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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
70/271

63.関興、追われる孫紹と沈友に遭遇する

前回のあらすじ

古の上海あたりを偵察に訪れたら、追っ手に見つかって追われる羽目になった。



「やべえっ!逃げるぞ、チビちゃん!」


甘寧とオレは必死になって追っ手の追撃から逃げる。


「おまえが余計なフラグを立てるから、本当になっちまったじゃねーか!」


「おまえの方こそ、油断して変装もせずに歩いているから身バレしたんだろーが!」


と互いに相手のせいにして走り回った結果、なんとか追っ手をくことに成功した。


「ハアッ、ハアッ。こ、ここまで来れば一安心だろ……」


「と…とりあえず、そこのほこらに隠れよう」


と言って甘寧がほこらの扉を開けたとたん、中から「もはやこれまで!」と叫んで剣を片手に飛び出して来た若者がいた。どうやら先客がいたようだ。

 武力のステータスが90の甘寧に、そんなヌルい攻撃が通用するわけがない。難なく相手の剣を受け止め、手首にチョップして叩き落すと、奪った剣を逆に若者に突き付けた。


「さあ吐けっ、おまえは何者だ?!」


「殺せっ!若、私がこの追っ手にられている隙に逃げて下さい!さあ早く!」


「……いや、こいつらの狙いは僕だ。

 なあ君たち、このとおり僕の首はおとなしく君たちにささげる。だから従者の命は助けてやってくれないだろうか?」


「若!駄目です!そのような最期では、この沈友、亡き殿に会わせる顔がありませぬ!」


「「……」」


オレと甘寧は勝手が分からず、顔を見合わせた。


「あのう、オレたちも追っ手に追われてるので、ほこらに隠れたいんですけど……」


◇◆◇◆◇


「オレの名前は関興。で、こっちの強い武将は甘寧。孫呉の武将・淩統の親父を戦闘で殺したせいで、ヤツに親のかたきと狙われて追われてる」


「馬鹿言え!クソガキのおまえが芝居で孫権を怒らせるから、俺も巻き添えでこんな目に遭ってるんだろーが!」


とりあえず狭いほこらの中に身を隠したオレたちは、互いに相手のせいにしてギャーギャーとののしり合う。先ほど若と呼ばれていた少年は、醜い口喧嘩を聞いて、


「ああ、君たちが公演中止となったあの芝居の……。それでお二人の関係は? 親子かと思ってたけど、苗字が違うので……」


と尋ねるので、喧嘩を一時やめた甘寧とオレは、


「やめい。こんなクソガキと親子だなんて俺のチ〇ポがむせび泣くわ!」


「バーカ、頭の腐った変態筋肉ダルマの子供なんか、こっちの方が死んでも願い下げだぜ!あ、オレたちは普通に主人と従者の関係ですよ」


と答える。


「えっ?甘寧殿が臥龍座の座長で、関興殿が役者なの?」


「逆、逆。俺が従者でこのチビが主人」


「エヘン。主人です」


オレはおどけて尊大に振る舞ってみせた。

若と呼ばれた少年とその従者らしき若者は驚いて顔を見合わせる。


「失礼した。私の名前は沈友ちんゆう。こちらの御方の名前は、訳あって申し上げられないが、私は供をしている」


「はあ。それで沈友さんたちは、誰に、どうして追われているのですか?」


「……」


言えないか。まあ、おそらく名前を隠している若様の素性に関わるのだろう。


「誰に追われてるのか分からないと、助けようがないんだよなあ」


「おい、チビちゃん。こんな素性も知れない奴らを助けてやるつもりかよ?!」


「当たり前だろ。困った時はお互い助け合うもんだろーが!」


オレの言葉に甘寧はふうっと溜息を吐き、頭をガシガシと搔いて、


「ま、俺もおまえに助けられたようなものだしな。ここはひとつ恩送りでもしてやるか」


情けは人のためならず。受けた恩は必ずしも恩人にお返ししなくても、代わりに誰かに情けをかけてやれば、巡り巡っていつか恩人に返って行く。それが恩送り。もちろん、本来のことわざのように、自分に返って来るのかもしれないけど。

