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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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56.曹沖、袁譚・袁尚への攻撃を進言する

劉馥りゅうふく

 豫州沛国の出身。戦乱を避け揚州に避難していたが、建安初年に、袁術の部将である戚寄・秦翊を説き伏せ、軍勢を率いて共に曹操に帰順した。漢の朝廷が派遣した揚州刺史の厳象が孫策配下の李術に殺されると、曹操は、地縁があり人望の厚い劉馥りゅうふくを後任の揚州刺史に任命した。

 劉馥りゅうふくが寿春に着任すると、屯田と灌漑事業を推進し、数年のうちに米や財産を蓄えた。恩恵と教化が大いに行なわれたため、民衆は劉馥りゅうふくの統治を慕い、帰服する流民は一万人を超えたという。

 また将来起こるであろう孫権との戦いに備え、芍陂しゃくひの堤防を整備し、合肥に要塞を築いて木や石を積み上げ、大量の弓矢や魚油を貯蔵した。

 彼の死後、果たして孫権が十万の兵で合肥の要塞に攻め寄せたが、劉馥りゅうふくの備えのおかげで百日間包囲されてもびくともせず、攻めあぐねた孫権は撤退を余儀なくされた。

 揚州の民衆はいよいよ劉馥りゅうふくを追慕し、ほこらを建てて彼を祭った。

 ちなみに息子の劉靖,孫の劉弘と三代続けて名刺史とうたわれ、戦乱の最中にもかかわらず、彼らが赴任した州では平和と安定がもたらされたそうだ。


オレは、かように揚州の民衆に慕われる劉馥りゅうふくなら、(じょ)城やかん城が孫権の侵攻にさらされたとしても、きっと民衆を手なずけ、危難に適切に対処してくれるだろうと期待したのだ。もちろん、合肥攻防戦の史実を知っているオレも劉馥りゅうふくの援護に走るつもりだが。


「……とその前に、曹操閣下に(2)案の不利な点を突いて(1)案を説得しなければなりませんが、閣下の胸の内はどちらに傾いているか、曹沖様はご存じないですか?」


オレは曹沖に尋ねた。


「もちろん知らないよ。父上はいま鄴にご滞在中だし、僕は許都で離れて暮らしているもの。もう半年近く会っていないしさ。

 あーちょっと待って。もしかしたら劉曄(りゅうよう)なら分かるかもしれない」


「ああ、あの忖度(そんたく)マンか」


オレは思わずつぶやいた。


「えっ、何だって?」


「いえ。何でもありません」


劉曄(りゅうよう)

 後漢・光武帝の子孫なので、劉備とは違ってれっきとした皇族。しかし皇族でありながら曹操の腹心として仕えているせいで、品性が劣ると陰口を叩かれた。

 本音を胸の奥に秘し、相手の気持ちを察して同調する能力に長けており、ひそかに付いたあだ名が「忖度(そんたく)マン」。常にどちらに転んでも困らない立場に身を置く処し方は、多くの人士に軽蔑されている。

 ある時、劉曄を嫌う者が劉曄を讒言して「劉曄は陛下の意をうかがいそれに迎合する不忠者です。試しに彼に対して陛下のお考えと反対のお言葉を述べてください。もし劉曄が陛下の意見に反対すれば、立派な諫臣と言えるでしょう。逆にもし賛成すれば、劉曄は単に陛下の意に迎合するのみの佞臣(ねいしん)であることが明らかです」と述べた。明帝が劉曄の人となりを試してみると、果たして訴えた者の助言どおりだった。それ以降、劉曄は信用を失ったという。



曹沖はさっそく忖度(そんたく)マンこと劉曄(りゅうよう)に相談しに行った。


「沖坊ちゃま。曹操閣下の御心はすでに決まっております。閣下がなぜ鄴を離れぬのかその意図を勘ぐれば、答えは自ずと明らかではありませぬか!その胸の内を声に発しないのは、反対派を納得させられる理由を探しているからにすぎません」


「なるほど」


曹沖は納得のいく劉曄(りゅうよう)の答えに感心しホッと安堵した様子だったが、オレは別の意味で劉曄(りゅうよう)に感心した。さすが忖度(そんたく)マン!


