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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
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[番外編]秦朗、人生初の彼女ができる

あらすじ

関興=秦朗は曹林に扮して、鄧艾とともに6対6のお見合いパーティーに出席した。

でもなんか様子がおかしい。

「ちょっと!いつまであたしの手を握ってるのよ?いやらしいわね、この変態!」


「あっ、ご、ごめんなさい」


曹林様は慌てて手を放す。


「あなた!助け起こしてやろうとした人に向かって、その言い草はなんです?!」


麗様が、ヒロインちゃんこと董桃とうとうに向かって苦言を呈する。

しかしヒロインちゃんは、つーんと麗様を無視してキョロキョロと辺りを見回し、イケメン揃いの攻略対象4人の元に駆け寄る。


「どうもー初めまして。桃で~す!ちょっぴりドジな所を見せちゃってごめんなさいッ☆もう恥ずかしいなぁーテヘッ!」


イケメンにあざとくこびを売るヒロインちゃんに、呆気にとられる女性陣。


というか、私は分かってしまった。

――ヒロインちゃんも転生者なんだ。しかも逆ハーレム狙いの。


攻略対象たちはドン引きしている。初対面の女性に馴れ馴れしく腕を組まれたり、上目遣いで目を潤ませられたって、10歳の男の子がキュンと来るわけがない。むしろ逆効果だと思うわ。キャバクラじゃあるまいし。


しかしヒロインちゃんに負けじと、寿じゅ様・りん様・椿ちん様も、荀粲じゅんさん様・夏侯楙様・夏侯覇様・何晏かあん様の四人のイケメンとお近づきになろうと、積極的に彼らの元に向かった。


残された曹林様・従者の鄧艾さん・麗様そして私の四人は、その様子を眺めていた。


「曹林様は、あの輪の中に入らなくていいの?」


と従者の鄧艾さんが曹林様に尋ねる。


「無理無理無理!というかオレ、令嬢たちに相手にしてもらえないじゃないですか」


「まあ、君の年齢があと5歳上だったら良かったのにねえ」


「いえ、それでもオレは相手にしてもらえないと思います。皆さんのようにイケメンじゃないし」


「えーそんなに卑下することないと思うよ。君は曹操閣下や荀彧様に一目置かれているんだし。ねえ、麗様?」


「私に振らないで。林、あんた特技とかないの?」


と麗様が曹林様に尋ねる。曹林様はチラリと鄧艾さんを見て、


「弓ならまあ、得意ですけど……」


「おっ、僕の特技にかぶせて来たね。勝負しようか?」


「オレに拒否権がないのは知ってるくせに」


「ハハハ。よく分かってるじゃないか」


鄧艾さんは曹林様を誘って庭に出、十五間離れた場所にまとを置く。なぜか麗様は楽しそうに二人の勝負を眺めている。私も麗様に付いて庭に出た。


「ま、ここから矢を射て真ん中に当てるくらい、君には簡単だろ?」


「はあ、まあ……」


「それじゃあ面白くない。的は五重の円になっていて、内側から10点・8点・6点・4点・2点となっている。お互いが言った番号の部分に当てるのはどうだい?」


「分かりました」


「先攻は君に譲るよ。まずは君の腕を見せてもらおう。10点」


曹林様は弓を構えて矢を射る。真っすぐに放たれた矢は、見事的の真ん中を貫いた。鄧艾さんはパチパチと拍手し、


「うん。得意と言うだけあって見事な腕だね」


「ありがとうございます。そっ……と、鄧艾」


だから“そっ”って何なのよ?おまけに呼び捨てにするくせに、丁寧語で話すなんて。


「次は僕の番だね。番号は?」


「では2点を」


鄧艾さんはフフッと笑って、


「いいのかい?二番目に簡単な所を指定するなんて、後で泣く目にあうよ」


と言い、軽々と矢を射た。矢は的の上部の2と書かれた番号に刺さっている。


「すご~い」


私は鄧艾さんの神業かみわざに驚いて、思わず口走った。


「ま、こいつの腕なら当然じゃない?」


えっ?もしかして、悪役令嬢の麗様と従者の鄧艾さんって知り合い同士?