すると若様と呼ばれた少年が口を開いた。


「沈友、この人たちなら信用できそうだ。僕の名前は孫紹そんしょう。亡き孫討逆将軍の息子だ」


「えっ?まさかの本物!?」


オレが芝居で周武王の息子・太子(しょう)に仮託した、孫策の息子が目の前にいる。


「ははぁーっ。ご無礼をつかまつりました」


オレと甘寧はその場に平伏する。一応、相手は江東を支配する孫家一族のお坊ちゃまだ。礼を欠かさないに越したことはない。


「べつに畏まらなくていいよ。僕はもう孫討逆将軍の後嗣ぎじゃない。ただの良家のボンだ」


「いやしかし、オレが芝居で孫権将軍をあおったばっかりに、孫紹様にとんだとばっちりを……」


「アハハ。やらかした自覚はあるんだね。気にしなくてもいいよ。どうせ僕には後()ぎになれるような才覚があるわけじゃないし」


孫紹は自嘲気味に話す。


「ただ、今の叔父上(孫権)がなさる政は、父上や祖父の目指していた未来とは絶対に違うんだ。二人が望んでいたのは漢の天子様への忠義立てだし、いずれは戦乱のない江東の平和な暮らしの実現のために、自ら白刃を振るって戦っていたのだと思う。

 その遺志を僕がいでやれなかったことが心残りなだけ」


「孫紹様……」


沈友が主人の無念を思って涙を流す。


「関興君があおったせいとは言わないけど、叔父上は僕のことが邪魔みたいなんだ。この機会に僕を密かに暗殺するつもりなんだろう。

 先日も、毒入りの菓子を僕に届けさせた。沈友が気づいてくれたから大事に至らなかったけど。それをとがめた沈友を、叔父上はかえって不敬罪で死刑に処そうとした。だから僕は封地の上虞(じょうぐ)県から沈友と逃げ出した」


「ひどい奴だな、孫権は!」


 同盟軍を裏切り、困った時には強い奴にり寄る二枚舌。陸遜を含む大功ある家臣を次々と粛清し、自身の後()ぎをめぐって醜い争いを助長する暴虐な暗君。それが孫権に対するオレの評価だ。

 老いとともに駄馬に落ちぶれ孫呉に深刻な禍根を残したけれども、若い頃は曹操の天下統一の野望をくじき劉備を返り討ちにした英雄の志あふれる駿馬、と孫権を褒め称えた解説を見るが、とんでもない。赤壁で曹操を撃退したのは周瑜だし、夷陵で劉備を撃退したのは陸遜だ。孫権はただ安全な場所に身を隠していただけ。


 そしてなにより、英雄・周瑜の息子を罪に落し陸遜を責めて憤死に追いやるような、越王勾践(こうせん)のごとき残忍で欲深く猜疑心の強い性格をしているのだ。俗に、苦難を共にしても安楽を共にすることはできない、長頸烏喙ちょうけいうかいと呼ばれる人相に違いない。


「だから、追っ手が探してるのは君たちじゃなくて、僕たちの行方。君たちは少年と従者の二人組というだけで見間違えられただけ。迷惑かけてごめんね」


と孫紹が謝る。


「ケッ。孫紹様みたいな立派な御方を、モブ顔詐欺師のチビちゃんと間違えるとは、孫権の追っ手も見る目がねえな」


「それはこっちのセリフだ!沈友さんみたいな爽やかイケメンと、イケメンだけど変態ヤリチンのおまえと区別がつかないとは、きっとボケて耄碌してるんだろーな」


オレと甘寧は再び相手をけなし合ってゲラゲラ笑う。


「それで孫紹様、逃げる宛てはあるのですか?」


ううん、と首を振る孫紹。沈友が痛ましげに語って、


「呉郡にある私の実家を頼ればかくまってはくれるだろうが、孫権将軍はそんなことは百も承知。おそらく手の者に見張らせているに違いない。

残された選択肢は揚州刺史・劉馥りゅうふく殿に保護を求めるしかないが、あいにく江北に逃れる手段は尽き、こうして辺鄙な片田舎に逃げ隠れする始末。仮に江北に渡れたとしても、頼れる伝手もなく劉馥りゅうふく殿に信じてもらえる確証はない」


オレと甘寧は顔を見合わせて、


「なら、オレたちが孫紹様を劉馥りゅうふく殿に紹介しましょうか?全国を渡り歩く旅役者って、意外と顔が広いんですよ。もちろん、曹操軍に知り合いもいますし」


「本当ですか?!関興君と甘寧殿はいったい何者……」


孫紹と沈友は不思議そうな顔をした。


「まあまあ。とりあえず追っ手を撒いて、孫紹様と沈友殿を無事に江北に送り届ける手段を講じましょう」


※沈友は、正史『三国志』呉志呉主伝の注に引用される『呉録』に登場する人物です。史実では、周瑜・甘寧に先立ち荊州を併合する天下二分の計を孫権に説いたが、無能な臣下どもに讒言されて、孫権に処刑されてしまったかわいそうな人です。


次回。孫紹・沈友と知り合った関興は、彼らを安全に寿春の劉馥のもとに送り届けるために策を練る。キーワードは声東撃西(東と宣伝し、実際は西に出撃する兵法)。お楽しみに!


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