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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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49.関興と諸葛孔明、広陵陥落の報せを受ける

ところが。

鄧艾を呼び寄せようとしていたら、鄧艾の方からオレを訪ねて隆中のいおりにやって来た。その絶妙なタイミングに驚いて、


「どうした、鄧艾?まさかオレに永遠の愛を誓ったせいで以心伝心になったとか、わけの分からんことを言い出すんじゃないだろうな?」


「若……俺をあんな腐った鬼畜変態野郎の甘寧と一緒にするのはやめてくれ。実は、曹沖様と麗様から若宛てに至急のふみが送られて来たので、ここまで届けに来た」


えー面倒くさい。お見合い第2弾とか勘弁な。

オレはブツブツつぶやきながら、曹沖様のふみを開けた。



――秦朗殿へ 江東の孫権が長江を渡って徐州の広陵に侵攻、占領した。今後曹操軍が採るべき戦略を協議したい。至急、許都に来られたし。 曹沖



「なっ、なんだって?!」


オレは思わず声を上げた。女神様こと諸葛孔明は鬱陶うっとうしそうに、


「ちょっと、静かにしてよ!今、古畑任〇郎の再放送を見てるんだから!」


と言いつつ、煎餅せんべいをバリボリ音を立てて食べながらオレに文句をたれる。女神様の方がよっぽどうるさいと思うんだけど。


「大変です、女神様!そんな悠長にテレビなんか見ている場合じゃありません。孫権が突然曹操の領有する徐州に侵攻し、広陵城を占領しちゃったそうです!」


「なんですってー?!」


あのぅ、女神様。びっくりするのは分かるけど、お願いだから口に入れた煎餅の破片かけらをオレの顔に飛ばすのはやめてくれ。意外と痛いしババっちいだろ。

オレは顔を手でぬぐいながら、


「女神様が裏で孫権をけしかけたんじゃないんですか?」


「まさか!私が自らそんな歴史を乱すようなことをするわけないじゃない!あんたの方こそ、まーた裏でコソコソと良からぬことをたくらんでるんじゃないの?」


女神様の孔明は疑わしげな眼でオレを睨む。


「知りませんよ!だいたい、オレは孫権憎しで動いているんだし」


と女神様の疑惑を否定したオレは、ふいに荀彧の話を思い出した。


「あっ、そう言えば荀彧が司隷校尉・鍾繇から妙なことを聞いたって。高幹の謀叛が失敗した後、捕まった賊軍の范先が『高幹は江東の孫権にそそのかされて許都の襲撃に踏み切った』と白状したらしい」


「えっ、どういうこと?」


「いやあ、その時はオレも范先が黒幕の名前を伏せるために、苦し紛れに述べたブラフじゃないかと思ってたんだけど……まさか本当だったなんて思いもしなかった」


「なんで?いったいどうなってるのよ?」


女神様も、予想だにしなかった史実改変の事態に困惑している。

オレは悪役令嬢の麗様から送られて来た二通目のふみに目を通した。



――秦朗へ 大変なの!広陵が孫権に襲われたって曹沖に聞いたわよね?実は(こう)(あん)のお父様が、先日亡くなった陳登の後任の広陵太守に任命されてたの。幸い、命は無事だったんだけど、抵抗むなしく城を陥落させてしまった罪の意識にさいなまれているみたい。私、(こう)(あん)のことが心配で……至急、許都に来てちょうだい。お願いよ! 曹麗



「大変だあ!すぐに許都へ行かなきゃ!」


オレは慌てて旅支度を始めた。女神様扮する孔明は、オレのかばんを取り上げて、


「待ちなさい!三日後に二度目の玄徳様の訪問予定なのよ。童子役のあんたが今ここを出て行くなんて、許されないわ!」


「生まれて初めてできたオレの彼女が困ってるんだ!彼氏のオレが(こう)(あん)ちゃんのそばで助けてやらなくて、どうするんだよ?!」


「まあ、ご立派。でもダメ~。あんたの彼女と、あんたを転生させてあげた私とどっちが大切なの?」

(こう)(あん)ちゃんに決まってるだろ!」


オレが即答すると、女神様は憤怒の表情で雷を身にまとった。


「……あんた、また私の天罰【雷天大壮(らいてんたいそう)】を喰らいたいの?」


ずるいぞ!そうやってオレを脅すなんて……」


オレは半泣きしながら抗議する。女神様はニヤリと笑い勝ち誇ったように、


「ご理解いただけたようで良かったわ。私だってかわいい下僕を痛い目に遭わせたくないもの」


と言った時、表にいた鄧艾が顔を出しておそるおそる、


「あのう。お二人の仲睦まじい喧嘩ケンカの最中をお邪魔してすみません。お客さんが来たんですけど」


「は?誰がこんなモブの糞ガキと仲睦まじいですって?!心外ね。で、誰よ?客って」


「劉備将軍ですが」


「えっ?ええっ?どういうこと?玄徳様はさっき帰ったばかりじゃない!」


思いがけない鄧艾の答えに女神様が戸惑う。


「と、とりあえず関興、あんた出て行って玄徳様と応対してちょうだい!」


オレが渋々玄関に向かうと、再びいおりを訪問した劉備は首をかしげながら、


「なあ、童子殿。以前どこかで会ったことはないか?」


フン、ようやく気づいたか。だがオレからは名乗ってやらんぞ。


「さっき会ったじゃありませんか。それでなに?まだ何か用?」


「いや、帰り道でこちらのいおりに向かう若者とすれ違ったのでな。もしや臥龍先生ではないかと思い至り、再びお邪魔したのだが」


(あー、それは臥龍先生の弟で諸葛均……)

と女神様の言いつけどおり答えようと思った瞬間、オレはひらめいた!


