44.関羽、将来勇躍するための秘策を語る
多くの方に『三国志の関興に転生してしまった』をご覧いただき、ありがとうございます。
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ちなみに、オレがイメージする史実の曹操・劉備・孫権の英傑像は、
曹操「漢帝に代わって俺が天下を統一してやる。もちろん成し遂げた暁には、皇帝の座を譲ってくれよな」
劉備「戦下手だけど、漢帝を奉じて漢の中興を図りまーす」(建前)、その結果「漢帝の遠い血筋の自分に次の皇帝の座を譲ってくれれば儲けものだぜ」(本音)
孫権「漢がどうなろうと知ったこっちゃない!俺は江東で覇王となればそれでいいんだ」
なんだよな。
まあ、この世界の劉備には「尊王」の“そ”の字も見えないが。
関羽のおっさんと曹操は、相性的には悪くないと思う。現に史実でも、一時的にではあるが、関羽は曹操の配下だった時期がある。
三国志演義でも、赤壁の大敗後、追い詰められた曹操を関羽が華容道で見逃す一幕は、報恩と君命のはざまで揺れる関羽の心情がみごとに描かれている。前世三国志フリークだった秦朗が最も好きな場面なのだが、やはり関羽には曹操を慕う気持ちがあったと見てよい。
だから、この世界の関羽のおっさんは劉備を見限って、曹操に乗り換える可能性は十分にあるとオレは思っている。
幸いなことに、関羽のおっさんは西平の戦いの際、オレの提案で曹操と“埋伏の毒”の約定:
『劉備のそばに付いて、奴が荊州次に孫呉で乗っ取りを企むのを黙って見ていろ。内部攪乱された敵勢力を、わしが屠るのは簡単だからな』
を結んだ。
あの時は、唐県県令として己の首と引き換えに唐県の安堵を曹操に頼むつもりだった関羽のおっさんの窮地を救うために、オレがとっさに思いついた苦肉の策だったのだが……。
でもなあ。関羽のおっさんの信念が戦乱のない平穏な暮らしの実現だと知った今、世間を欺きながら、鎮南将軍と荊州刺史の褒賞を狙って曹操の“埋伏の毒”として生きて行くのは、おっさん自身の気持ちを偽ることになるんじゃないのか?
だとすれば、余計なおせっかいだったかな?
「いや、おまえの機転には何度も助けてもらった。感謝こそすれ、余計なおせっかいなどと考えたこともない」
それなら安心だけど。
繰り返しになるが、戦乱のない平穏な暮らしはまさに今、荊州の唐県で実現できている。
それはある意味、二十年間も戦争を避け続け、曹操の侵攻から防御するための盾として劉備や関羽のおっさんを雇った平和ボケ荊州牧・劉表のおかげでもある。
「ああ、そのとおりだ。劉表殿に受けた恩義は、きちんと返さなければならぬ。だから俺は、劉備将軍の荊州乗っ取りを黙って見過ごす気はない。
しかし残念ながら、俺の戦力はまだまだ曹操閣下や呉の孫権に伍して行けるほど整っているとは言いがたい。されば、しばらくは劉備将軍にも曹操閣下にも面従腹背で対応し、俺の意中の英傑が成長するまで雌伏して時間を稼ぎ、荊州を足掛かりに戦力を養おうと思う」
おお!!
関羽のおっさんは、オレの構想よりさらに一歩踏み出し、曹操閣下との約定を利用して今は雌伏し、曹操・孫権そして劉備に次ぐ第四勢力として、将来勇躍するための力を荊州で貯えようとしているのか?!
