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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
34/271

31.関興、殺人事件の謎を解く

殺人事件の解決編です。

真犯人は簡単にお分かりだと思いますけどね。


「つまり、被害者の趙忠が()()()()()()()を盛られた経路は、パーティー会場ではないと考えた方がつじつまが合う」


と述べたオレの推理に、荀彧は困惑気味に反論し、


「いや、しかし現にパーティー会場では、被害者の趙忠と同様の症状が見られた五人の患者が出ている。いくら共通項がないとはいえ、毒を盛られた経路がパーティー会場ではないというのは無鉄砲すぎます」


だが、趙忠殺害事件の大まかな筋書きがつかめたオレはニッコリ笑って、


「ああ、そういう意味ではありません。

パーティー会場で五人の患者が出る原因となった“毒”は、あくまでもパーティー会場で盛られた。

ただし、致死性のない薄められた毒で、あの場で騒ぎが起これば被害者は()()()()()()()。だから五人の患者が出ても、趙忠との間にはなんら共通性も接点も見当たらない。

そして翌日、自宅で死体となって発見された趙忠の死因は毒殺。同じ“毒”だが濃度が濃く致死性があったために、それを口にした趙忠は死んだ。

この致死性の“毒”を盛られた場所がパーティー会場ではなく、別の場所なのだろうという意味です」


「なるほど。私としては、郗慮(ちりょ)殿が無実の可能性が高まるのは喜ばしいことですが、しかし……」


「荀彧様、考えてもみて下さい!仮に被害者の趙忠が、死ぬ前日のパーティーで毒を盛られたと騒いだ事件がなければ、容疑者は趙忠が死んで得をする人間が真っ先に疑われるはず。あるいは第一発見者も捜査の対象になってしかるべき」


「得をする人間には、郗慮(ちりょ)殿も当てはまりますが……」


「怨恨も含めて、他に動機を持つ人間がいるかもしれないじゃないですか!

そちらの捜査はどうなっています?

それに、第一発見者のちょっとかわいらしいメイド。趙忠と男女の仲になってる線も捨てきれませんよね?」


「分かりました。すぐに調べさせましょう」


荀彧は警察に号令して趙忠周辺を当たらせた。

すると、出るわ出るわ。

趙忠は女たらしで、オレの読みどおり、第一発見者のメイドと最近いい仲になっていた。その他にも某貴族の奥方だったり、子供の乳母だったりと数名の愛人を抱えていたらしい。


一方、被害者の妻にも愛人がいた。それが被害者・趙忠の従者だ。

ある夜、二人きりの情事が終わった後、被害者の妻が従者の逞しい裸を指でもてあそびながら、そっとささやいた。


「旦那が死ねば、遺産はすべて私に手に入る。そしたらあなたと結婚して、二人で楽しく暮らしましょう」


従者は考えた。

趙忠には敵が多い。もし彼が殺害されても、動機は絞り込めないはずだ。ならば、自分より疑わしい容疑者を仕立てれば、警察の目はそちらに向くに違いない。


従者はターゲットを漢の侍中・郗慮(ちりょ)に決めた。

そして、主人の趙忠にこうつぶやく。


郗慮(ちりょ)殿が主催のパーティー会場で毒物騒ぎを起こせば、きっと彼がライバルの趙忠様を狙った犯行と噂されて、司空のポスト争いから脱落させることができると思いますよ」


その謀略にまんまと乗った趙忠は、パーティー会場にセッティングされた取り皿に()()()()軽めの毒を仕込ませるよう従者に指示する。

その皿を使った趙忠本人と、趙忠とは関係のない被害者A~Eの五人が嘔吐と下痢に襲われ、歓迎会は台無し、筋書きどおり郗慮(ちりょ)の面目は丸つぶれになる。


従者に連れられ、痛む腹を押さえながら、だが内心ほくそ笑んで家に帰る趙忠。

しかし、従者が描いた謀略の本番はここから始まるのだった。


「周りの者には毒に当たって具合が悪いと思わせるため、今夜は自室で一人で引き籠って下さい」


と忠告された趙忠は、


「分かった。だが退屈じゃ。酒を持って参れ」


と従者に命じる。酒好きの趙忠ならきっとそう言うに違いない。

従者の読みどおりだった。そして彼は大のウイスキー好きだ。大抵ロックで飲む。従者は氷に毒を仕込んだ。

そして、主人がお気に入りのメイドにウイスキーと氷を自室に運ばせ、彼女にその場で作らせる。彼女の尻を撫でながら、チビチビとウイスキーをたしなむ趙忠。


メイドが下がり、やがて氷が溶け始めると、中から毒が沁み出す。

そうとは知らず、毒の沁み出したウイスキーを口にした趙忠は、従者の想定どおり誰もいない自室で死んだ。


翌朝、趙忠を起こしに行ったメイドは、主人の死体に気づく。傍らには、昨夜彼女が作った飲みかけのウイスキー。


あたしが絶対に疑われる!


