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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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58.曹操、袁家討伐の継続を宣言する

前回のあらすじ

鄴の玄武池で、甘寧率いる艨衝(もうしょう)による攻撃のデモンストレーションを見学する曹操。


続いてもう一隻の古い大型輸送船を火攻めにするデモンストレーションだ。さすがに火は危ないので、曹操や重臣たちには曹沖とともに岸でおとなしく見学してもらうことにした。


再び甘寧が枯れ草を積んだ艨衝(もうしょう)を指揮する。今回は模擬の火攻めということで、片側八人×2列の水軍兵がゆっくりとオールを漕ぐ。

攻撃目標の輸送船に近づくと、甘寧は兵に油をみこませた矢を百本ほど射かけさせる。実際の戦場では、矢を射るための別の走舸(そうか)部隊が存在するのだが、今回は同じ艨衝(もうしょう)部隊が行った。輸送船の側壁は油でまみれる。


そしていったん遠ざかり、再び艨衝(もうしょう)を漕ぎスピードを上げて輸送船に迫る。タイミングを見測りながら、甘寧は途中で艨衝(もうしょう)に積んだ枯れ草に火をけ、ギリギリまで輸送船に近づくと、水軍兵に撤収を命じる。漕ぎ手が水中に飛び込んで無人となった燃えさかる艨衝(もうしょう)は、攻撃目標の輸送船に向かって真っすぐに進んで行く。そして艨衝(もうしょう)が目標にぶつかるや、火は油塗まみれの側壁に燃え広がり、瞬く間に輸送船を紅蓮の炎に包んだ。


「おお……」


火攻めの成功を呆然として眺める曹操と重臣たち。


「いかがでしょうか?今回は、荊州の水軍兵の攻撃をご覧いただきましたが、江東の水軍兵も同じような攻撃パターンだと聞いております。

いま現在、閣下の水軍がこのような恐るべき敵の攻撃に対抗できるとは思えません」


「……確かにな」


曹操が渋い顔で同意する。オレは続けて、


「徐州の広陵を奪回するだけなら、なんとかなるかもしれません。

しかし広陵は、孫権にとっては喉元に突き付けられた匕首あいくち、我らに奪回されるのを防ぐため、敵も必死になって長江を渡り援軍を送って来るでしょう。

その援軍と補給を止めるには、どうしても敵の水軍と対峙しなければならない。ですが、閣下の水軍は絶対に勝てません。

()()()()()、孫権と事を構えるのはやめた方がよいとオレが進言するのは、このような理由からです」


「……では孫権めに広陵をくれてやれ、と?」


程昱が問う。オレは誤解のないように、


「今の段階では、と申したはずです。いずれ奪回するつもりですが、艨衝(もうしょう)をはじめ、楼船などを調達する、水軍兵を鍛える、彼らを率いる将軍を育てる等の入念な準備が必要です」


「その期間は?」


曹操の問いに、オレの脳裏にチラリと女神様の命令コマンドが浮かんだ。


(曹操の荊州侵攻開始は、史実どおり四年後の建安十三年(208)に引き延ばしなさい!これは命令よっ!)


あーやだやだ。いつまで経っても社畜リーマン根性が抜けないな。

 オレはかぶりを振って、


「そうですね……早くて三年、いや四年は掛かるかと」


と答えると、程昱がキレ気味に、


「その間どうするのだ?我が軍は弱腰で反撃できないと舐めくさった孫権に、淮南を席捲せっけんされてしまうぞ!?」


「やむを得ませんね」


「なっ、なにぃ?!この大うつけが!」


程昱が怒鳴るが、できない物は仕方がない。


「三,四年かけて、曹操閣下が率いる本隊は華北の袁譚・袁尚を滅ぼしてください。

その間、淮南の統治は揚州刺史の劉馥りゅうふく殿とオレにお任せを。必ずや孫権を痛い目に遭わせる作戦を成功させてみせます」


◇◆◇◆◇


次の日。

鄴の銅雀台に登った曹操は、全軍に向かって演説した。


「聞け、鄴につどう勇猛果敢な精鋭の諸君!

 袁紹は代々漢の御恩を受けていたのに、帝位を詐称した袁術より偽の印綬を授けられてその気になり、凶逆無道にもついに漢の聖朝に叛逆の刃を向けた。そこでわしは兵馬を指揮して官渡で合戦を行ない、逆賊を徹底的に撃ち破った。邪悪なたくらみは潰え、袁紹は尻尾を巻いて華北に逃亡し、漢の威光は輝きを取り戻したのだ。


 しかしながら奴の残党はいまだ割拠しており、たびたび冀州を荒らし害毒をまき散らしている。

先日、わしが諸君らを率いて威を振るうと、逆賊の袁尚は我が軍旗を見ただけできもをつぶして鄴を逃げ出し、ぶざまな敗北をさらけ出した。諸君ら勇猛果敢な精鋭の兵は、逃走する敵を追撃し、屍を踏み越え血の海を渡ることを望んだが、わしは幽・青州の民が邪悪な袁譚・袁尚に脅され、やむを得ず従っているだけの気の毒な者たちであることを知っている。


