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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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72.曹丕、秦朗を目の敵にする

許都に凱旋した曹操は後漢の献帝に謁見し、華北を平定して漢の威光に逆らった袁紹とその息子たちを滅ぼしたことを報告した。

献帝は、曹操を嘉して丞相に任命するとともに、三公を廃止し丞相一人に権限を集中させることにした。あわせて曹操に褒美を与え、冀州の三万戸を領有させた。また曹操は上表し、


「華北の平定は私だけの功ではありません。よく緻密な策略を立て、国の内外を鎮撫致した者は荀彧です。常に征伐に従軍し、策謀をもって勝利に貢献した者は荀攸です。どうかこの二人にも特別に褒賞下さいますように」


献帝は二人の功を嘉し領地を加増した――が、曹操が多くの戦功ある部下の中から荀彧・荀攸だけを特別に選んだ意図は何だったのだろうか?


同じ日。曹操は楼閣に登り、全軍に向かって演説した。


「聞け、栄光ある漢に仕える都に(つど)いし諸君!

 わしが世の動乱を憂えそれを鎮めるべく義兵を挙げて以来、二十年が経った。その間、敵を討ち滅ぼしこうして都に凱旋を遂げることができたのは、わし一人の功績であろうか?いや、勇気ある将兵の諸君、また賢明なる士大夫の諸賢の力に拠る所が大きい!

 天下はまだ完全には平定されておらぬが、逆賊の袁紹を倒したおかげで、わしは天下十三州のうち八州を掌中に収めた。

 漢の天子様も大そうな御喜びだ。


 わしはこれから最後の仕上げに取り掛かるつもりであるが、これまでと同様、賢者の諸君はその知謀を出し惜しみすることなく、また将軍・兵卒の諸君は勇気と闘志を余さず戦いに臨んで欲しい。そこで功業の中途ではあるが、皆の功績を嘉しその労苦に報いて、恩賞を授ける。

 皆とともに輝かしい功績と恩恵を享受しよう!」


居並ぶ将兵や士大夫らの大歓声と拍手に迎えられ、曹操は大きく手を振ってそれに応えた。


◇◆◇◆◇


「曹丞相は、これから最後の仕上げに取り掛かるとおっしゃったが、天下統一の事業に向けて進むという意味で間違いないであろうな」


華歆の自問に答えるように忖度マンの劉曄が、


「そのとおりだ。問題は、江東の孫権を攻めるか荊州の劉表を攻めるかだが……」


と言って、チラッチラッと程昱の方を窺う。程昱は、


「あの小(にく)らしい秦朗めが、三年の間、淮南の統治は揚州刺史の劉馥(りゅうふく)殿と自分に任せてくれれば、必ずや孫権を痛い目に遭わせる作戦を成功させてみせると言いやがったのを覚えておろう。来年がちょうど三年目。忌々しいことに、奴は有言実行で、孫権に奪われていた淮南地方を(広陵を除いて)取り返しやがった」


「すると程昱殿は、曹丞相は秦朗に(たぶら)かされて江東の孫権を先に攻める、と?」


「気に入らぬな。これ以上秦朗めに戦功を立てられては、曹丕様のお立場が危うい」


「では荊州を先に攻めるべきだと?」


「うむ。荊州の劉表を滅ぼせば、秦朗めが治める唐県の領有権を剥奪できるやもしれぬ。閣下を説得するために、何かよい知恵がないものか?」


曹丕派の面々が悩んでいると、ちょうど通りかかった参謀の荀攸が、


「曹丞相が本気で天下統一を目指すならば、攻めやすい荊州から攻撃して、辺境の涼州・交州を除いた十一州のうち九州を占めて天下の十分の八を領有し、圧倒的大差でもって揚州の片隅に蔓延(はびこ)る孫呉を威嚇し、戦わずして屈服させるのが定石」


その意見に(うなず)いた賈詡(かく)が、


「私もそう思う。戦わずして勝つことこそ孫子の兵法の真髄。

 我が曹魏の水軍はいまだ脆弱なれば、先に荊州を降してその水軍を吸収し、彼らを使って江東を威嚇する。水陸ともに押さえられれば、孫呉の輩も根を上げるであろう」


と意見を述べた。


「おお!ついに荀攸殿も曹丕殿下派に鞍替えしたということか?!」


と董昭が喜ぶ。荀攸は苦笑しながら、


「いや、そういうわけでは……私は単に、我が曹魏が今後取るべき戦略を口にしたまで。それに賈詡(かく)殿も中立派のはずだと思うが」


曹丕に好意的な賈詡(かく)ではあるが、直参ではない自分が知謀で目立つことを恐れ、荀攸の言った“中立派”という言葉に我が意を得たりとばかりに頷く。


ともあれ、多くの謀臣たちの賛同を得た程昱は「我ら家臣の意見は荊州先攻でまとまりました」と曹丕に告げた。曹丕は大いに喜び、


「分かった。群臣の総意として荊州を先に攻めるべしと父上に奏上する。秦朗のヤツをかわいがっている荀彧殿が反対したとしても、これだけ賛成が多ければ、父上も無碍に反対はできまい。これで秦朗の奴に一泡吹かせられるぞ」


