表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第一部・関興転生編
4/271

04.関羽、新野の兵士たちに一喝する

関羽による富国強兵が始まります。



史実によれば、関羽は、兵たちに対して威圧的な態度や横柄に接することをせず、恩徳と信義によって軍を束ねることを理想とした。

兵たちには大まかな原則のみを理解させ、細かい規則や厳しい軍令で苦しませることはしないよう、寛容を心掛けていたらしい。


この世界の関羽のおっさんは、劉備将軍から兵千人を預かると、早速翌朝から訓練を開始した。

籠に入れられた赤ん坊のオレは、ベビーシッターとともに木かげで訓練の様子を眺める。ランニングの途中で息切れし歩き出す者、腕だけで木刀の素振りを行なう者、隊列移動では軍旗の指示を覚えておらず戸惑う者……やはり荊州兵は長年の平和に慣れすぎたせいか、随分と弛緩している。

オレが高校時代に所属した弓道部の新入部員よりもひどい。

確かにこれじゃ、曹操軍に攻められた劉表の息子の劉琮は、戦いを放棄して降伏するはずだ。


さて、関羽のおっさんはどうやって兵たちを鍛え直すんだろう?


「おまえら、たるんどる!」などと喝を入れるのは逆効果だ。

今どきの若者は打たれ弱いのだ。「ボクだってなりたくて兵隊になったんじゃない!」とか逆ギレして、夜中に逃亡してしまうかもしれない。

あるいは、「おまえだって戦いに負けて逃げて来たくせに!」とか「よそ者の言うことなんか聞いてられるか!」とか兵たちに反発されるかもしれない。

だからと言って、この緩み切った状態を大目に見ると、兵を束ねる佰長や伍長らに関羽自身がナメられてしまう。かじ取りが難しいところだ。


「皆の者、集合!」


関羽が号令を掛ける。そして集まった兵どもに、


「おまえら、軍隊としてなっとらん!」


と一喝した。案の定、兵たちはぶーぶーと不平を口に出す。


「昼飯を食ったら鬼捕子(おにごっこ)だ。おまえら全員全力で逃げろ。鬼は俺と佰長の十人、捕まったら罰として腹筋・腕立て二百回ずつな。覚悟しやがれ!」


と言って解散した。



関羽のおっさんは佰長(百人一部隊の隊長)十人と昼飯を食いながら、配下の兵たちの出自を聞く。予想どおりほとんどの者が農家の次男・三男で、食い詰めたり、一家に男一人の徴兵義務を負わされたりしてやむなく軍に入ったのだった。

だから士気が奮わないのは当たり前で大目に見てやってくれ、と頼む佰長の言葉に、関羽のおっさんは「むしろ好都合だ」とニッコリ微笑んだ。


◇◆◇◆◇


原っぱに鬼が降臨した。


凄まじいスピードで原っぱを駆け回る関羽のおっさんと佰長に、逃げ惑う兵たちは次々と捕らわれて行く。四半時(30分)も経たない間に、千人の兵は鬼にすべて捕獲されてしまった。


「おまえら、だらしねえなあ。四半時もたねえじゃん。やっぱ使えねえな」


腹筋・腕立てを二百回ずつやっている兵たちに向かって、関羽があおる。


「しかたねえじゃん!俺たち、なりたくて兵隊になったんじゃねえし!」


そうだ、そうだと怒号が上がる。やっぱり。


「ほぉう、だったら何になりたいんだ?面白い。おい、おまえの夢を言ってみろ!」


「し…将軍になって天下統一を目指したい、です」


「ぶはっ。バッカじゃね?四半時ぶっ通しで走れる体力すらないくせに、戦場でどうやって兵隊の指揮ができるんだ?無理無理。悪いことは言わん、やめとけ」


関羽は隣りの兵を指名する。


「ぐ、軍師とか?」


「かぁーっ!おまえ孫子の兵法とか読んだことある?そもそも軍旗の合図どおりに動けない奴に、軍師なんか務まるかよ!指令が混乱して、兵隊全滅するわ」


「自分は商人になって大金持ちに……」


「あのな、商人ってのは元手がいるんだぞ。おまえいくら持ってる?えっ、金がない?そっかぁ、残念だな。先立つ物がなければ、商人にはなれそうにねぇわ」


「僕は郡の太守になって、州民の暮らしを安寧にしたいのです」


「ふん、そりゃ高尚なお考えで。『倉廩そうりん満つれば則ち礼節を知り、衣食足れば則ち栄辱を知る』って知ってるか?」


「き、聞いたことがあります。たしか管子の一節」


「おっ、当たり。経済を豊かにし、民が食い物に困らず日々の暮らしが満ち足りれば、自然と国が治まる。

幸いなことに、今の荊州は全体的に見れば平和で食い物も豊富です。

しかしながら、諸君が派遣されて来たこの新野県は、曹操の支配地に隣接し過去に何度も侵略されたことがあります。

そのせいで、ご覧のとおり荒地が広がり、住民の耕作もままなりません」


突然始まった関羽のおっさんの演説に、兵たちはいぶかしげに耳を傾ける。


「住民たちが安心して耕作できるように、そして日々の暮らしが満ち足りるように、我ら駐屯兵が彼らの安全を守ってやるんだと張り切ってこの部隊に着任しましたが、諸君のブザマなていたらくぶりを見て、俺は諦めざるを得ませんでした。

しかも諸君らには、軍隊としての気概も、やる気もありません」


「だ、だけどよォ……」


「俺は悲しい!」


関羽のおっさんの嘆きに、ぐうの音も出ない兵たち。


「訓練に不平不満を述べる諸君に将来なりたいものを聞いたところ、将軍とか軍師とか商人とか太守とか、分不相応なことばかり夢見るアホどもだと分かりました。そんな諸君にふさわしい職業を、今から俺が紹介します」


「……」


「屯田兵です」


屯田兵。兵糧を自給するために田を耕作しながら、領地を防衛する兵隊のことだ。兵たちから「ええーっ面倒くせえよ!」と非難の声が上がる。


「やかましい!どうせおまえら農家の次男坊や三男坊だろーが!」


「そりゃそうだけどさ……」


「明日から荒れ地を耕すぞ!各自、すきくわを持参しろっ!」


と言って、関羽のおっさんは今日の訓練を解散した。


ブックマークありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