を率いる将軍にはどなたを?」


「沖、と言いたいところだが、あれは秦朗と仲が良い。きっと手心を加えるだろう。

 丕を遣わすがよい。荀彧よ、申すまでもないが、軍事機密を秦朗に漏らすでないぞ」


まあ、関興君のことだから私が漏らさなくても探り当てる、結局機密は筒抜けなんだよな、と荀彧は思ったが、火に油を注ぎそうなので口に出さなかった。


かくして曹操は自ら大軍を率い、南征に出発した。


◇◆◇◆◇


関羽のおっさんと関平君は兵二万を率い、逃げる劉備に同行して唐県を出発した。時を同じくして、許都に送り込んだ斥候の(ねずみ)から、いよいよ曹操が二十万の大軍で荊州侵攻に向かったとの報せが入った。


「加えて、曹丕率いる一万の軽騎兵が間道を伝って我が唐県に攻め入るようです」


へー。不意を突く(笑)そうだが、こうもあっさり間諜の網に引っかかるとはな。オレの斥候が優秀なのか、曹丕の指揮が下手なのか?


だがマズいな。敵に攻められる以上、当然領地を防衛するつもりだが、曹丕は将来の魏皇帝だ。大っぴらに破ってしまうと、後から仕返しされるのが怖い。


しかたない。初戦でまぐれのフリをして軽騎兵に痛い目にあわせ、荊州牧を()いだ劉琮が降伏したら、即座に武装解除・蟄居(ちっきょ)謹慎して、殊勝な態度を見せることにしよう。


 -◇-


かつて関羽のおっさんが張遼の進軍を食い止めた、朗陵県との州境の(とりで)を瞬く間に曹丕率いる軽騎兵に突破され、逃げ惑う唐県の屯田兵ども。毎日鬼捕子(おにごっこ)で鍛えただけに、さすがに逃げ足は早いな(苦笑)。


……って笑い事じゃない。唐県の留守を預かるオレの出番だ。


「曹丕義兄(あに)上!丞相に県侯の爵位を授けられたこの秦朗が治める唐県に、何の(とが)で侵攻するのですか?」


起伏のある平地の高台に三千の兵を背にして、オレは曹丕に大声で呼びかける。


「黙れ!連れ子の分際でおまえに義兄(あに)と呼ばれるなど虫酸が走るわっ!

 おまえは我が曹魏と敵対する関羽の息子にすぎぬ。丞相は本隊を率いて荊州牧・劉表と交戦中だ。敵配下のおまえの領地に侵攻するのは当然のこと」


「しかし、義兄(あに)上。我らは朗陵県の田豫殿とは不可侵の約定を結んでおりまする。それを破って攻め入るのは、仁義にもとるのではありませぬか?」


「おまえらが勝手に結んだ約定など知らぬわ!というか、義兄(あに)はよせと言っただろうが!」


窪地を挟んで反対側の高台に兵を駐めた曹丕は腹立たしげに答える。オレは(あわ)れむような目で、


「聞いたか、曹軍の軽騎兵の諸君!君たちの将軍は、曹丞相立会いのもと県令同士が結んだ約定ですら反故(ほご)にするような恥知らずな男だぞ。この戦が終われば君たちに恩賞を約束していることだろうが、果たして守ってくれるだろうか?義弟のオレはすっごーく心配だ」


軽騎兵らがざわめく。オレは畳みかけるように、


義兄(あに)上。そのような立位置では、身を危うくしますよ!お気をつけなさった方が……」


「ええい、うるさいっ!義兄(あに)と呼ぶなと言うに。

 おまえに最後の情けをかけてやろう。おとなしく降伏しろ。さすれば命までは取らん」


義兄(あに)上とオレの間には、越えがたい溝があるのですねぇ。過去を水に流すことはできないのでしょうか?」


「残念、時間切れだ。者ども、掛かれっ!」


曹丕は自ら先頭に立って軽騎兵を率い、高台から窪地に駆け下りた後、別の高台に陣を構えるオレに向かって再び坂を駆け登った。


その時。


ゴォーという低い轟音とともに、上流から堰を切ったように、オレが陣を構える高台の下の窪地に勢いよく流れ込んで来る水。ちょうどそこに馬を駆けていた曹操軍の軽騎兵は(たま)らない。悲鳴のごとき馬の(いなな)きや兵の叫びがこだまする中、さながら洪水のような激流が人馬を呑み込み、下流に押し流してゆく。


「バ……バカなっ!」


軽騎兵一万の軍の真ん中を濁流に引き裂かれ、曹丕と付き従う数百の軽騎兵が、こちら岸に取り残された。


「それっ、義兄(あに)上を(とりこ)にしろっ!」


「おうっ!」


ウォーッという喊声とともに、我が唐県の屯田兵が一斉に曹丕に向かって殺到する。逃げ場のない曹丕と軽騎兵は抵抗もできぬまま捕らえられた。



 -◇-


(曹丕のつぶやき)


起伏のある平地とは思っていたが、まさか河を()し上げていたとは……。


三年前から秦朗の唐県を流れる唐河と田豫の朗陵県を流れる淮河を繋ぐダムを桐柏(とうはく)山脈の麓に建設中だったらしい。ようやくダムが完成し、偶然にも今日、水の放流を始めたのだそうだ。


……とかいう戯れ言なんか信じられるか!


