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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
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35.荀彧と張遼、高幹の謀叛を鎮圧する

張遼は三百の決死隊を募り、自らも一兵卒に扮して部隊の中にまぎれ込んだ。

オレは鄧艾を隊長に仕立てて部隊を率いさせると、荊州の軍旗をなびかせて高幹の軍団に近づいた。


「高幹殿の軍団とお見受けいたす。自分は荊州の劉表に仕える鄧艾と申す者。

我らにとっても曹操は長い間憂いの種。貴公が許昌を襲撃すると聞き及び、今こそ怨みを晴らさんと援軍として馳せ参じました。

末席にでも従軍をお許しいただけますよう、伏してお願いする次第」


高幹の参軍・范先は最初こそ警戒していたが、万一敵の伏兵だったとしてもたった三百しか兵がおらず、幼い少年を連れた部隊でいかにも非力そうに見える。そのため、劉表の名前を聞くと警戒を緩めて表情を崩し、


「劉荊州殿の部隊であったか。これはこれは心強い。しかしながら、お見受けしたところ三百ほどの兵しか率いておらぬのは、どういった訳で?」


「実は、恥ずかしながら荊州内では弱腰の蔡瑁が力を握っておりまして。

先ごろ西平で大いに曹操を破った関羽の戦功を握りつぶし、逆に曹操と和議を結ぶ絶好の機会であると称して、関羽の子息を人質として曹操に送り届ける始末。

我ら兵三百は、英雄・関羽の子息の命を救うべく許昌に忍び込み、夜闇に紛れて彼を奪回した帰り道なのでござる」


五歳のオレが「関興です」と告げて、ペコリと頭を下げる。


「なるほど、坊やがあの関羽殿のご子息か。これは頼もしい。

よかろう。我らの部隊の殿軍に付いて従軍するがいい。高幹様には後ほどご紹介致す。いまは一刻も時間が惜しいのでな」


「畏まりました。ありがたき幸せ」


こうして荊州の鄧艾隊(実は中身は張遼の決死隊)は、まんまと敵の軍団に忍び込むことに成功した。


◇◆◇◆◇


夜明け前のまだ薄暗い時間に、高幹が率いる二万の軍勢は許昌に到着した。

高幹は幹部どもを集め、


「フッフッフッ。城の兵はこれから攻撃されるとも知らず、まだ眠っていよう。

突入が成功すれば、ただちに宮殿に向かえ。漢の天子を手に入れればわしの勝ちだ。歯向かう者は皆殺しにしてもかまわん。

ただし、無辜の住民には手を出すな。我らは叛逆者ではなく、帝を“お迎え”するのだからな。

夜明けとともに軍鼓を鳴らす。攻撃開始だ!」


「ハッ!」


しばし時間が空いたところで、参軍の范先がオレと鄧艾を高幹に紹介してくれた。


「荊州の唐県県令・関羽が次子の関興です。このたびは、従軍をお許しいただき、誠にありがとうございます」


「うむ、大儀である。なれど坊やはまだ幼い上に、人質からようやく解放されたばかりとか。三百の兵も護衛のためで、強力な武器を用意していないと聞いておる。我が本陣のそばでゆるりと戦いを観戦されよ」


「お心遣い、感謝いたします」


オレと鄧艾が下がると、高幹は参軍の范先に耳打ちした。


「バカ者!たかが三百の兵、味方に加わったところで何の役にも立たぬわっ!ましてあんなガキなんぞ」

「申し訳ありませぬ。ですが、西平で曹操を破った軍神・関羽の名前は、味方の兵の士気を高めようかと」


「まあ、そう言われればそうだな」


「三百の兵は城壁から矢を避けるための盾としますか?」


「いや。逆に統率を乱されても困るから、わしの本陣横で何もさせずに観戦させておけ」


「分かりました」


◇◆◇◆◇


夜が明けた。高幹は軍鼓を打ち鳴らし、許昌城の攻撃開始を合図しようとした。

と、その時。

城壁の上に荀彧が姿を現し、


「逆賊高幹!きさまのたくらみはすでに知れておる!洛陽におる司隷校尉・鍾繇が三万の兵を率いてきさまらの討伐に向かう手筈は整えた。三日も経てば到着しよう。

無能なきさまごときに鉄壁の許昌をとせると思うてか!?

