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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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48.劉備、隆中に諸葛孔明を訪ねる

翌朝。

新野の城に登城した劉備は大声で、


「徐庶!徐庶はおるか?!」


「ここに。何かご用でしょうか?」


「実はな、昨夜、檀渓だんけいで刺客に襲われた」


「なんですと?!それで将軍のお体の方は……」


「フン。俺は傷一つ負っておらぬ。あんな雑魚なんぞ返り討ちにしてやったわ!」


「さすがは将軍。不幸中の幸いでしたな」


自慢げに武功を誇る劉備に、徐庶は安堵する。


「そこでおまえに相談だ。俺を襲った刺客の正体が知りたい。以前、おまえの友人に、変人だが並外れた知恵者の臥龍と鳳雛がいると申しておったな?」


「あ、いや待たれよ。刺客の正体というか黒幕でしょうか、それをお知りになってどうなさるおつもりですか?」


「決まっておる。復讐だ!目には目を、歯には歯をと言うだろうが」


「将軍に賊のお心当たりは?」


「もちろんある。曹操、劉表、関羽。こいつらのうちの誰かだ!」


徐庶は呆れ返り、


「関羽殿は劉備将軍のお味方ではありませぬか!それをお疑いになるとは、いかに賢明な将軍のご推察とはいえ腑に落ちませぬな」


劉備はいやはやと首を振り、


「おまえは関羽の魂胆を知らんのだ。奴は俺を差し置いて劉表の後釜を狙い、荊州牧の座に就こうとたくらんでおる。狡賢こすからい奴なんだ、あいつは!」


「……仮にその御三方が劉備将軍を襲った刺客を雇った黒幕だとして、将軍はどうやって復讐を果たすおつもりですか?博望坡はくぼうはのようにこちらから仕掛けても、失敗は目に見えておりますぞ!」


「だからこそ、俺には()()()()()軍師が必要なのだ!」


こんな不用意なセリフが、軍師として働く徐庶のプライドをいたく傷つけるということに劉備は気づかない。まるで徐庶が軍師として頼りにならないと言わんばかりではないか!

史実でも、田豫・陳羣・裴潜はいせんなど一度は劉備のもとに馳せ参じながら、劉備の虚名と実像のギャップに失望して曹操に鞍替えし、のちに曹魏の名臣として活躍した者は少なくない。


「……まあ、紹介はしますけどね。臥龍も鳳雛も、こんな見込みの薄い復讐劇に知恵を貸してくれるとは思いませんが」


徐庶はやや不満ながらも主君の命令に応じた。


「残念ながら、鳳雛――本名は龐統ですが、彼はすでに孫呉の周瑜に仕えました。臥龍ならまだ襄陽の近郊で晴耕雨読の生活を送っているはずです」


「じゃあ、その臥龍とやらを連れて来てくれないか?一度話を聞いてみたい」


「劉備将軍は、臥龍を軍師として招こうと思っているんですよね?」


「悪いか?……まあ、結果的におまえには我が軍の軍師の座を降りてもらうことになるが。すまんの」


どういう風の吹き回しか、あの傲慢な劉備が徐庶にびる。

……もしかして、昨夜檀渓(だんけい)で刺客に襲われてたのをオレ達が陰でこっそり助けてやったおかげで、あの劉備にも感謝の気持ちが芽生えたのか?まさかな。


「いえ。私など及びもつかぬ知恵者の臥龍を、不肖の私に代えて将軍の軍師に任命するのは当然の成り行きです。しかしながらそれだけに臥龍は気位が高く、呼び寄せるだけでやって来るような人物ではありません。将軍の方から訪問なさるべきです」


「俺の方からか?」


劉備は渋る。徐庶は答えて、


「もちろんです。劉備将軍は臥龍こと諸葛孔明を招聘しょうへいしたがっている。逆に、臥龍は決して劉備将軍に仕えたがっているわけではありません」


「……やむを得んな」


劉備は張飛を連れて、臥龍の暮らす隆中という草深い田舎のいおりを訪ねた。


「頼もう。こちらは臥龍先生のお住まいかと存ずるが、先生はご在宅かね?」


いおりの玄関で劉備が取次ぎを頼むと、奥からパタパタと一人の童子が現れて、


「先生ならいないよ」


と答えた。


「どちらにお出かけで?」


「さあ?一昨日おととい、行先も告げずにふらりと出て行ったきりで、オイラ分かんないや」


「お戻りの日は?」


「知らなーい。明日かもしれないし、一か月後かもしれない」


「てめえ!舐めてんのか!?」


乱暴者の張飛が大喝して童子を脅す。怖さのあまり泣き出すかと思われたが、逆に童子はふてぶてしく地面につばを吐き捨てて、


「ペッ。こっちは親切に先生がいないことを教えてやったんだ。事前に伺いも立てずに勝手に来たくせに、先生がいないからって童子のオイラに八つ当たりとは、あんた何様のつもりだ?とっとと帰りやがれ!」