奴のことだ、どちらの公子が後継者に立っても将来いい顔ができるように励まし、(2)案を推す曹丕にもまったく同じアドバイスを送り、曹操は自分の意見に賛成するだろうと曹丕に確信させたに違いない。

しかし、忖度(そんたく)マンの励ましのおかげで曹沖が、このまま予定どおり袁譚・袁尚を討つという(1)案に納得したことに対し、オレは素直に劉曄(りゅうよう)に感謝した。


◇◆◇◆◇


オレと曹沖は荀彧と会談し、(1)案を曹操に進言することで一致した。荀彧を介し劉馥りゅうふくの協力を仰ぐことに同意を得て、オレたちは唐県から呼び寄せた甘寧とともに鄴に向かった。


「父上、ご無沙汰しています。父上の素晴らしい策略で、大きな損害もなく鄴を陥落させたとか。誠にお見事でございます」


と曹沖が口上を述べた。


「おお、沖ではないか。元気にしておったか?」


「はい。おかげさまで。父上もお変わりなくご息災でなによりです」


「それで、おまえがわざわざ鄴に出向いて来るとは何事かね?」


曹操が柔和な顔を崩さずに尋ねると、曹沖はやや緊張の面持ちで、


「恐れながら、孫権が友誼を踏みにじって徐州の広陵に侵攻し占領した件について、僕も愚見を述べたいと思い参上しました」


「ほう、申してみよ」


曹沖は、怒りにまかせて孫権との戦いを優先し、袁譚・袁尚の勢力と一時休戦すれば、彼らが幽州・青州で息を吹き返してしまう。それでは華北統一という千載一遇の機会を逃す結果に繋がるから、このまま袁譚・袁尚との戦いを継続した方がよいと、理路整然と主張した。


曹操は感心しつつも、


「だが我が領土を奪った孫権を、このままさばらせておくわけにはいかん。奴をらしめる必要があると思うが」


と慎重な姿勢を示した。


「もちろんです。その作戦については秦朗から説明させます」


と曹沖は後ろを振り返り、オレに説明を促した。


「曹操閣下、ご無沙汰しております」


オレの顔を見るなりニヤリと笑った曹操は、


「久しいのう、関興。いや、我が義理の息子・秦朗と呼ぶべきか。おまえがわしに仕える気になったとは嬉しいかぎりだ」


いや、オレはそんなつもりはないって閣下も知ってるくせに。


「ははーん。おまえが沖に知恵を授けたか?」


「いえ、そうではありません。オレは単に曹沖様のお考えの尻馬に乗って、我が領地の唐県の安寧と発展を図ろうという、さもしい了見を述べるにすぎません。閣下のお耳汚しかと思いますが、ご容赦ください」


「よい。聞こう」


曹操は上機嫌で続きを促した。


「ありがとうございます。孫権を痛い目に遭わせる作戦を具体的に述べる前に、(2)案が不可である理由を示したいと思います。

曹操閣下が華北統一という千載一遇の機会を生かすには、このまま攻撃を継続するにくはありません。

誰の目にも衰亡がはっきりしている袁譚・袁尚をいま徹底的に攻めるなら、三年で滅ぼすことができます。しかし、江東に割拠する孫呉の征服を果たそうとすれば、おそらく十年は必要でしょう」


「そんなに掛かるか?」


「はい。以前、荀彧様や張遼殿にもお話ししましたが、我が曹魏と江東の間には長江の天険が立ちはだかります。征服するには、船を利用して渡河しなければなりません。

 しかし曹操閣下が揃えられた水軍と、孫権が率いる水軍は質がまったく違います。華北の人間は、船は兵を輸送するための手段という認識ですが、南の人間は、船は兵器そのものという感覚なのです。

 例えば突撃艦の艨衝(もうしょう)は、先を尖らせた木をくくり付けて船ごと楼船に体当たりさせ、横っ腹に穴をあけて沈める。ちょうど、城攻めの時に門や城壁を破壊する衝車しょうしゃの働きに似ていますね。

 また、油をまいた船に火をつけ、その船ごと突入し敵艦隊を火攻めにしたり……」


「待て。そんな攻撃をしたら、船を操舵する水夫もろとも死んでしまうではないか!」


「いえ、艨衝(もうしょう)や火船を操舵するのは水夫ではなく水軍兵です。敵船に突入・体当たりをする直前に、水軍兵は水中に飛び込み、川を泳いで自陣に戻ります」


「信じられんな」


曹操はつぶやいた。オレはにっこり微笑んで、


「閣下がそうおっしゃると思い、艨衝(もうしょう)の突撃と火攻めの準備を整えております。百聞は一見に如かず、我が唐県が誇る水軍兵のデモンストレーションをご覧いただきましょう」


そうしてオレは、曹操ほか将軍や参謀たちを鄴の玄武池に案内した。


次回。関興(=秦朗)は曹操に、未来を知っている呉範という【風気術】師が孫呉にいると告げる。呉範の予言という形で赤壁の敗戦を知らされた曹操は、関興と甘寧が催す艨衝(もうしょう)のデモンストレーションに自ら体験すると言い出した!ガクブルの関興。お楽しみに!

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