勇敢な兵卒の諸君!君たちは鄴の包囲戦に向かうために従軍したはずだ。そこの逆賊高幹めにだまされただけなのは分かっておる。

国家の正義に叛逆する前の今なら、まだ間に合う。剣を折り弓を畳んで并州に帰るがいい!」


と大声で叫んだ。高幹の兵に動揺が走る。


「黙れ!天子を裏で操る奸臣め!正義は我にこそあるのだっ!

皆の者、許昌にはたった二千の兵しかおらぬのだ。そして天下の富が山のように集積しておる。許昌さえとせば、富も栄誉も思いのままぞ!

いざっ、突撃せよ!」


ワアーッとときの声が上がり、城門に向かって高幹の兵が突進する。しかし荀彧の理にかなった弁舌のせいか、いまいち士気が奮わぬ高幹の兵ども。

城壁の上には強弩部隊が並び、荀彧の号令とともに雨のような矢が降り注いだ。バタバタと城門に群がる兵が倒れる。


一方、高幹側も弓と投石で応戦する。兵士の先頭に立って矢石に身をさらしながら督戦にあたる荀彧。近衛部隊長が城壁から退いて矢を避けるよう勧めたが、荀彧は聞き入れない。


「都を守る命令を受けて賊を防ぐからには、我が命を賭けてこれに当たるのみ。城門を閉じて堅く守れば、一をもって十倍の敵に当たることができよう」


と言って、叛逆者どもの城門突破をはばみ続ける。

二千しか兵のいない城など簡単にとせると考えていた高幹は、当てが外れ歯(ぎし)りをして悔しがる。


「ええい。軍を二手に分けよ!東門と西門を同時に攻撃すれば、敵の反撃も緩むはずだ!」


と言うと参軍の范先を走らせ、八千の兵を率いて東門に向かわせる。

これで叛乱軍の兵は半分に減った。頃合いやよし。

本陣横で観戦中のオレは、


「高幹殿。我らの兵はいかがしましょうか?」


「ああ?そのままで居よ。大事な戦の邪魔をされてはかなわん」


「左様ですか。それでは」


オレは右手を掲げて合図する。背後に控えていた三百人の張遼の決死隊はただちに抜刀し、高幹の本陣で護衛していた近侍の兵千人と参謀らに斬りつける。備えをしていなかった彼らは、瞬く間に斬り倒された。


「お……おのれっ、裏切ったか!」


一人残った高幹が叫ぶと、全身返り血にまみれた決死隊の中から張遼が現れ、


「裏切者はきさまだ!大逆を犯した謀叛人めっ。正義の鉄槌を思い知れ!」


と吠えて、剣を一閃。高幹の首が刎ねられた。

オレと鄧艾は本陣に火をつけて回り、


「負けた、負けた!高幹殿が首を取られたぞー!」


と叫び、軍鼓を叩き鳴らした。

本陣のある方向から炎と煙が立ち上り、叫び声と悲鳴がこだまする光景を目にした叛乱軍の兵たちは恐慌状態になり、大混乱に陥った。


「いまだっ!城門を開けて突撃せよ!」


荀彧の号令とともにウオーッとときの声が上がり、城内から張遼軍の残りの兵二千七百が飛び出して、西門に群がる敵を前後から一斉に挟撃する。勢いに乗った張遼軍は、奮戦して大いに敵兵を撃ち破った。

高幹軍の別隊・参軍の范先が率いた八千の兵は戦意を失い浮足立って、東門を攻めることなく武具を捨てて我れ先に并州へと逃げ出した。


荀彧も張遼も追わなかった。どうせ高幹謀叛の報せを聞きつけた、司隷校尉・鍾繇の軍にきっと捕らえられるだろう。

今は軍をまとめて許昌を防衛し、天子様と住民を安堵させることが先決だ。


>決死隊三百

多すぎても敵を警戒させるし、少なすぎてもいざ戦闘の時に不利となるし、刺客としては適切な人数だと思います。


次回。高幹の謀叛を鎮圧することに成功した荀彧と張遼は、計略を授けた関興を勲功第一として、彼に近衛兵を指揮する中郎将に任命しようと考えます。任官を断る関興。それを憂えた荀彧は……お楽しみに!


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