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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
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05.関興、西門豹に倣い灌漑を提案する

富国強兵と言えば、戦国時代の西門豹だよね!

関興の前世の知識チートが始まります。

屯田か。

棘祇そうしが反対を押し切って計画立案し、任峻じんしゅんら優秀な農政官が事業を引き継いで莫大な兵糧を貯えたおかげで、曹操は天下に富強を誇ったと伝えられている。関羽のおっさんは、その曹操軍に倣おうというわけだ。


だが、相次ぐ戦乱に新野県の住民は逃げ出して、荒れ果てた耕作放棄地を耕すだけではとうてい自給自足にはほど遠い。五千の駐屯兵を食わせるには、新たに開墾が必要だ。


いや、劉表から預かった五千の兵だけじゃ全然足りない。性根の腐った劉備の野郎を見返すためには、関羽のおっさん直属の兵だけで少なくとも五千は欲しい。

だとすると……


◇◆◇◆◇


関平兄ちゃんが赤ん坊のオレに、昔話の読み聞かせをしてくれる。


「昔、ある所に三匹のこぶたがいました。お兄さんこぶたはわらでわら人形を、真ん中こぶたは木で木槌きづちを、弟こぶたは石で五寸釘を――」


やだ、関平君は心に闇を抱えているんじゃないの?オレはとっても心配だよ!

関平君には悪いが、24歳の知能を持つオレにとって昔話は退屈なのだ。

思わずふぁ~っとあくびをすると、


「あれっ、興はもうおねむなの?」


と言って毛布を掛けてくれる。

優しいなぁ美少年の関平君、好きだよ。チュッ。いや違う、オレはバブーと毛布を蹴飛ばすと、ハイハイしながら本棚に向かい、『史記』の表紙を叩く。


「興、ダメだよ。本は大切に扱わないと!えっ、読むの?」


「バブー」


「どうしよう?僕、難しい本は読めないよ。困ったな」


関平君は関羽のおっさんを呼びに行く。


「父上!興が変なんだ。赤ん坊のくせに『史記』を読んでくれってせがむんだよ」


「ハハハ、興ちゃんが?まさか」


オレは『史記』の滑稽列伝を開いて、やって来た関羽のおっさんにバブー(さっさと読め)と催促した。


その昔、ぎょうの太守・西門豹は長老を集め、漳河から水路を開き、鄴の田畑へ灌漑する事業を始めようと説得した。鄴の住民は困難を極める工事に対し「今のままでも暮らしていけるのに、太守様は何故これほどつらい労役をわしらに課すのか」と不平を漏らした。西門豹は「おまえ達が不満なのは分かる。だが、今おまえ達に苦労を強いるのは、孫子まごこの代まで食うに困らず、幸せに暮らせるための基盤作りなのだ」と述べて、灌漑工事を完遂させた。


西門豹即ち民を発して十二の渠をうがち、河の水を引いて民の田にそそぎ、田は皆(うるお)う。

【訳:西門豹は城の民を集めて十二の水路を開き、河の水を引いて灌漑したため、田は潤(い、米がたくさん収穫できるようにな)った。】


この灌漑により、鄴は国一番の穀倉地帯となって大いに栄えた。住民は喜び、西門豹の事績を称えた。今でも鄴には、西門豹を祀る祠が建てられているという。

そして鄴を支配する戦国の七雄・魏は、西門豹が蓄えた米穀を元手に富国強兵に成功し、天下に覇を唱える強国となった。


関羽のおっさんは「うーむ」とうなり、しばし熟考した後、地図を取り出してにらめっこした。それから佰長を呼んで質問した。


「この辺の地理に詳しい兵卒はいるか?」


「ああ、李凱が新野県の出身ですよ。隊長に将来なりたい夢を問われ、太守になりたいと答えた者です」


「明日はそいつを連れて来てくれ。それと、兵隊千人の中には、工作が得意な者もいるんだろ?」


「もちろんいますが……」


「よし、そいつらには設計をさせよう。屯田と並行して、川から水路を引く事業を進めるぞ。灌漑・開墾して、大いに田畑を広げるんだ」


◇◆◇◆◇


翌日から、関羽配下の兵隊は大忙しだった。


工作が得意な兵隊のうち、知識とやる気が見える楊賢ら十人を選んだ関羽のおっさんは、地図を片手に現地の地形と見比べながら李凱に村を案内させ、工兵十人に灌漑用の水路を掘るルートを検討させた。


残りの者にはすきくわを持たせて荒れ地を耕させた。大多数が元は農民の次男坊・三男坊だったせいで、兵たちはぶつぶつ文句を言いながらも真面目に働いている。やっぱりこいつら、屯田兵に向いてるんだろうな。


昼飯後はいつものように鬼捕子(おにごっこ)だ。関羽のおっさんと佰長の鬼に追われ、捕まった兵は罰として腹筋・腕立て二百回ずつを課された。まあ、結局今日も全員捕まってしまったのだが。


「隊長!毎日農作業の後に全力疾走そして筋トレなんて、地獄の特訓すぎます!」


「っていうか、なんで毎日鬼捕子(おにごっこ)なんですかぁ?」


筋トレが終わりひと休みしている兵隊の一人・陳京が、勇気を出して関羽のおっさんに尋ねる。


「おまえらのようなショボい屯田兵にとって、一番大事な任務は何だ?」


「えっと、将軍の命令に従うこと」


「正解。ま、兵隊なら答えられて当たり前だな。だが仮に俺が突撃命令を下して、おまえ達は敵に突っ込めるか?」


「えー無理です。だって怖いもん」


情けない返事を即答するなよ、陳京。だが、関羽のおっさんはご機嫌で、


「ははは、素直でよろしい。それが分かっているから、俺も突撃命令など出さん。では、俺がおまえ達に出す最も重要な命令は何だと思う?」


「敵が攻めて来たら、住民の安全を守れ!ですか?」


「そうだ。しかし、今のヘタレなおまえらに住民が守れるか?」


「……無理です」


「うむ。だとすると俺は、城の外で田畑を耕作する住民が安全に城内に逃げられるように誘導しろ、とおまえ達に命令するだろうな」


「「!」」


「パニックに陥った状態で住民がどのような思考・行動をするかは、今までのおまえ達自身の動きで理解できただろ?だったら、その時どういう誘導があれば住民が安全に城内に逃げられるかを考えながら、明日は逃げてみるんだな」


そのための鬼捕子(おにごっこ)だったのか、と陳京ら兵隊たちは納得する。


「はい、明日から全力で頑張ります!」


「あ、そうだ。隊長や佰長に反撃してもいいんですよね?」


「ほほう、面白い。やれるもんならやってみろ。その代わり、俺たちもおまえらにお返しをお見舞いするけどな」


ニヤリと笑って関羽のおっさんは返事した。


「こ、怖ぇーっ!」


「馬鹿!なんてこと言うんだ!本気の隊長に敵うわけないだろ!」


そう言って兵たちは、初めてヤル気を出して明日の作戦を練るのであった。


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