「なんだと!?ガキのくせに小癪こしゃくなっ」


張飛は腰の剣に手をあてる。


「おっ、抜くか?面白い、やってみろ。抜いたら最後、あんたら主従は出入り禁止な!」


童子は不敵な笑みを見せる。劉備は張飛を手で制し、


「部下がご無礼つかまつった。俺は漢の左将軍・宜城亭侯・領豫州牧にして今は新野県に駐屯する、皇叔の劉備玄徳と申す。この者は張飛」


「ふーん、あっそ。では臥龍先生に、()漢の左将軍・宜城亭侯・領豫州牧にして今は新野県に駐屯する皇叔の劉備将軍がお越しになられたことを伝えときます」


「よろしく頼む。もしお戻りになられたら、連絡をいただきたいのだが」


「えー。オイラが?わざわざ新野の田舎くんだりまで出向くなんて面倒くさい」


「なんだと?!」


「張飛!恫喝はやめろ」


「だってこいつが……」


「いや童子殿、あい分かった。我らは一週間ほど襄陽に泊まりまする。もしその間に臥龍先生が戻られたら、宿舎まで連絡して下さらんか?」


「まあ、それくらいならいいけど……」


童子は渋々同意した。


◇◆◇◆◇


劉備らが帰った後、いおりの奥に戻った童子は、


「ふう。女神様、これでいいですか?」


「上出来よ!関興、あんた役者の才能があるんじゃない?」


と女神様扮する諸葛孔明が、童子に化けた関興オレを褒めた。


「でも、劉備玄徳様が『漢の左将軍・宜城亭侯・領豫州牧にして今は新野県に駐屯する皇叔の劉備玄徳』って挨拶した場面では、『そんな長い名前は覚えられないよ』と、地位や肩書きにこだわる劉備をたしなめる筋書きじゃない?」


「ケッ。むかーし敵の曹操にもらった地位や肩書きを、いまだに自慢げにひけらかしやがる劉備のクソ野郎に、現・漢の虎賁中郎将で唐県侯の爵位を持つオレの方が上だよ、って後から教えてやったら面白いじゃないか!フヒヒ」


オレは意地悪くあざけりの笑みを見せる。女神様は呆れて、


「あんたってば、本当に性格悪いわね!」


「フン、なんとでも言えばいいさ。

ところで女神様。劉備が諸葛孔明を招いた“三顧の礼”は、実際には建安十二年(207)の出来事じゃありませんでしたっけ?史実より三年も早くないですか?」


「なによ!あんたが説教したんじゃないのっ!?さっさと私が歴史に登場して劉備のクソ野郎を矯正しないと大変なことになるぞって」


あー、そんなこともあったな。それはそれとして女神様に言いたいことがある。


「あのさぁ。女神様はいったいオレを一人何役で使い回すつもりですか?

いくら経費節減のためと言ったって、正直オレ自身、キャラの使い分けを混乱しちゃって誰が誰やらわけが分かんないですよ」


「うるさい下僕!あんたは黙って私の言うことに従ってりゃいいのっ」


はいはい。女神様に転生させてもらったオレには、どうせ拒否権がありませんから。


「それで、二度目の劉備将軍の訪問にはどう対応するんですか?」


「弟の諸葛均を出すわ」


「えっ?諸葛孔明の弟って、女神様に弟がいるんですか?」


「いないわ。だからあと三年の間に、諸葛均役の男優をオーディション転生させようかと思ってたのに。あんたが急かすから、碌に準備が整っていないまま“三顧の礼”のシーンに前倒しで突入したのよ!失敗したら、責任はあんたに取ってもらうからね!」


そんなの横暴だ。パワハラ罪で訴えてやる!……あっいえ、何でもありません。


「ねえ。あんたが雇った従者、なんて言ったっけ?トンガリ目の…」


「鄧艾のこと?」


「三日後に彼をここに連れて来なさい。そして玄徳様二度目の訪問の巻を実行するわ!」


「大丈夫かな?すごい人見知りで無口なんだけど」


オレは首をかしげながら、斥候のむささびに繋ぎを取って鄧艾を呼び寄せることにした。


次回。鄧艾が二通のふみを届けに来た。差出人は曹沖と悪役令嬢・麗様。なんと孫権が曹操領内の徐州に侵攻し、広陵城を占領したらしい。史実と異なる展開に驚く関興と女神・孔明。早く許都に向かいたい関興と、三顧の礼の儀式の二回目をやりたい女神・孔明。そんな時に劉備が戻って来て……。


明日は野暮用で更新はお休みします。申し訳ありません。m(_ _)m


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