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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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47.甘寧と関興、檀渓で劉備を助ける

関平兄ちゃんと劉表の娘・舞ちゃんの婚約披露パーティーは、夕刻から盛大に始まった。


劉備の守る新野城に押し寄せた曹操軍を撤退させるべく、劉表の荊州兵五千を渡河させて、新野の応援に駆けつけたと見せかけるために、急遽(きゅうきょ)(はん)城でお披露目パーティーを開いたのだ。


会場にはもちろん劉備の姿もあった。荊州での肩書きは新野県令と唐県令と同格ではあるが、一応、関羽のおっさんの主君だから(しかたなく)呼んだのだ。


「いやあ。先日は荊州に襲来した曹操軍十二万を、五千の我が軍だけで博望坡はくぼうはに迎え撃ち、みごと撃退に成功しましたよ!」


あいかわらず大言壮語する劉備。今日くらい、黙って主賓の関平君に花を持たせるくらいの配慮ができないものかねぇ。


だいたい、敵軍の兵力だけを十倍にして報告するなんて馬鹿じゃないのか?

5,000VS120,000の兵力差では、まともな戦いになるはずがないじゃないか!一方的に劉備軍がなぶられるだけだ。そんなの素人だって分かるわ。


しかし戦の素人の荊州牧・劉表はふんふんとうなずき、


「さすが劉備殿。頼りになりますなあ」


などと感心する。


「ええ。おとりを使って夏侯惇を誘い出し、火計の罠で混乱させて、伏兵を繰り出して撃破したのです!敵の首級を二万あげました」


「ほう、二万も!大したものですなあ。

ということは、貴殿の兵は一人で四人の敵を倒した計算になる。劉備殿の訓練の賜物で、真に無敵の兵ですな」


「お褒めにあずかり光栄です」


「されば活躍した兵士に褒美を取らせる必要がありますな。敵の首級の数に合わせて、金二万銭を授けましょう」


「ありがたき幸せ」


冷ややかな目でホラ吹き劉備の自慢話を聞く蔡瑁や蒯越かいえつらの重臣たち。戦功を過大に報告して褒美の金をだまし取ろうとする劉備に、ついに腹立ちを抑えきれない蒯越かいえつが問いただした。


それがしの耳に入った噂では、劉備殿は曹操軍に博望坡はくぼうはの局所戦では勝利したにもかかわらず、最終的には新野城に攻め込まれた、と。この噂の真偽はいかに?」


「い、いやそれは……」


劉備は痛い所を突かれ狼狽うろたえる。


「また劉備軍の兵五千のうち、死傷者は千を超えるとか。ただ劉備将軍の説明を聞くに、貴殿の兵は一人で四人の敵を倒したそうですな。みな将校に抜擢したいほどの腕前。それがし、まことに感服いたす。

されば、追加の兵を送る必要などありますまい。襄陽の兵は弱兵であるゆえ、かえって劉備将軍の足手まといになりはしないかと危惧いたす。なにしろ、貴殿の兵は無敵ですからな」


「そ、それは……困る」


「何故困るのです?」


返答に詰まる劉備を見かねた関羽のおっさんが、助け舟を出した。


「慣例的に、戦功は十倍に水増しして報告するのが軍事上の建前。

昔、秦の白起が長平の戦いで趙を破った四十万という数字は、実際には四万人の首級をあげただけですし、伊闕いけつの戦いで魏・韓の連合軍を破った二十四万という数字は、本当は二万四千人の首級をあげたにすぎません。

劉備将軍はその慣例に従ったまで。されば、博望坡はくぼうはの戦いであげた首級は、実際のところ二千が正しい数字です。

しかし、わずか五千の寡兵で曹操軍一万二千もの倍する兵を撃ち破った劉備将軍の活躍は、お見事というほかありません。その戦功は十分に嘉するべきと存じます」


「ほう、そういう物かね。わしは軍事に疎いゆえ、ちっとも知らなんだ」


荊州牧・劉表は反省のそぶりを見せる。


「ま、劉備殿には先ほど二万銭を授けると言ってしまったし、今さら前言撤回するのも州牧としてみっともない。そのまま金は与える。また、死傷した千の兵の補充を行おう。

こんな措置でよろしいか、関羽殿?」


「ははっ、真に名君のご判断でございます」


劉表は上機嫌で関羽の肩をポンと叩き、二人並んで娘の舞ちゃんと関平君を祝福しに行った。劉表と関羽が親しく談笑する姿を見た劉備は、


「くそっ、どいつもこいつも俺をコケにしやがって!」


と毒づいて会場を抜け出した。


◇◆◇◆◇


オレが鄧艾と甘寧を連れて(はん)城のパーティー会場に到着すると、開始早々、不機嫌そうな顔をして屋敷を出て行く男とすれ違った。


げっ!劉備やん。

嫌なヤツと出くわしてしまったなぁ。ツイてねえや。

オレはしかたなく「劉備将軍、ご無沙汰しています」と挨拶したが、劉備はオレに目もくれず階段を下り、そのまま額に白い模様のある馬に乗って帰ってしまった。


無理もないか。あいつ子供が嫌いと言ってたし、劉備とオレが顔を合わせて会話したことは過去に一度しかない(第22話)。関興オレを覚えていなくても当然といえば当然なのだが……。


