33.杜妃、関興に出生の秘密を明かす
一転して下ネタかよっ! 汗)
オレはなんだかやり切れなくなった。
「正道に従って主君に従わないのが、君子の踏むべき宿命だ。自らの志を曲げ、媚び諂うことなく、私は最期まで儒者の道を貫きたい」
儒学を捻じ曲げた後世の朱子学とは異なり、『荀子』においては、主君への忠よりも人として正しくある道の方が、君子が選ぶべき道なのだ。
この世界でも、史実のとおりおそらく曹操の野心は、荀彧の徳に勝る。
オレは曹操に荀彧を殺させたくない。でも、荀彧の覚悟を踏みにじる真似もしたくない。
いったいどうすればいいんだろう?
その夜、オレはなかなか寝付けなかった。
◇◆◇◆◇
さて。今日は兄の曹林との面会の日だ。
後宮の一角にあるサロンに通されて独りじっと待つ。チ〇コの付いてる従者の鄧艾は、もちろん後宮の中に入れない。オレはいいんだ、五歳だし。
「きゃーうれしいー!シンロウ、本当に来てくれたのねっ!」
美人の女性がオレに向かって駆けて来る。誰だよ、シンロウって?
「秦郎、あなたのお母さんよ!」
と言って母上――杜妃はオレを抱っこし、オレの顔にムギュッと胸を押し付けた。
おぅふッ。母上のおっぱい柔らけぇ。そしていい匂い…じゃねえ!
「オレは秦郎ではありません。関羽の息子の関興です。物心ついた時から母親はいません。オレの家族は父上、兄上の平、妹の蘭玉だけです」
「そんなぁ!あなたを捨てた私をやっぱり恨んでるのね!」
ヨヨと泣き崩れる杜妃。芝居がかってなんかわざとらしい。
「仕方がなかったの。下邳が陥落して捕虜になった私は、泣く泣く関羽君と曹操閣下に抱かれちゃったのよ。美人って罪深いわよね。
関羽君はすごかった!太くて逞しいアレでズンズン突くの。ア~ン子宮に届いちゃうーって感じ。逆に曹操閣下は優しくねっとり愛撫してくれて、何度も絶頂の波が押し寄せて来たわ!
二人とも今まで経験したことのないようなセックスで、私を愛してくれた。
えっ、そんなこと聞いてない?もう、せっかちね。
それでね、私は曹操閣下に側室に迎えられた。すぐに妊娠していることが分かったわ。そして双子――あなたと林の兄弟が生まれたの。
その後は……分かるでしょ、双子は忌み嫌われる存在だって。
閣下はどちらか一方の子を殺せと言った。でも私はイヤだった。なので関羽君に連絡して、こっそり一人を引き取ってもらった。それがあなた」
そっか。「本物の関興」は生まれてすぐ死ぬ運命だったんだ。そんな子は器として魂を入れ替えやすかったのだろう。そこで女神は、前世で死んだ俺の魂をこの世界に転生させることができた。ニセモノの関興として。
そうして関羽のおっさんは、オレが生きていることがバレないように、曹操の目の前から姿を消す必要があった。将軍の地位も漢寿亭侯の名誉も宝も大金も何もかも全部捨てて、関羽は曹操の元から出奔した。
馬鹿か?!いくら惚れた女の頼みと言っても、自分の胤じゃないかもしれない赤ん坊を押し付けられて。しかも行く宛てがなくて、無能の元上司・劉備の所へ戻り、もう一度仲間に入れて下さいと頭を下げるなんて……。
な!関羽のおっさんって最高にカッコいい男だろ?
オレの自慢の父上なんだ!
オレの命を救うために曹操の元を出奔したと真相を告げたら、オレが申し訳なく思うと気遣って、関羽のおっさんはオレの出生の秘密をずっと明かさなかった。
くそっ、優しすぎて泣けるぜ!
なにが何でも恩に報いたい。オレは改めて誓うぞ。
絶対に、関羽のおっさんと関平兄ちゃんを殺させはしないって!
「……事情は分かりました。あなたを恨んでなんかいません。オレを生んでくれたことには感謝します」
「本当?!うれしい!私を血の繋がった母親だと認めてくれるのね?わーい」
「いえ。正直言うと、オレはあなたを赤の他人の存在としか思っていないです」
大袈裟にガクッと倒れ伏し、シクシクと涙を流す杜妃。
「秦郎ってば、ひっどーい!お母さん、とても傷ついたわ」
「というか、秦郎って誰なんですか?オレの名前は関興ですって!」
秦朗なら、オレの前世の名前だけどな。
杜妃は悪びれることなくあっけらかんと、
「えっとね、あなたたちが曹操閣下の子だとすると、かなり早産だったの。双子のせいかなーと思って、気にもしていなかったんだけど。
実は私、閣下の側室に入れられる前は秦宜禄って役人の奥さんだったのね。前の旦那は呂布が下邳に籠城する時に、袁術って人に援軍を送ってくれるよう頼むために出張してたの。
今ふり返って考えると、関羽君と曹操閣下に見初められて抱かれちゃう以前に、出張でしばらく会えないからって前の旦那とお別れセックスをしちゃってたのよ!
