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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
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08.関興、田豫と兵糧の密売を画策する

関興君は二歳になりました。

たかが訓練の鬼捕子(おにごっこ)だが、会心の作戦を関羽のおっさんに軽くあしらわれ惨敗を喫した兵たちは、敵から防御するために、自らの意志で剣術を学ぶことにした。

なんて分かりやすい単純な頭をしてるんだ。おっさんの狙いどおりじゃないか!


しかし学ぶ意欲のある兵たちに教育すれば上達も早い。三か月も経たないうちに、当初のヘタレ姿から見違えるほど逞しく鍛えられた、関羽隊の荊州屯田兵千人ができあがった。やるな、関羽のおっさん。


晩秋に種をいた麦は順調に生育している。

次に屯田兵を待ち受ける事業は水路の掘削だ。楊賢ら優秀な工兵十人が知恵を絞った設計によれば、唐河から取水し東南の栗河へ流すルートが最適らしい。


幅1間(=約1.8m),深さ1間の水路が延長三十里(=約12km)に渡って築かれていく。岸が崩れないように両側は石を積んで、柳の木を植える。柳は成長が早く、根が網の目のように伸びて護岸用の石積を保護してくれる。しかも樹皮を煎じて飲めば、解熱薬としても有効だ。


千人の人海戦術によって水路は二か月で完成した。唐河の取水堰のゲートを開けると、水路に勢いよく水が流れて行く。

李凱・楊賢をはじめ設計を担当した工兵十人、そして土木作業に汗を流した陳京ら屯田兵は皆、歓声を上げる。関羽のおっさんも満足そうに微笑んだ。


今年は、屯田兵を使って水路沿いの荒れ地を開墾し灌漑すれば、千町歩(=約1,000ha)の田畑が潤い、1万石の収穫高が見込める計算だ。

関羽のおっさんの灌漑の成功に驚いた趙雲と陳到の二人が、配下の兵五百ずつを連れて農地の開墾を手伝うと約束してくれた。ありがたいことだ。


だが、それでも農作業をする人がまだまだ足りない。国境付近に位置するため、戦に巻き込まれることを恐れた新野県の住民の半数が、いまだ遠くで避難生活を送っているのだ。

彼らを呼び戻すか、近隣から新たに移住を募るか、それとも……


◇◆◇◆◇


二歳になったオレは、自分の足で歩き、話すことができるようになった。

いや、実際は生まれた時からすでに可能だったが、さすがに赤ん坊が立ったり歩いたりしゃべったりすると怪しすぎるから、自重していただけだ。


そうそう、オレに妹ができた。蘭玉ちゃん。関羽のおっさんが、オレのベビーシッターだった女に惚れて、口説き落としたらしい。めでたいことだ。

おかげで関羽のおっさんの「好き好き大好き~」攻撃の対象は、オレから蘭玉ちゃんに移った。ホッとした反面、なんとなく寂しい気がする。


ああ、ベビーシッターといっても女神孔明ではないぞ。あいつはさっさと隆中に引き篭もり、劉備がお迎えに来るのを今か今かと待ち望んでいるそうだ。



そんなある日、オレと関平兄ちゃんが屯所の外でチャンバラ遊びをしていると、パッカパッカと馬に乗った優しそうなおじさんがやって来た。


「やあやあ君たち。関羽殿はいるかな?旧友が会いに来たのだが」


「父は屯所で勤務中です。失礼ですが、どちら様ですか?」


「田豫が来たと言えば分かってくれるだろう」


田豫!

劉備が故郷の涿郡で旗揚げした時の、義勇軍創設メンバーの一人だ。

劉備が陶謙に請われて徐州の刺史を引き受ける際、その失敗を見通して「年老いた親を置いて他国には行けない」と婉曲に断った有能な人物だ。たしか官渡の戦いの前に、幽州の鮮于輔を説得して、ともに曹操に帰順したんじゃなかったっけ。


関平君が呼びに行くと、関羽のおっさんは慌てて執務室から飛び出して来た。


「よっ!関羽殿、久しぶり」


「まさかと思ったが本当に田豫殿じゃないか!久しいのう。元気だったか?」


「おかげさまで」


「こんな荊州くんだりまで来てどうしたんだ?もしかして、再び劉備将軍に仕える気になってくれたとか?」


田豫は苦笑いして首を横に振る。


「いや。劉備将軍の下では将来が見えない。僕は曹操閣下に仕えることにした」


「そうか。まあ実際、君の選択は正しいと思うぞ」


「そう言えば、白馬津の戦いでは関羽殿も曹操閣下の元で戦ったと聞いたが……」


「まあな。成り行きで仕方なく助太刀を、といったところだ。結局、曹操閣下と袁紹殿の官渡の戦いはどうなったんだ?」


「曹操閣下の圧勝だった。烏巣で兵糧をすべて焼かれた袁紹は戦線が崩壊、命からがら鄴に逃げ帰った。しばらく立ち直るのは無理じゃないかな?」


田豫が教えてくれた中央の最新情報に関羽のおっさんはうなずいて、


「予想どおり曹操閣下の勝ちか……。

これからどうする?劉備将軍に挨拶しに行くか?