フフッ。関羽のおっさんも意外と策士だな。面白い、もちろんオレも乗ってやるぞ。
「ありがたいことに、俺にはおまえがせっせと稼いでくれた莫大な資金がある。これを元手に兵力の充実を図った。水軍を増強し、強弩を千張調達したところだ」
「船大工の謝玄に修理を依頼しているボロ楼船と、新造の楼船の2隻だけではなく?」
「ああ。突撃艦の艨衝を20隻注文した。一方、甘寧を使って漢水に跋扈していた河賊を帰順させた。いまや水軍兵千五百と水夫(漕ぎ手)を五百人確保しておる。屯田兵と傭兵を合わせれば、兵力は一万を超えるだろう」
素晴らしい!いつの間にそんなに兵力を充実させたんだ?やはり関羽のおっさんは名将に違いない。
「でも、父上と甘寧の二人だけでは、指揮する将軍が足りないのではありませんか?
オレの従者に鄧艾という者がいるのですが、なかなか見どころのある奴でして。父上に預けますので、将来の将軍候補として鍛えてやって下さいませんか?」
「鄧艾か。おまえの目に適う者なら喜んで採用しよう。他には、河賊から見込みのありそうな周倉という者を抜擢するつもりだ。
それから、平を甘寧に預け、水軍の指揮官として育ててもらおうと考えておる」
ぎゃー!
オレの大事な関平君を変態甘寧に預けるなんて、ヤツの毒牙に嵌められる危機じゃないか!あの無駄にイケメンの変態筋肉ダルマめ、関平君にいったい何をハメる気だ?!そんなの羨まけしからん!
い、いや違う。真面目モードに頭を切替えなければ。
「へ、平兄ちゃんはまだ12歳の美少年です。少し早すぎませんか?」
いかん。将軍育成の話なのに、美少年の関平君とか口走ってしまった。まだ少し話が脱線気味のようだ。
「何を言っておる!5歳のおまえが活躍しているんだ、12歳の平もできぬことはあるまい。それに将来、おまえが最も信頼できる兄弟として、平には立派な武将に成長してもらわねばならぬ」
……いや、関興の“中の人”は前世24歳で死んだ三国志フリークの秦朗なんだから、社会人経験者のオレがこの世界で渡り歩くのは、そんなに難しいことではない。
だが、12歳ってまだ小学生の子供じゃないか!周囲の過度な期待がプレッシャーとなり、関平君が潰れなきゃいいが。
「そのために平に嫁を娶らせる。好いた女に癒してもらい、子作りに励めばよかろう」
「!!それは、おめでとうございます」
よかった~。これで変態筋肉ダルマの甘寧の毒牙から、関平君の貞操が守られる!
いや待て、12歳で子作りだと?!前世24歳+5歳の秦朗より先に童貞卒業!?
ぐぬぬ。それはそれで黒い邪念が……。
駄目だ、真面目モードに頭を切替えなければ!
「実は、荊州牧の劉表殿の方から打診があったのだ。娘を嫁にもらってくれぬか、と。変節極まりない劉備将軍よりも、俺を頼りにしておると言ってな。
なればこそ尚のこと、劉備将軍の荊州乗っ取りを黙って見過ごすわけには参らぬ。もちろん俺も、願ったり叶ったりだと快諾した。平の元服を待って結婚式を挙げさせよう」
なるほど、関平兄ちゃんの元服まであと二,三年と言ったところか。
いま建安九年(204)だから、四年後の赤壁の戦いにはギリギリ間に合うタイミングだ。
いずれにしても、孫呉の侵攻による江夏失陥で黄祖が敗死する前に、関羽のおっさんが江夏郡を掌握するか、江夏の船団が孫呉に奪われるより先に、できるだけ多く楼船・艨衝を、我々の掌中に収める必要があるな。
うーむ。オレの三つの行動目標を含めて、いろんなミッションが複雑に絡み合い、難しい舵取りを迫られそうだ。
そんな時に、劉備が麋竺を唐県に派遣して来たのだった。
次回。ついに曹操軍と劉備軍が博望坡でぶつかり合う!徐庶の火計で夏侯惇は撃退するも、敵の策士・賈詡の逆襲で新野城に追い込まれた劉備。気は進まないが、奴のピンチを救うために関興が動く!お楽しみに。