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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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69.孫権、江夏の黄祖を攻め滅ぼす

語り手は前半が関興、後半が関羽です。

あっという間に、建安十二年(207)。

八歳になったオレのステータスは、ざっとこんなものだ。


--関興--

 生誕  建安五年(200)  8歳

 統率力 72

 武力  76

 知力  89

 政治力 78

 魅力  67

 スキル 弩弓術 先読 交渉 鑑定 雷天大壮


知力は伸びず、また魅力が1Pt下がった。人気ないなあ、オレ。

ま、(じょ)城と(かん)城を奪回できたおかげで、統率力・武力・政治力はかなりアップしたから良しとするか。


今年は忙しくなるぞ。なにしろ異民族の烏桓を降して袁家軍閥は滅び、曹操が華北遠征から許都に凱旋するんだからな。いよいよ天下統一を狙って、曹操の荊州侵攻が始まるわけだ。


一方、合肥の戦いで“予言”が当たらず【風気術】師としての名声を失墜させた転生者の呉範は、名誉挽回すべく荊州の江夏を攻めることを孫権に進言した。そりゃ、史実でも今年、江夏の黄祖を攻めてこれを斬った戦績があるんだもん。絶対に勝てる鉄板ネタだよな。


しかし、オレ()孫呉の対黄祖戦を待っていた。

いや、黄祖がどうなろうと知ったこっちゃない。オレは黄祖が所有する江夏の()()に興味があるのだ。


江夏が孫呉の手におちれば、黄祖が所有する軍船も孫呉の手に渡る。荊州にとっては大変な痛手だ。だからその前に、荊州の損をできる限り小さくするために(名目)、オレたちが軍船を回収してやる(実利)。

――そういう悪どい魂胆だ。


黄祖が大嫌いな甘寧は大喜びで作戦に賛同した。合肥の戦いで仲良くなった徐晃と史渙(しかん)も、何故か乗り気で「俺たちも加えろ」と言って来た。まあ、頼りになる指揮官が多いと、軍船をスムーズに回収できるし助かるのでありがたいのだが……いいのか?オレたち、本来は敵だぞ。


先日、合肥の戦いで捕虜となった孫呉の兵のうち、半分の四千をオレたちが貰い受けた。亡き孫策の遺児・孫紹と沈友を紹介すると、二人の命が救われ手厚く保護されていると知った孫呉の兵は、改めてオレたちに忠誠を誓った。

彼らを使えば軍船を操舵できるから、江夏で回収できる軍船の数も増やせるだろう。


だが問題は、関羽のおっさんだ。

義侠心に富む関羽が、こんな人の不幸につけ込むような悪どい作戦に果たして「うん」と言うだろうか?関羽のおっさんには軽蔑されたくないしなあ。


……と悩んでいたが。


「なるほど。ということは、俺が江夏を救援するという名目で荊州牧の劉表殿に派兵の許可を取り、堂々と救援軍(実は興の水軍兵)を派遣して黄祖VS孫呉の戦況を傍観しつつ、いよいよ江夏陥落となるタイミングで、興の水軍兵に江夏の軍船を回収させる、ついでに江夏郡の領民と敗残兵もできる限り連れ帰るという段取りでいいな?」


と、関羽のおっさんは作戦をあっさり承知した。なんでだ?


まあ、そんなわけで黄祖VS孫呉の戦いは史実どおり孫呉の勝利で終わり、黄祖は斬られ江夏は陥落したものの、領民には去られ、敗残兵はさっさと逃げのび、軍船はオレたちにほとんどお持ち帰りされて、結局孫呉軍が手に入れた物は、自軍の攻撃でボロボロに破壊された江夏の空城だけ。亡き父のかたき討ちだけは果たせた孫権は、


「こんな廃墟同然の城などいらんわっ!」


と捨てゼリフを残し、江夏の城を放棄した。


◇◆◇◆◇


(関羽のつぶやき)


三年前。劉備将軍の軍師・諸葛孔明と口論したあげく、


――父上へ 揚州で大乱のきざしが見えました。鎮めなければなりません。しばらく唐県を留守にします。ごめんなさい。 興


と謎の書き置きを残して、唐県から姿を消した興。

厨二病を患ったのかと心配していたら、本当に揚州に行ったらしい。今回は鄧艾ではなく甘寧を供に選んだようだ。たまに思い出したように届くふみには、


・甘寧の部下だった錦帆賊を20名ほど借りたい。朗陵の田豫には話を通してあるから許都へ送って欲しい

・唐河上流の水源がどうなっているか知りたい。鄧艾に調査・測量するよう伝えて欲しい

・次の芝居公演が決まった。旅役者の座長に伝えて欲しい

・亡き孫策の遺児・孫紹が江夏に亡命する。斥候の蝙蝠こうもりに渡りをつけて流言を広めて欲しい

・ついに孫呉で#大泉当十が発鋳される。劉巴に準備するよう伝えて欲しい

・劉巴の投機が当たって大儲けした。10万銭を預けるから、兵士たちに美味い物を食わせてやって欲しい

・いよいよ孫呉が江夏を攻める。父上に折り入って相談があるから協力して欲しい


……分からん。どこでこんな国家機密を仕入れて来るのか、単なるガセネタなのか、はたまた厨二病特有の空想の産物なのか、俺には判断がつかん。

まあ、興が元気に息災で暮らしているのならば、俺は満足だ。


満足か?いや、俺は全然満足じゃない。

俺も平も蘭玉もおまえと一緒に暮らしたいんだ。早く戻って来い。


ふみにそう書いて送ったら、照れながら本当に戻って来た。書いてみるもんだ。


「いつも頼み事ばかりのふみですみません。ようやく揚州で一段落ついたので、休暇をもらって帰って来ました」


「興、大きくなったな」


背が伸びただけじゃない。顔は相変わらず可愛いままだが、体格も知能も、そして度量も大きくなった。休暇と言いながら、一緒に付いて来た甘寧と水軍兵四千、それに徐晃と史渙(しかん)(敵である曹操閣下の将軍じゃないか!)の面子を見ると、何か目的があって荊州の唐県に帰って来たのは明らかだった。