 国家の正義に叛逆する袁譚・袁尚は憎むべき存在であるが、だからと言って奴らに従わざるを得なかった民の生命を、むやみに奪う真似はしたくない。

 そこで、逆賊の袁譚・袁尚に脅された民のうち心を悔い改めた者はすべて降伏を許す。


 ここに告示して国家の誠を明らかにし、漢の聖朝に刃向かう逆賊どもを討伐することを宣言する。

 勇猛果敢な精鋭の諸君、そなた達の力が頼りである!今こそ十五万の勇姿を逆賊どもに存分に見せつけ、天下に我が栄光を轟かせようぞ!」


居並ぶ兵士の「うおおーっ!」という大歓声と拍手に迎えられ、曹操は大きく手を振ってそれに応えた。

今後の戦略は、このまま予定どおり袁譚・袁尚の討伐を継続するという(1)案で決定した瞬間であった。帯同する将軍は曹仁・張遼・楽進・李典、参謀には荀攸・程昱・郭嘉がつき従うことになった。




さて、オレたち唐県の武将についても述べておこう。


オレは突撃艦の艨衝(もうしょう)を一隻二十万銭で曹操軍が買い取る確約を取り付け、唐県で働く船大工の謝玄に船の製造を依頼した。謝玄は嬉しい悲鳴を上げた。ヘヘッ、オレもボロ儲けだぜ☆


水軍兵の育成が必要と感じた曹操は、鄴の攻略まで曹操に従っていた将軍の徐晃と史渙(しかん)に、新たに水軍を率いる楼船将軍の号を授け、劉馥りゅうふくが統治する揚州の都城・寿春で、オレの配下の変態イケメン筋肉ダルマ・甘寧の教育訓練を受けることとなった。


……ボクちゃん五歳のお子ちゃまだから、オトナの事情なんか分かんないけど、精悍で真面目な二人ならきっと甘寧の毒牙に嵌ることはないとオレは信じてるぞ(切実)。


また並行して、唐県と田豫の治める朗陵県の間を船で水行できないかを調査するために、周辺の地形を鄧艾に探索させた。その結果、唐県を流れる唐河を上流に遡れば、1,000m級の桐柏とうはく山脈が水源となっていること。この桐柏とうはく山脈は実は唐河と淮河の分水嶺となっており、そこから約3km離れた沢が淮河の水源となっていることを突き止めた。


知ってのとおり、淮河は豫州の平野を東に流れ、朗陵県そして寿春を通って東シナ海に到達する大河だ。

そこで、桐柏とうはく山脈の麓に人力で堤を築いてダムを建設し、両河川の水源を運河としてひとつに繋げば、唐県の船が淮河を下って寿春に到達することが可能になるのだ。


鄧艾は、桐柏とうはく山脈の地形の探索結果とダムの建設、そしてその利点を記した『済河論(改)』を荀彧に提出した。荀彧は深く感銘し、ただちにダムの建設を実行に移したという。


準備は整った。いざ、揚州に乗り込むとするか!



………あ。

言い忘れてた。他にもいい知らせと悪い知らせがあるんだ。

どっちから聞きたい?


じゃあ、いい知らせから。


曹沖と悪役令嬢の麗様に連れられて、オレは彼女の(こう)(あん)ちゃんに会いに行った。麗様のふみには深刻そうに書かれていたけど、父親の(こう)章殿が無事だったことから、ぜんぜん平気みたい。よかった。


「オレはこれから揚州の援護に向かいます」と言ったら、(こう)(あん)ちゃんははにかみながら「ご武運を祈ります」と返してくれた。「秦朗君って、頼り甲斐がある素敵な男♡」とか思ってくれたかな?ぐふふ。


そして悪い知らせ。


これで曹操に謹慎を解いてもらえると期待していたのに(2)案を潰された曹丕は、案の定、烈火のごとく怒った。


「おのれ秦朗、めかけの子の小僧めがっ!絶対に許さん!」


……だからなんで怒りの矛先がオレなんだよ?!

もともと、おまえの節操のない下半身が招いた不祥事が原因だろーが。オレを恨む前に、リア充と高をくくっていた自分の破廉恥行為を反省しろ。


しかし、いよいよヤバいなあ。将来の魏の皇帝である曹丕に完全に嫌われちゃったよ。

曹丕シンパの程昱・賈詡(かく)やイヤミ三銃士(董昭・華歆・桓楷)にも良く思われていないし。


こりゃ、将来はやっぱり関羽のおっさんをかついで、第四勢力として荊州に割拠する他なさそうだな。


次回。舞台は揚州に移ります。

秣陵(のちの建業)で人気の芝居『周武王(しゅうぶおう)冥土旅(めいどのたび)之一里塚』を見に行こうと誘われた孫権。風気術師で実は転生者の呉範も見物に訪れるが、旅役者が臥龍座という荊州出身だと聞いて胸騒ぎをおぼえる。お楽しみに!


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