まあ俺は、袁紹殿の勝利を確信していた劉備将軍の邪魔をしたせいで「顔も見たくない!」と嫌われたので、君を送り届けるのはできれば遠慮したいのだが」


「アハハ、劉備将軍は戦下手だからね。僕も会いに行くのはやめておこう。それに僕が今日やって来た目的は、県尉の関羽殿に頼みたいことがあるからなんだ」


「えっ、俺に?」


「そう。実は、僕は朗陵の県令を仰せつかった。新野県とは州境を挟んで隣同士だ。お手柔らかに願う」


「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いする。それで、俺に頼みとは?」


荊州の客分である自分とは敵同士になるのに、田豫が頼み事とはどういうわけだ?関羽のおっさんはいぶかしむ。


「関羽殿の治める新野県も、僕が赴任する朗陵県も、戦乱が続いて荒れ放題だ。まずは住民のために農地整備に専念したい。そこで、朗陵県と新野県ではお互いの領土は不可侵という約定を結べないかな?」


なるほど。敵同士とはいえ、隊長同士が旧友でお互い気心が知れている。荒れ地をめぐって小競り合いを起こすのはバカらしいというわけか。さすが正史『三国志』の中で、清濁併せ呑む名太守と称賛されるだけのことはある。


「専守防衛が信条の荊州牧に仕える俺の方はその約定を守れるだろうが、君の方はどうかな?ああ、君を疑っているわけではないよ。

つまり、田豫殿の意向は我が領地への不可侵だとしても、曹操閣下にそれを守る意志があるかどうか?荊州に居座る謀反人の劉備将軍の首を、閣下は虎視眈々と狙っていると思うけどね」


「確かに関羽殿の懸念はもっともだ。僕が朗陵県令を務める間は、命を賭けて約定を守る、というのでは虫が良すぎるかな?」


「うーん。それじゃ君が一方的な利益享受になっちゃうねえ……」


関羽のおっさんと田豫は、二人とも腕を組んで考え込む。


「あのう、父上。ちょっと考えたんでしゅけど、要は曹操閣下に、新野県に侵攻するより共存した方が得だ、と思ってもらえば良いわけでしゅよね?」


二歳児のオレの大人びた発言に、二人はキョトンとする。


「ん?ああ、そうだな」


「荊州は平和続きで米余り。一方、曹操軍はこれから袁紹との戦いに向けて、兵糧を蓄える必要がありましゅ。

荊州は米の売値が一石100銭。曹操領は米の買値が一石250銭。

今秋、新野県の収穫高は、開墾のおかげで昨年よりも一万石多く見込まれましゅ。

そこで父上が、田豫様に市価よりも安く(例えば一石200銭で)米を売却すれば、曹操閣下は新野県に侵攻するよりも、米を安く大量に()()できる場所として、逆に保護してくれるのではないでしゅか?」


「「!!」」


関羽のおっさんと田豫は顔を見合わせ、俺の提案をじっくり吟味する。


「相互不可侵が守られる上に、余剰米の売却益も見込める。これなら確かに俺にとっても得だ」


「しかし、関羽殿が一石あたり100銭の儲け、僕の方は一石あたり50銭の儲けではちと不公平なのでは……」


「田豫様、そうではありませぬ。新野から朗陵への密輸米の運搬には、商人を隠れ蓑に使いましゅ。その商人の儲けが一石あたり50銭。つまり、田豫様も父上も商人も儲けは一石あたり50銭で公平、三方良しということでしゅ」


「なるほど。それなら納得できますな」


関羽のおっさんと田豫は、双方合意の握手を交わす。


「関羽殿。今日は有意義な会談ができて良かった」


「そうだな。今年は実りの秋が楽しみだ」


田豫は再び馬に乗って朗陵へ帰る。途中、思い出したように振り返り、


「あーご子息の関興君は、まさに神童ですな。感服しました。年次報告で許昌に上った際、曹操閣下に面白い子がいると話しておきましょう」


いやあああーっ!やめてくれーっ!

赤壁の戦いの前に曹操に会ってしまったら、戦いに巻き込まれて命の危険にさらされそうだもん。曹操を敵視する女神孔明にも怒られそうだし。


◇◆◇◆◇


その後、関羽のおっさんは、新野県で農作業をする住民を大々的に募った。


今秋の米の売却益五十万銭を見込んで、なんと今年の租税は免除!来年以降は五公五民もしくは四公六民+男子1人徴兵というもの。

評判を聞きつけた元新野県の住民や、近隣の流浪民がこぞって新野を目指し、食い詰めて身を落とした山賊の輩たちも帰服した。

やれやれ、これでめでたく千町歩の田畑の開墾も無事に達成できそうだ。



この年、新野の県城には商人や旅芸人・遊女が押し寄せ、大いに賑わいを取り戻したという。


※曹操に帰順した田豫が、この頃、豫州の朗陵県の令に任命されたのは史実です。この物語のように、荊州の客となっている劉備と裏で繋がっていたかどうかは分かりませんが。

なお、この世界の1石=日本とほぼ同じ大人1人が1年間に食べる量・米俵2俵。金1銭=1,000円の価値があるようです。


次回、兵糧密売で大儲けしている関羽のもとに、劉表の査察が入る大ピンチ!

果たして関羽はうまく切り抜けることができるか?!お楽しみに!

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