あの性格の悪い秦朗のことだ、必ずや我々の侵攻を見越して上流に堰を作り、唐河の流れを堰き止めていたに違いない。


かつて父上も苦杯を嘗めた唐県攻略。州境の(とりで)に籠る守兵をあっという間に蹴散らし、難なく突破した俺は、諜報を怠ったまま秦朗と対峙した。

奴の挑発的な言葉に冷静さを失い、周りが見えていなかったのだろう。


俺が布陣した高台と奴が陣を構えている高台との間にある窪地は、ダムの建設工事のために水が涸れた唐河の川道だった。

そして俺が突撃命令を下すと同時に上流の(せき)を切り、軽騎兵の軍列を分断するように洪水のような濁流が走る。流れに呑み込まれて溺れる兵が多数。渡河する前の軽騎兵は如何ともすることができず、河の流れの前に呆然と立ち尽くす。


「それっ、義兄(あに)上を(とりこ)にしろっ!」


秦朗の掛け声が聞こえた。

先頭を駆けていた俺とわずか数百の軽騎兵はこちら岸で孤立しており、殺到した秦朗のヘタレ屯田兵に捕らえられてしまった。屈辱だ。



トントンと扉をノックして、俺が軟禁されている部屋に秦朗が入って来る。


義兄(あに)上、お怪我はありませんか?」


「……やめろ。おまえに義兄(あに)と呼ばれるのは不愉快だ」


仏頂面で答える。秦朗は苦笑したまま、


「ご無事なようで安心しました。万が一、丞相のお世継ぎに傷でも付けたら大変なことになる」


「フン、心にもない世辞を。俺をどうする気だ?殺すか?」


「とんでもない!」


秦朗は慌てて否定する。俺は居丈高に、


「ならばここから出せ」


「それはできません」


「あんな小賢しい罠を仕掛けるとは……卑怯者めっ!」


俺は腹立ちまぎれに秦朗を(ののし)った。


「不可侵の約定を破って侵攻した義兄(あに)上が、オレを卑怯者呼ばわりするとは片腹痛いですね」


「なんだと?!」


「オレは義兄(あに)上にちゃんと警告したはずです。


・そのような()()()では、()()()()()()()ものですぞ!お気をつけなさった方が……

義兄(あに)上とオレの()()()、越えがたい()があるのですねぇ。

・過去を()()()()ことはできないのでしょうか?


ってね。あからさまに三回もヒントを出してあげたんだから、罠に気づかない方がマヌケでしょう」


ぐぬぬ。秦朗を賢しらな子供にすぎぬと侮ったのが致命的だったか。


「俺をこんな目に遭わせて、ただで済むと思っているのか!?父上に知られたら、おまえは身の破滅だぞ!」


「おぉ怖っ。義兄(あに)上はオレの大切なお客人。兄弟仲睦まじくもてなし、こうして楽しく談笑しているではありませんか(笑)。

 もう少しの間ご辛抱なさって下さい。まもなく荊州牧の劉琮が降伏したとの報せがやって参ります。そうしたら、オレの方が義兄(あに)上にご厄介にならなければなりません」


「……どういう意味だ?」


俺は訳が分からず秦朗に尋ねた。ヤツは俺の質問に答える代わりに、


「兵糧庫や官の金庫・武器庫はすでに封印し、帳簿を用意しております。唐県の兵五千は武装解除しますので、義兄(あに)上が預かって下さい。オレは丞相からお召しがあるまでおとなしく屯所で蟄居(ちっきょ)謹慎いたします」


何の話だ?ますます分からん。


「……軽騎兵どもはどうした?」


義兄(あに)上とともに捕らえた数百名は、申し訳ないですが牢に入ってもらっています。収容する場所が他にありませんから。川の対岸で呆然としていた軽騎兵数千は、諭して朗陵県に撤退させました。川に流された者は、下流に張った網に引っ掛かり、なんとか全員一命は取りとめた模様です」


「そうか……死者が出なくて良かった」


むやみに兵を殺さなかったことだけは秦朗に感謝してやる。それだけは、な。


そして九月の初め、秦朗の言葉どおり劉琮は降伏した。

奴は予言者か?!


次回。建安十三年(208)八月、劉表が死んだ。後を嗣いだのは劉琮。曹操軍二十万が怒涛のごとく荊州に押し寄せて来る中、荊州の重臣たちは降伏論に傾いている。

一方、難を避けるため劉備は南へ逃れようと準備を始めるが、相変わらずクソ野郎ぶりを発揮する劉備と性格の悪い孔明が諍いを起こす?!お楽しみに!


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