「じゃあ、次の番号は(あん)ちゃんに決めてもらおうかな」


「えーと、4点?」


「!」


曹林様の顔が強張こわばる。


「あの……私、なんか変なことを言っちゃったかしら?」


この世界、死と音が同じ4の番号が不吉だとか。鄧艾さんがニヤリと笑いながら解説してくれる。


「いや、単に難しいだけ。普通、4点なんて狙う場所じゃないからねえ」


曹林様は、大きく息を吐いて的を睨む。虚空を見上げ、眼をそっと閉じる。自分が矢を射抜くイメージを思い浮かべているようだ。

あ、この感じどこかで……。


前世の高校時代、弓道部にいた先輩。普段は全然パッとしない先輩だったけど、試合の時に袴姿で姿勢よくキリリと弓を構えた先輩は、凛々しくてすっごくカッコ良かった。

一度だけ、その先輩にバレンタインデーのチョコレートを渡したことがある。「えっ、俺に?!」と言いながら、照れくさそうに受け取ってくれた先輩。

ああ、その先輩の癖にそっくりなんだ。


「が……頑張れっ、曹林様!」


私は思わず応援の声をあげた。曹林様はこちらを振り向いて、ニコッと笑った。

その様子を見ていた麗様は、鄧艾さんをひじで小突いて、


「ちょっと!この二人いい感じじゃない?」


「だねえ。僕もお似合いだと思うよ」


「私のかわいい友人を紹介してあげたんだからね。貸しは大きいわよ!」


「分かっているとも」


鄧艾さんはやれやれと肩をすくめた。


「で。あなたはいつまで鄧艾とかいう従者のフリをしているの?」


「ハハハ」


「笑って誤魔化さないの!まあ、あなたがそんな恰好をして本来の姿を隠している理由は、あの桃って子のび具合を見れば納得するわ」


「だろ?将来の伴侶となる人には、僕のことを身分とか容姿とかそんな外面だけで判断されたくないんだよね」


「フフン。ちゅうったらロマンチストな乙女みたい」


「なんとでも言ってくれ。あっ、いよいよ秦朗が射るよ」


パーンと音がこだまして、矢は見事右手4点の同心円を射抜いた。


「すごい!」「お見事!」


私・麗様そして鄧艾さんもパチパチと拍手して、曹林様の腕をたたえる。


「参ったよ。君の勝ちだ」


「えーここで試合放棄なんて駄目ですよ!」


額の汗を拭った曹林様が、不満そうに頬を膨らませる。リスみたい。


「ねえ林、あんたはこのあんのことをどう思うのよ?」


麗様の質問に曹林様は真っ赤になって、ちらっと私の顔を見ると、


「かっ……かわいいと思います。応援してくれて嬉しかったし」


「ふーん。満更でもないわけか。ねえ、あん。あなたはこの男二人をどう思う?」


どうって言われても。


「身分的にも容姿的にも平凡な私には、あちらの攻略対象……じゃない、大貴族のご令息の方々なんて高嶺の花。鄧艾さんみたいな従者の方が、お見合い相手としてはホッとします。曹林様は、同じモブキャラ同士、弟みたいに思えて好感が持てます」


麗様と鄧艾さんが顔を見合わせる。


「あのね、あん。もしもの話なんだけど、この秦朗……じゃない、曹林があなたと同じくらいの身分だったら、お付き合いしてみてもいい?」


「な、ななな何言ってるんですか?!麗様!」


と言ってうろたえる曹林様。ちょっとかわいい。私はふと意地悪してみたくなって、


「そうですねえ。いきなり付き合うのはちょっと……ですけど、友達から始めるのなら、全然「あり」かな?」


麗様と鄧艾さんはバンザイして、


「「よし。二人とも付き合っちゃえ!」」


えええーっ?!突然ハモって何を言ってるんですか?

だから私は、身分的にも容姿的にも平凡なので、曹林様みたいな大貴族のご令息のお相手なんて高嶺の花なんですってば!


「杏。これはお父様の命令よ!今日のお見合いで、この()()を是が非でも曹魏の貴族の令嬢と婚約させなさいって言われていたの。

だからお願い!秦朗のことを好感が持てて、友達から始めるのは全然ありなら、私たちを助けると思って、秦朗と婚約しちゃって!」


「ま、待って下さい!いくら麗様の頼みとは言え、すぐに返事するのは無理です!」


鄧艾さんがうんうんとうなずいて、


「そうだよ、麗姉さま。いくら政略結婚が当たり前だからって、友人の令嬢に強要は良くないと思うよ。僕だって、父上が勝手に決めた婚約に反発して破棄し、フリーのまま今に至るんだ」


「あのう。さっきから不思議なんですけど、鄧艾さんって麗様とすごく親しいんですね」


「アハハ。バレちゃった?僕の本当の名前は曹沖。つまり麗姉さまの弟。

そして、この子の本当の名前は秦朗。僕の異母弟・曹林の双子の弟。つまり、僕や姉さまとは血の繋がりのない義理の弟って間柄かな?」


「はあ……」


分かったような分からないような。


「ああ、秦朗様が鄧艾さんを呼ぶ時、“そっ”と詰まっていたのは、曹沖様って言おうとしてたわけですか!」


私は一人納得した。じゃあ、“かっ”って何?べつにどーでもいいけど。


「でも私の意向だけじゃなくて、秦朗様の意向も聞いた方が……」


「ああ、いいの。秦朗には拒否権なんてないから。そうよね?」


「……ハイ」


かわいそうな曹林、じゃなくて秦朗様。ここに来て、麗様の悪役令嬢っぷりが堂に入っている。


「杏、心配しないで。こう見えても秦朗は、お父様や荀彧様も認める逸材。おまけに私や曹沖の言うことを何でも聞く、とっても素直ないい子なの。

将来の出世は間違いないし、見た目どおりのモブ男だから、浮気の恐れも無し!

あなたを泣かせるような目に合わせることはないと思うわ」


それは悪役令嬢の麗様が怖いからじゃないかな……と思うけど。


「分かりました。とりあえず秦朗様とはお友達から始めて、お互い仲良くなれたら婚約するかもってことでいいですか?」


私の前向きな(?)返事に、麗様も曹沖様もニッコリ笑って、


「「いいとも!」」


と答えた。


良かったね!秦朗はたあきら、24歳+5歳にして、人生初の彼女ゲット!

その頃。本物の鄧艾は、宮殿の控えの間で優雅にアフタヌーンティーを満喫しながら、関興の帰りを待ってたんだとさ。


こんなくだらない番外編を書くくらいなら、さっさと『三国志の関興に転生してしまった』の続きを執筆しろよ!と思われた方もぜひ、

★★★★★をお願いします。続きを書く励みになります。

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