焦ったメイドは、昨夜ウイスキーを振る舞った痕跡を()()()()ものにした。ウイスキーの瓶をキッチンの戸棚に戻し、残った飲みかけのウイスキーと氷を庭に捨て、コップを洗い枕元にセットし直した。

そして、彼女の方から従者に頼み込んで、昨夜、主人にウイスキーを運んだ行為はなかったと証言してくれと泣き落とした。今夜あなたに抱かれるから、と。

しぶしぶ承知する従者。しかし、内心では「うまく行った」とほくそ笑む。


前日のパーティー会場での毒物騒ぎのおかげで、警察の捜査の目は被害者の趙忠と犬猿の仲であった主催者の郗慮(ちりょ)に向かっていた。

そのため、警察の現場検証も事情聴取もあっさり終わった。第一発見者のメイドも、被害者の妻も、そして従者自身も、警察に疑われた様子はなかった。

その後、パーティーの料理を出した料理人が毒を混入したと自白したため、警察は郗慮(ちりょ)を殺人教唆の罪で逮捕、事件は速やかに解決した……かに思えた。


風向きが変わったのは、その日の午後。

主犯と目された郗慮(ちりょ)も、実行犯と疑われた料理人も、警察から釈放された。


そして再び警察が趙忠の自宅を捜査する。

今回は死体発見現場の自室だけではなく、庭とキッチンが徹底的に調べられた。

その結果、庭の一角で不自然に枯れた草を発見、それが趙忠の死因と同じ“毒”の影響だと判明した。これで、趙忠が死因となる“毒”を盛られた場所はパーティー会場ではなく、自宅であると特定された。


こうなると犯人の目星は自ずと絞られる。なにしろ昨夜は、趙忠の帰宅後に屋敷を訪れた者はいないのだ。当然、内部犯が疑われた。

追及に耐えられなくなった第一発見者のメイドが自供する。


「本当は昨夜、ご主人様に命じられて、ウイスキーを自室に運びました。痕跡を消したのは、最後にご主人様に会ったあたしが疑われると思ったので……」


「ほう。つまり君は毒入りのウイスキーを被害者に飲ませた、と認めるんだね?」


「でも!あたしは、氷を入れたコップにウイスキーを注いでお渡ししただけで、ご主人様を殺してなんかいません!」


そうして警察は、ウイスキーの瓶と氷室にある氷を調べる。

ウイスキーの中身には毒が含まれていなかった。消去法で、毒が入っていたのは氷の方だったと考えられる。そして氷室の管理は趙忠の従者が行なっていた。

しかし警察の厳しい追及にもかかわらず、従者は頑として犯行を認めない。実際、状況証拠しか揃っていないのだ。


オレは一計を案じた。


「氷の入った飲み物を従者に勧めなさい」


飲み物を飲めば“毒”にあたって死ぬ。飲み物に手を付けなければ、氷に毒が入っていることを従者が知っている証拠となる。


従者は観念して、犯行を自供した。


◇◆◇◆◇


「いや、お見事だったよ。関興君のおかげで、私の友人が救われた」


荀彧が礼を言う。


「よして下さいよォ。たまたま犯人がひらめいただけなんですから!」


実際、前世のミステリー小説ではありがちな展開だもんな。犯人が死んで得をする人間を疑えという鉄則どおりだし。


「君には何か御礼をしないといけないね」


「あ、それならさっさと唐県に帰らせて下さい!」


「それは駄目。却下!」


なんでだよ?!曹操は出征中なんだから、オレが都にいる意味ないだろ。


「ところで、曹操閣下の遠征はどんな具合ですか?」


「順調だよ。袁譚の守る青州に攻め込んだ袁尚に対し、閣下は防備が手薄となった本拠地の鄴城を騎兵で急襲した。

驚いた袁尚が引き返した所を、途中の西山の麓で伏兵を使って大破。散々に打ち破られた袁尚軍は、命からがら鄴城に逃げ込んだ。

今は袁尚が籠城する鄴を、閣下率いる十五万の大軍で包囲している状態。もう一月になるかな」


それを聞いた鄧艾は満足そうに微笑んだ。あいつが予想したとおり、曹操は囲魏救趙の計略でまんまと敵を仕留めたんだもんな。


「このまま鄴を包囲して絞め上げるんですか?逃げ場を失った窮鼠は、死に物狂いで牙を剥く恐れもあります。包囲の一角を崩しておいた方が……」


と鄧艾が献策すると、荀彧は微笑みながら、


「鄧艾君の策はもっともだけどね、今は時期尚早だ。腐っても鄴は袁尚の本拠地、兵糧はまだ残っている。つまり敵はまだ窮鼠となっていない。

この状態では包囲を続け、外部との連絡を徹底的にシャットアウトして、城内の兵を絶望に追い込み敵を弱らせるのが、兵法の常道だよ」


鄧艾は目をキラキラさせ、尊敬の眼差しで荀彧を見つめる。キモいな。


「となると、曹操軍の兵糧の補給が問題ですね。十五万の大軍でしょ」


オレの指摘に荀彧はうなずくと、


「それも織り込み済だ。追加一月分の兵糧は、まもなく夏侯惇殿に任せて許昌から運搬する。ああ、護衛には兵三千を付けるよ。敵の烏巣での失敗を見習って、ね」


荀彧が分かってるさ、とばかりにウインクする。まあ、歴戦の将軍・夏侯惇なら、兵三千を率いておれば、敵に兵糧を奪われる心配はないだろう。


あれっ?でも……そしたら、許昌の守りはどうなるの?


「大丈夫。都には二千の近衛兵が残る。強弩も用意しているし。万が一反乱が起こっても、城門を閉めればなんなく対応できるだろう。

それに荊州の劉表は、留守中に攻め込まないようこの前しっかりお灸を据えたし、洛陽では司隷校尉の鍾繇がにらみを利かせている。

その他には近隣に敵は存在せず、我が軍に隙はない」


あっそ。隙はない、ね。


オレがいるじゃん!隙。いま、関羽のおっさんをき付けて許昌に攻め込ませたら、簡単に天子様を奪還して奉じることができそうだな。


……まあ、やるつもりはないけどさ。


次回。荀彧とちょっぴり打ち解けた関興は、次第に考えを改める。荀彧は本物の忠臣だった。やがて訪れるであろう曹操と荀彧の破綻を垣間見た関興は……お楽しみに!

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