それでね、もしかしたらあなたと林の本当の父親は、前の旦那つまり秦宜禄じゃないかなーって。そしたらぴったり計算が合うし。
だからあなたは、秦の郎つまり秦の若坊ちゃまってわけ」
もうやだ、この世界のややこしい設定。エピソード詰め込みすぎだろ。
「曹操閣下はご存じなんですか?オレと林の本当の父親は秦宜禄じゃないかって?」
「どうかしら?薄々感じてるかもねー。だって、林ってば顔かたちが閣下に全然似てないし、内気で弱虫な性格も閣下っぽくないし」
オレはハアッと溜息をついて、
「分かりました。あなたの前では、オレはシンロウでいいです。でも秦郎じゃなくて、せめて秦朗と呼んで下さい」
オレの前世の名前:秦朗と漢字が同じ分、なんとなく落ち着く。
「うん、秦朗」
「何でしょうか?杜妃様」
「もー秦朗ったら、お母様と呼んで!恥ずかしがらずに」
「お断りします」
「かぁーっ。秦朗ってば、強情でかわいくないわね!」
その時ドアが開いて少年が現れた。
うっわ、関興じゃん!
じゃない、着飾った服を着ているオレと瓜二つの顔がそこに現れた。
「そちがボクの弟か?」
「はい、曹林様。オレのことは秦朗と呼んで下さい」
「ふーん。ボクよりモブ顔だな」
ケッ。オレがモブ顔ならおまえだって同じようにモブ顔だぞ。
「可愛げなら、オレの方があると思いますが」
すると曹林はみるみる目に涙を浮かべて、うわーんと泣きながら、
「母上ー!このモブ男がボクのことを可愛くないと言ったー」
と杜妃に抱きつく。
「よしよし。私は林の方がかわいいと思うわよ」
と言って杜妃が頭を撫でると、勝ち誇ったような顔でオレを見て、アッカンベーをする。ケッ、甘えん坊のガキかよ。まあ、5歳だしな。
やれやれ。母親である杜妃にご挨拶するというお役目は果たしたし、兄の曹林にも嫌われたし、そろそろお暇するか。
「駄目よ。秦朗にはまだお役目が残ってるわ!」
「はあ?何ですか、お役目って?」
「うふふ。お・見・合・い♡」
うわああーっ、そうだった!
イケメン筋肉ダルマ・甘寧の毒牙から関平兄ちゃんを守るために、オレが必死にお相手の女性を探していたら、どこでどう話が捻じ曲がったのか、オレが婚約者募集中という噂が広まってしまった。それを聞きつけた曹操閣下が、
「おまえが来春の計吏報告で都に上がった際に、わしの一族の娘とお見合いさせるからなっ」
と文を寄越しやがったのだ。
無理無理無理!
だってオレ、前世で女の子と付き合ったことないもん!デート中に何を話せばいいかなんて分かんないし。
「ご、ごご五歳のオレがお見合いだなんて、早すぎませんか?それにほら、もしかしたらオレは閣下の息子という可能性だってあるわけだし……」
「大丈夫よ。お見合いの相手は5人いるんだって!閣下の娘さんは、たった一人。彼女には秦朗はダメよって言い含めておくから、安心して!」
「ち、ちなみに5人のお見合いの相手とは?」
「あら、興味が出て来たの?秦朗もおませさんね。
えっとね、御年10歳になる閣下の娘の清河姫・麗様でしょ、閣下の姪の海陽姫・寿様でしょ、曹洪様の娘の鈴様、三公である楊彪様の娘の椿様、あとは董氏の娘の桃って子の5人。
董氏って誰かしら?実は、董卓の隠し子だったりして~キャハハ」
ひいいいっ!助けてくれ。やんごとない身分のお姫様と下賤なオレじゃ釣り合いが取れなさすぎる。恐れ多くて、オレは間違いなく貝になっちゃうぞ。
「お見合いは三日後よ。楽しみに待っててね!
あ、衣装は林の洋服を貸してあげるから心配しないで。秦朗は始まる前にここにいらっしゃい。侍女にバッチリおめかししてもらうわ!」
駄目だ。
さっさと都から逃げ出そう。
次回。夜、許昌を逃げ出した関興と鄧艾は、都に向かう不審な大軍を見かけます。怪しんだ関興は、張遼の軍営に駆けつけて……。ようやくカッコいい張遼の活躍が見られます!お楽しみに!
 