「おお!ナイスタイミングでしたねぇ、劉備将軍!

そうなんですよぅ。たった今臥龍先生はこのいおりに帰って来られて。呼んで参りますので少々お待ちを」


とにこやかに告げて劉備を応接室に通し、オレは奥に引っ込んだ。突然の下僕(オレ)の乱心に女神様が焦って、


「ちょっと関興、玄徳様はまだ二度目の訪問じゃないの!演義のシナリオと違う行動を取るなんて、いったいどういうつもりよっ?!」


「うるさい!オレはこんな茶番劇をさっさと終わらせて、一刻も早く許都の(こう)(あん)ちゃんのピンチを助けに行きたいんだ!」


「はあ?この馬鹿チンが!あんた、“三顧の礼”の歴史を狂わせる気?」


「フン。狂わせるも何も、どうせオレはモブの関興だから、“三顧の礼”の巻には登場しないんだ。

ほら、いいのか?いとしいいとしい推しの劉備将軍が、諸葛孔明との対面を首を長~くしてお待ちだぞ」


「下僕のくせに生意気ね!いいわ。後でたっぷりお仕置きしてやるから、覚えてなさいよっ!」


と捨てゼリフを残して、女神様は諸葛孔明モードに切り替え劉備の待つ応接室に向かった。


◇◆◇◆◇


「コホン。劉備将軍、お待たせしました。このいおりの主人である諸葛孔明です」


としおらしく述べて、女神様こと諸葛孔明が応接室に入って来た。

劉備は椅子から立ち上がり、鄭重に挨拶を述べる。


「臥龍先生がお出かけからお帰りになられたところを、すぐに押しかける形になって申し訳ない。私は漢の左将軍・宜城亭侯・領豫州牧にして今は新野県に駐屯する皇叔の劉備玄徳と申す」


「ええ。愚かな下僕から聞き及んでおります。それで、このような草深い田舎にまで足を運ばれて、いったいどのようなご用件でしょうか?」


「……お美しい」


劉備が諸葛孔明に見惚みとれて、思わずつぶやく。


オレは女神様とは長い付き合いで、見慣れているのもあるし意地悪な性格も知っているから、女神様を見てもこれっぽっちも可愛いとは思わない不感症体質になってしまったが、黙っていれば、女神様は神々しさの漂う金髪セミロングの絶世の美女なのだ!


 黙っていれば!(←大事なことなので二度言った)


「やだぁ。そんな心にもないお世辞を言うなんて、劉備将軍ったらお上手ね!も、もう一度おっしゃって下さる?今度は低音イケボで私の耳元でささやくように」


劉備ファンの女神様は推しに褒められて舞い上がり、クネクネと()()を作る。何やってんだか。

童子役のオレは、わざとらしく「お茶をお持ちしました」と言って入室し、女神様の頭をスパンとはたいた。


「何するのよ!痛いじゃないのっ!」


だまされるんじゃねーよ!劉備のクソ野郎は、初対面の人には愛想良く物腰も柔らかで好印象なんだ。女神様も早いうちに奴の本性を見抜かないと、痛い目に遭うぞ!

それに、いいのか?推しの劉備将軍が呆気あっけに取られてるぜ」


オレは小声でそう注意してやった。女神様はハッと我に返って再び諸葛孔明モードに切り替えると、


「コホン、失礼。劉備将軍も遠い所お疲れでしょう。粗茶でございますが、まずは一服いかがですか?

あ、こちらの気の利かない生意気な下僕がれた本当に粗茶ですが、毒は入っておりませんのでご安心を」


「では遠慮なくいただきます」


劉備がお茶に口をつけるのを待って、オレはやにわに告げた。


「……毒は入ってませんけど、さっさとお帰りいただきたいから下剤を混ぜときました」


ブフッとむせて、劉備は口にしていたお茶を吹き出す。

オレはあっけらかんと、


「冗談ですよ。さっさと茶番を終わらせて帰ってもらいたいのは本当だけど」


女神様は関興の頭を両手ゲンコツでグリグリしました。そして関興の口にテープを×点に貼り付け、関興がしゃべれないように処置しました。


次回。劉備は孔明に天下国家を憂う心情を滔滔とうとうと述べる。そのしらじらしさに興ざめの関興。女神様扮する諸葛孔明は、かつての楚漢戦争時代に蒯通かいとうが唱えた天下三分の計を話し始める。劉備はますます絶好調で……。お楽しみに!


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