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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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51.諸葛孔明、劉備に説教する

「劉備将軍。貴公は絵に描いたようなクソ野郎ですね」


諸葛孔明から発せられた侮蔑の言葉が、まさか自分に向けられるとは思ってもみなかった劉備は、呆けた顔で聞き返した。


「は?」


「この童子は、ヘリクツをこねて主人の命令コマンドに平気で背くような、実にかわいげのない下僕なのですが、人を見る目はおおむね正しいのです。

彼は貴公を評して『仁義のかけらもないようなクソ野郎』と言いました」


「臥龍先生、お待ちください!この劉備玄徳、先ほど出会ったばかりの童子に、そのような罵詈雑言を浴びせられる言われはございませぬ」


劉備は憎らしげに童子オレを睨みながら反論する。


「おや、貴公は今までに幾度かお会いしたことがあるはずですがね。分からないなら致し方ありません。

この者の名前は関興。

いま貴公がさんざん悪口を述べた関羽殿の次男坊で、ちまたの情報を集め私に伝える下僕としてそばに置いている者です。


・貴公の劉表殿への失言がやぶ蛇となり、お互いに猜疑しあって本当に曹操が荊州に攻め寄せて来た西平の戦い

・貴公が劉表殿に無断で許都襲撃を画策し、ために曹操軍の反撃にあって新野城に籠城する羽目になった博望坡はくぼうはの戦い

・貴公が戦績を水増しして劉表殿から褒美をだまし取ろうとし、怒った劉表殿の重臣らが貴公に刺客を送った檀渓だんけいの襲撃事件


など、貴公はここ荊州でも数々の致命的な失策を犯しました。

 にもかかわらず、貴公は曹操や劉表に命を奪われることなく無事に生き残っている。

 それは何故だか分かりますか?」


孔明の問いに対し、劉備はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、


「ああ、やはり臥龍先生もそう思われますか!

 実を言うと私もたまに感じていたのです。この劉備玄徳、乱世のさなか、この身に迫る危機をいつも間一髪でかわし続けている。

――もしや私は天の意志によって生かされているのではないか?と」


駄目だ、劉備の辞書には“反省”の文字はないに違いない。


「まさか自分が天に選ばれた人間だ、とでも?もし本気でそう思っているのだとしたら、貴公は救いがたいほど愚かです」


女神様扮する諸葛孔明が劉備に冷酷に告げる。


「貴公が生き残っているのは、天の意志などではありません。味方の助けがあったからです。なかでも貴公の犯した失策を裏で見事に解決し、荊州の主の劉表と客将の貴公の関係が破綻せぬよう間を取り持ってくれているのは、関羽殿とこの関興なのです」


「まさか?!臥龍先生のお言葉ですが信じられません!

夏侯惇に反撃されて窮地に陥った私が新野で籠城していても、あいつは平然として援軍を出そうともしなかった!幸い兵糧が尽きたせいか、夏侯惇が勝手に撤退したため事無きを得ましたが、安全になった段階でようやく関羽は新野に姿を現したのです。

 と思ったら、実は私への援軍ではなく、(はん)城で関平と劉表の娘の婚約披露パーティーを開くために、新野に立ち寄ったらしい。そして「劉備将軍もご出席いただけませんか?」とのたまう。馬鹿にするにもほどがある!」


「お黙りなさい!」


と孔明は一喝した。


「まだ分からないのですか!?

新野の城を囲んでいた夏侯惇が撤退したのは、ここにいる関興の計略に引っ掛かったからです。


 関羽殿が六千の兵を率いて籠城する新野に援軍を送った事実は、新野城の内と外から夏侯惇を挟撃する作戦を取ろう、と矢文で趙雲に知らせたことで明らかです。

 その上で関羽殿は、敢えて北寄りに進路を取りつつ敵の退路を断つ構えを取りながら行軍したため、貴公の目には援軍の到着が遅れたように見えたにすぎません。

 そして(はん)城で関平と劉表の娘の婚約披露パーティーを開いたのは、劉表の荊州兵五千を渡河させて、新野の応援に駆けつけると見せかけるため。


こうして荊州軍一万五千VS夏侯惇率いる曹操軍一万の対決構図ができた。数字上、明らかに曹操軍の不利。だから夏侯惇は撤退に追い込まれた。兵糧が尽きて勝手に撤退したわけではありません」


「そ、そんなはずは……」


劉備は否定しようとするも、孔明は証人を突きつける。


「疑うなら、貴公配下の麋竺びじくや趙雲に尋ねてごらんなさい。困った彼らが秘かに関羽殿へ相談に訪れ、関羽殿と関興がどのように尻拭いしてくれたか、経緯をすべてご存じのはずです」


「まさか……」


「関羽殿に散々世話になっておきながら、でたらめな悪口を滔滔とうとうと述べる貴公はまさに醜悪な、恩を仇で返す者。私の下僕が『仁義のかけらもないようなクソ野郎』と評したのも当然でしょう」


「……」


劉備は茫然として言葉も出ない。フン、ざまみろ。



そして孔明は冷たく劉備に落第を告げた。


「残念ですが、今の劉備将軍に、韓信のように第三勢力として名乗りを上げる器量があるとは思えません。

黄巾の乱に始まった後漢末の乱世の序盤、幽州で義勇軍を立ち上げた劉備将軍はこう言っていました。

――漢の王朝は傾き崩れ、逆賊が世にはばをきかせ、天子様は都を追われてしまった。我々の力は微弱だけれども、忠義の心は誰にも負けぬ。天子様のご正道をお助け申し、力の限り戦って再び天下に大義を打ち立てようぞ。

あの頃の貴公の青雲の志は、いったいどこに行ってしまったのでしょう?」


「あ……」


「貴公は何が目的で新野に駐屯しているのですか?」


「そ、それは我が身を盾として、曹操軍の侵攻から荊州を守るために……」


「そのような建前論を聞いているのではありません。

もっとはっきり言いましょうか。

劉備将軍は劉表殿の荊州をあわよくば乗っ取るつもりで、虎視眈々と新野で機会をうかがっているのではありませんか?」


「………………悪いかよ?」


劉備はそうつぶやいた。

ああ、悪いさ。女神様、このクソ野郎にガツンと言ってやって下さい!


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