「初めましてだな、関羽殿。貴殿と同じ河東郡出身の徐晃だ」


「ああ、徐晃殿か。こちらこそ初めまして。曹操軍に厄介になっていた時に武勇に優れた将軍との噂は聞いておる。それで今日は堂々と敵地視察なのか?」


俺は警戒しながら訪問の目的を探ってみる。徐晃はニヤリと笑い、


「なあに。貴殿の子息の秦朗と仲良くなったもんでな。一緒にやらないかと誘われて船泥棒をしに来たのさ」


……興よ。どうやったら敵の将軍と仲良くなれるんだ?

というか船泥棒?物騒な!興のヤツ、また大変なことをたくらんでいるようだ。


「父上、折り入って相談があります」


ほら来た。だいたい、興が居住まいを正してキリッとした顔の時は、要注意なんだ。


「言ってみろ」


「はい。オレが出張していた合肥の要塞では、こちらの徐晃殿と史渙(しかん)殿の活躍で、江東の孫権を撃退することができました。しかし、孫権の領土拡張の野望は止まることを知らず、今度は荊州の江夏を攻撃目標に据えておるようです」


「ほう、それで?俺に江夏へ援軍を派遣して欲しいという依頼か?」


「いえ、そうではありません。孫権の水軍兵は精強のうえに数五万。我らが率いる四千の水軍兵を派遣したところで、焼け石に水です。それに、同じ荊州軍とはいえ、救援依頼も来ていない見ず知らずの黄祖殿を助ける義理はありませんし」


ふうむ。さすが、この割切りが興らしい。


「つまりおまえは、太守の黄祖は江夏を守り切れないと判断するんだな?」


「はい。江夏陥落を前提としてオレは動くつもりです」


そして興は言おうか言うまいか逡巡しながら、


「江夏が孫呉の手におちれば、黄祖が所有していた軍船が孫呉の手に渡ってしまいます。それは荊州にとって大変な損失になるのみならず、長江流域のパワーバランスが崩れ、今後孫呉の水軍が無敵となってしまいます。

 残念ですが、いま孫呉の水軍に太刀打ちできない以上、江夏の陥落は免れません。ここは腹をくくって、敗れた黄祖の軍船が孫呉の手に渡らぬよう、荊州の損失をできる限り小さくする方向に動くことがベストの選択だと考えます。そのために、オレたちの手で黄祖の所有する軍船を前もって回収する必要があるのです」


「なるほど。それで船泥棒か……」


また突拍子もない悪辣な策略を考えたもんだ。


「興、正直に言え。おまえはただ軍船が欲しいだけなんじゃあるまいな?!」


「!!」


興が(やっぱり見破られたか……)と、驚きとも慌てともつかない変わった表情をする。してやったりだ。

遠慮するな、おまえが望む軍船は将来の天下取りに必要となる物だ。

俺は、くっくっと笑って、


「分かった。俺が江夏を救援するという名目で荊州牧の劉表殿に派兵の許可を取ってやるから、おまえは堂々と“救援軍”という名の水軍兵を派遣して戦況を傍観しつつ、いよいよ江夏陥落となるタイミングで水軍兵に江夏の軍船を回収させろ」


「……えっ?」


「ただし条件がある!敗残兵と江夏郡の領民も、奪った軍船に乗せてできる限り連れ帰ってやること。いいな?」


「は、はい。ありがとうございます、父上!」


興は(何故だろう?)と首をひねりながら下がって行った。

心配するな。船泥棒の汚名なら俺がかぶってやる。荊州牧・劉表殿へ、黄祖を救援せずに軍船だけを回収した言い訳も考えてやる。


そして――興は甘寧・徐晃・史渙(しかん)とともに楼船三十隻と艨衝(もうしょう)百隻を持ち帰り、約束どおり江夏の敗残兵一万と住民二万を船に乗せて、唐県に連れて帰って来た。


これで、もともと唐県にいる兵一万四千に水軍兵二千、そして興が寿春から率いて来た孫呉の捕虜だった水軍兵四千、そして今手に入れた江夏の敗残兵一万を足せば、我らの兵は三万に膨れ上がってしまった!


しかも馬三百騎、強弩千張に矢二十万本、楼船三十二隻、艨衝(もうしょう)百二十隻と武器も充実している。

将軍には俺そして甘寧・鄧艾・周倉と息子の平、参謀に沈友と劉巴、輜重担当に潘濬はんしゅん。そんな我らを率いる英傑が興だ!


戦力は整った。

どうする、興?曹操閣下不在の今なら、許都に攻め込み漢の天子様を奉じて天下に号令を掛けることだって可能だぞ!


関羽のおっさんの思惑どおりに事は進まないと思うが……。


次回。荊州牧・劉表が病に倒れた。劉琦と劉琮の跡目争いが始まる。劉表は重臣の蔡瑁でもなく、はたまた客将の劉備でもなく、関羽を頼る。まもなく曹操が荊州侵攻を始めると知った関羽はどう決断するか?お楽しみに!


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