ニヤリと笑った曹丕は、意気揚々と曹操に謀臣たちの意見を伝えた。


「そうか。程昱も賈詡(かく)も、荀攸までも荊州を先に攻めるべきだと申したか。荀彧、そなたはいかが思う?」


「弱い所から叩くという基本に忠実な戦略ですな。私に異存はありません。曹丕様、兵はいかほど必要ですか?」


「じ、十……いや八万で荊州を滅ぼしてみせます!」


荀彧は微笑を見せて、


「これは勇ましい。曹丕様、兵八万で荊州を滅ぼせる根拠は?」


「袁軍閥を滅ぼすのに、父上は十五万の兵を率いました。荊州軍は戦に慣れておらぬ弱兵の上に、袁軍閥に比べれば兵の数も少ない。ならば、その半分で倒すことができましょう」


曹丕は淀みなく答える。曹操は初陣を迎える曹沖に向かって、


「沖、おまえなら兵はいかほど必要か?」


と尋ねた。元服し十四歳の凛々しい若者に育った曹沖は、


「僕なら兵二十万で荊州に攻め込みます」


「フン、馬鹿め。兵の数が多ければ誰だって簡単に倒せるわ!だが、兵糧やら武器やら、いったいいくらコストが掛かると思ってるんだ?」


曹丕が鼻で笑う。曹沖は涼やかに反論して、


「兵力が多いと敵を速やかに打ち破ることができ、かえってコストが少なくてすむ場合があります。先ほど兄上は、荊州軍は弱兵と言われました。ならば、大軍で攻めれば戦火を交えることなく降伏させることも容易ではありませぬか!

 もし兵力が少ないと敵が籠城して頑強な抵抗にあい、歳月が延びるばかりでかえってコストがかさむことになりはしないかと危惧します」


これを聞いた曹操はにっこり笑って、


「見事じゃ。沖、おまえはわしの戦略と一致しておる。おまえに一軍を任せてもよいと言いたいところじゃが、此度(こたび)の戦では、おまえは許都で荀彧とともにわしの留守をしっかり守ってくれ。


 そして丕よ。荊州を先に攻めるという結論は同じでも、過程や戦法が異なれば、それは違う戦略と言うべきだ。おまえがなぞった程昱の戦略と、荀攸や賈詡(かく)の思い描く戦略は、おそらくまったく違う物であろう。

 少ない兵力で敵を討ち破るのは、将軍として誉れ高き功績だ。だが、戦という物は本来忌むべきことという孫子の教えをもう一度しっかり学び直すがよい。目先の戦功やコストに捉われてはならぬぞ」


と教え諭した。年下の曹沖と比べられた屈辱で顔を真っ赤にして部屋に戻った曹丕は、出迎えた程昱に八つ当たりするが、程昱はケロリとした顔で、


「良かったではありませぬか。()にも(かく)にも我が軍は荊州を先に攻めると決まったことで、秦朗が曹丞相に応援の兵を派遣してもらい広陵を奪回するという奴の目論見は潰えました。つまり、これ以上秦朗めが戦功を上げる可能性はなくなったのです。


 さらに聞いた話によると、曹丞相は、失った領土を回復しただけでは満足しないと秦朗に厳しい任務を課したそうです。その約定を達成するためには、残り一年の間に秦朗が孫呉と独力で戦わざるを得ないように追い込まれた。

 私は、丕殿下が勝ち取った、荊州を先に攻めるという結論こそが重要だと思いますがね」


と褒めた。曹丕は喜び、


「うむ、そのとおりだ!程昱、これからも俺の輔佐を頼むぞ」


と機嫌を直すのであった。


※史実では建安十三年(208)に死ぬはずの曹沖が生きている!

→たぶん、曹沖は乙女ゲーム『恋の三国志~乙女の野望』の攻略対象なので、学園を卒業してヒロインちゃんとハッピーエンドを迎える?までは(オレは婚約破棄して悪役令嬢にざまぁされるストーリーの方が好みなんだけど 笑)、神様が生かしてくれているのでしょう。


次回。

3,4回にわたって、赤壁の戦いについて筆者が疑問に思っていることをダラダラと書きます。ウザいかもしれません。

あ、疑問と言っても、曹操軍が負けたのは疫病のせいか周瑜の仕掛けた火計のせいかという話題ではありません。


曹操軍が荊州に侵攻したのは劉表を征伐するためなのに、いつの間にか孫権と戦っている愚。しかも、曹操軍に有利な歩兵・騎兵戦を捨てて、敵が得意とする軍船での戦いに釣られてしまって大敗する痴。曹操ともあろう者が、どうしてこんな致命的な失敗を犯してしまったのか?その背後に仕掛けられた謀略とは何だったのか?

(と大言壮語してみる)


なお、曹操が負けた原因について筆者が疫病/火計どちらの見解を採用するかは、今後の展開のお楽しみ☆


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