ふとその時オレの目には、気づかれぬよう劉備の後をける怪しい男の姿が映った。そして考え込んでその場に突っ立ったままのオレに鄧艾は焦って、


「若!こんな変態筋肉ダルマに構ってる間に、俺の大切な美味い料理がなくなってしまうかもしれません!」


「安心しろ、パーティーは今始まったばかりだ。おまえはさっさと食いに行け」


「了解!お先にー」


と言って鄧艾はパタパタと走って行く。一方、甘寧は振り返ってオレに尋ねた。


「劉備将軍がどうかしたのか?チビちゃん」


「いや、なんとなく気になってな」


「またいつものアレだろ。劉表殿の前で大風呂敷を広げたあげく嘘がバレてしまって、関羽将軍にフォローされたのが気に入らないって」


「んーそうかもな」


オレの生返事に苛立った甘寧は、オレの頬っぺたをギュッとつねる。


「痛てぇな!何すんだよ?!」


「劉備将軍の何が気になるんだ?って聞いてるんだ!」


「ああ、悪りぃ。甘寧おまえ、的盧てきろって馬知ってるか?」


「額に白い模様のある馬のことだろ。乗り手に祟りをなすらしいな」


やっぱり……。たぶん今夜、劉備は檀渓だんけいで、蔡瑁だか蒯越かいえつだかの荊州の重臣が放った刺客に襲われる!


「どうしようかな?助けに行くか迷うなあ」


さっき劉備に知らん顔されちゃったし、べつにオレ自身は劉備に何の恩義も感じていないし。それに下手に劉備を助けたことで、重臣の蔡瑁や蒯越かいえつらににらまれたくもないし。

ただ、劉備に長年連れ添った関羽のおっさんは、奴が刺客に殺されでもしたら悲しむだろうな。


「しかたない。甘寧、ついて来てくれないか?」


「いいぜ。ほら、花郎ファラン。俺様のここにキッスしやがれ!」


と右の頬っぺたを指差す。


「……やっぱりいいや」


「冗談だって!チビちゃん、劉備将軍を追うんだろ?さあ行くぞ」


甘寧はオレを抱えて馬に乗せ、檀渓だんけいに向かって駆け出した。

が。


「……おい。オレの背中にゴツゴツした硬い邪悪なモノの気配を感じるんだが、気のせいか?」


「ああ悪りぃ、俺のマグナム砲だ」


「うげっ、マジかよ?!最悪やん。勘弁してくれ!」


「しかたねえだろ!生理現象なんだから」


「おまえさ、ショタのオレに発情するとかR15的にアウトだぞ」


「違げぇし!俺、戦の前に気持ちがたかぶるとチ〇ポが勃っちまうんだよ」


雄の闘争本能でアドレナリン?が放出されるってやつか。今は我慢してやる。今だけな。


「甘寧見ろ、劉備将軍が襲われてる!敵は三人だ!」


「チビちゃん、馬の操縦はできるか?俺が弓で刺客を狙う」


「おう、任せろ!」


オレが馬の手綱を握り、その背後で甘寧は馬上で弓を引き絞ると、狙いを定めて続けざまに矢を放つ。二射、三射。矢はみごと劉備を襲う三人の敵に突き刺さった。どこからともなく飛んで来た矢にひるんだ刺客を、劉備は三人とも斬り殺した――が。


「あっ。的盧てきろ檀渓だんけいの水中にはまって出られなくなってる」


「だっせぇー(笑)。せっかく俺様が加勢してやったのに。どうする?わざわざ出て行って劉備将軍を水中から引っ張り上げてやるか?」


いや、オレたちが表に出るのはまずい。ここは史実のシナリオに託そう。


「的盧、的盧。俺の運命を妨げるか?!」


劉備が必死に叫んで鞭打つと、的盧は突然飛び上がり一躍対岸へとたどり着き、そして新野の城へと一目散に駆けて行った。


やれやれ。世話の焼ける奴だ。

っていうか、劉備ファンの女神様は、推しのピンチに何をやってるんだよ?

ま、劉備本人にも重臣の蔡瑁らが放った斥候にも、オレと甘寧が助太刀したことはバレていないだろう。檀渓だんけいでの劉備襲撃事件は知らぬ存ぜぬで通すぞ。


こうしてオレたちは何食わぬ顔で(はん)城のパーティー会場に戻り、平兄ちゃんと舞ちゃんの婚約を心から祝福したのであった。


次回。史実よりも三年早いけれど、いよいよ劉備と諸葛孔明の三顧の礼の場面が訪れる!劉備との対面を心待ちにしていた女神様扮する諸葛孔明は、どう応対するのでしょうか?お楽しみに!

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